がんの基礎トレーニング

がん遺伝子検査入門(3)

遺伝子検査の種類と実際

いよいよ遺伝子検査について、種類と具体的な手順を中心に解説していきます。

なお、狭義で遺伝子検査という場合、DNAやRNAを増幅する検査などを指すのが一般的ですが、ここではがんが疑われる場合の組織検査など、広く抗がん剤適用に関わる検査を含めて、その内容を検討していくことにします。

患者のスクリーニングはどのようにして行われるのですか?

分子標的薬は、標的分子を調べれば、有効かどうかが投与前にある程度予測できます。

また、分子標的薬は正常細胞に全く作用しないわけではなく、患者によっては重篤な副作用が出現することもあります。

このようなことから、分子標的薬の投与にあたっては、患者のスクリーニングが必要となります。

スクリーニングにあたっては、まず患者にインフォームド・コンセントを行い、同意を得ます。患者の腫瘍組織を検体として遺伝子検査などを行い、投与しようとする薬剤の標的の存在を確かめます。血液を採取して得た検体も同様に検査し、副作用発現を予測します。

遺伝子検査にはどのようなものがあるのですか?

遺伝子検査には、採取した組織をそのままで検査する組織染色法や、細胞を培養してから検査を行う染色体検査のほか、核酸を抽出して行う検査があります。

組織染色法には、IHC法やFISH法が用いられます。

染色体検査では、一般的に染色体を観察できる分裂期の細胞を得るために細胞培養を行ってから検査をします。

核酸を抽出して行う検査では、検体によりDNAとRNAの検査に分かれます。前者ではDNAをPCR法で増幅してから調べる方法と、増幅をしないでそのまま検査するマイクロアレイなどの方法があります。後者もDNAを増幅することにより検査するRT-PCR法に用いられることがあります。

組織染色法や染色体検査は顕微鏡を用いる検査ですが、核酸を抽出して行う検査では顕微鏡は用いられません。

組織染色法による検査はどのように行われるのですか?

それでは最初に、組織染色法はどのように行われるかをみてみましょう。

①最初に、生検により得られた小組織片や摘出臓器から得た組織標本をホルマリン溶液に漬けて固定します。

②次に、アルコールによる脱水処理後、溶けたパラフィンを浸透させてから、容器に入れて冷やし、パラフィンブロックを作成します。この過程をパラフィン包埋(ほうまい)といいます。

③パラフィンブロックの中の組織をミクロトームという装置を使って3~5μmほどの厚さに切り、スライドガラスの上にのせます。

④スライドガラスに付いたパラフィンを取り除き(脱パラフィン)、染色液に漬けて染色を行います。染色後のスライドガラスにカバーをかけ、永久保存可能にします。

⑤顕微鏡により、検査を行います。

⑥染色されている細胞の割合や、染色度合いの強さなどをもとに、判断を行います。

組織染色法による検査の例を教えて下さい。

乳がんが疑われる症例を例に取ると、以下のような組織染色法による遺伝子変異の検査が行われます。

①まず、乳がんが疑われる組織を採取して、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色などによる通常の病理検査を行います。

②病理検査でがんが疑われる場合は、HER2タンパクに対するモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC)法による染色を行い、HER2タンパクの発現度合いを調べます。IHC法の染色結果は、陰性(0または1+)、境界域(2+)、陽性(3+)と評価します。

③IHC法で境界域と判定された場合は、FISH法により Her2/neu遺伝子の過剰なコピーが起こっているか否かを検査します。

IHC染色法について教えて下さい。

IHC染色法では、まず組織切片標本を脱パラフィン処理し、熱処理により抗原(遺伝子産物)を賦活させて試薬と反応しやすくします。

次にいろいろな抗体と複合体を用いて染色を行い、顕微鏡により観察を行います。

この抗体と複合体による染色は以下のような手順となります。

①調べようとする抗原(遺伝子産物)に対する抗体である一次抗体を反応させます。

②続いて、一次抗体に対する抗体にビオチンというビタミンを結合させた二次抗体を付加させます。

③さらに、アビジンというタンパク質とビオチンの複合体を二次抗体に結合させますが、この複合体には酵素を標識してあります。ビオチンはアビジンと特異的に結合をつくるため、この複合体が二次抗体に強く結合します。

④次いで、この複合体に標識された酵素によって色素を形成するような基質を反応させることにより、酵素の存在する部位が発色します。

これにより、色素や目的とする遺伝子産物の存在・分布が表わされることになります。

FISH法について教えて下さい。

FISH法は検出したい遺伝子部位と相補的なオリゴヌクレオチド(数~数十の塩基からなるDNAやRNAの断片)を蛍光色素で標識したプローブを用いてハイブリダイゼーションを行うものです。

観察には蛍光顕微鏡を用い、相補結合したプローブに励起光と呼ばれる紫外線や青色の光をあて、色素から放出される蛍光を検出します。

このほかにオリゴヌクレオチドを色素で標識したものをプローブとして用いるCISH(発色性 in situ ハイブリダイゼーション)法も用いられていますが、一般的にはCISH法よりも感度の良好なFISH法が広く行われています。

DNAやRNAがオリゴヌクレオチドと結びつくときは、相補的に結合しますが、それほど強固ではないので、ハイブリダイズ(混成)という語が用いられます。 また、CISH法、FISH法とも検体の細胞を壊すことなく検査を行うので、in situ(イン ジッツ)「そのまま」という語が付けられています。

染色体検査はどのようにして行われるのですか?

次に染色体検査がどのように行われるかをみてみましょう。

染色体検査では、細胞の分裂期に出現する染色体の形と数を調べます。

一般的な染色体検査は、染色体を観察できる分裂期の細胞を得るための培養から始まります(分裂中期の細胞を蓄積するための細胞分裂阻害剤の添加などが行われる)。

培養後の細胞は固定処理され、スライドガラス上へ展開後、染色が行われます。ついで顕微鏡観察と写真撮影を行った後、解析(写真分析、画像解析)をします。

染色体検査でどのようながんが診断できるのですか?

慢性骨髄性白血病患者の白血球細胞にはフィラデルフィア染色体が見出されます。この名前は1960年代にペンシルベニア州フィラデルフィアの2人の研究者によって発見されたことに由来しています。また、急性リンパ性白血病患者の約1/4にも見出されます。

フィラデルフィア染色体は第9染色体と第22染色体が相互転座を起こしたもの(t(9;22)(q34;q11))です。第22染色体のq11に局在するbcrという遺伝子と、第9染色体のq34に局在するc-abl遺伝子が融合した遺伝子であるBcr-abl 遺伝子がつくられています。

Bcr-abl 遺伝子発現によりBCR-ABLというタンパクがつくられ、これがBC細胞増殖を引き起こすため、この異常な白血球が増殖してしまいます。染色体検査によりフィラデルフィア染色体が検出されると、白血病の診断が下されることになります。

DNA検査にはどのようなものがありますか?

続いて、DNA検査がどのように行われるかをみてみましょう。

まず、調べたい遺伝子の特定範囲をPCR法を用いて増幅させる必要があります。

PCR法により増幅されたDNAはアガロースゲル(寒天)を用いた電気泳動法により、分子の大きさ別に分離が行われます。

分離されたDNAは、大きさ別にゲルから切り取って解析することができます。また、特殊な膜に写し取り、解析を行うこともできます。

DNAの検出にはハイブリダイゼーション法を、塩基配列を知るためにはシークエンス法を用います。

ハイブリダイゼーション法ではアガロースゲルによる電気泳動を行った後に、特殊な膜にDNAを写し取り、色素を付けたプローブを用いてDNAの検出と解析を行います。

シークエンス法は、電気泳動後に特定の大きさのDNAをアガロースゲルから切り取って抽出し、その塩基配列をシークエンサーと呼ばれる機械などを用いて解析します。

PCR法とはどのような検査ですか?

PCR法は、遺伝子検査に不可欠な手法です。

PCR法では、DNA2本鎖を含んだ溶液に、DNA合成の原料となる4種類のヌクレオチド(dATP、dTTP、dGTP、dCTP)と、DNAを合成する酵素であるDNAポリメラーゼを加え、さらにプライマーと呼ばれる20塩基ほどのDNA断片を加えます。

プライマーは、前もって調べたいDNAの特定遺伝子範囲を挟み込むように、始まりの塩基配列に対応する塩基配列を持つセンスプライマーと、終わりの塩基配列に対応する塩基配列を持つアンチセンスプライマーの2種類を用意します。

①最初に、検体溶液を加熱します。DNAの2本鎖は生理的条件下では安定ですが、温度を90℃以上に上げると塩基間の結合が壊れて2つの1本鎖になってしまいます。このようなDNA鎖の熱による開裂を熱変性といいます。

②続いて、検体溶液の温度を徐々に下げると、センスプライマーとアンチセンスプライマーが1本鎖DNAに結合(ハイブリダイズ)します。プライマーがDNA1本鎖に結合する温度は、プライマーを構成する塩基によって異なりますので、温度を下げる過程は徐々に行います。この過程はアニーリング(焼きなまし)と呼ばれています。

③そして、温度を72℃に上げると、この2種類のプライマーの端の部分はDNAポリメラーゼにより、反応液中のヌクレオチドが取り込まれて結合し、鎖が伸長していきます。

④複製終了まで、温度を一定に保ちます。

以後、この過程を繰り返してDNAを増幅します。

PCR法の具体的手順を教えて下さい。

PCR法では熱変性(94℃)→アニーリング(55~60℃)→伸長(72℃)というサイクルを繰り返します。この1サイクルでDNAは2倍に増幅されます。したがって、n回繰り返すと、理論的には2n個のDNAができ上がることになります。

PCR法は温度の上下を繰り返すだけで、DNAを増幅することができますが、この面倒な温度管理は機械であるサーマル サイクラー(thermal cycler)が自動的に行ってくれます。

reverse transcription PCR法とはどのようなものですか?

PCR法ではDNAの検出はできますが、RNAの検出はできません。RNAの検出には、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction:RT-PCR )法が用いられます。

RT-PCR法では逆転写酵素を用いてRNAと相補的なDNAであるc(コンプリメンタリー)DNAをつくり、これをPCR法により増幅します。

①調べたいmRNAと、相補的なプライマー(PCR時のアンチセンスプライマー)をハイブリダイズさせます(プライマーは広範囲なRNAに対して使えるものを用いることもある)。

②逆転写酵素を作用させ、プライマーの後ろにRNA鎖と相補的なDNA鎖を伸長します。

③でき上がったDNA-RNAのハイブリッド鎖を加熱して解き、RNA1本鎖とDNA1本鎖にします。

④RNA分解酵素(ribonulease H)を作用させて、RNA鎖のみを分解。

⑤残った1本鎖DNAにセンスプライマーをハイブリダイズさせ、DNAポリメラーゼでDNA鎖を伸長。

⑥DNA鎖の伸長が終わると、mRNAに対応した2本鎖DNAができ上がります。

⑦できたDNA鎖をPCR法により増幅します。

real time PCR法とはどのようなものですか?

real time PCR法は、PCRにおけるDNAの増幅量をサイクルごとにリアルタイムで測定して解析する方法です。また、電気泳動が不要なため迅速かつ簡便に解析ができ、鋳型DNA量を正確に定量できるという利点があります。

real time PCR法では、あらかじめ既知量の鋳型DNAで各PCRサイクルにおけると蛍光の強さの関係(反応タイムコース)を求めておきます。さらに検出する蛍光が一定値(閾値)となるPCRサイクル回数と鋳型DNA量との関係を検量線として求めておきます。

同様に鋳型DNAを用いて未知の検体をPCRで増幅させ、検量線から鋳型DNA量を求めることで、結果的に検体のDNA量を同定することができるのです。

real time PCR法では増幅したDNAを蛍光色素から出る蛍光の強さで検出しますが、これにはインターカレーション法とハイブリダイゼーション法の2通りの方法があります。

PCR法における検出方法にはどのようなものがありますか?

インターカレーション法は、塩基対の隙間に入り込む(インターカレート)ことにより蛍光を発する色素を用いてDNAの定量を行います。

ハイブリダイゼーション法にはさまざまな方法があります。広く用いられているTaqMan(タックマン)プローブ法は、目的とするDNAと相補的なオリゴヌクレオチドに蛍光色素とその発色を抑えるクエンチャーという失活物質を結合させたプローブを用いてDNAの定量を行います。手順は以下の通りです。

●インターカレーション法

①まず、1本鎖DNAにプライマーがハイブリダイズし、

②続いて、DNAポリメラーゼの働きによりDNA鎖の伸長が行われ、でき上がった2本鎖DNAの塩基対の隙間に蛍光色素が入り込みます。

③インターカレートした蛍光色素は、周囲の塩基との相互作用により発光します。

●TaqManプローブ法

①1本鎖DNAにプライマーがハイブリダイズし(プローブも同時にハイブリダイズするが、クエンチャーの働きにより、蛍光色素は発光しない)、

②続いて、DNAポリメラーゼの働きにより、DNA鎖が伸長します。

③DNAポリメラーゼが1本鎖DNAにハイブリダイズしたプローブに到達することにより、プローブのオリゴヌクレオチドが分解、クエンチャーによる抑制から開放された蛍光色素が発光します。

④DNAポリメラーゼはプローブを分解しながらDNA鎖の伸長を続け、最終的にDNA鎖を複製して終了します。

電気泳動法とはどのような検査方法ですか?

PCR法で増幅されたDNAは、過熱処理等により1本鎖DNAとし、電気泳動法により鎖の長さ別に分離します。一般的な電気泳動法ではアガロースゲル(寒天ゲル)を用いて泳動が行われますが、ポリアクリルアミドゲルを用いる場合もあります。

①緩衝液の入った水槽にアガロースゲル(緩衝液を含んでいる)を入れ、検査試料を入れる穴(ウェル)に調べたいDNA混合物を入れます。

②次いで、ゲルに電流を流します。DNAはリン酸基を持つため、中性条件下ではマイナスに帯電しています。このため、アガロースゲルに電流を流すとDNAはプラスの電極のほうに移動していきます。電気によりDNAがゲル中を泳いでいくので、「電気泳動」と名づけられているのです。

③アガロースゲルは、網目構造を持っており、DNAが泳動する時はこの網目構造をくぐりぬけながら移動していきます。このため分子量の大きいDNAほどアガロースゲルの網目構造の抵抗を受け、速く動くことができません。

④逆に小さいDNA分子は速く泳動することができるので、分子量により一定時間における移動距離が異なることとなります。

シークエンス法とはどのような検査方法ですか?

遺伝子の塩基配列を知るために用いられるのがシークエンス法です。ヒトのゲノムの解析もこの方法を用いて行われました。

シークエンス法には、サンガー法などさまざまな方法がありますが、現在はダイターミネーター法が主流となっています。

ダイターミネーター法では知りたい塩基配列に対するセンスプライマーのほかに4種類のデオキシリボヌクレオチドと、4種類の蛍光色素を結合させたターミネーターを用いてPCR法を行います。

これらのターミネーター(ddATP、ddTTP、ddGTP、ddCTP)は、ジデオキシヌクレオチドと呼ばれるもので、デオキシリボヌクレオチド(dATP、dTTP、dGTP、dCTP)と同様にDNA鎖にハイブリダイズしますが、DNAポリメラーゼによる伸長を止める働きを持っています。この4種類のターミネーターは、それぞれ色の異なる蛍光色素が付けられており、識別が可能となっています。

シークエンス法の具体的手順を教えて下さい 。

シークエンス法では、PCR反応後にいろいろな長さのDNA断片が混じった試料が得られます。

この試料を電気泳動によりDNA断片の大きさ順に分けます。電気泳動を行う際には、細い管(キャピラリー)にポリアクリルアミドをつめたもので行うことにより、時間短縮と分解能の向上が得られます。

DNAの大きさ順に並べられた電気泳動試料を、移動距離の大きいものから順に、蛍光色素の色を検出します。色の違いによりDNA断片末端の塩基を判別することができるため、元となったDNA鎖の塩基配列を知ることができます。

シークエンス法では、PCR、電気泳動、蛍光色素の読み取りという煩雑な作業が必要となりますが、現在はこれらを自動的に行う機械が開発されており、コンピュータ処理により塩基配列が表示されるようになっています。

電気泳動後のハイブリダイゼーションとはどのような検査方法ですか?

PCR法で増幅されたDNAは、電気泳動法により鎖の長さ順に分けられますが、DNAは無色透明なため、そのままでは目で見ることができません。

目的とする遺伝子(DNA)を検出するためには、サザンブロッティングとハイブリダイゼーション法を行います。

①アガロースゲルにナイロン膜などの特殊な膜を乗せ、電気泳動法により分離されたDNA断片を写し取ります。

②この膜に、検出するDNAと相補的なヌクレオチドを持つプローブを加えて、ハイブリダイズさせます。

③ハイブリダイズされなかった余分なプローブを洗い流します。

このプローブには蛍光色素が付けられており、膜上のDNAの位置と、おおよその量を知ることができます。

DNAマイクロアレイ、DNAチップについて教えて下さい。

PCRや電気泳動を行わず、いろいろな遺伝子をハイブリダイゼーションにより検出する方法が、DNAマイクロアレイ、DNAチップと呼ばれている方法です。 開発した研究所により作成の仕方が異なるため、2つの名称が用いられますが、基本的な原理は同じです。

ガラス板上に20~60塩基からなるDNA断片を固着させてあります。DNA断片はスライドガラス上の数万~数十万に区切られた各区域の決まった位置に、直径数十~数百μmの大きさで付けられており、どこにどのDNA断片があるかはコンピュータで記録されています。なお、調べたい遺伝子だけではなく、参照となる遺伝子の断片も付けられていて、検体のDNA増幅などが正常に行われたかどうかがチェックできます(β-アクチンなどは各種細胞でほぼ決まった量が発現してるため、参照となる遺伝子として用いられる)。

DNAマイクロアレイは、主にどのような遺伝子が発現しているのかを調べる目的で使われます。

DNAチップはどのように用いられているのでしょうか?

DNAチップは、がん細胞においてどのような遺伝子が過剰発現しているか調べる目的で用いられています。

①患者の正常組織およびがん組織よりmRNAを抽出し、逆転写酵素によりそれぞれ異なる蛍光色素を結合させた1本鎖cDNAをつくり、等量混合します。蛍光色素は一般的には緑色のCy3(Cyanine 3)と赤色のCy5(Cyanine 5)が用いられます。

②あらかじめ調べたい遺伝子と相補的なDNA断片を持つDNAチップをつくり、これに混合したcDNAを加えてハイブリダイズさせます。

③余分なcDNAを洗い流した後、DNAチップの発色をレーザー光を用いて読み取り、がん細胞で多く発現している遺伝子を判定します。

この例では、がん細胞で多く発現している遺伝子は赤色の蛍光を発し、正常細胞で多く発現している遺伝子は緑色の蛍光を発します。がん細胞と正常細胞でほぼ等しく発現している遺伝子は赤と緑の混ざった色である黄色の蛍光を発色します。両細胞とも発現が見られない遺伝子は蛍光を発しません。

遺伝子検査の精度はどの程度なのですか?

分子標的薬の選択に伴って行われる遺伝子検査は、標的とする物質がわかっている点が、従来の化学療法薬との最大の相違です。

たとえばgefitinibは、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を持つ非小細胞性肺がんには、劇的な腫瘍縮小効果を示します。しかし、ras など、EGFR以外の命令系統に反応してしまうタイプの肺がんでは、効果が減弱するとされます。

EGFRが関与するがんには、肺がんのほか、前立腺がん、胃がん、乳がん、大腸がん、膵がん、卵巣がんと多岐にわたります。遺伝子変異に関しても、あったほうが有効なもの、あると無効なものなど、薬剤によってさまざまです。

大腸がんに対するcetuximab投与では、K-ras遺伝子変異陰性群のほうが生存期間が長かったというデータが得られています。

遺伝子検査の効果を、検査内容ごとに検証したスタディはまだ多くはありません。分子標的薬自体、登場後日が浅いですからやむをえないことですが、その精度管理が治療上重要な役割を担っていくことになります。

遺伝子検査はガイドラインにはどのように記載されていますか?

各種のがんにおけるガイドラインでは、遺伝子検査はすでに治療アルゴリズムの中に組み入れられています。

『乳癌診療ガイドライン』では、手術可能例、転移再発例ともに、HER2陽性であればtrastuzumabによる化学療法の施行が強く推奨されています。

『大腸癌治療ガイドライン』においても、RAS(KRAS/NRAS)、BRAF遺伝子検査は治療薬決定に不可欠なものになっています。

遺伝子検査に適合すれば問題なく使えるのですか?

遺伝子検査にも擬陽性・擬陰性があり、絶対的な指標になるわけではありません。それ以外にも、考慮すべき問題はあります。

imatinibは、すでに慢性骨髄性白血病(CML)の第一選択薬といってよい薬剤ですが、症例によっては耐性の発現が顕在化しています。さまざまな原因が推測されていますが、BCR-ABLキナーゼ領域内の点突然変異が耐性の約40%にみられるとされます。 BCR-ABLは異常な構造を持つ融合タンパクの一種で、慢性骨髄性白血病において過剰発現がみられます。

そしてこのBcr-abl 遺伝子変異をターゲットにdasatinibやnirotinibといった薬剤がつくられています。標的が明確な分、その研究がさらに新しい薬剤開発につながる可能性があるということです。

未知の副作用など、まだ問題はありますが、分子標的薬は従来の化学療法を大きく変えていくというのが、医療者の共通認識といえるでしょう。


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