免疫学の基礎トレーニング② 自然免疫系

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免疫学の基礎トレーニング② 自然免疫系

今回学習するのは、自然免疫系を中心とした免疫反応の実際です。免疫機構の成り立ちを、より具体的にみていきます。

異物侵入による炎症発生のメカニズムやその意味、好中球、単球、マクロファージによる異物排除の動きを把握しましょう。また、樹状細胞などによる抗原提示や、T細胞の抗原認識などにも言及します。その意味では、一部獲得免疫の領域も含んでいます。

部分的には非常に細かい情報も入ってきます。それらは各章の末尾に「参考」という名前のslideにまとめました。免疫反応は、さまざまな物質がダイナミックに関連しながら機能していきます。全体の大きな流れをつかみましょう。

確認-免疫機構の全体像

最初に確認です。免疫には自然免疫と適応(獲得)免疫があり、両者の橋渡しを担うのが樹状細胞でした。

第Ⅰ章炎症の仕組みとは

体内に異物が侵入すると監視役の細胞が反応し、炎症が発生すると顆粒球の1つ、好中球が貪食を行って異物を排除します。

本資材の第Ⅰ章では、そもそも炎症はどのようにして起こるのか、どのような意味があるのかについて、最新の知見とともにみていきます。

生体バリア

生体にはさまざまなバリア機構が備わっています。

外界と接する体表面には皮膚があります。表皮・真皮・皮下組織の3層からなり、異物の侵入を防ぐ最も強力な物理的バリアです。また、人体内部にある粘膜は入り込んできた異物を粘液に絡めとって外界へ排出させます。さらに、例えば大腸に多数常在する非病原性の細菌、これらも外界からの細菌増殖を抑制するという形で異物排除に関わっています。

そのほか、気道におけるくしゃみや咳、食道における嘔吐といった生理作用も、バリア機構の一種といえます。

異物の侵入

これらのバリアをもってしても、異物の侵入を完全に防ぐことはできません。異物が侵入してしまった場合、最初に機能するのは自然免疫系です。

トール様受容体(Toll Like Receptor:TLR)は異物をおおまかに識別するセンサーで、マクロファージや樹状細胞、肥満細胞などが備えています。異物は体内に侵入すると、自分自身に由来する物質を分泌します。具体的には蛋白や毒素などです。マクロファージ表面のTLRはその物質と結合することで、分泌元を異物、すなわち非自己として識別します。そして、異物侵入を告げるサイトカインを分泌します。この際に産生されるのはインターロイキン(IL)-1、IL-6、IL-8、腫瘍壊死因子(TNF)-αなどで、いずれも炎症の発症に関わっています。 

炎症に関わるサイトカイン

サイトカインは、局所間の情報伝達に関わる蛋白の総称です。

マクロファージから分泌されるIL-1、IL-6、TNF-αは、血管内腔を拡張します。ここに接着分子と呼ばれる膜蛋白が加わることにより、血流中の好中球や単球を血管外へ漏出しやすくします。また、IL-8は好中球の遊走化を促し、炎症巣への移行を容易にします。ケモカインとも呼ばれ、多くの血液細胞がその分泌能を有しています。

炎症に関わるメディエーター

異物の侵入に際しては、肥満細胞も機能します。肥満細胞がもつ受容体に抗原が結合すると、局所ホルモン(オータコイド)の一種であるヒスタミンが放出されます。ヒスタミンは血管透過性を亢進し、さらに免疫細胞の血管外漏出を促します。

サイトカインの作用は局所以外にも及びます。IL-1、IL-6、TNF-αの血中濃度が高まり、脳にまで達すると脳の血管内皮細胞からプロスタグランジン(PG)-E2が分泌されます。PGE2も局所ホルモンで、視床下部体温調節中枢に作用し、体温を上昇させます。高温環境が免疫細胞の活動性を高めるためです。

IL-1、IL-6、TNF-αは局所だけでなく全身にも影響を及ぼすため、炎症性サイトカインと総称されています。

炎症反応

炎症は発赤、発熱、腫脹、疼痛の4徴候をいいます。それぞれのメカニズムを確認してみましょう。

発赤は末梢の毛細血管が拡張し、血流が増加することで起こります。発熱は炎症性サイトカインによるPGE2の分泌亢進などによります。腫脹は血管透過性が亢進し、好中球などが血管外へ出やすくなる結果生じるものです。疼痛は発痛作用をもつヒスタミンなどによってもたらされます。

身体にとって不快な症状である炎症。それは、免疫細胞が異物を排除するために整えられる舞台ととらえることもできます。

参考-トール様受容体

参考です。TLRは、生体の自己と非自己を大まかに区別する受容体です。病原微生物等がもつ、特有の蛋白や毒素を識別する機能を負っています。

マクロファージや樹状細胞の表面に発現している受容体に結合し、自己・非自己の識別を行います。また表面上の受容体だけでなく、細胞エンドソーム内で核酸の成分を認識するタイプのTLRも存在します。これらはウイルスのRNAなど認識できるため、ウイルス感染において重要な役割を果たします。

TLRのタイプは現在10種類程度見つかっており、細胞ごとにどのタイプをもつかが異なります。当初はマクロファージや樹状細胞といった監視役の細胞のみにあると考えられていましたが、好中球もTLRをもつことがわかっています。さらに線維芽細胞や上皮細胞といった、免疫に関わらない細胞にも存在が確認されています。


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