免疫学の基礎トレーニング① 免疫の全体像

  1. TOP
  2. 免疫学の基礎トレーニング
  3. 免疫学の基礎トレーニング① 免疫の全体像
免疫学の基礎トレーニング① 免疫の全体像

外来異物の侵入を防ぐ、あるいは侵入してした異物を死滅させる免疫反応は、人体にとって不可欠な機構です。複雑で多岐にわたる免疫反応を理解するため、ここでは登場する物質をイラストにして、その働きを解説します。

どこで何がどう働くのか、その大きな枠組みを確認しましょう。

第Ⅰ章そもそも免疫とは

具体的な免疫細胞や関与する物質についてみる前に、まず免疫とは何かを確認しておきます。いわば免疫機構とは何かの把握です。

自己と非自己

生体にはさまざまなバリア機構が備わっていますが、それでも多くの異物がその網の目を掻い潜って体内に侵入してきます。それを感知し、排除するシステムが免疫です。

免疫システムが発動するためには、何が異物で、何が異物でないかを判断する基準が必要になります。それが自己と非自己の認識です。非自己と判断されたものは、さまざまな機序によって体内から排除されます。さらには、体内で発生した異常な細胞を取り除く役割も負っています。

生体の免疫反応

免疫学を医療に活用している実例がワクチンの予防接種です。病原体を弱毒化した抗原を作成し、それを体内に入れ、体内に抗体を産生させることで、実際の感染時に病原体を排除します。

免疫学の基礎を築いたのは18世紀の英国人医師、エドワード・ジェンナーです。牛痘種痘法によって、当時死の病と恐れられた天然痘の予防ワクチン開発に成功します。ジェンナーの手法は世界各地に伝えられ、日本でも安政四年(1857年)、神田お玉が池に種痘所が開設されました。

正常な反応

免疫反応を確認するために、もう一度具体的な仕組みをみてみましょう。

体内に侵入する病原体など異物を排除するだけでなく、ワクチン接種による抗体産生も免疫の重要な働きです。さらに拒絶反応によって異物の常駐を警告する作用も示します。

体内に生まれた細胞の異常、例えば腫瘍細胞などに対し、その異常性を確認し排除する働きも有します。また老廃物の除去も、免疫に基づく作用です。

異常な反応-過剰反応

生体にとって不可欠な免疫反応ですが、状況によっては生体に不利に働くことがあります。

例えばアレルギー。反応自体は防御機構に則ったものですが、攻撃が許容範囲を超えた場合、生命を脅かすことも起こりえます。アナフィラキシー反応などはその典型です。

また自己免疫疾患は、免疫がもつ自己と非自己の判別機能が破綻し、本来攻撃対象とはならないはずの正常細胞が傷害されてしまうものです。

これらはいずれも、免疫の過剰反応と位置づけることができます。

異常な反応-過剰反応

過剰反応以外も異常な反応は起こります。

例えば、免疫機能自体の低下により、病原体などの異物に抵抗できなくなる状態です。本来であれば感染が成立しない日和見感染などがその例です。

また、腫瘍免疫の低下により、排除されるはずのものが生体内で増殖を続け、その結果として悪性腫瘍が生じることもあります。

これらは、免疫応答の異常といえます。

免疫細胞と免疫系

みてきたように生体にとって極めて重要な免疫機構ですが、呼吸器や循環器といった他のシステムに比べて今1つわかりづらいという印象があります。その理由として免疫には、呼吸器における肺や、循環器における心臓といった特定の中心臓器がないという点があげられます。

免疫機構には、臓器として骨髄、胸腺、リンパ節、脾臓などが関与します。そこを活動の場に、顆粒球やリンパ球、マクロファージなどの細胞が免疫反応の主体となって活動します。同時にこれら免疫細胞の反応を助ける存在として、抗体や補体、各種サイトカインなどが関わってきます。

それぞれの場所でどのような反応が起こるのか、概要を整理してみましょう。

免疫細胞を生成する骨髄

免疫機構のわかりづらさのもう1つの要素、それは細胞が経時的に変化し、別の機能を負うようになる点です。分化・成熟して別の細胞になれば、名前もまた変わります。

免疫細胞の大元となるものは骨髄で生成されます。骨髄は骨の内部を満たしている柔らかい組織で、そこで生成されるのが血球の源となる造血幹細胞です。造血幹細胞は自分と同じものを複製する自己複製能力と、複数の血球系統に分化する多分化能力をもっています。複製・分化を繰り返しながら、次第に成熟して固有の機能を獲得していきます。

成人の造血骨髄は、頭蓋骨、胸骨、肋骨、椎骨、骨盤、大腿骨など、体幹部の骨髄に限局しています。複製・分化の全体像は極めて複雑ですが、造血幹細胞が多能性前駆細胞へと分化し、それが骨髄系前駆細胞とリンパ系前駆細胞という2つの血球系に分かれていきます。

骨髄で成熟し末梢血へ向かう免疫細胞

骨髄系前駆細胞とリンパ系前駆細胞は、骨髄において成熟し、さらに各種芽球へと分化する段階に至ります。このステップに進めるのは、原則として成熟細胞のみで、幼若血球や異常血球は淘汰されます。

両者を分けるのが、骨髄実質と類洞の間にある基底膜で、血液骨髄関門とも呼ばれます。ここを通過すると、赤芽球は網赤血球に、巨核芽球は巨核球に分化します。さらに骨髄芽球やリンパ芽球もさまざまな造血因子の刺激を受け、成熟血球となります。そして、骨髄と血管をつなぐ輸出静脈を経て、体循環へ出ていきます。

免疫細胞が流出する末梢血

末梢血に流出する各種成熟血球細胞について、簡単にまとめておきます。

赤血球は酸素の運搬が主な役割で、血小板は傷ついた血管内皮細胞の修復などをつかさどります。

それに続くのが顆粒球と単球。顆粒球は文字通り細胞内に顆粒を含み、異物の貪食や殺菌などを行います。単球も貪食しますが、大きな特徴は組織内でマクロファージに分化する点です。一方リンパ系前駆細胞から分化するのがリンパ球です。リンパ球は抗体の産生や侵入異物に対する攻撃に関わります。

顆粒球は好中球、好酸球、好塩基球に分かれます。またリンパ球はB細胞、T細胞、NK細胞に分類されます。これらに単球を加えたものが白血球細胞です。末梢血中の白血球は免疫機能の主役であり、さまざまな種類の細胞が存在します。

組織内で反応する免疫細胞

末梢血だけでなく、組織内を活動の場とする免疫細胞もあります。

マクロファージは、末梢血中の単球が毛細血管壁を遊走して組織に移行するものです。強い貪食能と数ヵ月にも及ぶ寿命の長さが特徴です。マクロファージはそれぞれの組織に適応し、中枢神経ではミクログリア、肺では肺胞マクロファージといったように個別の名前で呼ばれます。そして機能も、各臓器に固有のものになります。

肥満細胞は骨髄系前駆細胞から生まれるもので、マスト細胞とも呼ばれます。組織内に存在し、炎症反応を起こしたり、Ⅰ型アレルギーの発症に関与します。

樹状細胞はマクロファージと同様単球から分化しますが、成熟にはリンパ系前駆細胞も関わっています。強力な抗原提示能をもつ細胞で、全身の組織に広く分布します。組織内で抗原を取り込み、所属リンパ節へ移動して、T細胞への抗原提示を行います。

マクロファージ、肥満細胞、樹状細胞は異物を大まかに認識する受容体、トール様受容体(Toll Like Receptor:TLR)をもっています。TLRはパターン認識受容体の1つで、病原体に対するセンサーとして働きます。

免疫細胞のまとめ

免疫細胞を概念化したまとめです。

造血幹細胞は骨髄において自己複製と分化を行い、骨髄系前駆細胞とリンパ系前駆細胞に分かれます。骨髄で成熟した骨髄系前駆細胞からは、赤血球、血小板、好中球、好酸球、好塩基球、単球が末梢血に流出します。

一方リンパ系前駆細胞からはリンパ球が流出されます。このうちNK細胞は、ウイルス感染細胞などを非特異的に認識し、細胞傷害作用を示します。またB細胞は、末梢組織のリンパ節に移動して異物を監視し、最終的に抗原特異的な抗体を産生する形質細胞に変化します。さらにT細胞は、未熟のまま骨髄を離れ胸腺で成熟、適応(獲得)免疫の中心的役割を担います。末梢組織ではマクロファージ、肥満細胞、樹状細胞などが異物の排除にあたります。

実際の反応では、これらに加え抗体や補体、各種サイトカインがそれぞれの段階で個別の役割を担います。


TOP