高齢者への投与を考える
「高齢者のがん薬物療法」

この教材を担当したのは?

文責:半田千尋

金融会社営業職を経て特許事務所へ転職。医療機器関連の特許を多数担当する。医療専門出版社SCICUSを経由し、2018年よりメディカル業界唯一のMR研修専門情報誌『Medical Education for MR』編集長を務める。

この講義で伝えたいこと

高齢のがん患者さんは、加齢に伴うさまざまな問題点を抱えており、薬物療法に際して老年医学的視点が必要となります。
 この教材では、最新のがん統計から、高齢者とがんの疫学的特徴、高齢がん患者の診療のポイントといった基本的な知識を押さえたうえで、高齢がん患者さんへの薬物投与について考えていきます。
 高齢がん患者の薬物治療の難しさを理解し、臨床の現場で医師や薬剤師が求める情報を的確に提供できるMRを目指しましょう。

高齢者のがんの疫学的特徴

まずは、最新のがん統計から、高齢者のがんの疫学的特徴を読み解いていきます。

がんによる死亡と高齢者

国立がん研究センターがん情報サービスによると、日本で2019年にがんで死亡した人は376,425人(男性220,339人、女性156,086人)で、そのうち65歳以上は全体の87.3%(328,764人)を占めます。

年齢階級別がん死亡者数(2019年・全がん)

年齢階級別がん死亡者数(2019年・全がん)

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計) より編集部作成

がん死亡率(※)は男女ともに60歳代から増加し、高齢になるほど高くなります。また、60歳代以降は男性のがん死亡率が女性よりも顕著に高くなっています。

※死亡率:ある集団に属する人のうち、一定期間中に死亡した人の割合。通常1年単位で算出され、「人口10万人のうち何人死亡したか」で表現される。
 (例)2019年の死亡率(粗死亡率)= 2019年に死亡した日本人の数/2019年の日本人人口 × 100,000

年齢階級別がん死亡率(2019年・全がん)

年齢階級別がん死亡率(2019年・全がん)

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計) より編集部作成

下の図は、がん死亡の部位内訳を年齢階級別であらわしたものです。男性は、40歳以上では胃、大腸(結腸+直腸)、肝臓といった消化器系のがんによる死亡が多くを占めますが、70歳代以上ではその割合はやや減少し、肺がんと前立腺がんの割合が増加します。

年齢階級別がん死亡 部位内訳(2019年・男性)

年齢階級別がん死亡 部位内訳(2019年・男性)

公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計<2021年版>」 より作成

女性は、40歳代では乳がん、子宮がん、卵巣がんの死亡が多くを占めますが、高齢になるほどその割合は減少し、消化器系のがんと肺がんの割合が増加します。

年齢階級別がん死亡 部位内訳(2019年・女性)

年齢階級別がん死亡 部位内訳(2019年・女性)

公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計<2021年版>」 より作成

死亡数が多いがんの部位は、全年齢男女計では、肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の順ですが、65歳以上男性では2位と3位の順が入れ替わって肺、胃、大腸、膵臓、肝臓の順となり、65歳以上女性では1位と2位、3位と4位の順が入れ替わって大腸、肺、膵臓、胃、乳房の順となります。

死亡数が多い部位順(2019年)

死亡数が多い部位順(2019年)

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計) より編集部作成

がんの罹患と高齢者

次に、がんの罹患についてみていきます。
 がんに罹患した人に占める65歳以上の割合は年々増加しており、1980年代には50%程度であったところ、2018年には75%を超えています。

がん罹患者に占める高齢者の割合の推移

がん罹患者に占める高齢者の割合の推移

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録) より編集部作成

高齢化が急速に進む日本は、2025年には高齢化率(※)が30%に達し、その後も上昇し続けるとの予測から、がん患者に占める高齢者の割合は今後も増加すると考えられます。

※高齢化率:総人口に対し65歳以上の高齢者人口が占める割合。

がん罹患率(※)は男女とも50歳代から80歳代くらいまで増加します。
 30歳代から50歳代前半では女性が男性より高く、50歳代後半で逆転し、60歳代以降は男性が女性より高くなります。

※罹患率:ある集団で新たに診断されたがんの数を、その集団のその期間の人口で割った値。通常1年単位で算出され、「人口10万人のうち何例罹患したか」で表現される。
 (例)2018年の罹患率(粗罹患率)= 2018年に新たに診断されたがんの数/2018年の人口 × 100,000

年齢階級別がん罹患率(2018年・全がん)

年齢階級別がん罹患率(2018年・全がん)

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録) より編集部作成

下の表は、男性の累積がん罹患リスクを示したものです。累積罹患リスクとは、ある年齢までにある病気に罹患する(その病気と診断される)確率です。

現在年齢別累積がん罹患リスク(2015年・全部位・男性)

現在年齢別累積がん罹患リスク(2015年・全部位・男性)

国立がん研究センターがん情報サービス「累積罹患リスク(グラフデータベース)」 より編集部作成

たとえば、現在30歳の男性が40歳までにがんと診断される確率は約0.6%ですが、50歳までには約2.1%、60歳までには約7.3%、70歳までには約20.6%、80歳までには約41.6%と、到達年齢があがるにつれて累積罹患リスクは上昇します。
 少し見方を変えて、現在年齢から10年後の累積罹患リスクに注目してみます。現在30歳の男性が40歳までにがんと診断される確率は約0.6%ですが、現在40歳の男性が50歳までには約1.5%、現在50歳の男性が60歳までには約5.4%、現在60歳の男性が70歳までには約15.1%、現在70歳の男性が80歳までには約29.7%と、現在年齢があがるにつれて10年後の累積罹患リスクは上昇します。

これは、女性も同様です。現在年齢から到達年齢があがっていくにつれて累積罹患リスクは上昇します。また、同じ年数後の累積罹患リスクを比較すると、現在年齢があがるにつれてリスクは上昇します。

現在年齢別累積がん罹患リスク(2015年・全部位・女性)

現在年齢別累積がん罹患リスク(2015年・全部位・女性)

国立がん研究センターがん情報サービス「累積罹患リスク(グラフデータベース)」 より編集部作成

下の図は、がん罹患の部位内訳を年齢階級別にあらわしたものです。がん死亡と同様に、年齢によって罹患部位に変化がみられます。男性は、40歳以上では、胃、大腸(結腸+直腸)、肝臓などの消化器系のがんが多くを占めますが、70歳以上ではその割合は減少し、肺がんと前立腺がんの割合が増加します。

年齢階級別がん罹患 部位内訳(2017年・男性)

年齢階級別がん罹患 部位内訳(2017年・男性)

公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計<2021年版>」 より作成

女性は、40歳代では乳がん、子宮がん、卵巣がんの罹患が多くを占めますが、高齢になるほどその割合は減少し、消化器系のがんと肺がんの割合が増加します。

年齢階級別がん罹患 部位内訳(2017年・女性)

年齢階級別がん罹患 部位内訳(2017年・女性)

公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計<2021年版>」 より作成

罹患数が多いがんの部位は、全年齢男女計では、大腸、胃、肺、乳房、前立腺の順ですが、65歳以上男性では1位が前立腺となり、大腸は4位までさがります。65歳以上女性では1位は変わらず大腸で乳房、胃、肺の順となり、5位に膵臓が入ります。

罹患数が多い部位順(2018年)

罹患数が多い部位順(2018年)

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録) より編集部作成

なお、基本的にがん患者は高齢者が占める割合が高く、どの部位のがんでも罹患者数に占める高齢者の割合は80%近辺ですが、例外的に乳房、子宮、卵巣のがん罹患者数は非高齢者が多くなっています。

高齢がん患者の薬物治療の難しさ

ここまでみてきたように、一般的に、がんは高齢になるほど死亡率と罹患率が高くなります。高齢がん患者の増加、また高齢者に向けたがん治療の必要性が増すなかで、高齢がん患者に対する薬物治療の難しさについてみていきます。

実臨床では「高齢者」を暦年齢で定義できない

医療制度などでは、65歳以上を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」としていますが、医学的には、高齢者を暦年齢で区分する定義はありません。治療の目的や内容によって「高齢者」の臨床的な意義は異なること、


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