この講義で伝えたいこと
日本は欧米と比較して臓器移植が進んでいないと言われています。
厚生労働省は、移植医療についての理解促進・普及啓発に繋げる取り組みとして、毎年10月を臓器移植普及推進月間とし、臓器移植推進国民大会の開催やJOTなどの関連団体による「グリーンリボンキャンペーン」を実施しています。臓器移植法の施行日にちなんで、10月16日には、東京タワーや大阪の太陽の塔、福岡タワー等、全国各地のランドマークがグリーンにライトアップされます。
臓器移植に関連する自社製品の有無にかかわらず、医療・いのちと関わる仕事に就くMRとして、この講義を通して臓器移植の現状を知り、臓器移植について考えてみましょう。
臓器移植の基礎知識
まずは、臓器移植の基礎知識を確認していきます。
臓器移植とは
移植医療には大きく分けて、臓器移植と組織移植があります。
臓器移植は「臓器の移植に関する法律」(以下、臓器移植法)により規定され、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球の移植が法の対象となっています。
身体の一部である組織は臓器とは区別され、臓器移植法の対象からはずれています。現在、組織移植に関する法律はなく、日本組織移植学会による「ヒト組織を利用する医療行為の倫理的問題に関するガイドライン」に則った実施が求められます。ガイドラインの対象となる組織は、膵島、心臓弁、大血管・末梢血管、皮膚、骨・靭帯、角膜等、羊膜(卵膜)です。
臓器移植と組織移植の分類
移植医療の種類 | 規定するもの | 規定の対象 |
---|---|---|
臓器移植 | 臓器の移植に関する法律 | 心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球 |
組織移植 | ヒト組織を利用する医療行為の倫理的問題に関するガイドライン | 膵島、心臓弁、大血管・末梢血管、皮膚、骨・靭帯、角膜等、羊膜(卵膜) |
編集部作成
このほかにも移植医療として、造血幹細胞移植(※)がありますが、これはいわゆる「造血幹細胞移植法」という専用の法律により規定されています。また、加工した細胞の移植は再生医療に分類され、これはいわゆる「再生医療法」により規定されています。
この教材では特に、臓器移植を話題の中心に置くことにします。
※造血幹細胞移植:血液がんや免疫不全症等に対し、骨髄で血球をつくり出すもとになる造血幹細胞を移植する治療。移植に使用する細胞によって、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植に分類される。
【参考】再生医療は、用いる細胞や投与方法等によるリスクに応じて、人の生命や健康に与える影響が大きい順に、第一種から第三種まで分類される。同種膵島移植は第一種再生医療(自家移植の場合は第三種再生医療)に該当する。
臓器移植とは、疾患や事故等により機能が低下した患者の臓器と他者の健康な臓器とを取り替えて、機能を回復させる医療です。
移植を希望する患者、また移植を受けた患者を「レシピエント」、臓器提供者を「ドナー」と呼びます。
臓器移植とは、重い病気や事故などにより臓器の機能が低下した人に、他者の健康な臓器と取り替えて機能を回復させる医療です。
公益社団法人 日本臓器移植ネットワークウェブサイト より
臓器移植が必要となる原疾患として、心臓では拡張型心筋症や先天性心疾患など、肺では肺動脈性肺高血圧症や特発性間質性肺炎など、肝臓では劇症肝炎や肝硬変など、腎臓では慢性腎不全など、膵臓では1型糖尿病や2型糖尿病など、小腸では短腸症候群などがあります。
原疾患の例
日本臓器移植ネットワークウェブサイトより編集部作成
臓器移植の種類と移植可能な臓器
臓器移植には生体からの移植と、死体からの移植があります。
臓器移植法は死体からの移植に関して規定したものであり、臓器提供は脳死(※)後の提供と、心臓が停止した死後の提供が認められています。
※脳死:呼吸や循環機能の調節等、生命を維持する働きを司る脳幹を含むすべての脳の機能が不可逆的に停止した状態。自発呼吸は失われており、薬剤の投与や人工呼吸器装着等の処置によりしばらくは心臓や肺を動かすことができるが、多くは数日のうちに心臓も停止する。
臓器移植の種類
編集部作成(参考:公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク「日本の移植事情」等)
許容できる阻血時間(※)が臓器により異なることから、脳死後と心臓停止死後で提供できる臓器は異なります。たとえば許容阻血時間が短い心臓は心停止死後の移植はできず、脳死後でのみ提供が可能な臓器です。
なお、生体からは、肺、肝臓、腎臓のみ移植が行われています。臓器移植法の運用に関する指針では、「生体からの臓器移植は、健常な提供者に侵襲を及ぼすことから、やむを得ない場合に例外として実施されるものであること」としています。
※阻血時間:臓器に血液が流れていない状態の時間。
移植可能な臓器
提供できる時 | 移植可能な臓器 |
---|---|
脳死後 | 心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、小腸、眼球 |
心臓停止死後 | 膵臓、腎臓、眼球 |
生体 | 肺、肝臓、腎臓※ |
※膵臓と小腸も移植可能だが、諸条件が整いにくく症例数は少ない。生体膵臓移植は保険適用されていない。
編集部作成(参考:公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク「日本の移植事情」等)
臓器移植法において、業として行う臓器のあっせんをしようとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならないと定められています。
(業として行う臓器のあっせんの許可)
「臓器の移植に関する法律」より
第十二条
業として移植術に使用されるための臓器(死体から摘出されるもの又は摘出されたものに限る。)を提供すること又はその提供を受けることのあっせん(以下「業として行う臓器のあっせん」という。)をしようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、臓器の別ごとに、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
日本で唯一この許可を受けている組織が、「日本臓器移植ネットワーク」です。Japan Organ Transplant Networkの頭文字をとってJOTと呼ばれています。臓器移植を受けるためには、JOTへの移植希望登録が必要です。
JOTが行う主な事業は、国内における死後の臓器提供に関する公平で適正なあっせんと、移植医療の普及啓発です。専任の臓器移植コーディネーター(※)によるドナー情報への24時間対応、臓器提供に関する諸手続き、レシピエントの選定、移植施設への連絡、臓器摘出チームの手配、臓器搬送の調整等、臓器移植に関するすべてに関わっています。
※移植コーディネーター:移植医療において、臓器や組織の提供から移植がスムーズかつ適正に行われるよう調整する専門職。
臓器移植の歴史
下の表は、臓器移植に関する出来事をまとめたものです。
日本と海外での臓器移植に関する出来事
公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク「日本の移植事情」より改変作成
世界初の腎臓移植はアメリカで1954年に行われましたが、