MRが身につけておきたいファクトを扱うちから

この教材を担当したのは?

文責:半田千尋

金融会社営業職を経て特許事務所へ転職。医療機器関連の特許を多数担当する。医療専門出版社SCICUSを経由し、2018年よりメディカル業界唯一のMR研修専門情報誌『Medical Education for MR』編集長を務める。

この講義で伝えたいこと

言わずもがな、MRが提供する医薬品情報は、科学的な根拠に基づく正確な情報である必要があります。それは医薬品が適正に使用されるため、つまりは、患者さんに不利益をもたらさないための大原則です。これはMRの皆さんが当たり前に理解していることでしょう。
 しかし「正確な情報」を「正確に」伝達することは、実は容易なことではありません。情報を伝達する際に、意図的であるか否かにかかわらず、相手に正確に伝わらない表現を用いてしまうと、それは途端に正確な情報ではなくなってしまいます。
 この講義では、正確な情報を正確に伝達するちからを養うことを目的に、がんに関して世の中に広く出回っている言説・情報を通して、正確ではない情報が患者さんに与える影響や患者さんが被り得る不利益について考えていきます。

本編の前に

本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、用語の確認をしておきます。

がんに関する情報についてのアンケート

MRの皆さんに質問です。
 あなたはこれまで、「日本人の2人に1人はがんになる」という表現を見かけたり、耳にしたことはありますか?

医療従事者と医薬品の製造販売に関する仕事に従事する人を除く20歳以上の方を対象に同じ質問をし、年代・性別の偏りなくその回答を集計したところ、「ある」と回答した人は71.7%にのぼりました(n=644)。

あなたはこれまで、「日本人の2人に1人はがんになる」
という表現を見かけたり、耳にしたことはありますか?

20歳代では64.8%、60歳以上では80.0%の人が「ある」と回答。ない21.0%。わからない7.3%

編集部調べ

この結果から、「日本人の2人に1人はがんになる」という表現はかなり一般に広まっていると捉えてよいでしょう。
 ちなみに、年代別(20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳以上)でみると、年代があがるにつれて「ある」と回答した人の割合は増えていくという結果が得られました。最も低い20歳代で64.8%、最も高い60歳以上では80.0%にのぼります。

ではもうひとつ質問です。
 あなたはこれまで、「日本人の3人に1人はがんで死ぬ」という表現を見かけたり、耳にしたことはありますか?

同じ質問を、先ほどの質問と同じ対象者にしたところ、先ほどの質問での割合よりはかなり少なくなるものの、33.5%の人が「ある」と回答しました。なお、こちらの質問では年代別での特筆すべき特徴はみられませんでした。

あなたはこれまで、「日本人の3人に1人はがんで死ぬ」
という表現を見かけたり、耳にしたことはありますか?

これまで、避難所(指定緊急避難場所および指定避難所)へ避難した経験はありますか?

編集部調べ

「累積罹患リスク」・「累積死亡リスク」とは

これらの質問に関係する用語として、「累積罹患リスク」と「累積死亡リスク」を確認しておきます。
 累積罹患リスクとは、ある年齢までにある病気に罹患する(その病気と診断される)おおよその確率を指します。
 「生涯累積罹患リスク」といった場合は、一生のうちにある病気に罹患する確率となります。

累積罹患リスクとは…ある年齢までにある病気に罹患する(その病気と診断される)おおよその確率

「国立がん研究センターがん情報サービス」より

同様に、累積死亡リスクとは、ある年齢までにある病気で死亡する確率を指し、「生涯累積死亡リスク」といった場合は、一生のうちにある病気で死亡する確率となります。

累積死亡リスクとは・・・ある年齢までにある病気で死亡するおおよその確率

「国立がん研究センターがん情報サービス」より

がん統計から正しい情報を読み取る

ここから、講義の本編をはじめます。
 まずは、がんに関して世の中に広く伝わっている「日本人の2人に1人はがんになる」、「日本人の3人に1人はがんで死ぬ」という言説について、ファクトチェック(検証・評価)の目でみていきましょう。

「日本人の2人に1人はがんになる」?

「日本人の2人に1人はがんになる」という言説は、なにをもとにしたものでしょうか。
 国立がん研究センターが運営するウェブサイト「がん情報サービス」で公表されている最新がん統計に、累積罹患リスクのデータがあります。下の表の全がんの行をみてください。

生涯がん累積罹患リスク(2017年データに基づく)

生涯がん累積罹患リスク

「国立がん研究センターがん情報サービス」 より作成

生涯でがんに罹患する確率は、男性で65.5%、女性では50.2%、男女ともに2人に1人の確率となっています。「日本人の2人に1人はがんになる」という言説は、このデータをもとに出てきたものと推察されます。
 がん情報サービスではこのデータに、「『日本人の2人に1人は一生のうちにがんと診断される』と表現されることもある」という記載を添えています。
 では、「日本人の2人に1人はがんになる」と、「日本人の2人に1人は一生のうちにがんと診断される(がんになる)」で、情報を受けとる側が受ける印象は同じでしょうか?

がん情報サービスでは、現在年齢別のがん罹患リスクも公表されています。ここでは男性の年齢別がん罹患リスクをみてみます。

現在年齢別がん罹患リスク(2017年データ:男性)

現在年齢別がん罹患リスク

「国立がん研究センターがん情報サービス」より作成

たとえば、現在40歳の男性が20年後までにがんに罹患する確率は6.9%です。30年後まででは21.3%、40年後まででは43.6%です。
 つまり、現在40歳の男性では、


TOP
error: 転載・複製は禁止されています。