この講義で伝えたいこと
日本は、地震、津波、豪雨、地滑り、洪水、崖崩れ、土石流、防風、竜巻、高潮、豪雪、火山噴火など、多くの種類の自然災害が発生しやすい条件下にあると言われています。
特に近年は、毎年どこかで「数十年に一度」などと表現される大雨が降り、河川の氾濫による洪水被害や強風による被害なども甚大に、また頻回になっているように感じている方も多いでしょう。事実、内閣府の「防災白書」には、豪雨災害については「激甚化・頻発化」していると記載があります。
災害は豪雨災害だけではありませんが、いまや、日本全国、どこに住んでいても、いつ何時、災害にみまわれるかわかりません。
災害が発生すると、また発生が予測される時には、命を守るために自宅などを離れてより安全な場所へ避難が必要になることがあります。そのような事態となった時、避難者が何らかの疾患を抱えていたら、服用中の薬は手元にあと何日分あるでしょうか?着の身着のまま逃げなければならない時には、薬を持ち出せるでしょうか?そもそも自宅にいる時に被災するとは限りません。
この講義では、災害のなかでの医薬品に焦点をあて、災害時にMRとしてどう行動するか考えてもらいます。
本編の前に
本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、基本的な用語の確認をしておきます。
避難経験についてのアンケート調査
皆さんに質問です。
あなたはこれまで、避難所(指定緊急避難場所および指定避難所)へ避難した経験はありますか?
「指定緊急避難場所」とは、避難勧告などが発令された場合に、緊急的に避難する施設・場所を指します。「指定避難所」とは、災害発生時に、被災者等が一定期間避難生活をする施設を指します。
同じ質問を年代・性別の偏りなく15歳以上の一般の方1,251人にしたところ、20%の人が「ある」と回答しました。
回答結果を年代別にみると、「ある」と回答した人の割合が最も高かったのは20歳代で30.7%、最も低かったのは60歳以上の9.4%でした。
これまで、避難所(指定緊急避難場所および指定避難所)へ
避難した経験はありますか?
編集部調べ
「災害」とは
あなたは「災害」というと、何を思い浮かべますか?まずは大地震や洪水といった大規模な自然現象を思い浮かべる人が多いのではと推察します。
災害対策基本法(※)では、災害を、「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう。」と定義し、政令で定める原因は、放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故と定めています。
※災害対策基本法:伊勢湾台風を契機として1961(昭和36)年に制定された。国土ならびに国民の生命、身体および財産を災害から保護するため、国や地方公共団体の責任の所在を明確にし、防災計画の作成など必要な災害対策の基本を定めるもの。
暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう。
「災害対策基本法」より
では今度は、医療の観点に立って「災害」をみてみましょう。
都道府県が医療計画(※)を策定するにあたって指針とする厚生労働省通知のなかでは、災害は大きく自然災害と事故災害に分類され、自然災害の代表的なものとして地震、風水害、火山災害、雪害などが、事故災害として海上災害、航空災害、鉄道災害、道路災害、大規模な火事災害、林野災害などが挙げられています。
※医療計画:医療法第30条の4の規定に基づき、厚生労働大臣が定める医療提供体制の確保に関する基本方針に即し、地域の実情に応じて都道府県が地域の医療提供体制の確保を図るために策定する計画。
医療計画策定のための指針における災害の種類
自然災害 | 地震、風水害、火山災害、雪害など |
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事故災害 | 海上災害、航空災害、鉄道災害、道路災害、大規模な火事災害、林野災害などの大規模な事故による災害など |
※原子力災害、危険物等災害およびテロなどへの対策については、関係する法律に基づき体制整備がなされるものであり、指針の対象外。
医政地発0413第1号 厚生労働省医政局地域医療計画課長通知 別紙 より作成
自然災害は皆さん具体事例が思い浮かぶと推察しますが、事故災害はどうでしょうか。同通知では、事故災害の具体的な例として、1985年に発生した日航機墜落事故(死者520名)、2005年に発生したJR福知山線尼崎脱線転覆事故(死者107名、負傷者555名)が挙げられています。
医療の観点からみると、このように一度に多くの傷病者が発生して医療の需要が急激に拡大し、平時の医療提供体制、被災都道府県だけでは対応が困難となる事態が、医療における「災害」といえるでしょう。
災害対策として備蓄される医薬品
ここから、講義の本編をはじめます。
まずは、災害対策として備蓄される医薬品についてみていきましょう。
災害対策基本法に基づく災害対策
災害には、台風による風水害や雪害など、ある程度発生の予測ができて対応策をとる時間が事前にあるものと、発生の予測ができず突如みまわれるものがあります。災害の発生を完全に防ぐことはできませんが、できるだけ被害を軽減するために、平時から災害を念頭に置いた備え、体制を構築しておくことが重要となります。
日本の災害対策法制は、災害の予防、発災後の応急救助、災害からの復旧・復興の各ステージを網羅的にカバーする「災害対策基本法」を中心に、各ステージにおいて、災害の類型(地震・津波災害、火山災害、風水害など)に応じて各々の個別法によって対応するしくみとなっています。
災害の予防や災害に備えた対策は、災害対策基本法に基づいて整備されます。
日本の災害に関する法律と法制上の位置づけ
内閣府資料より改変作成
災害対策基本法では、国、都道府県、市町村、指定公共機関(※)などの防災に関する責務が明確化され、各々で防災計画を作成し、実施することが規定されています。 政府の防災対策に関する基本的な計画である「防災基本計画」が中央防災会議により作成され、これが日本の災害対策の根幹をなすものです。そして、防災基本計画に基づき、指定行政機関(※)および指定公共機関は防災業務計画を、地方公共団体は地域防災計画を作成します。
※指定公共機関:独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関および電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するものをいう。
※指定行政機関:内閣府、宮内庁ならびに内閣府設置法に規定する機関ならびに国家行政組織法に規定する機関。内閣府の外局として置かれる委員会と庁。たとえば、総務省、厚生労働省、消防庁、原子力規制委員会など。
防災基本計画の体系
内閣府ウェブサイト「防災情報のページ」掲載資料より作成
厚生労働省防災業務計画には、災害予防対策として、都道府県が災害用の備蓄医薬品の確保方策および災害時の供給についての計画を策定すること、厚生労働省はその支援を行うと記載されています。
血液製剤については