薬剤性腎障害を念頭に置いたMR活動

薬剤性腎障害診療ガイドラインより原因薬剤逆引き!!

この教材を担当したのは?

文責:半田千尋

金融会社営業職を経て特許事務所へ転職。医療機器関連の特許を多数担当する。医療専門出版社SCICUSを経由し、2018年よりメディカル業界唯一のMR研修専門情報誌『Medical Education for MR』編集長を務める。

この講義で伝えたいこと

多くの薬剤は腎排泄性あるいは腎障害性であるため、腎臓への副作用を意識せずに活動するMRはいないでしょう。しかし、腎への副作用を個々の製品情報として意識する機会は多いものの、「薬剤性腎障害」を体系的に学習する機会はあまりなかったはずです。
 当たり前のことですが、患者さんは医薬品を治療のために使用します。そこには、疾患の治癒、苦痛の軽減への期待があり、効果と引き換えにするリスクはないに越したことはありません。医薬品に副作用はつきものですが、効果を期待して使用した医薬品により腎障害をきたすことは、患者さんにとって非常につらいことです。
 薬剤性腎障害を軸に、リスクを低減するための情報活動とはどのようなことか、MRにできることは何か、この講義を通して考えてみましょう。

本編の前に

本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、基本的な用語の確認をしておきます。

一般の方へのアンケート

医療に携わる人、医薬品の製造販売に携わる人にとっては、医薬品の副作用で腎臓の機能が障害されることがあることは当たり前に知っていることでしょう。では、一般の方の認識はどうでしょうか?

医療従事者と医薬品の製造販売に関する仕事に従事する人を除く20歳以上の男女を対象にアンケートを行い、年代・性別の偏りなくその回答を集計したところ、医薬品の副作用で腎臓の機能が障害されることがあることを「知らない」と回答した人の割合は42.7%にのぼりました。「わからない」と回答した人13%も合わせると、約56%になります。
 一般の人にはまだまだ、医薬品の副作用に関する知識がいきわたっていないと言えます。

医薬品の副作用で腎臓の機能が障害されることがあることを知っていますか?

医薬品の副作用で腎臓の機能が障害されることがあることを知っていますか?

編集部作成

「薬剤性腎障害」とは

基本的な用語の確認をしておきましょう。「薬剤性腎障害」とはどういった状態を指すのでしょうか。

薬剤性腎障害(drug-induced kidney injury:DKI)とは「薬剤の投与により、新たに発症した腎障害、あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認める場合」である。

「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」より

「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」(以下、診療ガイドライン)によると、薬剤性腎障害とは、「薬剤の投与により、新たに発症した腎障害、あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認める場合」と定義されています。
 つまり薬剤性腎障害は、診断や治療目的で投与された薬剤によって、新たに発症した腎障害と、既存の腎障害の悪化を含めた、すべての腎障害を指します。

「急性腎不全」と「急性腎障害」の整理

次に、薬剤性腎障害の中でも臨床的に頻度の高い病型である「急性腎障害」と、「急性腎不全」という用語について整理をしておきましょう。

かつては、急激な腎機能低下を伴う病態を示す用語として、添付文書などでは「急性腎不全」(acute renal failure:ARF)が使用されていましたが、「急性腎不全」の疾患定義はガイドラインなどで明確にされていませんでした。
 2000年代に入って国際腎臓学会などから、不全に陥るよりも早期の段階の腎障害を含めた「急性腎障害」(acute kidney injury:AKI)という新たな疾患概念が提唱されました。「急性腎障害」は、「急性腎不全」を含みかつ明確に定義できる疾患概念であり、国内外の各種ガイドラインでも「急性腎不全」に代わって「急性腎障害」が使用されるようになったため、厚生労働省は2017年3月に、添付文書内の「急性腎不全」の用語を「急性腎障害」へ変更する、としました。

「急性腎障害」は、「急性腎不全」を含みかつ明確に定義できる疾患概念であり、国内外でのガイドラインにおいて、「急性腎不全」という用語に代わり、「急性腎障害」という用語が使用されている状況に鑑み、添付文書内の「急性腎不全」の用語を「急性腎障害」へ変更することとします。

「医薬品・医療機器等安全性情報 No.341」より

この決定に伴って自社製品の添付文書改訂を経験したMRも多いでしょう。

薬剤性腎障害の基本的な知識

ここから、講義の本編をはじめます。
 まずは、薬剤性腎障害の基本的な知識を確認していきましょう。


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