臨床開発職の視点からみるGPSP省令解説

この教材を担当したのは?

文責:半田千尋

金融会社営業職を経て特許事務所へ転職。医療機器関連の特許を多数担当する。医療専門出版社SCICUSを経由し、2018年よりメディカル業界唯一のMR研修専門情報誌『Medical Education for MR』編集長を務める。

編集協力:A・T

編集協力:A・T

現役の某外資系製薬メーカーの研究職でアメリカに籍を置く。日本法人では臨床開発部でオンコロジーを担当。某内資系製薬メーカーでMR職を15年経験。全国の大学病院と国公立病院で人脈を作り、転職先の外資系製薬メーカでは営業統括職となる。その後、研究部署へ異動。現在は主にオンコロジーのゲノム研究に携わっている。

私はMR出身の臨床開発職ですが、大学病院と国公立の病院、さらに診療所も担当していました。今から30年前なのでまだプロモーションが厳しい時代ではありませんでした。しかし大学病院の教授や大病院の部長クラスの先生と頻繁に面談するMRは少なかったです。これは現在でも変わりません。私は医師のポジションに関係なく、医師としての考え方、何が研究したいのか、趣味は何か、家族構成など、すべてコミュニケーションをとって教えてもらいました。さらに先生の専門分野の専門知識をご教授いただいたりもしました。そこから別の先生を紹介していただくこともありました。

この経験が臨床開発職に異動した今も、宝となっています。MR時代にお世話になった先生方がいま、開発にあたっている新薬の領域で地域のオピニオンリーダーである先生を紹介してくださり、直接お話させていただけるからです。MR時代に人間関係を築けた先生方には、直接電話をすることもできるし、面談もできます(現在は新型コロナの影響でリアルでの対面は控えていますが)。

もし今、部長クラスの先生と面談したいのに勇気が湧かないMRは、思い切ってドアをノックしましょう。叱られることは無料です。私もこれまで何度も、叱られてきました。しかし、そこからはじまるご縁もあります。熱意と誠意をもって仕事をするMRを応援してくれる先生は必ずいます。

この講義で伝えたいこと

医療の世界は日進月歩。創薬の技術も日々、進歩しています。しかし、創薬技術がいかに優れたものであったとしても、生まれた医薬品がすでに完璧な状態であるということはありません。

臨床の現場に送り出された医薬品はまだ製造販売承認を取得するための治験データを蓄積し終えただけで、言うなれば「仮免許」の状態です。医薬品の効果の反面である副作用など、未知の可能性を含んだまま、患者さんの体に入っていくのです。販売後に新たな用法や別の疾患への有効性が発見されることもあります。医薬品がより適正に、より効果的に使われるよう、しっかりと育てていかなければいけません。

製薬企業の努力だけでは医薬品を育てることはできません。患者さんの声、そして医療者からの情報収集が必要不可欠です。そこで重要になってくるのが、製造販売後調査です。製造販売後調査に関わるGPSP省令を理解し、MRとして自社医薬品の有効性と安全性の確保のために情報提供・収集・伝達活動ができているか、この機会に見つめ直してみましょう。

本編の前に

本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、基本的な用語の確認をしておきます。

一般の方へのアンケート

医薬品の製造販売に関連する仕事に従事している者であれば、市場に出た医薬品(新医薬品)が再度、その有効性と安全性について審査を受ける制度があることを当然知っているでしょう。ではこの制度についての一般の方の認知度はどれぐらいだと思いますか?

医療従事者と医薬品の製造販売に関する仕事に従事する人を除く20歳以上の男女を対象に年代・性別の偏りなくアンケート調査を行ったところ、その制度を「知らない」と回答した人の割合は59%にのぼりました(n=892)。「わからない」と回答した人も合わせると、70%を超えます。

医薬品は、承認を受けて販売されてから一定期間の後に、
その有効性と安全性を再確認するために、再度、審査を受けていることを知っていますか?

医薬品は、承認を受けて販売されてから一定期間の後に、その有効性と安全性を再確認するために、再度、審査を受けていることを知っていますか?

編集部作成

この結果から、一般の方には医薬品が厳重な安全対策を施されて患者さんのもとに届けられていることがほとんど浸透していない、と言えます。

「GPSP省令」とは

突然ですが、ここでクイズです。
 MRの業務に欠かせない「GPSP省令」とは、何についての省令か、正しく答えられますか?

正解は、「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」です。

GLP、GCP、GMP、GQP、GVP…。
 GPSP省令のほか、医薬品の製造販売に関係する規制は似たような名称でいくつもあり、MR認定試験の際に必死で詰め込んだけれど、今となってはどれが何の基準であるか、あやふやになっている方も多いように思います。

単なる暗記ではすぐに忘れてしまいます。忘れないコツは、きちんと理解することです。「GPSP」とはどんな英語の略称であるかを理解することで、忘れなくなります。

「GPSP」は「Good Post-Marketing Study Practice」の略です。これを単語に分解して意味を考えてみましょう。

Goodはもちろん「良い」ということですが、日本語での「確実な」や「適した」といった意味にもなります。Post-Marketingは市場後、Studyは調査・試験、Practiceは実践、です。続けると、確実な(適した)市場後の調査・試験の実践。つまり、「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準」ということになります。

「GPSP省令」とは、何についての省令か?

「GPSP省令」とは

編集部作成

ちなみに省令とは、各省庁の大臣が定める命令です。法律や政令で規定していない細かなことを定めており、法律を補足するものと理解するとよいでしょう。
 GPSP省令は厚生労働省令であり、薬事関連法規の根幹をなす法律である「医薬品医療機器等法」(※)を補足するものです。

※医薬品医療機器等法:正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。薬機法とも呼ばれる。

日本の法体系

日本の法体系

医薬品食品衛生研究所資料より改変作成

GPSP基本的知識のおさらい

では、ここから、講義の本編をはじます。
 まずは、GPSPの基本的な知識をおさらいしておきましょう。

GPSPは医薬品の再審査と再評価に関わる

第一条 この省令は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第十四条の四第五項及び第十四条の六第四項の厚生労働省令で定める基準のうち製造販売後の調査及び試験に係るもの及び医薬品の製造販売業者又は外国製造医薬品等特例承認取得者が医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第十四条第一項に規定する医療用医薬品について行う製造販売後の調査及び試験の業務に関して遵守すべき事項を定めるものとする。

「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」より

GPSP省令の第一条にはこの省令の趣旨が書かれています。要約すると、「この省令は、医薬品医療機器等法の14条の4第5項、14条の6第4項の、製造販売後の調査と試験の業務に関して遵守すべき事項を定めるものである」となります。
 医薬品医療機器等法の14条の4は新医薬品等の再審査について、14条の6は医薬品の再評価について規定するものです。つまりGPSP省令は、医薬品の再審査と再評価のための製造販売後調査・試験の基準を定めたものということです。

ある医薬品が製造販売承認を受けた時点での有効性・安全性の評価は、患者数や患者背景(併用薬、年齢など)が限定された状況下での、限られた情報によるものです。市販後は使用患者数が急増し患者背景が多様化するため、承認時に判明しなかった副作用が顕在化することがあります。そのため、市販後の安全対策(PMS:Post-Marketing Surveillance)が非常に重要になります。
 PMSには、3つの柱と呼ばれる副作用報告・再審査・再評価という制度があります。その再審査と再評価に関わってくる製造販売後の調査は適正に実施されなければならず、信頼性が確保されたものでなければなりません。有効性・安全性の調査項目や調査方法が、実施する企業ごとにバラバラであっては客観的な評価ができなくなります。そのため、企業が実施する製造販売後調査は一定の信頼性基準を満たさなければならず、その基準を定めるのがGPSP省令です。

医薬品の製造販売後の安全対策

医薬品の製造販売後の安全対策

厚生労働省資料より改変作成

PMSの3つの柱と呼ばれる副作用報告制度・再審査制度・再評価制度についても、簡単におさらいしておきます。

PMSの3つの基本的な柱

PMSの3つの基本的な柱

厚生労働省資料より改変作成

副作用報告制度は、すべての医薬品について、常に収集し随時評価するものです。再審査制度は、新医薬品について、市販後、一定期間後に有効性と安全性を改めて審査するものです。再評価制度は、使用経験の長い医薬品について、必要に応じて有効性と安全性を見直すものです。

【参考】これらとは別に、品質再評価という制度もある。これは後発医薬品の品質を確認するためのもので、1995年3月までに承認申請された医療用医薬品の内用固形製剤について溶出試験を行う。品質が確認されたものはその後『医療用医薬品品質情報集(日本版オレンジブック)』に掲載されることになる。

製造販売後調査の整理

製造販売後調査に話を戻します。
 製造販売後調査には、「使用成績調査」、使用成績調査の一類型として「特定使用成績調査」、「製造販売後臨床試験」が規定されていましたが、2017年10月に改正GPSP省令が公布され(2018年4月1日施行)、これまでの「使用成績調査」、「製造販売後臨床試験」に、新たに「製造販売後データベース調査」を加えた計3種類の調査・試験が規定されました。
 そして、「使用成績調査」の分類の整理が行われました。これまで狭義の意味で使われてきた、患者の条件を定めず実施する使用成績調査が「一般使用成績調査」と名称づけられ、特定の医薬品を使用する者の情報と使用しない者の情報との比較評価が新たに「使用成績比較調査」と規定されました。
 「特定使用成績調査」はこれまでと同様、使用成績調査のひとつに位置づけられています。

製造販売後調査の体系

自宅で家族を看取ったこと

厚生労働省資料より作成

表は、それぞれの調査・試験の定義を詳しく示したものです。

各調査・試験の定義

区分細分類定義
使用成績調査医療機関から収集した情報を用いて、診療において、医薬品の副作用による疾病などの種類別の発現状況並びに品質、有効性および安全性に関する情報の検出または確認のために行う調査であって、以下細分類に掲げるもの
一般使用成績調査医薬品を使用する者の条件を定めることなく行う調査(使用成績比較調査を除く)
特定使用成績調査小児、高齢者、妊産婦、腎機能障害または肝機能障害を有する者、医薬品を長期に使用する者その他医薬品を使用する者の条件を定めて行う調査(使用成績比較調査を除く)
使用成績比較調査特定の医薬品を使用する者の情報と当該医薬品を使用しない者の情報とを比較することによって行う調査
製造販売後
データベース調査
医療情報データベースを用い、医薬品の副作用による疾病などの種類別の発現状況並びに品質、有効性および安全性に関する情報の検出または確認のために行う調査
製造販売後臨床試験治験、使用成績調査、製造販売後データベース調査の成績に関する検討を行った結果得られた推定などを検証し、または診療においては得られない品質、有効性、安全性に関する情報を収集するため、承認された用法、用量、効能・効果に従い行う試験

「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」より編集部作成

MRの皆さんには、長らく「使用成績調査」と呼んできた「一般使用成績調査」と、小児や高齢者、妊産婦、腎機能障害または肝機能障害を有する患者、医薬品を長期に使用する患者など、使用条件が定められた患者について行う「特定使用成績調査」は馴染み深いものでしょう。
 「使用成績比較調査」は、これまでも使用成績調査のひとつとして実施されてきたものですが、特定の医薬品を使用する患者の情報だけでなく、その医薬品を使用していない患者の情報についても医療機関から収集して比較を行うという調査が可能であることを明確にするため、省令改正により新たに規定されました。
 「一般使用成績調査」は、特定使用成績調査と使用成績比較調査以外の使用成績調査が該当し、これら使用成績調査は、医療機関から直接収集する情報を用いる調査です。
 対して、新たに規定された「製造販売後データベース調査」は、


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