Withコロナ時代の薬剤耐性(AMR)対策

この教材を担当したのは?

文責:半田千尋

金融会社営業職を経て特許事務所へ転職。医療機器関連の特許を多数担当する。医療専門出版社SCICUSを経由し、2018年よりメディカル業界唯一のMR研修専門情報誌『Medical Education for MR』編集長を務める。

この講義で伝えたいこと

新型コロナウイルス感染症の大流行で一般の報道でもよく耳にするようになった「院内感染」。医療の安全を脅かす問題として、新型コロナウイルス感染症流行以前から、臨床の現場では院内感染対策は重視されてきました。
 治療薬がない感染症との闘いは非常に厳しいものになります。その意味で最も脅威であると言えるのが、薬剤耐性菌です。MRの皆さんのなかには、2017年から2018年にかけて鹿児島県の病院で、翌2019年には大阪府の病院で、薬剤耐性アシネトバクターの院内感染で死亡者が出てしまったことを記憶している方も多いでしょう。
 MRとして薬剤耐性の問題に対してグローバルな視点を持ち、薬剤耐性対策を意識した情報提供ができているか考えてみましょう。

本編の前に

本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、用語の確認をしておきます。

「薬剤耐性菌」の認知度アンケート調査

MRの皆さんは職業柄、「薬剤耐性菌」を認知していることでしょう。では、一般の認知度はどの程度でしょうか。
 医療従事者と医薬品製造販売に関する仕事に従事している人を除く20歳以上の人に、「薬剤耐性菌」という言葉を聞いたことがあるかアンケート調査を行ったところ、聞いたことがないと回答した人が半数を超えていました。

「薬剤耐性菌」という言葉を聞いたことがありますか。

「ある」と回答した方の割合は35.9%、「ない」と回答した方の割合は54.6%

編集部調べ

「薬剤耐性」とは

「薬剤耐性」とは、微生物に対し、抗微生物薬が効かなくなる、または効果が弱くなることをいいます。英語でAntimicrobial Resistanceといい、「AMR」と表記されます。薬剤耐性を示す細菌を特に「薬剤耐性菌」といいます。

薬剤耐性: Antimicrobial Resistance (AMR)

微生物(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫)による感染症に対し、抗微生物剤が無効になる、又は、製剤による効果が減弱する事象を指す。

「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」より(赤字:編集部)

「抗微生物薬」とは

抗微生物薬についても整理しておきましょう。
 抗微生物薬とは、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬を含み、抗微生物活性を持ち、感染症の治療や予防に使用される薬剤の総称です。たとえば抗菌薬は、抗微生物薬のなかで、細菌に対して作用する薬剤を指します。抗生物質は微生物が産出する化学物質、抗生剤は抗生物質の抗菌作用を利用した薬剤を指します。

抗微生物薬等の定義

用語 定義
抗微生物薬 微生物(一般に細菌、真菌、ウイルス、寄生虫に大別される)に対する抗微生物活性を持ち、感染症の治療、予防に使用されている薬剤の総称。ヒトで用いられる抗微生物薬は抗菌薬(細菌に対する抗微生物活性を持つもの)、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬を含む。
抗菌薬 抗微生物薬の中で細菌に対して作用する薬剤の総称として用いられる。
抗生物質 微生物、その他の生活細胞の機能阻止または抑制する作用(抗菌作用と言われる)を持つ物質であり、厳密には微生物が産出する化学物質を指す。
抗生剤 抗生物質の抗菌作用を利用した薬剤を指す通称。

「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」より編集部作成

抗生物質や抗生剤は、抗菌薬と学問的には意味が異なりますが、一般的には多くの場面で同じ意味で使われています。上の表に示したようにそれぞれ詳細な定義はありますが、臨床の場では、「抗菌薬」、「抗生物質」、「抗生剤」は、細菌に対して作用する薬剤を指すことばとして、互換性をもって使用されています。

薬剤耐性菌の院内感染防止のための取り組み

ここから、講義の本編をはじめます。
 1928年の抗生物質ペニシリンの発見以来、新たな抗菌薬が次々と登場し、感染症の治療は飛躍的に進歩しました。一方で、治療薬に対し耐性を示す細菌が出現し、国内では、1980年代後半にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの薬剤耐性菌による院内感染が問題となりました。
 この章では、薬剤耐性菌の院内感染防止のために医療機関ではどのような体制がとられているかみていきます。

院内感染とは

院内感染とは、医療機関において患者さんが原疾患とは別に新たに罹患した感染症、または医療従事者等が医療機関内で感染した感染症をいい、「病院感染」や「医療関連感染」と表現されることもあります。

院内感染とは、①医療機関において患者が原疾患とは別に新たにり患した感染症、②医療従事者等が医療機関内において感染した感染症のこと

医政地発1219第1号(別記)「医療機関における院内感染対策に関する留意事項」 より

院内感染を注意すべき感染症はさまざまありますが、薬剤耐性菌による感染症は、治療薬が限られていたり、治療薬の効果が低かったり、最悪の場合は治療手段がないという可能性もあり、感受性菌による感染症と比較して死亡率が高くなってしまうため、特に警戒しなければなりません。

院内感染は、人から人へ直接、または医療従事者の手や医療機器、環境などを介して拡大します。特に、免疫力の低下した患者、低出生体重児、高齢者などの易感染患者は、通常の病原微生物だけでなく、感染力の弱い微生物によっても院内感染を起こす可能性があります。
 また、治療のために多くの抗菌薬が使用される医療機関では、耐性菌が出現しやすい環境になっており、院内感染が起こる要因のひとつとなっています。

院内感染が起こる要因

  1. 入院患者は免疫機能が低下していることが多く、感染を受けやすく、また発病しやすい状態である
  2. 医療従事者の手や医療器具を介して感染を広げる可能性がある
  3. 風呂や空調など院内の環境が感染を広げる可能性がある
  4. 抗菌薬の使用により耐性菌が出現しやすい環境である

公益社団法人 全日本病院協会ウェブサイト「みんなの医療ガイド 医療安全推進」ページより編集部作成

医療機関での院内感染対策のための体制

医療法の規定に基づき、医療機関は安全管理の体制を確保しなければなりません。そして、安全管理の体制の確保にあたって講じなければならない措置のひとつに、院内感染対策のための体制確保があります。
 具体的には、①院内感染対策のための指針の策定、②院内感染対策のための委員会の開催、③従業者に対する院内感染対策のための研修の実施、④感染症の発生状況の報告その他の院内感染対策の推進を目的とした改善のための方策の実施、です。このため、すべての医療機関で、院内感染対策のための指針を策定していることになります。

医療法施行規則に規定される院内感染対策のための体制の確保に係る措置

  • 院内感染対策のための指針の策定
  • 院内感染対策のための委員会の開催
  • 従業者に対する院内感染対策のための研修の実施
  • 当該病院等における感染症の発生状況の報告その他の院内感染対策の推進を目的とした改善のための方策の実施

医療法施行規則 より編集部作成

院内感染対策は、個々の医療従事者ごとの判断に委ねるのではなく、医療機関全体で取り組むことが必要です。そのため厚生労働省は、院内感染対策の体制のひとつとして、病床規模の大きい病院(目安として病床が300床以上)には感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)を設置し、定期的な病棟ラウンドや院内の抗菌薬使用状況の把握などを行うよう求めています。

感染制御チーム Infection Control Team (ICT)

  1. 病床規模の大きい医療機関(目安として病床が300床以上)においては、医師、看護師薬剤師及び検査技師からなる感染制御チームを設置し、定期的に病棟ラウンド(感染制御チームによって医療機関内全体をくまなく、又は必要な部署を巡回し、必要に応じてそれぞれの部署に対して指導・介入等を行うことをいう。)を行うこと。(略)
  2. 感染制御チームは、医療機関内の抗菌薬の使用状況を把握し、必要に応じて指導・介入を行うこと。
医政地発1219第1号(別記)「医療機関における院内感染対策に関する留意事項」より(赤字:編集部)

院内感染対策の体制を確保していることは診療報酬で評価されます。
 入院基本料に加算できる点数として、「感染防止対策加算」があります。この加算を算定するには、感染防止対策の部門の設置と、感染制御チームの設置が必要であり、下記の業務、たとえば院内感染事例の把握などを行っている必要があります。

「感染防止対策加算」算定要件として感染制御チームに求められる業務

  • 1週間に1回程度の病棟ラウンド
  • 院内感染事例の把握、院内感染防止対策の実施状況の把握・指導
  • 院内感染事例、院内感染の発生率に関するサーベイランス等の情報分析、評価
  • 病棟ラウンド、院内感染に関する情報の記録
  • 抗菌薬の適正使用推進
  • 抗MRSA薬及び広域抗菌薬等の使用に際して届出制又は許可制をとり、投与量、投与期間の把握、投与方法の適正化
  • 院内感染対策を目的とした職員研修
  • 院内感染に関するマニュアル作成、職員の遵守確認

保医発0305第1号別添1「医科診療報酬点数表に関する事項」 より編集部作成

さらに、抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)を設置し、院内で使用可能な抗菌薬の見直しなど規定の業務を行っている場合は、「抗菌薬適正使用支援加算」も算定することができます。
 下の図は、感染制御チームと抗菌薬適正使用支援チームの構成メンバーを示したものです。構成メンバーは両チームを兼任できますが、感染制御チームの医師または看護師のうち1名は専従であること、抗菌薬適正使用支援チームのいずれか1名は専従であること、専従者は両チームで異なることが望ましいとされています。

ICTとASTの構成メンバー

2019年度プレアボイド報告の分類内訳

厚生労働省中央社会保険医療協議会総会資料 より改変作成

院内感染対策サーベイランス(JANIS)

院内感染の早期探知と適切な対応推進を目的に、2000年から「院内感染対策サーベイランス(JANIS)事業」が開始されました。
 本サーベイランスは、検査部門、全入院患者部門、手術部位感染(SSI)部門、集中治療室(ICU)部門、新生児集中治療室(NICU)部門から構成されており、医療機関はそれぞれの目的に応じて参加部門を選択します。たとえば、全入院患者部門は、全入院患者を対象とし、主要な薬剤耐性菌による感染症の発生状況を明らかにするものです。対象とする薬剤耐性菌はこちらです。

JANIS全入院患者部門での調査対象薬剤耐性菌

  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
  • バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
  • 多剤耐性緑膿菌(MDRP)
  • ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)
  • バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)
  • 多剤耐性アシネトバクター属(MDRA)
  • カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)

「院内感染対策サーベイランス実施マニュアルVer.8.0」 より作成

【参考】参加医療機関数:2021年1月時点において、全国参加医療機関数は2,418施設。

2020年報告によると、集計対象医療機関923施設において、対象とする薬剤耐性菌による新規感染症発症患者数の合計は16,600人でしたが、そのほとんどがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症でした。

院内感染対策サーベイランス全入院患者部門 新規感染症患者数(2020年)

2019年度プレアボイド報告の分類内訳

「院内感染対策サーベイランス 全入院患者部門 2020年 病床数別(全体・200床以上・200床未満)」 より編集部作成

このように、参加する医療機関での院内感染の発生状況や薬剤耐性菌の分離状況、薬剤耐性菌による感染症の発生状況を調査することで、国内の院内感染の状況を把握し、院内感染対策に有用な情報を医療現場へ還元することが、院内感染対策サーベイランスの目的です。

薬剤耐性率と抗菌薬使用の現状

ここからは、日本のヒト・医療分野での薬剤耐性の現状と、抗菌薬使用の現状についてみていきます。

薬剤耐性菌の脅威

有名な「オニールレポート」では、2013年時点で全世界の薬剤耐性菌に起因する死亡者数は年間70万人にのぼり、このまま何も対策しなければ2050年には1,000万人を超えると報告されました。
 日本でも、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)の菌血症(※)による死亡者数が年間約8,000人にのぼると報告されるなど、薬剤耐性菌は世界中で大きな被害をうんでいます。

※菌血症:血液中に細菌が入り込んだ状態のこと。菌血症をきたすとより重症となり死亡率が高くなる。

MRSAおよびFQRECによる菌血症死亡数(推定)の推移

薬局機能情報提供制度の概要

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター Press Release より作成

ヒトの体内での薬剤耐性菌の増殖には、抗菌薬投与が大きく関わってきます。そのしくみを示したのが下の図です。

抗菌薬によりヒトの体内で薬剤耐性菌が増えるしくみ

プレアボイド事例に関する把握・収集の状況

AMR臨床リファレンスセンター「薬剤耐性」リーフレット より改変作成

自然耐性といって、ある一定程度の割合で薬剤耐性遺伝子を持つ菌がいます。仮にこの耐性菌がヒトの体内にいた場合、抗菌薬が投与されると耐性菌以外の細菌が減少し、生き残った耐性菌が増殖しやすい環境となります。増殖した耐性菌はヒトからヒトへ、またヒトから環境へと広がっていきます。抗菌薬を使用すると必ず薬剤耐性菌に置き換わるわけではありませんが、抗菌薬を使用するほどその機会が増えることになります。

ワンヘルス・アプローチとアクションプラン

薬剤耐性菌はヒトに限った問題ではありません。治療目的や飼料中の栄養成分の有効利用を目的に、動物に対しても抗菌性物質が使用されています。動物の体内で薬剤耐性菌が増殖すると、ペットや畜産物を介してヒトに伝播します。また、薬剤耐性菌が環境に広がることで、世界的な拡大や、新たな薬剤耐性菌の出現も懸念されます。
 そのため、WHOは薬剤耐性に対し、ワンヘルス・アプローチ(※)に基づく世界的な取り組みを推進する必要性を国際社会に訴えました。

※ワンヘルス・アプローチ(One Health Approach):ヒト、動物、環境等の複雑な相互作用によって生じる感染症の対策に、公衆衛生部門、動物衛生部門、環境衛生(保全)部門等の関係者が連携し、一体となって対応しようとする概念を指す。(「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」より引用)

ワンヘルス・アプローチの概念

病院薬剤師と薬局薬剤師のシームレスな連携のイメージ

「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」 より作成

こうした動きをうけて、日本は2016年に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を策定しました。そこで掲げられたヒトに関する2020年の成果目標がこちらです。

アクションプランにおけるヒトに関する2020年の成果目標

  1. 肺炎球菌のペニシリン耐性率15%以下に低下させる。
  2. 黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率20%以下に低下させる。
  3. 大腸菌のフルオロキノロン耐性率25%以下に低下させる。
  4. 緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率10%以下に低下させる。
  5. 大腸菌及び肺炎桿菌のカルバペネム耐性率0.2%以下を維持する。
  6. 人口千人あたりの一日抗菌薬使用量を2013年の水準の3分の2に減少させる。
  7. 経口セファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬の人口千人あたりの一日使用量を2013年の水準から50%削減する。
  8. 人口千人あたりの一日静注抗菌薬使用量を2013年の水準から20%削減する。

「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」 より作成

日本では、肺炎球菌のペニシリン耐性率、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率、大腸菌のフルオロキノロン耐性率が諸外国と比較して高い水準にあるため、これらの耐性率を低下させる目標が立てられています。一方で、近年、世界各国で問題となっている大腸菌と肺炎桿菌のカルバペネム耐性率は諸外国と比較して極めて低い水準にあるため、これを維持する目標となっています。
 日本の抗菌薬使用量は諸外国と比較して多くはありません。しかし、経口のセファロスポリン系薬やフルオロキノロン系薬など、薬剤耐性が問題となっている広域抗菌薬の使用量が多いことが指摘されており、これらの使用量を2013年の水準から50%削減し、加えて静注抗菌薬の使用量を20%削減することで、全抗菌薬の使用量を3分の2に減少させることを目標としています。

「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」をみる

では、アクションプランの成果目標に対する進捗状況をみてみましょう。まずは目標1~5の耐性率について、下の表をみてください。

ヒトに関するアクションプランの成果指標と
特定の耐性菌の分離率(%)の推移

ヒトに関するアクションプランの成果指標と特定の耐性菌の分離率(%)の推移

「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」 より作成

最新の調査報告(「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」)によると、大腸菌のフルオロキノロン耐性率は目標値に近づくどころか、年々増加しています。黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率は2013年より低下しているものの、いまだ高い水準にあります。

次に、目標6~8の抗菌薬使用量について、下の表をみてください。

ヒトに関するアクションプランの成果指標:抗菌薬使用 (DID)
(販売量による検討)

ヒトに関するアクションプランの成果指標:抗菌薬使用 (DID) (販売量による検討)

「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」 より作成

抗菌薬使用量は、2013年と比較して2019年は10.9%減少していました。しかし、目標の33%減(3分の2に減少)には届いていません。経口のセファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬の使用量もそれぞれ22.7%、18.1%、20.6%減少していますが、目標の50%減にはまだまだ及びません。静注抗菌薬の使用量は、20%減目標のところ、逆に12.7%増加しています。静注抗菌薬は、高齢者の増加により使用機会が増加していると考えられます。

2019年の抗菌薬使用量のうち、経口薬の占める割合は90%を超えています。
 下の図は、経口抗菌薬の使用量を薬剤別に示したものです。アクションプランで50%削減目標となっているセファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬を合わせると、経口抗菌薬全体の75.3%を占める使用量です。

日本における販売量に基づいた経口抗菌薬使用量

日本における販売量に基づいた経口抗菌薬使用量

「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」 より編集部作成

日本の抗菌薬使用の現状を踏まえた今後の課題

セファロスポリン、キノロン、マクロライドは、近年新規に開発された、広域な細菌に有効な経口抗菌薬です。そのため、不適切な使用により耐性菌をうみやすいという側面があります。事実、フルオロキノロンの使用とフルオロキノロン耐性大腸菌の頻度は相関しているという報告や、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌と第3世代セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドの使用が関連するという報告があります。そのため、これらの不必要な使用を削減していく必要があると、中医協(※)でも報告されています。

※中医協:中央社会保険医療協議会。厚生労働大臣の諮問機関であり、厚生労働省下に設置される審議会のうちのひとつ。医療保険制度について審議する場であり、診療報酬についてもここで審議される。

抗菌薬適正使用の具体的なターゲット

  • 黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率
    目標達成には、セファロスポリン(第3世代セファロスポリン)、キノロン(フルオロキノロン)、マクロライドの使用量を減らす必要がある。
  • 大腸菌のフルオロキノロン耐性率
    目標達成には、キノロン(フルオロキノロン)の使用量を減らす必要がある。急性上気道感染症や急性膀胱炎での使用が特に多い。
  • 肺炎球菌のペニシリン非感受性率
    今後、耐性菌を増加させないためには、セファロスポリン(第3世代セファロスポリン)の適正使用が必要。

厚生労働省中央社会保険医療協議会総会資料 より作成

外来での抗菌薬適正使用

ここからは、外来での抗菌薬適正使用に向けた取り組みについてみていきます。

外来での抗菌薬適正使用に向けた取り組み

日本で使用される抗菌薬のうち約90%が経口抗菌薬であり、それは外来診療で処方されるものです。そのため厚生労働省はこれまで、外来での抗菌薬適正使用に向けたさまざまな取り組みを行ってきました。下の表はその一部です。
 これらの取り組みのうち、「抗微生物薬適正使用の手引き」に注目します。この手引きは、外来診療で各医療従事者が抗微生物薬の必要な状況と必要でない状況を判別できるよう支援することを念頭に作成されており、特に不必要に抗菌薬が処方されていることが多いとされる急性気道感染症と急性下痢症での現状を是正することを狙いとしています。

近年の取り組みの具体例

時期 取り組み内容
2017年6月 「抗微生物薬適正使用の手引き」を策定
2018年4月 診療報酬改定で小児の外来における抗菌薬の適正使用の取り組みに係る新たな評価(「小児抗菌薬適正使用支援加算」)を創設
かかりつけ医機能を評価した管理料等の要件として、「抗微生物薬適正使用の手引き」を用いて抗菌薬の適正使用の普及・啓発を行っていることを追加
2019年12月 「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」を策定。対象年齢や対象疾患を拡充、急性気道感染症や急性下痢症等に対する抗菌薬の適正使用を示す
2020年4月 診療報酬改定で「抗菌薬適正使用支援加算」の施設基準として、モニタリングを行う広域抗菌薬の種類の拡充、病院の外来において急性気道感染症・急性下痢症に対する経口抗菌薬の使用状況について把握するなど、抗菌薬適正使用支援チームの役割を拡充

厚生労働省中央社会保険医療協議会総会資料 より編集部作成

「抗微生物薬適正使用の手引き」による抗菌薬適正使用の推進

抗微生物薬使用の適応となる病態は、原則として抗微生物薬の投与が標準治療として確立している感染症と診断されている、または強く疑われる病態です。その適応以外での抗微生物薬使用は最小限に止めるべきという方針のもと、手引きは作成されています。
 たとえば下の図のように、急性気道感染症(※)のうち抗菌薬が必要な症例と不必要な症例を見極めるために有用な病型分類を示し、「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。」と明記しています。

※急性気道感染症:急性上気道感染症(急性上気道炎)および急性下気道感染症(急性気管支炎)を含む概念であり、一般的には「風邪」、「風邪症候群」、「感冒」などの言葉が用いられている。

急性気道感染症の病型分類(成人・学童期以降の小児)

急性気道感染症の病型分類

「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」 より作成

さらに、診断と治療の手順をフローチャートで示しています。これをみると、急性気道感染症において抗菌薬の使用を考慮する場面はかなり限定されたシーンであることがわかります。

急性気道感染症の診断および治療の手順(成人・学童期以降の小児)

急性気道感染症の診断および治療の手順

「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版 ダイジェスト版」 より改変作成

※Red Flag:危険症候ともいう。診療を進めるうえで見過ごしてはならない症候のこと。

国民への普及啓発がまだまだ必要

抗菌薬の適正使用には、国民ひとりひとりの意識改革も重要となってきます。
 過去に実施した医師への調査では、かぜ症候群に対して抗菌薬を処方する理由として、「患者の希望」と回答した医師が一定数存在しました。国民への意識調査の結果からは、国民の抗菌薬(抗生物質)に対する正しい知識・理解が深まっていないことがみてとれます。

国民への意識調査「次の内容についてあなたはどう思いますか?」

国民への意識調査「次の内容についてあなたはどう思いますか?」

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター運営ウェブサイト「One Health」 より作成

MRの皆さんへ

抗菌薬を適正に使用しなければ、将来的に感染症を治療する際に有効な抗菌薬が存在しないという事態になるおそれがあります。限りある資源である抗菌薬を適正に使用してこの事態を回避することが重要であり、薬剤耐性対策として、抗菌薬の適正使用が必要不可欠です。
 「適正使用」とは、「使用しない」ことではありません。抗微生物薬が投与されるべき病態で、選択する抗微生物薬、使用量、使用期間が適正であることを意味します。MRは正しく、「適正使用」につながる情報提供を行わなければなりません。慢性疾患の治療中の患者さんが急性感染症にかかり抗菌薬の併用が必要になるシーンは往々にしてあります。自社製品に抗菌薬を持たないMRも、そうした想定のもと、自身が担当する製品との併用禁忌や相互作用をしっかりと把握しておく必要があります。
 また、身近な人に抗菌薬についての正しい知識を伝え、適正使用の一助となることも、医療の世界に関わる者として担うべき役割と言えるでしょう。

MRの皆さんへ

  • MRは、抗微生物薬が投与されるべき病態で、選択する抗微生物薬、使用量、使用期間が適正である「適正使用」につながる情報提供を行わなければならない。
  • 自社製品に抗菌薬を持たないMRも、自身が担当する製品と抗菌薬との併用禁忌や相互作用をしっかりと把握しておく必要がある。
  • 身近な人に抗菌薬についての正しい知識を伝え、適正使用の一助となることも、医療の世界に関わる者として担うべき役割である。

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