この講義で伝えたいこと
MRのみなさんは、薬剤師へ、プレアボイドを意識した情報提供ができていますか?そもそも「プレアボイド」という言葉を聞いたことがない、という方もいるかもしれません。
プレアボイドは、医薬品による有害事象を防止・回避する観点から薬剤師が取り組む活動、端的に言えば医薬品の適正使用を目的とする活動です。そしてMRは、医薬品の適正な使用のために存在する職種です。つまり、薬剤師によるプレアボイド活動と、MRによる医薬品情報提供活動は、医薬品の適正使用という共通の目的をもつ活動であるということです。
この講義を通して、薬剤師が取り組むプレアボイドを知り、プレアボイドを意識した情報提供について考えてみましょう。
本編の前に
本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、用語の確認をしておきます。
「プレアボイド」についてのアンケート調査
MRの皆さんは、プレアボイドについて、どの程度知っているでしょうか?
20歳以上の医療業に従事する人へアンケート調査を行ったところ、「知っている」(「知っている(内容をよく理解している)」・「知っている(ある程度理解している)」・「知っている(内容を見たことがある/聞いたことがある)」の合計)と回答した人の割合は15.6%、「知らない(聞いたことがない)」と回答した人の割合は65.5%でした。
「プレアボイド」をどの程度知っていますか。
編集部調べ
「プレアボイド」は、日本病院薬剤師会(以下、日病薬)が提唱したものであるため、医療業のなかでも薬剤師を中心に使われる言葉です。
「プレアボイド」とは
「プレアボイド」は、薬による有害事象を防止・回避する、という意味の言葉を基にした造語です。
プレアボイドとは、Prevent and avoid the adverse drug reaction(薬による有害事象を防止・回避する)という言葉を基にした造語である。
厚生労働省資料 より(赤字:編集部)
これは、ファーマシューティカルケア(※)の推進から生まれた言葉です。服薬指導や薬歴管理、薬物治療モニタリング、副作用モニタリング、薬物血中濃度管理などの薬学的ケアによって、副作用や相互作用、また治療効果不十分といった患者さんの不利益を回避することです。
※ファーマシューティカルケア:患者のQOLを改善する、明確な結果をもたらすために採られる薬物治療を、責任をもって遂行すること。(日本薬剤師会「薬剤師の将来ビジョン」より引用)
「プレアボイド報告」を読み解く
では、ここから、講義の本編をはじめます。
まずは、日病薬が毎年公開しているプレアボイド報告を詳しくみていきます。
プレアボイド報告の数
日病薬は1999(平成11)年より、患者さんの安全管理に寄与(不利益を回避)した事例を、プレアボイド報告として収集しています。
下の図は、収集開始からこれまでのプレアボイド報告数の推移を示したものです。これまで44万件を超える報告があります。
プレアボイド報告数の年度推移
一般社団法人 日本病院薬剤師会「令和元年度プレアボイド報告の概要」 より作成
下の表は、2019年度の報告数を都道府県別に示したものです。
2019年度都道府県別報告数
一般社団法人 日本病院薬剤師会「令和元年度プレアボイド報告の概要」 より作成
報告数が1,000件を超えているのは、茨城県、埼玉県、神奈川県、東京都、岐阜県、愛知県、兵庫県、大阪府、島根県、岡山県、広島県、福岡県です。報告数は当然、人口規模に影響を受けますが、これらの都府県はプレアボイド報告制度に積極的に取り組んでいると言ってよいでしょう。
プレアボイド報告の分類
先に説明したように、プレアボイドとは、薬によって患者さんが被る不利益の回避を意味するものです。
プレアボイド報告には、「副作用重篤化回避」・「副作用未然回避」・「薬物治療効果の向上」という3つの分類があります。
副作用重篤化回避は、既に発現してしまった副作用を初期の段階で把握し、重篤化することを回避した事例です。副作用未然回避は、副作用の発現を事前に予知し、薬剤師が介入することで副作用を未然に回避した事例です。3つ目の薬物治療効果の向上は、副作用の発現はなく、未然回避もない、しかし、患者さんが本来受けることができる最適な薬物治療の成果を受けられないことを「患者不利益」の一部としてとらえ、それを回避した事例、つまり薬剤師の介入により、治療効果の改善、向上がみられた事例です。
プレアボイド報告の分類
分類 | 報告対象 |
---|---|
副作用重篤化回避 | 発現した副作用、相互作用等を発見し、薬学的ケアにより遷延化、重篤化を防止した事例 |
副作用未然回避 | 副作用、相互作用等を未然に防止した事例 |
薬物治療効果の向上 | 治療効果増大に寄与した処方設計事例 |
編集部作成(参考:日本病院薬剤師会雑誌第52巻5号掲載記事 等)
2019年度のプレアボイド報告の内訳は、副作用重篤化回避が4.9%、副作用未然回避が77.4%、薬物治療効果の向上が17.7%という割合でした。
2019年度プレアボイド報告の分類内訳
一般社団法人 日本病院薬剤師会「令和元年度プレアボイド報告の概要」 より編集部作成
副作用重篤化回避事例については、日病薬のプレアボイド報告評価小委員会において、薬剤師貢献度と副作用との関連性の確度が評価され、両者とも最高評価の事例は「優良事例」とされます。2019年度の副作用重篤化回避事例に占める優良事例の割合は37.1%(782件/2,107件)でした。
下の表は、優良事例での発見の端緒の内訳を示したものです。
優良事例報告発見の端緒(重複データあり)
内容 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
検査値 | 354 | 33.8% |
薬歴 | 194 | 18.5% |
初期症状指導以外の患者の訴え | 188 | 18.0% |
初期症状指導による患者の訴え | 162 | 15.5% |
フィジカルアセスメント | 70 | 6.7% |
その他 | 68 | 6.5% |
TDM | 11 | 1.1% |
合計 | 1,047 | 100.0% |
一般社団法人 日本病院薬剤師会「令和元年度プレアボイド報告の概要」 より作成
副作用の発現を発見した手がかりとなったのは、検査値が33.8%と最も多く、次に患者薬歴の参照が18.5%でした。また、初期症状指導以外と初期症状指導によるものを合わせた患者さんからの訴えは33.5%、フィジカルアセスメントが6.7%でした。この結果からは、副作用重篤化回避のためには、正常値と異常値が明確な検査値といった数値化できる情報だけでなく、患者さんの話から得られる情報や、患者さんの身体の状態をよく観察して得られる情報がいかに重要かを再認識することができます。
下の表は、薬物治療効果の向上報告における薬学的介入の項目と割合を示したものです。
薬物治療効果の向上報告における薬学的介入の項目
薬学的介入の項目 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
疾患の治療 | 3,651 | 47.4% |
感染管理 | 1,154 | 15.0% |
該当しない | 906 | 11.8% |
その他 | 833 | 10.8% |
疼痛管理・治療 | 549 | 7.1% |
周術期管理 | 267 | 3.5% |
栄養管理 | 191 | 2.5% |
不明・記載なし | 157 | 2.0% |
合計 | 7,708 | 100.0% |
一般社団法人 日本病院薬剤師会「令和元年度プレアボイド報告の概要」 より作成
薬物治療効果の向上報告総数(7,708件)のうち、疾患の治療、感染管理、疼痛管理・治療に関する介入が多く報告されています。また、介入の評価として患者さんの状態が改善したという報告が47.3%を占めていました。
ここまでみてきたように、プレアボイド報告からは、薬剤師がどのように職能を発揮し、医薬品適正使用に貢献しているかを読み解くことができます。
プレアボイドと医薬品適正使用
医薬品の適正使用とは、的確な診断に基づき患者さんの状態にかなった最適の薬剤、剤形と適切な用法用量が決定され、正確な使用の後にその効果や副作用が評価され、処方にフィードバックされるという一連のサイクルの実現です。
薬剤師が患者さんの副作用歴、生理機能の低下、医学的処置の影響、薬物血中濃度、薬歴などを考慮して、処方設計支援を行うことで最適な処方となります。そしてこれが副作用の未然回避につながります。薬物治療の効果と副作用は、患者さんからの訴えや臨床症状、検査値などから評価されます。このとき、薬剤師による副作用モニタリングなどで発現した副作用を初期の段階で把握し、薬の中止や変更を行うことで重篤化回避につながります。薬物治療の効果が最大限得られていないと考えられる場合には、その原因を取りのぞいたり処方提案を行うことで治療効果の向上につながります。
このように、プレアボイドは医薬品適正使用のサイクルがきちんと回るために欠かせない活動なのです。
プレアボイドと医薬品適正使用サイクルの関係
厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」構成員提出資料 より改変作成
プレアボイド具体事例
次に、プレアボイド報告から、副作用重篤化回避、副作用未然回避、治療効果の向上それぞれの具体事例をみていきます。
副作用重篤化回避の事例
まずは、副作用重篤化回避の事例です。この事例では、