在宅医療での医薬品プロモーションのための基礎知識

この教材を担当したのは?

文責:半田千尋

金融会社営業職を経て特許事務所へ転職。医療機器関連の特許を多数担当する。医療専門出版社SCICUSを経由し、2018年よりメディカル業界唯一のMR研修専門情報誌『Medical Education for MR』編集長を務める。

この講義で伝えたいこと

皆さんは、「在宅医療」ときくと、どんなイメージを思い浮かべますか?最近でこそ新型コロナウイルス感染症の自宅療養者が取りざたされていますが、いわゆる寝たきりの状態になってしまった高齢者の医療、末期がん患者さんが最期のときを自宅で過ごすための医療、そんなイメージを抱く人も多いかもしれません。つい高齢者や看取りに目が行きがちですが、さまざまな年齢の、さまざまな疾患を抱えた患者さんが、在宅医療を受けながら日々の生活を送っています。
 担当するエリアで在宅医療を行っている医師を知っていますか?訪問看護ステーションの場所を知っていますか?在宅医療に関わりたいと思いながらも、まずはどこに行って誰と話をすればいいのかわからず、ためらっているMRも多いのではと推察します。この講義を通して、どんな患者さんがどこに居て、誰がどのように患者さんをみているのかを知り、在宅医療分野へ踏みだすための手がかりを見つけましょう。
 取り扱う製品に関係なく、患者志向で地域の在宅医療提供体制の充実に協力できるMRを目指してみませんか?

本編の前に

本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、用語の確認をしておきます。

在宅医療を受けた経験についてのアンケート調査

MRの皆さんは、在宅医療を受けた経験がある方はどれぐらいいると思いますか?
 年齢、性別や職業を問わず一般の方へ、「あなたご自身もしくはご家族が、訪問診療または往診を受けたことがありますか?」と質問したところ、「ある」と回答した方の割合は15.5%でした。

あなたご自身もしくはご家族が、訪問診療または往診を受けたことがありますか。

「ある」と回答した方の割合は15.5%、「ない」と回答した方の割合は80.3%

編集部調べ

この数字を、あなたはどう捉えますか?「少ない」と感じるでしょうか、それとも「意外と多い」と感じるでしょうか。

「訪問診療」と「往診」の違い

在宅医療に関する最も基本的な用語の確認として、「訪問診療」と「往診」の違いを整理しておきましょう。
 訪問診療とは、居宅で療養する通院が困難な患者さんに対して、計画的な医学管理のもとに、「定期的に」訪問する診療をいいます。訪問の頻度は、基本的に2週間に1度です。

「訪問診療」とは、医科においては、居宅において療養を行っている患者であって、通院が困難な者に対して、その同意を得て計画的な医学管理の下に、定期的に医師が訪問して診療を行うものをいい、歯科においては、歯科医師が患家に赴いて診療を行うものをいう。

厚生労働省「平成29年(2017年)患者調査の概況」より(赤字:編集部)

「往診」は、患者さん本人や、家族など患者さんの看護にあたっている人から要請を受けて行う不定期の診療をいいます。計画的・定期的に患者さんのもとに赴いて行う訪問診療とは異なるものです。

「往診」とは、患家(介護老人保健施設等を含む。)の求めに応じて患家に赴いて診療するものをいう。

厚生労働省「平成29年(2017年)患者調査の概況」より(赤字:編集部)

在宅医療の基本的な知識

ここから、講義の本編をはじめます。まずは、在宅医療の基本的な知識を確認していきましょう。

在宅医療を受けるのはどんな患者さんか?

下の図は、在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移を示したものです。在宅医療を受ける患者さんの数は2005年までほぼ横ばいですが、2008年からは右肩上がりに増加していることがわかります。

在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移

2008年からは右肩上がりに在宅医療を受けた推計外来患者数増加

厚生労働省「平成29年(2017年)患者調査の概況」 より作成

在宅医療の対象となるのは、「通院が困難な」患者さんです。そのため、たとえば家族や介助者などの助けを借りずにひとりで歩いて通院できる患者さんは通院が容易であると考えられ、そういった患者さんには「在宅患者訪問診療料」の診療報酬は算定できないことになっています。

在宅患者訪問診療料(Ⅰ)は、在宅での療養を行っている患者であって、疾病、傷病のために通院による療養が困難な者に対して、患者の入居する有料老人ホーム等に併設される保険医療機関以外の保険医療機関が定期的に訪問して診療を行った場合の評価であり、継続的な診療の必要のない者や通院が可能な者に対して安易に算定してはならない。例えば、少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者などは、通院は容易であると考えられるため、在宅患者訪問診療料(Ⅰ)は算定できない。

「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」より(赤字:編集部)

通院が困難な患者さんには、疾病や障害、加齢による身体の状態によって通院が困難な患者さんのほか、認知症や統合失調症など精神疾患が原因で通院が困難な患者さんもいます。

下の図は、在宅医療を提供する医療機関を対象に、訪問診療を実施した患者さんの病名を調査した結果を示したものです。「在宅医療」といえば、がんや難病のイメージが強いかもしれませんが、回答の上位は循環器疾患、認知症、脳血管疾患、骨折・筋骨格系疾患、糖尿病という結果でした。

訪問診療を行っている原因の病名(複数回答)

回答の上位は循環器疾患、認知症、脳血管疾患、骨折・筋骨格系疾患、糖尿病

厚生労働省 中央社会保険医療協議会総会資料 より作成

この表は、2017年10月に在宅医療を受けた患者数を年齢階級別に示したものです。

年齢階級別にみた在宅医療を受けた推計外来患者数
(2017年10月)

年齢階級別にみた在宅医療を受けた推計外来患者数

厚生労働省「平成29年(2017年)患者調査の概況」 より作成

在宅医療を受ける患者さんは、高齢者が多いものの、幅広い年齢層の患者さんがいます。在宅医療は高齢者のためだけの医療ではなく、患者さんの年齢や、抱えている疾患もさまざまで、入院医療や外来医療と同様に、医療の提供のしかたのひとつであるということです。

特に近年、在宅医療を受ける医療的ケア児が増えてきており、2019年の推計では全国に約2万人の医療的ケア児がいます。
 医療的ケア児とは、医学の進歩を背景に、NICU(新生児集中治療室)などに長期入院したのち、引き続き人工呼吸器や胃瘻などを使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のことです。

在宅の医療的ケア児の推計値(0~19歳)

在宅の医療的ケア児の推計値(0~19歳)

厚生労働省ウェブサイト掲載資料 より作成

住宅医療を受ける患者さんはどこにいるのか?

とはいえやはり、在宅医療を受ける患者さんは高齢者が中心となります。
 では、在宅医療を受ける患者さんは、自宅のほか、どんな場所で療養しているのでしょうか?
 診療報酬上では、「在宅患者訪問診療料」を算定できる「在宅での療養を行っている患者」とは、「保険医療機関、介護老人保健施設又は介護医療院で療養を行っている患者以外の患者」を指します。そして、別に規定する場合を除き、「医師の配置が義務づけられている施設に入所している患者については算定の対象としない」と定められています。

在宅での療養を行っている患者とは、保険医療機関、介護老人保健施設又は介護医療院で療養を行っている患者以外の患者をいうこと。
(中略)医師の配置が義務づけられている施設に入所している患者については算定の対象としない。

「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」より(赤字:編集部)

ここで、高齢者が療養する施設の整理をしておきましょう。下の表に示した施設は、医療法により、医療提供施設と定められている施設です。

高齢者が療養する施設の特徴

高齢者が療養する施設の特徴

厚生労働省ウェブサイト掲載資料 より改変作成

医療療養病床と介護療養病床は、病院または診療所の病床です。介護療養病床は2024年3月末での廃止が決定しており、それに代わる施設として2018年4月より設置されたのが介護医療院です。これは、医療的なケアを必要とする要介護高齢者の長期療養・生活施設です。介護老人保健施設は、いわゆる「老健」と呼ばれる施設で、要介護者が自宅に戻れるようリハビリを行う施設であり、医療施設と生活施設の中間施設と表現されます。
 配置基準は異なるものの、これらの施設はすべて医師の配置が義務づけられています。

医療的なケアが手厚く必要ない高齢者のためには、下の表に示したような高齢者向けの施設があります。

高齢者向け住まいの概要

高齢者向け住まいの概要

厚生労働省 中央社会保険医療協議会総会資料 より作成

これらは、生活のための施設、つまり「住まい」です。そのため医師の配置は義務づけられていません。これらの施設の入居者へ訪問診療を行った場合は「在宅患者訪問診療料」が算定できます。

在宅医療は誰が提供しているのか?

次に、在宅医療の提供者に注目します。
 下の図は、「在宅患者訪問診療料」の算定件数の推移を病院・診療所別に示したもので、病院より診療所が多く算定していることがわかります。

在宅患者訪問診療料の算定件数推移(病院・診療所別)

在宅患者訪問診療料の算定件数推移(病院・診療所別)

公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団「令和元年度 在宅医療関連講師人材養成事業 研修会」厚生労働省発表資料 より作成

訪問診療などの在宅医療を提供している病院では、「内科」「外科」といった診療科のひとつとして「在宅診療部」や「訪問診療部」といった科を設けています。また、その病院で在宅医療を提供していない場合でも、「地域医療連携室」などの部署で在宅医療に関する相談を受けたり、在宅医療を受けるためのサポートを行っている病院もあります。

診療所の場合は、在宅医療を専門に行っている診療所と、在宅医療専門ではなく一般の診療所が在宅医療も行っているという場合があります。後者の場合、かかりつけの患者さんからの要望を受けるかたちで、外来診療のない時間に訪問診療などを行っています。
 下の図は、在宅医療サービスを実施する診療所のうち、「在宅療養支援診療所(※)」と「それ以外の一般診療所」の内訳を示したものです。少し古い調査ではありますが、訪問診療では全体の約5割、往診では実に6割をも、一般診療所が担っています。

※在宅療養支援診療所(在支診):地域における在宅医療の中心的な役割を担う機関として、24時間対応などの施設基準を満たし地方厚生局に届出を行っている診療所。

在宅医療サービスを実施する一般診療所の施設数

在宅医療サービスを実施する一般診療所の施設数

厚生労働省 中央社会保険医療協議会総会資料 より作成

在支診の届出数は、創設された2012年以降増加傾向でしたが、近年はほぼ横ばいです。24時間の往診体制・訪問看護体制の確保といった施設基準を満たすための人員確保が難しいなどの理由から、在支診の届出はせずに在宅医療を提供している診療所が多く存在するのです。

すべての在支診が満たすべき基準

  1. 24時間連絡を受ける体制の確保
  2. 24時間の往診体制
  3. 24時間の訪問看護体制
  4. 緊急時の入院体制
  5. 連携する医療機関等への情報提供
  6. 年に1回、看取り数等を報告している

厚生労働省 中央社会保険医療協議会総会資料 より作成

訪問看護と訪問薬剤管理

ここからは、在宅医療のうち、訪問看護と訪問薬剤管理に注目します。

「在宅医療」は「訪問診療」だけではない

ひとくちに「在宅医療」といっても、さまざまな医療的サービスがあり、


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