Medical Education for MR バックナンバー

地域医療連携とICT活用の最新事情

編集部からのコメント

この記事は『Medical Education for MR 2017春号』に掲載されたものを再掲したものです。

 医療分野の情報化の推進は国の重要な政策のひとつに位置づけられており、今後も変化のスピードは加速していくことでしょう。ICTを利用した死亡診断、オンライン診療の規制緩和、添付文書の電子化、医療保険のオンライン資格確認の始動など、この記事の発行以降のICT関連トピックは少し考えてみただけでも次々と思い浮かびます。
 第1章で取りあげた電子カルテシステム、オーダリングシステムの普及状況や、第2章で取りあげたICTを活用した地域医療連携(地域医療情報連携ネットワーク)については、厚生労働省ウェブサイトで最近の状況を確認することができます。

ICTを活用した地域医療連携の現状

社会的課題を解決するためのICT活用

国の重要施策として、医療・介護・健康分野におけるICT活用が進められています。「ICT(Information & Communications Technology)」という言葉について国の資料を見ると、総務省の平成22年版情報通信白書の特集からICTを大きく取り上げ始めており、一般への広がりは、6~7年前からと考えられます。
 これまでも国は、情報通信技術に関してさまざまな言葉を使い、消費してきました。1985年の通信自由化をきっかけに情報通信産業が花開き、衛星放送、ファクシミリ通信網、光ファイバーケーブル等は当時、「ニューメディア」と呼ばれていました。1980年代後半の「高度情報化社会」、1990年代後半から2000年代にかけての「IT革命」、「マルチメディア」、「ユビキタス」という言葉は記憶に新しいかもしれません。「ICT」は今まさに消費されている言葉ですが、国が使う言葉は変わっても、その背景にある解決すべき社会的課題は変わりません。
 医療現場へのICT活用はまだまだ過渡期にあるといえます。MRは、移り変わる言葉に惑わされず、医療分野の社会的課題を情報通信技術がどう解決しようとしているのかを知っておくことが重要です。

一般病院の電子カルテ普及率は3割強

医療機関で稼働している医療情報システムは多岐にわたります。大別すると、①レセコンなどの事務管理系システム、②電子カルテやオーダリングシステム等の診療支援システム、③患者情報を共有し遠隔で閲覧・取得するための地域・遠隔医療のためのシステムの3つに分類されます。
 レセプトの電子化はほぼ完了していますが、厚生労働省が行った平成26年の医療施設調査では、電子カルテの普及率は400床以上の病院では77.5%に達しているものの、一般病院全体では34.2%にとどまっていました。オーダリングシステムの普及率も同様で、400床以上の病院ではおよそ9割が導入していますが、一般病院全体では47.7%しか導入していませんでした。地域・遠隔医療のためのシステムを稼働させるためにはまず、電子カルテそのものの普及が必要です。国は、ICTを活用し医療情報を統合するために、これまで必要な標準規格を策定し情報活用のためのルール整備を行ってきました。そして平成28年度診療報酬改定では、電子カルテの普及を促す新たな評価を設けました。

医療分野のICT化は、地域医療における情報連携へ

医療分野におけるICT化は、医療保険制度の影響を大きく受けます。「日本再興戦略2016」にあるように、世界最高の健康立国を目指す日本では、医療・介護分野におけるICT化の徹底は国の重要な政策です。そのため、平成28年度診療報酬改定では、ICTを活用した医療連携やデータ利活用への評価が新設されました。
 こうした診療報酬上のインセンティブによって、普及率が停滞していた電子カルテシステムも、今後普及率が拡大し定着することが期待されています。日本の医療情報システムの導入・拡大に向けた試みは、情報の標準化の推進の段階、セキュリティルールの整備段階を経て、地域医療連携における情報連携の整備段階にまで進展しているといえるでしょう。

医療連携と患者情報共有の意義

地域の医療機関が連携していく上では患者情報の共有が欠かせません。たとえば、“5 疾病・5 事業および在宅医療”の1つである脳卒中では、急性期病院を退院後に身体機能を回復させるリハビリテーションを実施し、在宅での生活では介護分野までの連携が必要になることもあります。また、糖尿病は、専門的な病院や診療所で治療や教育を受けた後に、かかりつけ医の指導・管理の下で日常生活を送ることが多い疾患です。在宅医療では、患者の看護・介護時の健康状況などの情報を、医療機関の診療情報と連携させることが必要になります。機能分化が進んだ現在の医療提供体制では、患者情報を共有することで一貫した治療の実現が可能になります。そして、この「患者情報の共有」にICTが活用されるのです。

患者情報を共有するメリット

関連医療機関における患者情報の共有には、①患者に関する豊富な情報が得られ、患者の状態に合った質の高い医療が提供できる、②急性期医療から回復期医療、在宅医療・介護への移行が円滑に行える、③二重検査や重複した薬の処方が避けられ、患者負担も軽減される――といったメリットがあると考えられています。
 こうしたメリットを求め、ICTを活用した地域医療連携ネットワークが全国で運営されています。近隣の連携する診療所や保険薬局が、基幹病院の電子カルテを患者の同意を得たうえで閲覧したり、在宅医療では、タブレット端末を利用して医療・介護スタッフが患者情報を共有するといった連携が行われています。いずれもICTの活用により情報連携を効果的に進め、地域における質の高いサービスや効率的な医療の提供を目指しています。

全国に250以上あるICTを活用した地域医療連携

日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の調査によれば、2015年度調査の段階で、「ITを活用した地域医療連携数」は全国に271ヵ所(有効回答数は253ヵ所)あります(図1)。このうち、過半数を超える148ヵ所が、広く一般へ地域医療連携を説明する公開Webサイトを持たない、クローズド形式で運営されています。

図1全国地域医療連携数の推移

連携数の推移を見ると、国の地域医療再生計画がスタートした2011年頃を境として急増しており、地域医療再生基金による財政支援制度が、大きなインセンティブとなっていることがわかります。

さまざまな医療連携のかたち

基幹病院中心のネットワーク:長崎「あじさいネット」

長崎の「あじさいネット」は、基幹病院の電子カルテを利用した地域医療連携ネットワークとしてよく知られています。2004年に長崎医療センターのある大村市で、同病院の電子カルテ導入を機に、電子カルテの内容を医院やクリニックなど地域のかかりつけ医にも見てもらうシステムが稼働したことから始まり、その後、長崎市内の病院などが参画し、現在は県北部や離島にもネットワークが広がっています。あじさいネットホームページによると、2017年1月時点の情報提供病院は32施設、薬局を含む閲覧施設は283施設、登録患者は5万人以上に及んでいます。
 このネットワークは、基幹病院の患者情報を地域の連携施設が閲覧するもので、地域の中小病院や診療所、保険薬局などが患者の同意書を基幹病院にファックスすると登録完了のファックスが返信され、連携施設ではCTやMRIなどの画像情報や検査の内容、手術や処置、投薬等の治療内容などを見ることができます(図2、表1)。

図2長崎「あじさいネット」の利用イメージ
表1情報提供内容

広域化する地域医療連携:山形「ちょうかいネット」

ICTを活用した地域医療連携の広域化も進んでいます。山形県の庄内二次医療圏の「ちょうかいネット」は、2011年4月に酒田地区で地域の2つの基幹病院の情報からスタートしましたが、翌年6月には先行して稼働していた鶴岡市医師会の電子カルテおよび、鶴岡市立荘内病院の電子カルテと相互連携を実現させています。庄内二次医療圏全体でカルテや処方情報の閲覧のほか、各種検査結果や画像情報、レポートを共有する環境が整えられ、診療所や保険薬局だけでなく、訪問看護ステーションや特別養護老人ホーム、介護老人保健施設(老健)などにも拡大しています。

全県参加で医療資源を有効活用する:島根「まめネット」

ICTの活用は、地方の医師不足・医療過疎の問題等に対処し、限られた医療資源を有効活用するための手段でもあります。NPO法人しまね医療情報ネットワーク協会が運営する「まめネット」は、2013年に全国に先駆けて全県規模の地域医療連携ネットワークを実現したことで知られています。島根県には7つの二次医療圏がありますが、県西部や離島・中山間地域で医師不足が深刻化し、産科・外科・小児科などでは医療提供体制の維持・存続が脅かされる状況があります。「まめネット」の実現には、県が1999年に県立中央病院統合情報システムを稼働させ、国の実証実験等に参加するなど、長年にわたり医療情報連携を推進してきた背景があります。
 「まめネット」は県がネットワークと共通基盤(利用者認証、ID連携、ポータル機能等)を整備してインターフェースを公開し、多くの業者がアプリケーション開発に参加しやすいシステムを構築したことで、医療連携システム構築の大きな課題のひとつである、開発費用の低減を図ることにも成功しています。

共有されるのは、患者の基本情報や病名情報、画像など

各地域で連携の規模や段階に応じたサービスが提供されていますが、具体的にはどのような情報が共有されているのでしょうか。たとえば、島根の「まめネット」では現在、「カルテ情報連携」「画像連携」「連携パス支援」「紹介状・予約」「掲示板」「特定健診支援」の機能サービスを提供しています。
 先述の日医総研の調査によれば、患者基本情報、病名情報、画像、検体検査結果、サマリ(医療介護情報提供書)といった情報の共有が進んでいます(表2)。処方オーダや調剤結果も比較的共有されている情報ですが、ICTで共有されるデータもあれば、ICTで共有されない 「その他」の情報もあります。日医総研の調査対象の中には、後述する電子処方せんシステムの実証実験に参加しているネットワークもあるため、共有が少ない「その他」の情報の中には、「電子処方せん」情報が含まれていると考えられます。

表2共有できる情報

ネットワーク継続の課題はシステムの運用費

せっかく医療連携ネットワークが発足しても、継続が困難になるケースも少なくありません。日医総研の調査では、2012年度に「ITを利用した地域医療連携」の取り組みを行っていた154ヵ所のうち、2015年度に取り組みが継続されていたのは約6割にとどまりました。先述の「ちょうかいネット」のように地域医療連携の広域化に伴って他の連携に吸収される例もありますが、4年間で約4割が何らかの形で姿を消していることになります。
 ネットワークが継続されない原因の1つは、金銭面の問題です。同調査によれば、医療連携システム構築費用の平均は約1億7,000万円、年間の運用費用の平均は約810万円にもなります。多くのネットワークが、システム構築費用は厚生労働省や総務省などの国の実証実験等に参加したり、地域医療再生基金等を財源とした自治体からの公的資金で賄っていますが、運用費用は参加施設等から徴収するなど民間資金での運用が多数派を占めています。運用費用は毎年継続的にかかるため、システムを維持するための経済的負担をどうするかが、ネットワーク継続の鍵です。

ICTを活用した国レベルの医療情報連携

マイナンバー制度と医療等ID制度

各地域の医療連携では、患者の医療情報は医療機関ごとに独自のカルテ番号などで管理されていますが、全国で共通するIDはもちろん、地域内の共通IDも持たないケースも少なくありません。「日本再興戦略2016」によると、国は医療保険のオンライン資格確認および医療等ID制度の導入を2018年度から段階的に運用開始し、2020年からの本格運用を目指しています。
 医療等IDとは、医療・健康・介護分野の情報に付与される個人番号のことです。すべての国民が持つ固有の番号としてマイナンバーがありますが、医療等(医療・健康・介護分野)の情報は病歴や薬歴など取扱いに細心の注意が必要なものが多く、情報保護の観点からマイナンバーそのものを医療情報の管理には利用しないことになっています。医療等IDの導入により国は、地域の医療情報の連携や研究開発の促進などが進展することを期待しています。

電子処方せんの解禁

厚生労働省は2016年3月、e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律)の省令を改正し、処方せんの電子化を解禁しました。それまでは、電子的に処方せんを発行・交付・保存することは認められておらず、電子的な処理をした場合でも、診療報酬の算定には紙での出力が必要でした。電子処方せんは、医療機関が処方せんデータをインターネット上の処方せんASPサーバにアップロードし、アクセス権限を有する保険薬局がアクセスして処方せんデータを入手するという、クラウド型の仕組みです。
 医療機関が患者を特定の薬局へ誘導することは禁止されているため、医療機関から直接薬局に電子処方せんを送信することは適当ではなく、この点からも処方せんASP サーバの活用は意義があるといえます。

電子処方せんによる調剤履歴情報の一元化

処方情報の電子化のメリットは、医療機関と薬局との間での薬剤情報が一元化されることです。医師は、新規の患者の診察に際して調剤履歴がその場でわかり、薬剤師も患者の調剤履歴をシステム上で把握し、アレルギーや手術歴などの付帯情報を得られるというメリットもあります。また、後発医薬品の普及推進により一般名での処方が多くなっていますが、電子処方せんを活用することにより、医師は実際に薬局でどの薬が調剤されたかを把握することができます。
 電子処方せんは今後、医療機関・薬局が地域医療連携ネットワークに接続できる環境がある地域でASPサーバ構築が整い次第、運用がスタートします。ただし、電子処方せんを運用できる設備を自ら整えることのできる地域は限られているという現実もあります。

国によるICT活用推進のインセンティブ

平成28年度診療報酬改定は、ICTを活用した医療情報共有を大きく後押しするものでした。まず、それまで署名または記名・押印が必要だった診療情報提供書や訪問看護指示書、服薬情報等提供文書などについて、電子的に署名(HPKI)を行い、安全性を確保することで、電子的に送受することが可能になりました。
 そして、診療情報提供書と併せて検査結果や画像情報等を電子的方法で提供した場合の「検査・画像情報提供加算」や、電子的に提供された診療情報を活用した場合の「電子的診療情報評価料」を算定することができるようになりました。算定のための施設基準は、ICTを活用した地域医療連携ネットワークに参加していることです(表3)。画像や検体検査結果はICTを活用して最も共有が進んでいる情報で、評価しやすい項目といえます。さらに、情報の送信側受信側双方を評価することにより、電子カルテ等の医療情報システムの普及を促進し、地域医療連携ネットワークを活性化させたい国の狙いが背景にあります。

表3「検査・画像情報提供加算」「電子的診療情報評価料」の施設基準

ICTが育む人的ネットワークに大きな意味

ICTを活用した地域医療連携ネットワークは、システムの整備や維持という費用面の課題を抱えつつ、国や自治体の後押しを受けて今後も広がっていきます。ICTの技術は日進月歩で進んでいます。医療関連の個人情報活用のルールも整備され、個々の患者の既往症や薬剤履歴、アレルギー、副作用情報などが共有されていくでしょう。その先には遺伝子情報を活用したオーダーメード医療が待っています。製薬企業が医療機関に伝えてきた情報の多くが、すでにICTによる伝達に切り替わっています。さまざまな医療サービスが展開されさまざまな情報が共有されていく中で、 ICTでは共有されない、MRの介入が必要とされる情報は必ずあります。
 日医総研の調査報告によれば、医療連携システムを導入した効果として最も回答が多かったのは、「医療機関間の人的ネットワークが進んだ」ことでした。地域包括ケアで欠かせない多職種連携にも、SNS等を活用したICTによる双方向コミュニケーションが大きな力を発揮しています。ICTの技術がいかに進化しようとも、それを活用するのは「人」であり、結局は人同士のコミュニケーション・連携が重要であるということです。地域医療連携・地域包括ケアの輪の中で、MRが「人」として果たす役割は何でしょう。ICTによる情報伝達が拡大する中で、これからのMR活動はどうあるべきか、どう変化していくべきかを考え、行動に移しましょう。

参考資料

  • 厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の概要」(2016年3月4日)
  • 日本医師会総合政策機構・日医総研ワーキングペーパー No.368「IT を利用した全国地域医療連携の概況 (2015 年度版)」(2016年10月4日)
  • 厚生労働省「電子処方せんの運用ガイドライン」(2016年3月31日)
  • 総務省Webサイト「ICT利活用の促進~ICTを活用した様々な取組について~」
  • 厚生労働省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書」(2015年12月10日)
  • 各地域医療連携のWebサイト

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