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地域医療連携推進法人制度の施行

編集部からのコメント

この記事は『Medical Education for MR 2017春号』に掲載されたものを再掲したものです。

 2017年4月にスタートした地域医療連携推進法人制度は、医療提供体制の変革、つまり病院再編・統合のための施策のひとつです。最近では、公立・公的病院の再編統合の検討を厚生労働省が名指しで促したことも大きな話題になりましたね。
 2021年4月7日現在、北は北海道から南は鹿児島まで、26法人が地域医療連携推進法人として認定されており、緩やかではありますが、確実な進展をみせています。厚生労働省ウェブサイトに認定法人の一覧、リンク先が掲載されていますので、ぜひチェックしてみてください。

8病院再編・統合のための「医療提供体制」をめぐる改革

地域医療構想の選択肢の1つとして創設

医療制度改革は大きく2つの視点に分けることができます。
 ひとつは医療保険制度改革などの「お金」をめぐる改革、もうひとつは医療法改正などの「医療提供体制」をめぐる改革です。
 2015年9月に医療法が改正され、地域医療連携推進法人制度が創設されました。そして、同じ2015年に地域医療構想策定ガイドラインが発表されています。
 2017年4月スタートの地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人)は、地域医療構想を達成するためのひとつの選択肢であり、医療提供体制を変革するものです。

地域が見えているMR

地域医療構想の背景には、高齢化と人口減少の急速な進行があります(図1)。

高齢化の推移と将来推計

医療・介護需要の最大化が見込まれる「2025年問題」がクローズアップされがちですが、高齢者人口の増加には大きな地域差があり、過疎地域を中心に高齢者人口は既に減少がはじまっています。現段階で連携推進法人の設立を検討しているのは、主に、こうした目の前の人口減、患者数減にさらされている地域です。
 現時点では、連携推進法人に対する診療報酬での誘導策が見えないため、様子見をしている病院関係者も多いと思われます。しかし、病床機能の分化推進で過剰な病床数が削減され、必然的な医療提供体制の再編がすぐそこまで来ています。
 本稿では、地域医療連携推進法人制度の解説を通して、地域が見えているMRの活動を考えていきます。

紆余曲折した制度創設までの背景

病院の再編・統合の法的解決手段

地域医療連携推進法人制度創設までの経緯を簡単に追っていきましょう。
 当初、地域医療連携推進法人制度は、医療・介護の改革で医療法人などが容易に再編・統合できるよう「非営利ホールディングカンパニー」の創設として打ち出されました。民間企業に例えると、複数の企業群をグループとして統制していくための親会社を設立し、住民に対して幅広い医療サービスを提供するイメージです。
 そもそも、医療法では、医療法人の再編・統合には吸収合併と新設合併の2つの手段しか規定されていません。社団医療法人と財団医療法人間では合併ができない、公的病院にはそもそも合併の仕組み自体が存在していないなど、病院の再編・統合について法的なハードルの高さが課題となっていました。
 非営利ホールディングカンパニーを政府の産業競争力会議が成長戦略の具体策のひとつとして支持し、「日本再興戦略 改訂2014」に盛り込んだことで、制度化が本格化しました。

地域医療構想を達成するための一つの選択肢へ

非営利ホールディングカンパニーが医療法の中で新型法人として検討が進む中、検討会の議論では営利目的の株式会社の仕組みであるホールディングカンパニーという名称が医療機関にはなじまないとされました。当初、アメリカのホールディングカンパニー型の大型医療法人構想も提案されましたが、最終的に「非営利ホールディングカンパニー」という名称の制度は消え、代わって打ち出されたのが、地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るという役割でした。
 最終的に「地域医療構想を達成するための一つの選択肢」として、2015年9月28日に成立した改正医療法により地域医療連携推進法人が規定され、現在に至っています。
 ちなみに、誤解されやすいのですが、税法上の解釈で営利とは収入から経費を差し引いた後の利益を特定の人々が分配することを指し、商用目的で利潤を出すことを目的とすることではありません。
 そもそも、医療法人は医療法第54条で剰余金の配当が禁止されている非営利法人です。

地域医療連携推進法人制度とはなにか?

連携推進法人には株式会社立病院や薬局も参加できる

連携推進法人は多数の法人を束ねる本部を運営します。
 連携推進法人の参加法人は、病院等を開設する法人および、介護事業等に係る施設又は事業所を開設し、又は管理する法人と定められています。病院等を開設する法人としては、医療法人、社会福祉法人、公益法人、学校法人、国立大学法人、独立行政法人、地方独立行政法人、地方自治体等が該当します。これらはすべて非営利法人です。
 ちなみに、株式会社立病院を開設する法人も、地域における医療機能の分担と業務連携の推進を目的にしている場合に限り、参加法人になることが認められます。ただし、病院と株式会社本体の経理が分離されていることなどが要件です。
 介護事業等の中には、薬局や見守りを行う生活支援事業者なども含まれています。
 その他、法人化していない診療所や個人が参加できる仕組みも導入されています。

連携推進法人の業務とは?

連携推進法人の主たる業務は、参加する複数の法人の連携を進めることです。
 設立にあたっては連携する区域を決めます。原則として地域医療構想区域である二次医療圏ですが、地域医療構想の達成を推進するために必要な場合には例外も認められます。
 その上で、参加法人において、診療内容や病床機能、在宅復帰の流れなどについて統一した医療連携推進方針を決定します。
 具体的な医療連携推進業務としては、診療科(病床)再編、医師らへの共同研修、医薬品などの共同購入、参加法人への資金貸付、関連事業者への出資、医師の配置換えなどがあげられます。
 なお、連携推進法人には参加法人を統括する役割が与えられており、参加法人が重要な経営的決定(予算、借り入れ、資産の処分、事業計画など)をする際には、連携推進法人に意見を求めなければなりません。
 このように、①統一的な医療連携推進方針の決定、②医療連携推進業務の実施、③参加法人の統括の3つが、主たる業務になります。

地域医療連携推進法人の概要

地域医療連携推進法人制度の組織構成

図2は、地域医療連携推進法人制度の組織構成を示したものです。

地域医療連携推進法人制度の組織構成

社員、社員総会、理事・監事、理事会(代表理事1名)が置かれることになっています。特徴的な部分として、地域医療連携推進評議会の設置が必要です。
 連携推進法人の法人格は医療法人ではなく非営利型の一般社団法人になりますが、管理運営に関わる組織構成は医療法の定めにより多くが共通しています。
 わかりやすくするため、便宜的に株式会社の組織構成に置き換えてみましょう。
 まず、社員は株式会社でいえば株主に、社員総会は株主総会にあたります。理事を取締役、監事を監査役、理事会を取締役会、代表理事を代表取締役と考えると連携推進法人の組織構成が見えてきます。

理事会が連携推進法人の業務を執行

連携推進法人内には、連携推進の業務を執行する機関として理事会が設けられ、理事3名以上、監事1名以上で構成されます。
 法人の最高意思決定機関は社員総会で、参加法人は連携推進法人の「社員」として意思決定に参画します。議決権は、原則として1社員に1つですが、連携の意義を崩さないのであれば、定款でこの原則を変えることも可能です。なお、病院等を開設する参加法人の議決権の合計が、介護事業などを行う参加法人の議決権の合計より多いことが条件です。
 また、地域のニーズを反映させるために、自治体担当者や医師会長などを委員とする「地域医療連携推進評議会」が作られ、連携推進法人へ意見具申を行います。連携推進法人はその意見を尊重しなければなりません。

連携推進法人設立によるメリットは?

統一の連携推進方針による経営の効率化

連携推進法人制度では、法人本部が策定する統一した理念の下、参加法人間での業務連携、機能分担によって収入アップにつながる効率的経営が期待されます。
 表2は、あくまで制度上想定される経営メリットをまとめたものです。

制度上想定される参加法人の経営メリット

まず、参加法人間で活発になることが予想されるのが患者の紹介・逆紹介ですが、参加法人同士で病床数を融通できることも大きな利点です。*

*現行制度では、病院・診療所の病床数は各都道府県が地域で必要とされる「基準病床数」を全国統一の算定式により算定し、「既存病床数」が「基準病床数」を超える地域(病床過剰地域)では、増床を許可しないことになっている。

病床過剰地域でも病床融通が可能

参加法人間であれば、連携区域が病床過剰地域であっても一定要件のもとで増床が認められます。**
 これによりグループ内の病床機能の分化・連携を容易に進めることができます。
 融通が認められる要件とは、「地域医療構想の達成を推進するために必要である」「グループ内の病床数合計が申請の前後で増加しない」「グループ内の病床数合計が申請の前後で減少する場合は、医療提供体制の確保に支障を及ぼさない」「地域医療連携推進評議会の意見を聞いていること」です。

**病床の融通は可能だが、急性期病床が過剰な場合は慢性期病床から急性期病床への移転はできない。

地域事情に応じた連携推進法人のメリット

現在、発表されている連携推進法人で多いのは、地域で不足する医療を補ったり、患者の競合受診を避けようとする動きです。
 たとえば、岡山県真庭市では2つの中規模病院が法人設立を予定しています。両院は約15年前から診療科目の分担、医療機器の融通、患者の相互紹介などにより、補完関係を築いてきました。連携推進法人制度の創設を機に法人の設立を検討し、さらなる関係強化を目指しています。
 鹿児島市では乳がんを中心とした女性医療と前立腺がんを中心とした泌尿器疾患を展開する2つのがん専門病院が連携推進法人を設立する方向で本部機能の統一を行い、ブランド力の向上を図るとしています。
 こうした地方では医師・看護師等の人材採用が大きな課題です。厚生労働省は2月17日付けの医政局長通知で、参加法人間での人事交流は労働者派遣にあたらないことを明示しており、競合する医療機関が協調することでグループ間の人材の有効活用が期待できます。また、地域ブランドとして定着することで、あらたな人材の確保と定着も期待できるでしょう。

医薬品の共同購入への対応

連携推進法人は契約のとりまとめ役に

医薬品や医療機器などの共同購入による経費削減は医療機関にとって大きなメリットですが、それはそのまま製薬企業の懸念事項になります。
 厚生労働省は2月17日付けの医政局長通知で、連携推進法人が「一括購入を調整」し、個別の購入契約については参加法人(社員)がそれぞれ締結することを明示しました。
 医薬品の共同購入は連携推進法人が一括して購入し参加法人に転売する形ではなく、連携推進法人は共同購入契約のとりまとめ役になるわけです。
 医薬品の共同購入はすでに公的病院や自治体病院などで行われており、フォーミュラリ導入を検討する医療機関も増えています。
 地域の有力病院は医薬品のコスト削減について医薬品卸との交渉術をすでに持っています。近い将来、強い交渉術を持った地域の有力病院がまとめ役となった共同交渉が二次医療圏単位で起きることも予想されます。
 競合品のない画期的新薬だけが持つ価格交渉力も永遠ではありません。医薬品の共同交渉はあくまで価格交渉であり、価格決定権を持たないMRは直接交渉の場に立つことができないため、地道にMSとの信頼関係を高め、地域の実情にあわせた連携をいかに構築できるかが、MRが地域で生き残るための鍵になるでしょう。

病医院、介護施設、在宅等と異なる環境を
移動する患者をフォロー

医薬品を必要とする高齢者は、病医院、介護施設、在宅等と異なる環境を移動します。そして、それぞれの場に届く医薬品情報は異なります。
 2018年の介護・診療報酬同時改定では、地域医療構想の実現策として、地域医療連携推進法人普及のためのインセンティブが提示される可能性もあり、地域内の医療・介護資源をまとめ、統一した事業計画を進めようという取り組みが一気に進むかもしれません。
 地域医療連携推進法人には介護関連の事業等を行う薬局も参加してきます。薬局や介護関連事業者との関係構築も、MR活動のテーマになるでしょう。
 医師の処方しか見えていないMRは生き残れない時代です。地域医療にMRがどう貢献できるかを模索している製薬企業も多い中、まずは医師の処方から介護関連のニーズへと視点を広げてみましょう。
 地域医療連携推進法人が警鐘を鳴らす病院再編時代の到来は、地域が見えるMR、そして、高齢化の先にある患者減少の時代が見えるMRを求めています。

参考資料

  • 社会保障制度改革国民会議「社会保障制度改革国民会議 報告書 ~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~」(2013年8月6日)
  • 内閣府「『日本再興戦略』改訂2014 -未来への挑戦- 」(2014年6月24日)
  • 厚生労働省医政局医療経営支援課「医療法の一部を改正する法律について(平成27年改正)(地域医療連携推進法人制度の創設・医療法人制度の見直し)」
  • 産業競争力会議 第35回実行実現点検会合・配布資料(2016年3月23日)
  • 厚生労働省「『医療法施行規則の一部を改正する政省令案』に関する意見募集について」(2016年12月)
  • 医療法人制度改革・地域医療連携推進法人(松田紘一郎 中央経済社 2017年1月10日)
  • 病院再編・統合ハンドブック第2版(日経メディカル開発 2017年2月13日)
  • 医政発0217第16号厚生労働省医政局長通知 地域医療連携推進法人制度について(平成29年2月17日)

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