Medical Education for MR バックナンバー

2018年度診療報酬・介護報酬同時改定を迎えるための基礎知識

編集部からのコメント

この記事は『Medical Education for MR 2017秋号』に掲載されたものを再掲したものです。

 現行の診療報酬点数や評価体系は最新のものを確認していただく必要がありますが、これまでの改定の流れの振り返り、国が誘導したい方向の読み解きなど、現在もトレーナーの皆さんの参考になる記事かと思います。
 ちなみに…
<2018年度診療報酬改定における入院医療に関する主な改定内容>
・看護配置による「一般病棟入院基本料」は、入院患者の医療の必要性という実績に応じた評価体系「急性期一般入院基本料」に再編された。
・「地域包括ケア病棟入院料」は2段階から4段階に再編・統合された。
・回復期リハビリテーション病棟入院料は6段階に再編・統合された。
・療養病棟入院基本料は看護配置20対1以上に一本化され、基本料1・2は医療区分2・3の該当患者割合に応じた評価に再編された。

変革目白押しの2018年

医療と介護一体改革の大きな節目

厚生労働省が来る2018年度を『惑星直列』と呼んでいることをご存知でしょうか?
 原則2年ごとの診療報酬改定と薬価改定、3年ごとの介護報酬改定が2018年4月に同時改定となります。これは2012年以来、6年ぶりの巡りあわせとなります。そこに、都道府県が主管である第7次医療計画、第7期介護保険事業計画のスタートが重なるのです(図1)。

図1医療と介護の一体改革に係るスケジュール

厚生労働省があえて大仰なレトリックを使った背景には、2018年度改定が今後の厚生政策の行方に非常に大きな影響を与えるからに他なりません。
 厚生労働省が2025年を大きな節目に位置づけてきたことは言うまでもありませんが、診療・介護報酬の同時改定が6年ごとであることを踏まえると、2018年の同時改定は実質的に2025年に向けた最後のチャンスとなります。
 2018年改定では、医療と介護の連携で地域包括ケアシステムの早期構築を目指すという国の姿勢が色濃く出てきます。

改定に向けた議論―第1ラウンドの終了

診療報酬改定に向けた審議は、厚生労働省に設置される中央社会保険医療協議会(以下、中医協)で行われます。2018年度改定を巡る審議は2016年暮れからスタートしていますが、2018年頭まで続きます。
 8月9日には改定審議第1ラウンドの終了を受けて検討項目の内容や論点についての整理が行われ、入院医療、外来医療、在宅医療、医療と介護などの横断的事項、歯科医療、調剤報酬の項目ごとに、次期改定への視点や課題が公表されています。
 秋頃までの改定審議第2ラウンドでは、検証部会による2017年度調査報告や、薬価専門部会による薬価調査および改定基本方針などが順次まとめられ、第3ラウンドでは基本問題小委員会や各調査専門組織などの報告が行われます。
 これと並行して、社会保障審議会における審議により12月には「診療報酬改定の基本方針」が公表され、前後して12月下旬には介護報酬と同時に改定率が決定される流れです。
 具体的な点数や施設基準等の改定内容は、2018年1月以降の諮問、骨子、2月の答申を経て、決定されます。
 そこから4月の施行までおよそ1か月しかありませんが、今のうちに改定の視点や課題に関連する用語・背景知識をインプットしておくことで、2018年度診療報酬改定をスムースに読み解くことができるでしょう。

前改定の積み残し事項「答申書附帯意見」

2018年度診療報酬改定を読み解くためのヒントが、前回改定である2016年度診療報酬改定に関する「答申書附帯意見」(表1)です。

表12016年度診療報酬改定に係わる答申書附帯意見

附帯意見は、平たく言えば当該年度改定の「積み残し事項」であり、次回改定の肝になる項目なのです。
 ここからは附帯意見の中から理解しておきたいキーワードをピックアップし、基礎知識を確認していきます。

押さえておきたい基礎知識① 【入院医療】

入院医療の概要

65歳以上の患者が入院患者の70%以上を占めており(図2)、引き続き認知症等の高齢者向けの医療ニーズが高まると予想されます。一方で医療・介護とも、人口構造の変化により支え手の減少が見込まれています。

図2入院患者の年齢構成の推移

一般病棟入院基本料、「重症度、医療・看護必要度」

<基礎知識>
 医療法では、病院のベッドを①精神病床、②感染症病床、③結核病床、④療養病床、⑤一般病床の5つに分けています。①~③は名前が示す通り特殊な患者、④は長期入院が必要な患者、⑤はそれ以外の患者が入院するベッドです。
 各病床で基本診療料は定められており、一般病床に入院した場合にかかる基本診療料が「一般病棟入院基本料」です。一般病棟入院基本料はさらに看護配置により4種類に分かれています。よく耳にする「7対1」「10対1」などはこれを指しています。
 前回改定では、一般病棟入院基本料の評価の見直しとして、急性期に密度の高い医療を提供する状態が適切に評価されるよう「重症度、医療・看護必要度」の見直しが行われました。
<次回改定に向けて>
 入院基本料はそもそも入院診療に係る基本的な療養に関する費用であり、医療を提供する環境、看護師を初めとするマンパワーの確保、医学管理等の確保といったものを総合的に評価するというのが基本的な考え方です。
 しかし、現行の一般病棟入院基本料は7対1、10対1といった主に看護配置の要件で分類されており、患者の状態や診療の効率化の要素も考慮する必要があるのではないか、という意見が出ています。

地域包括ケア病棟入院料の包括範囲

<基礎知識> 
 地域包括ケア病棟は「亜急性期病床」を前身とするもので、2014年改定で創設されました。それまでの急性期後の患者受け入れ機能に加え、在宅で療養中の患者が急性増悪した際の受け入れ機能、在宅復帰支援機能を持ち、地域包括ケアシステムを入院医療の立場から支えるものです。
 前回改定では、地域包括ケア病棟入院料の包括範囲から手術・麻酔を除外、つまり出来高評価としました。これは実質的に点数引き上げを意味し、地域包括ケア病棟で比較的軽度な急性期患者の受け入れを誘導する意図の改定でした。
<次回改定に向けて>
 改定審議第1ラウンドでは、地域包括ケア病棟の入院患者のほとんどが自院の他病棟から転棟してきたという医療機関が圧倒的に多いというデータが示されました。地域包括ケア病棟が創設時に想定した機能を果たしているのか、包括点数に見合った患者を受け入れているのか、地域包括ケア病棟が地域包括ケアシステム構築の核となるための評価をどのように行うかが議論の中心となります。

回復期リハビリテーション病棟におけるアウトカム評価

<基礎知識>
 リハビリは各病期において医療医学的に、急性期リハ、回復期リハ、維持期(生活期)リハと分類されます。
 前回改定において、回復期リハ病棟におけるリハビリの「実績」が一定の水準に達しない場合、1日6単位を超えるリハビリの報酬は、回復期リハビリテーション病棟入院料に包括されることになりました。この「実績」には、提供実績と効果実績という2つの軸があり、後者がアウトカム評価にあたります。
<次回改定に向けて>
 回復期リハビリテーション病棟入院料は現行3つに分類されており、入院料2と入院料3ではストラクチャー評価は同一の基準です。しかし、入院料3にはアウトカム評価が設定されていないため、ここにもアウトカム評価を組み込むべきという意見が出ています。
 回復期リハ病棟の位置付けは、「ADLの向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハビリを集中的に行うための病棟」です。今後、高齢患者のさらなる増加により回復期病床の不足が懸念されるなか、適正なアウトカム評価が重要視されています。

療養病棟入院基本料等の慢性期入院医療における評価

<基礎知識>
 療養病棟は、慢性疾患等で長期間の入院が必要な患者が入院します。
 療養病棟入院基本料は看護配置等の施設基準で2つに分かれており、さらに患者の傷病や状態(医療区分)、ADL(ADL区分)に応じて、それぞれの入院基本料内に9種類の点数が設定されています。
 前回改定では評価をより適正なものとするため医療区分が見直され、医療区分の高い患者の割合に応じた評価となるよう改定がありました。
<次回改定に向けて>
 現行の医療区分、ADL区分による評価は導入から10年が経過しており、評価のあり方を見直す議論が進められることになります。
 また、医療療養病床では介護療養病床よりもターミナルケアや看取りの数が多いため、看取りを支援する機能を確保するための評価の必要性も議論されています。

図3100床あたり年間看取り実施人数

押さえておきたい基礎知識② 【地域包括ケアシステム】

地域包括ケアシステムにおける連携

外来医療では、増加する生活習慣病患者に効果的・効率的に質の高い適切な医療を提供できるよう、患者の特性や病態に応じた評価やICT技術を活用した新たなサービス提供を考える視点が議論されています。
 また、質の高い医学管理や重症化予防などの取り組みについては、かかりつけ医と専門医療機関との連携、かかりつけ医を中心とした多職種連携、医療機関と保険者・自治体等の予防事業との情報共有が推進されます。
 在宅医療では、訪問診療、訪問看護、歯科訪問診療、訪問薬学管理など増加するニーズに対応するため、在宅医療と介護サービスの連携が重要になります。
 訪問診療では在支診以外の医療機関による在宅医療の提供や、かかりつけ医の負担を軽減する地域医療機関の連携による救急応需体制、かかりつけ医機能を補完する複数診療科の協働による訪問診療などについて議論が進められています。

紹介状なしの大病院受診時の定額負担

<基礎知識>
 厚生労働省は、「大病院は専門・紹介外来を担い、中小病院や診療所が一般外来を担う」という形に機能分化することを目指しています。大病院で軽症の外来患者を多く診ることは、勤務医の負担を重くするとともに、重症患者が適切な医療を受ける機会を阻害してしまうからです。
 そこで導入されたのが、紹介状なしの大病院受診時の定額負担です。一定の条件の病院を紹介状なしで受診した患者に初診料および再診料の定額負担を求め、医療機関ごとの役割や機能分担、連携やかかりつけ医の機能の強化を進めるものです。
<次回改定に向けて>
 昨年4月から導入されたこのルールの影響が調査され、外来医療の機能分化や評価のあり方が検討されることになります。

在宅復帰率

<基礎知識>
 地域包括ケアシステムでは、長期入院をなくし、患者は病状に見合った医療施設や介護施設へと移り、最終的に自宅や地域の居住系介護施設に戻って暮らすことを目指しています。この患者の流れは、主に診療報酬上の施設基準のひとつ「在宅復帰率」で誘導されています。
 これは、病棟から退院した直近6 ヵ月の患者の一定割合が、自宅や所定の施設などに退院あるいは転院していなければ、届出を認めないというものです。
 前回改定では急性期病院で在宅復帰率が引き上げられたほか、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟、在宅復帰機能強化型の老人保健施設や療養病棟にも在宅復帰率の要件が設定されています。
<次回改定に向けて>
 前回改定後の退院患者の流れ(退院前の居場所と退院先)を調査し、在宅復帰や自立に向けたアウトカムの適正評価が議論されます。

医療と介護の連携、地域包括ケアシステムの中のMR

医療と介護の同時改定に向けて

2018年度は診療報酬と介護報酬が同時改定となることから、社会保障審議会の介護給付費分科会と中医協総会の双方の委員による「医療と介護の連携に関する意見交換」が開催されています。
 医療と介護の連携において特に重要な項目として、①看取り、②訪問介護、③リハビリテーション、④関係者・関係機関間の連携・調整について、検討が進められています(表2)。

表2医療と介護の連携で特に重要な検討項目

地域包括ケアシステム強化に向けた介護保険法改正

介護保険法の一部改正が2018年4月に施行され、新たに「介護医療院」がスタートします。これは、日常的な医学管理が必要な重介護者の受け入れや、看取り・ターミナルケア等の機能と、生活施設としての機能を兼ね備えた介護保険施設です。
 廃止が6年間延長された現行の介護療養病床の転換先としての役割が期待されていますが、具体的な介護報酬、施設基準、転換支援策については、介護給付費分科会等で引き続き検討されます。

地域包括ケアシステムの中のMR

地域包括ケアシステムの中で、MRがどのような役割を果たすのか、具体的なイメージがはっきり見えていない人も多いでしょう。しかし、適切な医療情報なくして医療は成り立ちません。
 「適切な医療情報」の中には、患者情報、地域情報が含まれます。MRには、病院内にとどまらない在宅医療や介護施設といった地域包括ケアシステムの中での医薬品情報のアドバイザーとして、地域医療の中で存在意義を高め、地域包括ケアシステムを支える役割を果たすことが求められます。こうした役割を担えるMRとなれるかどうか、行動の変革を起こすには次回の同時改定が最後のチャンスかも知れません。
 診療報酬と薬価の改定率だけでなく、第7次医療計画や第7期介護保険事業計画など、担当エリアの地域包括ケアシステム構築がどのように見直されていくのかに注目しましょう。

参考資料

  • 第1回医療介護総合確保推進会議資料「医療・介護提供体制の見直しに係る今後のスケジュール」(2014年7月25日)
  • 第358回中央社会保険医療協議会総会参考資料「中医協の検討スケジュール(案)」(2017年8月9日)
  • 第358回中央社会保険医療協議会総会資料「平成30年度診療報酬改定に向けた議論(第1ラウンド)の概要」(2017年8月9日)
  • 第328回中央社会保険医療協議会総会資料「答申書附帯意見」(2016年2月10日)
  • 第344回中央社会保険医療協議会総会資料「入院医療(その1)」(2017年1月25日)
  • 第351回中央社会保険医療協議会総会資料「入院医療(その4)」(2017年5月1日)
  • 第350回中央社会保険医療協議会総会資料「入院医療(その3)」(2017年4月26日)
  • 第345回中央社会保険医療協議会総会資料「外来医療(その1)」(2017年2月8日)
  • 第144回社会保障審議会介護給付費分科会参考資料「介護療養型施設及び介護医療院(参考資料)」(2017年8月4日)
  • 厚生労働省ホームページ

TOP