Medical Education for MR バックナンバー

地域医療構想データマップ2017

編集部からのコメント

この記事は『Medical Education for MR 2017秋号』に掲載されたものを再掲したものです。

 2017年の記事ではありますが、現在でも教材として手直しなしでお使いいただける内容です。
 地域医療構想を実現すべく開催される地域医療構想調整会議も、多くの地域で着々と回を重ねています。この記事で取りあげた長野県では、10の構想区域で調整会議を進めています。各会議では圏内の医療機関の動向も報告されており、たとえば、休止中の院内産院の再稼働や、循環器内科常勤医師の増員予定とそれに伴う心疾患患者さんの受入拡充方針などを知ることができるなど、MRにとって情報の宝庫であることは意外と知られていないのではないでしょうか。

地域の将来を知る「医療計画」と「地域医療構想」

地域医療のキーワード

MRの皆さんは職業柄、「医療計画」「地域医療構想」ということばを耳にする機会は少なくないでしょうし、自身の担当エリアのことを知るには有用だとの認識も持っていることでしょう。
 医療計画とは、医療法に規定され、都道府県が地域の実情に応じて医療提供体制の確保を図るために策定するものです。
 地域医療構想は、「2025年に向け、病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能ごとに2025年の医療需要と病床の必要量を推計し、定めるもの」とされています。

医療計画と地域医療構想の位置付け

医療計画には、医療圏と基準病床数を設定し医療施設を量的にコントロールする意味合いが含まれています。各都道府県で5年ごとに立案しますが、これは企業でいうところの中期計画と考えると理解しやすいでしょう。
 しかし、医療計画には実質的に必達目標がないため、あくまで理念のような位置付けになりやすいのが欠点でした。このため厚生労働省は、より実効性を持たせる計画である「地域医療構想」を策定し、医療計画に組み込むよう求めました。
 つまり、地域医療構想は医療計画の一部ということです。

地域医療構想が生まれた経緯

超高齢社会において持続可能な社会保障の確保をいかに図るかが検討されるなか、社会保障制度改革国民会議により医療提供体制の改革が必須とする報告書が取りまとめられ、2013年12月にいわゆる「プログラム法」が成立しました。
 これを受け、地域包括ケアシステムを構築することを通じ、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進する目的で、2014年6月に「医療介護総合確保推進法」が成立しました。この法律は、医療法や介護保険法等の関係法律を一体的に整備するものです。
 これに伴って医療法が改正され、新たに「地域医療構想」を策定し、医療計画に追記されることになりました。策定期限は2017年3月であったため、現在では47都道府県すべての地域医療構想を閲覧することができます。

地域差のある高齢化率

今後40年ほどで日本の高齢化率は世界で初めて40%に突入します。そのための試金石の1つが、“団塊の世代が全員75歳以上になる”2025年への対応です。
 注意すべきは、いわゆる2025年問題は全国均一に同程度の影響を受けるのではなく、主に首都圏など大都市が影響を受けるという点です。
 大都市は戦後から地方の若者の受け入れ先となっており、地方の高齢化と都市部の若年化の要因となってきました。都市部ではこれから高齢化率が上がっていく一方、地方ではすでに高齢化率が行きつくところまで行ってしまい、「消滅可能性都市」という言葉が現実味を帯びる地域まであります。
 しかし、都市部の出生率は地方よりも低く高齢化が加速度的に進行するため、2050年頃には都市部も地方も関係なく高齢化率は横並びになると予測されています。

地域医療構想の真の目的

2025年に向け高齢者人口が増加する地域では、医療需要が増大することが考えられます。それでは2025年以降の医療需要はどうでしょう。結論から言うと、その後は横ばいを続け、2040年以降は減少に転じます。
 このため国は、2025年までの需要増に対しては平均在院日数の短縮など効率的に医療供給することで、病床数を増やすことなく対応する方針です。一方、医療需要が飽和に達し、すでに減少を始めている地域には「病床数の削減」を迫ります。
 つまり、地域医療構想の策定は、2025年までの医療需要増に向けた増床ではなく、それ以降をにらんだ「病床数の適正化」が目的というわけです。国が「適正化」という文言を使用するときは「削減」と同義と捉えることができます。

地域医療構想ではここを見る

まずは構想区域を確認

地域医療構想には、それまでの医療計画における二次医療圏を原則としつつ、地域の将来における人口規模や患者の受療動向、疾病構造の変化、基幹病院までのアクセス時間の変化などを勘案して「構想区域」が設定され、当該都道府県内すべての構想区域の状況が網羅されています。図やデータも豊富にわかりやすく構成されているため、自身の担当エリアや担当施設が属する区域の状況を知ることができます。
 地域医療構想は、各都道府県で盛り込む内容や項目の順序に差はありますが、大まかには、地勢や人口推移、医療提供体制等の現状、2025年の医療需要と病床数の必要量(必要病床数)、構想区域ごとの概況、将来のあるべき医療提供体制を実現するための施策といった構成になっています。しかし、地域によっては数百ページにもなる冊子を精読する時間はないと思われる方も多いでしょう。
 そこで、地域医療構想をどのように見ていけばよいか、長野県の地域医療構想を例に示していきます。

高齢化の状況

長野県地域医療構想によると、長野県の高齢化率の値は全国よりも高い水準ですが、高齢者人口の推移は2015年以降横ばいになっています。
 医療需要の推移については、入院患者の総数は2030年頃がピークとなりますが、増加の幅は2013年の1割増程度にとどまり、その後は減少しています。
 これらの情報から、長野県では既に医療需要は飽和に近いと読み取ることができます。
 このように、地域医療構想を使えば、当該都道府県の医療需要の増減やピーク時期を予測することが可能です。

患者の受療動向

2013年度の二次医療圏間の患者流出入の状況(図1)によると、救命救急センターや大学病院等の医療機関が分布する佐久圏・松本圏には、周辺圏域から高度急性期・急性期の患者が流入し、回復期リハビリテーション病棟と療養病床を有する大規模な病院が分布する上小圏には、回復期や慢性期の患者が流入していることが見て取れます。

図1二次医療圏間の入院患者の流出入の状況(2013年度)

このように、地域医療構想からは、医療提供体制の現状や患者の受療動向を読み取ることができます。

病床機能報告結果と必要病床数の比較

2016年度病床機能報告によると、稼働病床数は長野県全体で18,699床であり、2025年の必要病床数16,839床と比較すると1,860床多くなっています。
 その内訳からは、将来的に急性期病床が特に過剰となること、回復期病床が不足することが示されています。
 病床機能報告と必要病床数の推計では機能区分の分け方に違いはありますが、2025年に向けて急性期病床から回復期病床への転換が推進されることが推測できます。

構想区域での比較

長野県では10の構想区域が設定されていますが、そのなかの上小(じょうしょう)圏と、隣接する佐久圏を比較してみます。
 2つの構想区域の人口、稼働病床数はほぼ変わりませんが、上小圏の高度急性期の病床数は佐久圏の半分以下、急性期病床は8割ほどです(表1)。この情報だけでも、上小圏から佐久圏に急性期の患者が流出していることが想像できます。

表1佐久圏と上小圏の人口、稼働病床数、必要病床数比較

先ほどの図1からは高度急性期~回復期で上小圏の患者が佐久圏の医療機関に流出している一方、慢性期になると上小圏の医療機関に戻ることが確認できます。つまり上小圏の住民は、回復期までは佐久圏の医療機関に依存していることがわかります。
 ただし、すべての疾患において同じ流れが起こっているわけではありません。上小圏の住民が疾患ごとにどの区域の医療機関にかかったか、どの区域の住民が上小圏の医療機関に受診したかを表すのが図2です。

図2上小圏の患者流出入の状況

図2上図からは、上小圏の住民は「がん」に関して佐久圏の医療機関への依存度が高いこと、小児医療は4割以上が他区域に流れており小児科医不足が深刻なことがわかります。一方で、心筋梗塞は上小圏内で完結しており、循環器に強い医療機関があることもわかります。
 図2下図からは、上小圏の強みは回復期であること、特に松本圏からの流入が多いことから、回復期に強い医療機関が松本圏に近接した場所にあると読み取ることができます。
 2025年の必要病床数にもこれらの特徴はあらわれています。2つの区域の必要病床数の総計にはほぼ差はありませんが、機能区分の内訳はまったく異なっています(表1)。
 このように、構想区域での比較により、各区域の特徴を可視化することができます。

特徴的な医療提供体制を持つ地域の例

北海道:広域分散型の例

北海道は、日本の総面積の約22%を占めるほど広大な面積を持つなかで人口は分散して居住しており、「広域分散型」であること、また、「積雪寒冷」という厳しい気候を持つことが大きな地域特性です。
 医療における地域間の格差が顕著になっており、過疎地域における医療提供体制の確保が大きな課題になっています。
 広域な面積を有する区域において医療機関の数が限られている場合、病棟が担う機能を一つに集約することは困難であり、地域の医療機関はさまざまな機能を担わざるを得ない面があります。
 北海道では、広域分散型の地域特性を踏まえ、将来のあるべき医療提供体制を実現するための施策として、医療機関へのアクセス支援や健康づくりの推進など、予防も含めた総合的な対応を検討していくこと、また、医療資源が限られるなかで、ICTを活用した見守り、遠隔医療の実施等について積極的な検討が必要とされています。
 在宅医療では、広域分散型の地域、また特に積雪の多い地域では、どこまで在宅医療等で対応できるのかという、特有の問題があります。北海道では、純粋な自宅だけではなく、状態にあった支援が受けられる病床と自宅以外の「住まい」を確保する取り組みが行われています。

和歌山県:一極集中型の例

和歌山県は、県北部に人口が集中しており、医療資源も県北部の和歌山圏に集中しています(表2)。そのため、入院患者の動向も医療施設が集中する和歌山圏へ一極集中しています。

表2和歌山県2014年度病床機能報告

和歌山県では、高度急性期病床については全県的な医療機能であることから、圏域単位での割り振りにとらわれることなく、和歌山圏への一定の集約化を図るとしました。
 また、独自の制度として、主に回復期機能病床等を保有する病院を「地域密着型協力病院」として指定し、回復期機能のほか在宅医療を後方支援する体制を構築するとしています。

それぞれの地域の特殊性

例えば東京都は大学病院本院や特定機能病院等が集中しており、隣接する県を中心に高度な医療を求める患者が全国から集まってきます。また、交通網が高度に発達していることから他区域との患者流出入が多くみられること、一部の地域(多摩地区)に慢性期病床が極端に集中していることなど、大都市型としても他に類を見ない特徴があります。
 その他、医療従事者不足、医師の高齢化が深刻な地域や離島など、医療提供体制にはそれぞれの地域に特有の課題があり、地域の実情に応じた地域医療構想が策定されています。

地域医療構想は
“地域の医療提供体制の将来あるべき姿”を示すのか?

2025年とその先に向けて

地域医療構想を含む医療計画は、将来の地域の医療の姿を的確に映し出しています。各種のデータは、病床数の削減が必要であることを示していると厚生労働省は判断し、2025年のあるべき病床数の推計結果として、115~119万床という数字を示しています。しかし、現実に病床数が削減される例は多くありません。ある県の地域医療構想では、「推計値が県の病床の削減目標といった性格を持つものではなく、県に稼働している病床を削減する権限もない」とわざわざうたっています。医療法上では、都道府県が医療機関に対して指導はできても、実効を伴っていないのが現状です。
 長野県の例で見れば、2016年稼働病床数と2025年必要病床数を比較すると、病床区分ごとの病床数を平準化しようという県の狙いがわかります。例えば佐久圏の回復期病床は191から464へと大幅増を示しています。しかし本当の意味で平準化すると変化が劇的すぎるため、地域の実情に即して実編可能と思われる数値で平準化を図ることになります。佐久圏と上小圏の病床区分の内訳に差があるのはそういうわけです。
 2025年に向けた目先の医療需要だけ見れば、しばらくは今の病床数でも良いでしょう。しかし、持続可能性を考えなければいけません。2040年以降の医療需要の減少だけではなく、労働人口減少も医療機関にとって大きな問題です。地域医療構想を勘案することなく医療機関が許可病床数を維持したとしても、医療従事者の不足により稼働率を低下せざるを得ないという状況は、そう遠くない将来に起こるでしょう。

MRこそ地域医療構想を活用すべき

地域医療構想は、MRが活用してこそ価値があるのではないでしょうか。異動が多いMRにとって、異動先の地域の特性を理解することは、厳しさを増す競争を勝ち抜く上で重要な武器となります。人口動態、各医療機関の特徴、受診動向など、地域を把握する上で、最も適した資料が「地域医療構想」と言えます。
 ぜひ地域医療構想を営業戦略ツールとして活用してください。

参考資料

  • 全国健康保険協会「医療計画と地域医療構想に関する基礎的ハンドブック」(2015年3月)
  • 内閣府「平成29年版高齢社会白書」
  • 都道府県等栄養施策担当者会議資料「地域医療構想について」(2015年8月7日)
  • 厚生労働省「地域医療構想策定ガイドライン」
  • 長野県「長野県地域医療構想」(2017年3月)
  • 長野県「平成28年度病床機能報告の状況」
  • 北海道「北海道医療計画[改訂版](別冊)―北海道地域医療構想―」(2016年12月)
  • 和歌山県「和歌山県地域医療構想」(2016年5月)
  • 東京都「東京都地域医療構想」(2016年7月)
  • 厚生労働省医政局「全国厚生労働関係部局長会議資料(厚生分科会)」(2016年1月19日)

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