この講義で伝えたいこと
自社製品にがん治療薬がなかったり、自身の担当領域でなかったとしても、がんとの併発や支持療法により担当製品ががん患者さんに使用されることも多いでしょう。そのためMRの皆さんは、がんという疾病や治療薬の知識を学習する機会はこれまで多くあったと推察します。しかし、患者さんの「支援」についてはどうでしょうか。
がんと診断され、治療が始まってからも患者さんの人生は続きます。MRはその職務上、どうしても「治療」にのみ意識が向いてしまいますが、この講義を通して、視野を広くもち、患者さんの人生の支援のために自分に何ができるかを考えてもらいます。
本編の前に
本編をはじめる前に、独自に行ったアンケート調査の結果の紹介と、基本的な用語の確認をしておきます。
「がんサバイバー」のイメージについてアンケート
MRの皆さんに質問です。
「がんサバイバー」という言葉が指す意味として、あなたのイメージに最も近いものはどれですか?「がんが治癒した人」、「がんの治療中であるが社会復帰している人」、「がんの診断を受けたときからすべての段階にある人」、「この中にはない」、「わからない」から選んでください。
同じ質問を15歳以上の一般の方1,308人にしたところ、「わからない」を除いて最も多かった回答は「がんの治療中であるが社会復帰している人」で、25.4%の人が選択しました。
「がんサバイバー」という言葉が指す意味として、
あなたのイメージに最も近いものはどれですか?
編集部作成
あなたがイメージする「がんサバイバー」と、一般の方が持つイメージに差はありましたか?
「がんサバイバー」とは
「サバイバー(survivor)」という言葉から、「がんサバイバー」は、がんからの生存者、がんを克服した人、というイメージをもつ人が多いかもしれません。しかし、現在進行形でがんと闘っていたり、がんと共存する感覚で生活する患者さんは、そのイメージに違和感を持つでしょう。
そのため現在では、「がんサバイバー」は、「がんが治癒した人だけを意味するのではなく、がんの診断を受けたときから死を迎えるまでの、全ての段階にある人」と定義されています。
がんサバイバーは、がんが治癒した人だけを意味するのではなく、がんの診断を受けたときから死を迎えるまでの、全ての段階にある人と定義されている。
「がん専門相談員のための学習の手引き~実践に役立つエッセンス~ 第3版」より
「がんサバイバーシップ支援」とは
では、「がんサバイバーシップ支援」とはどのような意味でしょうか。
がんの診断と治療によって、患者さんの暮らしは、人間関係の面や経済的な面など、さまざまな影響を受けます。しかし、がんになっても人生は続きます。
「がんサバイバーシップ」は、1986年にアメリカで提唱された概念で、「診断時から命の終わりまで、がんとともに自分らしく生きること」を意味し、過程を表現する言葉です。
がんサバイバーシップとは、「診断時から命の終わりまで、がんとともに自分らしく生きること」
「がん専門相談員のための学習の手引き~実践に役立つエッセンス~ 第3版」より
国立がん研究センターが作成する「がん専門相談員のための学習の手引き」では、「がんとともに自分らしく生きること」を「がんの罹患に伴う絶望感やがんに対する無力感といった困難な感覚と折り合いをつけ、状況や出来事に対して自己のコントロール感覚を保つこと」とし、このコントロール感覚を維持、高めることで、患者さんが自らの力で自分らしい生活を築き上げることが可能になる、としています。
がん対策基本法(※)に基づき政府が策定する「がん対策推進基本計画(第3期)」では、「サバイバーシップ支援」を「がんになったその後を生きていく上で直面する課題を乗り越えていくためのサポート」としています。
※がん対策基本法:2006年6月成立、2007年4月施行。がん対策に関する基本理念、がん対策の推進に関する計画の策定、がん対策の基本となる事項を定めることにより、がん対策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする法律。
「サバイバーシップ支援」とは、がんになったその後を生きていく上で直面する課題を乗り越えていくためのサポートのこと。
「がん対策推進基本計画(第3期)」より
つまり、「がんサバイバーシップ支援」とは、がんサバイバーががんと共に自分らしく生きるための全般的な支援を意味します。
がんとの共生
ここから、講義の本編をはじめます。
まずは、がん統計や国の「がん対策推進基本計画」から、がんとの共生を目指すがん医療の現状についてみていきましょう。
最新のがん統計から
現在、日本のがん罹患者数は98万人に迫り、このうち約4人に1人が、生産年齢(15~64歳)でがんに罹患しています。
日本人が生涯でがんに罹患する確率は2人に1人といわれており、がんは、国民の生命と健康にとって重大な疾病です。
年齢階級別がん罹患者数(2017年)
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)より編集部作成
しかし近年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった革新的な治療薬や、放射線治療技術の進歩などにより、多くのがんの5年相対生存率(※)は上昇を続けており、全がんの5年相対生存率は64.1%まであがってきました。
これはつまり、がんと共生する人が増加し続けているということです。そのため、がん種、世代など、患者それぞれの状況に応じた医療や支援が、新たな課題として指摘されるようになりました。
※5年相対生存率:性別、生まれた年、年齢の分布を同じくする日本人集団で5年後に生存している人の割合と比較した、あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合。
がんの5年相対生存率の推移(全がん)
「全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告」より編集部作成
がんと共生する社会の実現のために
そこで国は、これまで予防・診断・治療に集中していたがん対策の、緩和ケアや相談支援、就労を含めた社会的な問題への対応を強化するため、第3期がん対策推進基本計画では「がん予防」「がん医療の充実」とともに、「がんとの共生」を3本目の柱としました。
そして、がんと共生する社会を実現するための施策にサバイバーシップ支援を掲げ、「がん患者が、がんと共に生きていくためには、就労支援のみならず、治療に伴う外見(アピアランス)の変化、生殖機能の喪失及びがん患者の自殺といった社会的な課題への対策が求められている」と明記しました。
今回の講義ではこのうち、治療に伴う外見の変化と生殖機能の喪失への対策に注目します。
第3期がん対策推進基本計画における分野別施策の3本柱
「がん対策推進基本計画(第3期)」より編集部作成
がんの予防・検診から、診断、治療、その後の療養生活や就労などの生活全般にわたって、患者さんや家族をはじめ、地域住民や医療機関からの相談にも対応するのが「がん相談支援センター」(※)です。
多くの「がん相談支援センター」では、