- 編集部からのコメント
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この記事は『Medical Education for MR 2017夏号』に掲載されたものを再掲したものです。
近年、薬局・薬剤師の役割として対人業務が重要視されるようになり、かかりつけ薬局・薬剤師制度が導入されるなど、薬局を巡る政策は大きな動きを見せています。「健康サポート薬局」の導入もそのひとつです。2016年10月から届出がスタートした健康サポート薬局は、2021年3月末時点で2,515件まで増えてきました。
医薬品医療機器等法(薬機法)改正により、2021年8月からは、「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」という認定薬局制度も施行され、中医協ではいわゆるリフィル処方について議論されるなど、薬局・薬剤師に関する政策に引き続き注目です。
【参照】厚生労働省ウェブサイト「薬局・薬剤師に関する情報」
医薬分業の進展に伴う薬局への揺り戻し
内閣の主要課題となった医薬分業
街の薬局、薬剤師を真に地域に貢献する「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」に変身させようという、「健康サポート薬局」「患者のための薬局ビジョン」の構想が動き始めています。
薬局業務の中心をなす調剤の現状は、厚生労働省が医薬分業を推進した結果、1989年に全国平均11.3%だった医薬分業率は、2015年には70.0%にまで拡大しました。この間、薬局は処方せん受け入れ枚数を増やすことが収益につながるとして、規模拡大を図るチェーン店を牽引役に、全国の薬局数はコンビニを上回る約58,000ヵ所にまで増加しました。結果、複数の医療機関を受診する患者の多くが、各医療機関の門前薬局に処方せんを持ち込み、薬を受け取っています。
この現状について2015年3月の規制改革会議では、「門前薬局が乱立し、患者の服薬情報の一元的な把握などの機能が必ずしも発揮されず、患者本位の分業になっていない」、「医薬分業推進に伴い患者負担が大きくなる一方、負担の増加に見合うサービス向上や分業の効果などを実感できていない」といった声が聞かれるようになりました。
こうした批判的意見をもとに、2015年5月の経済財政諮問会議において、すべての薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編するためのビジョン策定が表明され、同年10月に「患者のための薬局ビジョン」(以下、薬局ビジョン)が策定されました。
このビジョンをもとに、薬局の地域における再編や薬剤師の行動変容が図られています。
薬局の姿を提言する薬局ビジョン
薬局ビジョンは、立地から機能へ、対物業務から対人業務へ、バラバラから一つへ、を基本的な考え方に、かかりつけ薬剤師・薬局の今後の姿を提言したものです。
いわゆる門前薬局など立地に依存した存在から脱却し、薬剤師としての専門性や、24時間対応・在宅対応、服薬情報を一つにまとめることで飲み合わせの確認や残薬管理など安心できる薬物治療の提供等、さまざまな患者・住民のニーズに対応できる機能を発揮することで、患者さんに選択してもらえる薬局の姿が示されています。
「対物業務から対人業務へ」とは、専門性やコミュニケーション能力の向上を通じ、薬剤の調製などの対物中心の業務から、処方内容チェックや医師への疑義照会、丁寧な服薬指導、在宅訪問での薬学管理といった、患者・住民との関わりの度合いの高い対人業務へとシフトを図ることへ取り組むことです。
薬局ビジョンでは、団塊世代が後期高齢者になる2025年までにかかりつけ薬局への転換を促し、さらに10年後の2035年には立地を地域に移行するなどして、患者に身近な日常生活圏域で地域包括ケアの一翼を担える体制を構築することが、それぞれ目指すべき姿として掲げられています。
調剤だけでない「かかりつけ薬局」へ
かかりつけ薬剤師・薬局に求められる機能
薬局ビジョンが最重要視するのは、服薬情報の一元的・継続的把握、24時間対応・在宅対応、医療機関等との連携――という3つの機能です。
この基本的な機能に加え、「健康サポート機能」と「高度薬学管理機能」も今後、強化すべき機能として掲げています(図1)。
「健康サポート機能」とは、地域住民の主体的な健康の維持・増進を支援する機能であり、これが後述の「健康サポート薬局」に繋がります。
「高度薬学管理機能」は、がんやHIV、難病のような疾患を持つ患者に対して、専門医療機関と連携した副作用への対策や適切な治療法の選択などの対応を行うことが想定されています。
薬局ビジョン実現のためのアクションプランでは、かかりつけ薬剤師・薬局を必要とする患者像として、高齢者、慢性疾患患者、重篤・希少疾患を有する患者、妊婦、授乳婦、乳幼児などを想定します。高齢者は、複数の診療科を受診し、多剤投薬、長期服用の傾向にあり、生活習慣病などの慢性疾患患者も多くは長期服用、多剤服用となります。重篤・希少疾患患者では、ハイリスク薬など特に安全管理が必要な薬剤が使用されるため、これらの患者に対する服薬情報の一元管理・継続的な把握、医療機関との連携にかかりつけ薬剤師・薬局の機能が発揮されることが期待されています。
前回診療報酬改定でかかりつけ薬局を評価
薬局ビジョンの実現に向け、すでに2016年度診療報酬改定では「かかりつけ薬剤師指導料」と「かかりつけ薬剤師包括管理料」が新設され、評価されています。患者からかかりつけ薬局として選ばれ、服薬指導や薬剤の一元管理などの業務をした場合に、通常の指導料よりも高い点数が算定できます。
算定のための施設基準として、一定の要件をすべて満たす薬剤師を配置している必要があります。
2017年2月時点で29,086施設がこの施設基準を届け出ています。これは、保険薬局全体の50.7%にのぼります。
しかし、要件のうち「医療に係る地域活動の取組への参画」は薬局にとってハードルが高いようです。
「次世代薬局研究会2025」の話によると、母親を対象に子どもの健康相談を行っている先進的な薬局もありますが、多くは地域とのかかわりが少なかったため、この要件をクリアするのに苦労したようです。
かかりつけ薬剤師として、患者さんに選択され、信頼されるようになるには、地域における活動の積み重ねが重要なキーポイントです。
地域住民を積極的に支援する健康サポート薬局
「健康サポート薬局」の始動
2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では健康寿命の延伸が「戦略市場創造プラン」の一テーマに据えられ、主要施策として、健康増進・予防(運動・食事指導、簡易検査など)や生活支援を担う市場・産業を戦略的に創出・育成することがあげられました。そして、2014年改訂の中短期工程表には、その施策の一環として、「薬局・薬剤師を活用したセルフメディケーションの推進」と「充実した相談体制や設備などを有する薬局を住民に公表する仕組みの検討」が盛り込まれました。
これを受け、薬局ビジョンには、「健康サポート機能」も今後、強化すべき機能として掲げられました。この機能を有する薬局として期待されているのが「健康サポート薬局」であり、かかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能に加え、「患者」ではなく「地域住民」の健康の維持・増進を「積極的に支援する」のが役割です。具体的には、医薬品やサプリメントの使用への助言、住民の健康相談の受付と専門機関への紹介、地域薬局への情報発信などを行います。
「健康サポート薬局」の届出は2016年10月からスタートしています。一定の要件をクリアし、都道府県知事に届出をすることで「健康サポート薬局」の表示が可能となります。
取得要件の例として、地域の医療機関や地域包括支援センター、介護事業所、訪問看護ステーション、健康診断や保健指導の実施機関などとの連携リストを作成し、健診や薬の使用、介護や認知症など、住民の相談内容に応じて必要な受診勧奨や紹介を行うことなどがあります。実務経験5年以上の薬剤師の常駐、OTC医薬品や介護用品などの取り扱いなども必須です(図2)。
厚生労働省は、2025年までに全国で健康サポート薬局の登録を1万~1万5,000件と想定しています。これは、中学校区を単位として想定されている地域包括ケアシステムとほぼ同じ数です。
健康サポート薬局は、地域包括ケアシステムの構成メンバーとして、多職種や医療機関に「つなぐ機能」が重要だとされます。地域包括ケアシステムの中で、ハード(疾患・医薬品)とソフト(健康情報など)を中継する「ハブ的役割」が期待されていると言えます。
届出はまだ少ない
2017年1月末時点の健康サポート薬局の届出数は全国で152件です(表1)。2016年5月の日本保険薬局協会の調査では、会員薬局の15%(604/3,994)が届出予定と回答していますが、まだ大きな動きに繋がっているとは言い難い状況です。
これは、かかりつけ薬局と異なり、健康サポート薬局が現時点では診療報酬上で評価されないことが影響していると考えられますが、健康サポート薬局を標榜して地域にアピールできるのはこれからの薬局にとってメリットになります。
将来的には、診療報酬改定で健康サポート薬局にしかとれない点数などが新設されたり、基準調剤加算の算定要件に健康サポート薬局が盛り込まれたりする可能性も考えられます。
東京・神奈川の3薬局で先行実施した日本調剤は、店舗内に健康相談専用ブースや血液分析機器を常設した検体測定室、血圧計等の各種測定機器などを設置したスペースを設けて健康サポート薬局の要件に準拠した機能を提供しています。
他のチェーンでも、体重、血圧、体組成などの計測を店舗で行い、これらの情報を一元管理して健康サポートに関連した適切なアドバイスが受けられるようになっています。
健康サポート薬局に求められるのは、多職種連携の核になることです。住民とコミュニケーションを取り、地域住民の相談役になれるかどうかは、今後の取り組みにかかっています。
これからの薬局が進むべき方向性
調剤だけのビジネスモデルは変革期
2015年度の医療費は、概算医療費として初めて40兆円を超え、41.5兆円となりました。財源が限られる中、2018年度診療報酬改定における調剤医療費も引き続き厳しい見直しを受けることが予想されます。また、高齢の患者は増えていますが、多くは在宅医療に向かっています。外来の処方せん受取率は70%に達し、これ以上の伸びも限られます。
薬局ビジョンによる取り組みに限らず、調剤に依存する薬局の再編はすでに始まっています。
薬局を立地別で見ると、診療所門前47.5%、病院門前25%、地域(面分業)約25%、医療モール約2%です。この中で、今後、最も厳しいのが診療所門前の薬局であると見られています。病院門前は、大病院に外来患者削減の政策がとられているため患者数は減っていきますが、高度薬学管理機能を持つことができます。特に資本力・総合力がある大手調剤チェーンが多いので、残る可能性はあります。
かかりつけ薬局や健康サポート薬局への転換は、薬局が今後、地域に貢献する薬局として生き残っていくための選択肢の一つです。
地域における好事例の情報発信
2017年3月末に公表された薬局ビジョン実現のためのアクションプラン報告書では、「地域包括ケアシステムにおいて薬剤師・薬局が参画している好事例集」として、全国の先験的な取組事例12例が付されています(表2)。
例えば千葉県柏市の「医療・介護 多職種連携の取り組み」では、在宅医療を担う一主体として、薬剤師会主導で各種関係会議や研修会など在宅医療ネットワークに参画していることが報告されています。この地域の情報共有システムには薬剤師が参加し、症例にかかわる訪問薬局薬剤師が情報を発信し、多職種で共有が図られています。
茨城県ひたちなか市にあるひたちなか総合病院の薬剤部と院外処方受入薬局との「薬薬連携」の事例では、疑義照会に関するプロトコールを導入したことにより業務の効率化が実現したことなどが報告されています。
薬局のかかりつけ化に伴うMRの支援
調剤以外で薬局が果たすべき機能分担という面からみれば、それぞれの薬局の役割が地域内で十分に発揮されているとは言い難いのが現状です。今後ますます、患者が複数の医療機関を受診しても、かかりつけ薬局へ処方せんを持ち込むよう、国は誘導していく構えです。つまり、外来調剤だけに依存する薬局は、意識改革と行動変容を起こさないと生き残れなくなるということです。
かかりつけ薬剤師指導料等の施設基準を届出た2万を超える施設のうち、実際に算定・請求する薬局は4割程度にとどまっています。薬局の地域活動への参画がネックとなっていることに加え、薬剤師・薬局に向けた情報発信が少ないことも、届出や実算定に二の足を踏ませる要因となっているようです。
また、健康サポート業務に関する薬局への情報提供は少なく、健康サポート薬局の全国的な広がりも今後の課題です。
MRは、患者中心の地域医療を構築するための病院・診療所間の医療連携の実際に触れる機会も多いはずです。それは自社の製品に関連する病診連携かもしれませんが、かかりつけ医と専門医による医療機能の分担という診療提供体制を核にして、地域包括ケアシステムの設計もなされているはずです。MRによる薬局・薬剤師への情報提供も、そうした地域包括ケアシステム構築の一環として機能することが期待されています。
参考資料
- 健康情報拠点薬局(仮称) のあり方に関する検討会「健康サポート薬局のあり方について」(2015年9月24日)
- 厚生労働省「患者のための薬局ビジョン ~『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ~」(2015年10月23日)
- 薬生発0212第5号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行等について」(2016年2月12日)
- 厚生労働省医薬・生活衛生局 全国厚生労働関係部局長会議(厚生分科会)説明資料(2017年1月19日)
- 第348回中央社会保険医療協議会総会資料「調剤報酬(その1)」(2017年3月29日)
- 「患者のための薬局ビジョン」実現のためのアクションプラン検討委員会「『患者のための薬局ビジョン』実現のためのアクションプラン検討委員会報告書~かかりつけ薬剤師・薬局となるための具体的な取組集~」(2017年3月31日)
- 「患者のための薬局ビジョン」実現のためのアクションプラン検討委員会「地域包括ケアシステムにおいて薬剤師・薬局が参画している好事例集」(2017年3月31日)