循環器系

循環器系の疾病(総論)

循環器系の疾病

 心拍出量や心拍数、〔血液循環〕などの循環器系の機能を維持する仕組みに異常が発生すると〔循環器系〕の疾病が発症する。

 血圧の上昇・低下などによって血圧系の疾病が発症する代表的疾病は〔高血圧〕や低血圧、ショックなどである。主に〔循環器内科〕が対応するが、救急搬送される場合は救命救急科などの対応となる。

 心臓の拍動をつかさどる〔刺激伝導系〕や、冠動脈、心筋、心臓弁など〔心臓自体〕の異常が原因となり、心臓系の疾病が発症する。主に循環器内科、〔心臓外科〕、循環器外科、救命救急科などが対応する。

 動脈・〔静脈〕の障害が原因となり、血管系の疾病が発症する。主に〔循環器内科〕、心臓血管外科(循環器外科)などが対応する。

 本章ではこの中で、MRの基礎知識として重要と思われる疾患を詳細疾患または概要疾患として解説し、その主な検査と治療を解説する。

 

循環器系の検査

 循環器系では血圧や心拍数、その他〔バイタルサイン〕の評価などの一般検査を行う。さらに、心臓あるいは〔冠動脈〕の状況を把握する検査を行う。血管系の検査では〔閉塞部位〕の確認などを行う。

 

 

循環器系の治療

 循環器系の疾病では食事療法や運動療法などの〔非薬物療法〕、バイパス術などの外科的治療、〔薬物療法〕などによる内科的治療を病態に応じて行う。

 

 

 

高血圧症

 わが国の高血圧患者数はおおよそ〔4,300万〕人と推定されているが、約〔1,200万〕人が高血圧治療を継続的に受けているとの患者調査結果から、残りの約3,100万人が〔未治療〕で放置されている状態や定期通院していないなど〔血圧管理〕が不十分であることが明らかとなった。〔高血圧治療〕を受けている患者数が増加していること、国民栄養調査で〔収縮期血圧〕の平均値が男女とも低下していることが示されるなど、特定健康診査に対する〔保健指導〕や高血圧治療の啓発活動の成果が表れ始めている。一方、高血圧未治療者には〔30~40代〕の若年層が多数含まれていることから、若年者への対策強化と血圧が正常域を超え始めた〔正常高値血圧〕・高値血圧に対しても〔生活習慣〕の修正による高血圧予防を開始し、適切な管理を継続的に実施していくことが重要である。

臨床症状

 著しく血圧が上昇(180/120mmHg以上)し、脳・心臓・腎臓・血管に進行性の〔臓器障害〕を合併している場合は〔高血圧緊急症〕として迅速な対応が必要である。高血圧緊急症では、頭蓋内圧亢進による〔頭痛〕、悪心、神経症状、〔視神経乳頭浮腫〕による視力障害、胸・背部痛、さらに急性左心不全を発症すると息切れ、〔呼吸困難〕などの症状を呈する。

 高血圧緊急症を除くと、高血圧症の多くは〔無症状〕である。高血圧治療を受けるきっかけとして〔健康診断〕や検診などで高血圧症を疑われ医療機関受診を指示されるか、心血管系の〔合併症発症〕を機に高血圧症と診断され治療が開始される場合が多い。

 高血圧症を放置した場合や〔降圧治療〕が不十分で血圧が高い状態が継続すると、〔脳出血〕や脳梗塞などの脳血管障害、狭心症や心筋梗塞などの〔虚血性心疾患〕・心肥大・心不全などの心臓病、〔大動脈瘤〕・閉塞性動脈硬化症・内頚動脈狭窄症などの血管疾患および〔腎不全発症〕のリスクが高くなる。高血圧合併症は発症すると患者本人の〔生活の質(QOL*1)〕が著しく低下するだけでなく、〔医療経済的〕にも大きな問題となる。

病因・病態

 高血圧症は血圧上昇の原因が明らかな〔二次性高血圧〕と、原因が特定できない〔本態性高血圧〕に分類される。二次性高血圧には腎実質の障害による〔腎実質性高血圧〕、腎動脈の血流低下による〔腎血管性高血圧〕、血圧を上昇させるホルモンの過剰分泌による〔内分泌性高血圧〕、薬剤の影響により血圧が上昇する〔薬剤誘発性高血圧〕、睡眠時無呼吸症候群に合併した高血圧などがある。二次性高血圧は降圧治療だけでは〔血圧管理〕が困難であり、難治性高血圧となり〔臓器障害〕を合併しやすいため、〔早期〕に診断し適切な治療をすることが重要である。

本態性高血圧

 高血圧症の約〔90〕%を占める本態性高血圧では血圧上昇の〔原因〕は特定できないが、〔肥満〕、塩分の過剰摂取、飲酒、〔運動不足〕などの生活習慣や〔遺伝〕、ストレス、睡眠障害など多くの因子により発症すると考えられている。

二次性高血圧

腎実質性高血圧

 〔腎実質障害〕に伴って血圧が上昇する疾患で、二次性高血圧の中では最も頻度が〔高い〕疾患である。腎実質障害の原因として〔慢性糸球体腎炎〕、糖尿病腎症、〔腎硬化症〕、多発性嚢胞腎などがある。

腎血管性高血圧

 腎血管性高血圧は高血圧患者の約〔1〕%を占め、〔腎動脈〕の狭窄により腎血流が低下し〔レニン分泌〕が亢進する。レニン分泌亢進により〔レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS*2)〕が賦活化し血圧が上昇する。

内分泌性高血圧

 ホルモンを産生する臓器の〔腫瘍化〕や過形成によりホルモン分泌が過剰となり、〔高血圧〕をきたす疾患群である。原発性アルドステロン症(p.152参照)や〔褐色細胞腫〕(p.152参照)、クッシング症候群(p.151参照)などがあげられる。

肺高血圧症

 肺高血圧症は平均肺動脈圧が〔25mmHg〕以上に上昇した疾患である(p.73参照)。肺高血圧症では〔労作時息切れ〕や呼吸困難、疲労感などの症状を認め、〔心臓カテーテル検査〕により直接肺動脈圧を測定することによって確定診断される。肺高血圧症の病態は高血圧症とは異なり、肺動脈の〔攣縮〕、肺動脈の中膜肥厚による〔狭小化〕(リモデリング)、〔微小血栓形成〕などが病態進展に大きく関与する。

検査・診断

 高血圧診療では〔動脈硬化〕の進展度や臓器障害の程度を把握することが重要である。〔問診〕(医療面接)では狭心症や心不全症状、〔手足のしびれ〕や脱力感などの脳虚血症状に加え、既往歴や若年発症の心血管病の〔家族歴〕、飲酒・喫煙などの嗜好について聴取し、身長・体重から〔BMI〕*3を算出し肥満の程度を把握する。

身体所見

 安静坐位で橈骨動脈の〔脈拍〕を確認し、血圧測定時には血圧の〔左右差〕について評価する。身体診察では〔心雑音〕や過剰心音、頚動脈や腎動脈などの〔血管雑音〕に注意し診察する。視診では〔満月様顔貌〕、中心性肥満、水牛様脂肪沈着など〔クッシング症候群〕に特徴的な身体所見は見逃さないようにする。

血液検査・尿検査

 高血圧に特有の検査所見や特異的マーカーはなく、高血圧による〔心血管系合併症〕の予防目的に虚血性心疾患の危険因子である〔脂質異常症〕や糖尿病、腎機能については〔血清クレアチニン値〕、タンパク尿・アルブミン尿について定期的に検査する必要がある。

血圧測定

 診察室血圧、〔家庭血圧〕および24時間自由行動下血圧では測定方法や状況が異なるため、高血圧基準値が〔測定法〕ごとに設定されている(表3-1)。

 

診察室血圧

 〔アネロイド型血圧計〕を用い、坐位で上腕にマンシェットを巻き〔聴診法〕により血圧を測定するが(図3-1)、初診時は左右両側の血圧を測定し血圧の左右差について確認する。診察室では〔精神的緊張〕の高まりにより、普段より血圧が〔上昇〕する傾向があるため注意する。

 

家庭血圧

 日常の血圧をより反映することから〔家庭血圧測定〕が血圧管理の基本となりつつある(図3-2)。朝、起床後1時間以内、排尿後、朝食前、降圧薬服用前に坐位で〔1~2分安静後〕に測定する。〔夜間血圧〕は就寝前に1 ~ 2分安静後に坐位で測定する。それぞれの血圧値は2回測定した〔平均値〕とし、記録したものを診察時に持参するよう指導する。

 

24時間自由行動下血圧

 間欠的に一定間隔で〔24時間血圧〕を測定・記録するため、早朝高血圧、睡眠中の〔夜間高血圧〕の診断や特殊環境下の血圧測定が可能である(図3-3)。普段の血圧は正常であるが診察室で血圧が上昇する〔白衣高血圧〕、診察室では正常血圧であるが特殊環境下で高血圧を示す〔仮面高血圧〕の診断に有用である。

 

画像検査

 胸部X線は心拡大や左心不全による〔肺うっ血〕の診断、大動脈の石灰化が進行した〔動脈硬化〕の存在など肺・心臓・大血管のおおまかな情報を得ることができる。

 心臓超音波検査では〔心臓弁膜症〕・心筋肥大の有無や〔心臓機能〕の評価が可能である。頚動脈超音波検査では頚動脈壁の〔肥厚〕やプラーク(粥腫)、血管狭窄度について、〔CT〕やMRI検査では血管の狭窄・拡張など血管の状態について評価が可能である。

心電図

 〔安静時標準12誘導心電図〕からは不整脈や心肥大、心筋梗塞、心筋虚血について診断が可能である。安定労作性狭心症については〔運動負荷心電図〕で心筋虚血について評価する。

眼底検査

 眼底検査は〔網膜〕の細動脈の変化を直接観察できる検査で、通常は眼科医に検査を依頼する。高血圧の状態が長期間持続すると網膜の細動脈に〔硬化性変化〕が出現し、進行すると網膜出血や綿花状白斑、〔乳頭浮腫〕を認める。

診断

 血圧は心室の収縮期に上昇する〔収縮期血圧〕(最高血圧)と心室の拡張期に低下する〔拡張期血圧〕(最低血圧)で表され、収縮期血圧〔140〕mmHg以上または拡張期血圧〔90〕mmHg以上が高血圧と定義される。血圧値は心臓の〔収縮〕ごとに変動し、ストレスや精神的緊張度に加え、さまざまな〔環境因子〕の影響も受けるため、一度の血圧測定で高血圧症と診断するのではなく〔家庭血圧測定〕を促し、より多くの血圧値をもとに診断する。高血圧症は血圧値を基準に〔Ⅰ~Ⅲ〕度に分類され(表3-2)、脳心血管病の血圧値以外の危険因子と〔臓器障害〕/脳心血管病の有無をもとに、脳心血管病発症の低リスク~高リスク群に〔層別化〕し、治療計画を立案する(表3-3、4)。さらに将来的に高血圧症を発症する可能性が高い群として正常高値血圧・〔高値血圧〕を設定し、早い時期から血圧上昇予防に向けた〔生活習慣〕の修正と医師による定期的な診察と継続的な管理を行うことが重要である。

 

 

 

治療

一般療法

 血圧治療の目的は降圧を介した〔心血管病予防〕であり、〔塩分〕やアルコール摂取制限、BMI25未満、適度な運動習慣、〔禁煙〕などの生活習慣の是正が基本となる(表3-5)。二次性高血圧では〔原因〕により異なるが、〔降圧薬〕のみでは適正な血圧管理が困難な場合があり、〔外科的治療〕などそれぞれの原因に応じた治療が必要となる。

 

薬物療法

 血圧は心拍出量と〔末梢血管抵抗〕により規定されるため、それぞれの病態に応じた適切な薬剤を投与し、降圧が不十分な場合は同一薬剤の〔増量〕または異なる降圧薬を加え〔目標血圧〕に達するまで緩徐な降圧を目指す。

 投与する降圧薬は大規模臨床試験で〔予後改善効果〕が証明されている、いわゆる〔エビデンス〕のある降圧薬を選択するが、心血管疾患のイベント抑制効果は〔降圧〕に依存することに留意し、また目標血圧に達した後も〔降圧薬〕を継続する。

 高血圧未治療者のうち正常高値血圧では、生活習慣の修正を指示し〔3~6か月〕後に再評価する。高値血圧者に対しては〔生活習慣〕の修正指導を実施し、低リスク・中等度リスク群では〔3か月〕後に再評価を実施、高リスク群では〔1か月後〕に血圧の再評価を行い〔十分な降圧〕が得られていない場合は、〔内服治療〕を開始し降圧目標値に達するまで降圧を目指し治療を継続する。一方、高血圧と診断した場合は、生活習慣の修正を指示すると同時に〔高リスク群〕では直ちに薬物治療を開始するが、〔低~中等度リスク〕では1か月後に再評価を行い十分な降圧が得られていなければ、〔生活習慣の修正〕単独による血圧値の正常化は困難であることを説明し〔薬物治療〕の開始を検討する(図3-4)。

 

 降圧薬としては、〔カルシウム拮抗薬〕、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、〔サイアザイド系利尿薬〕、β遮断薬を主要降圧薬とし、β遮断薬が〔積極的適応〕である場合を除き、β遮断薬以外の主要降圧薬から選択し投与を開始する。

 降圧目標は、〔75歳〕未満の成人、また脳血管障害の既往(両側頚動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)、〔慢性腎臓病(CKD*4)〕、抗血栓薬服用中では〔130/80〕mmHg未満とするが、降圧治療中は過度の〔血圧降下〕による危険性を考慮しながら個別に判断することが重要である(表3-6)。

 

カルシウム拮抗薬

 カルシウム拮抗薬は、ジヒドロピリジン系と〔非ジヒドロピリジン系〕に分類されるが、主に〔ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬〕が降圧目的に用いられる。カルシウム拮抗薬は血管平滑筋の〔カルシウムチャネル〕を阻害することにより血管を〔拡張〕させ、降圧作用を示す。主な薬剤には〔ニフェジピン〕やニカルジピン塩酸塩などがある。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

 ACE阻害薬は〔アンジオテンシン変換酵素〕の働きを阻害することによりアンジオテンシンⅡの生成を抑制し、降圧作用を示す。主な薬剤には〔カプトプリル〕やエナラプリルマレイン酸塩などがある。

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB*5)

 ARBは〔アンジオテンシンⅡ〕の受容体への結合を阻害する結果、アンジオテンシンⅡの〔血管収縮作用〕が失われ、血管が拡張し降圧作用を示す。主な薬剤にはカンデサルタンシレキセチルや〔テルミサルタン〕などがある。

利尿薬(サイアザイド系利尿薬)

 降圧利尿薬のうちサイアザイド系利尿薬は、〔遠位尿細管〕でのナトリウム再吸収を抑制することにより〔循環血液量〕を減少させることで降圧効果を示す。主な薬剤には〔トリクロルメチアジド〕やヒドロクロロチアジドなどがある。

β遮断薬

 β遮断薬は心臓のβ受容体の働きを抑制することによる〔心拍出量低下〕とレニン分泌抑制や〔交感神経抑制〕により降圧作用を示す。主な薬剤には〔プロプラノロール塩酸塩〕やアテノロールなどがある。

予後維持療法

 血圧治療を放置すると〔脳出血〕の発症や心筋梗塞、腎臓の機能障害が進行し、〔腎不全〕に至る可能性が高まる。高血圧疾患では〔動脈硬化〕や臓器障害が自覚症状なく進行し心筋梗塞や〔脳梗塞〕、心不全、腎不全などの〔心血管病〕が突然発症する。そして、〔合併症〕発症後から十分な治療を施しても以前の状態に回復することは困難である。高血圧患者に対しては〔予防治療〕の重要性について十分説明し、患者とともに相談しながら治療を進めることが重要である。

CaseStudy

 54歳の男性

 数年前から健康診断で高血圧を指摘されていたが放置していた。最近、高血圧に関するテレビ番組を視聴し心配になり内科クリニックを受診した。受診時血圧152/96 mmHgで症状はなく、既往歴・家族歴に特記事項はない。5年前から禁煙、毎晩ビール500 mL程度の飲酒、身長170 cm・体重76 kg(BMI:26.3)。

 心電図・胸部X線に異常はなく、血液検査と尿検査を施行した。食塩摂取制限と軽い運動を日常生活に取り入れるよう指導し、家庭血圧測定について説明し再診とした。2週間後の受診時血圧は148/92 mmHg、家庭血圧の平均は142/90 mmHgであった。血液検査では糖尿病はなく、中性脂肪の軽度上昇があり、タンパク尿は認めなかった。以上よりⅠ度高血圧、臓器障害はないが心血管病の危険因子として脂質異常症と肥満を認め、中等リスクと診断し生活習慣の修正を指導した。

 1か月後の診察室血圧は138/88 mmHg、早朝家庭血圧の平均値は134/84 mmHg、2 kgの減量に成功した。本人と相談ししばらく降圧薬は処方せず、生活習慣の修正を継続するよう指示した。3か月間経過しても血圧が目標値まで降下しない場合、生活習慣の修正を強化するが、血圧が140/90 mmHg以上であれば降圧薬の開始を検討する

Point

 ①本態性高血圧患者でBMI:26、軽度肥満を認め、中等リスクである。

 ②高血圧治療の基本は塩分制限と減量であり、食事指導を継続した。

 ③1か月で2㎏の減量に成功したが目標血圧は未達成である。本人が薬物治療を望んでいない点も考慮し、食事療法・運動療法を継続する。

 ④その後、3か月間経過しても目標血圧130/80mmHg未満に達しない場合、生活習慣の修正を強化するが、血圧が140/90mmHg以上と上昇しているようであれば降圧薬開始を検討する。

(伊藤 誠悟)

心不全

 心不全は中年以降、〔加齢〕とともに罹患率が増加するため、超高齢社会を迎えたわが国においては〔年々増加傾向〕にあり、すでに〔100万〕人を優に超えると推定されている。

 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)では、心不全とは「何らかの心臓機能障害、すなわち、心臓に〔器質的〕および /あるいは機能的異常が生じて〔心ポンプ機能〕の代償機転が破綻した結果、〔呼吸困難〕・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い〔運動耐容能〕が低下する臨床症候群」と定義されている。また、本ガイドラインでは、従来の急性心不全と慢性心不全とに区別したガイドラインではなく、心不全をその進展ステージでとらえる考え方に変更されている。

臨床症状

 心機能不全の主病態は、〔左室拡張末期圧〕や左房圧の上昇に伴う肺静脈の〔うっ血〕および/または右房圧の上昇に伴う体静脈のうっ血、さらには〔心拍出量減少〕に伴う症状である。これらを分けて考えることが患者の〔病態把握〕に有用である(表 3-6-1)。

 ただし、心不全は〔心原性ショック〕に陥ることも多く、上記の症状にとらわれ過ぎて〔バイタルサイン〕(酸素飽和度を含む)の確認を怠ってはならない。原因疾患によっては、例えば急性心筋梗塞では〔心臓カテーテル治療〕が必要となり、冠動脈疾患集中治療室(CCU*1)での〔集中治療〕が必要となることが多いことを念頭に置く必要がある。

 

病因・病態

病因

 心臓が〔ポンプ〕として正常に働くためには、収縮機能と〔拡張機能〕が正常であると同時に、適正な〔前負荷〕と後負荷が必要である。前負荷とは心臓が〔血液を貯める〕ときに心臓にかかる負荷のことであり、左室にとっては〔左室拡張末期圧〕(左房圧)となる。後負荷とは心臓が〔血液を送り出す〕ときに心臓にかかる負荷のことであり、左室にとっては動脈血や〔末梢血管抵抗〕となる。原因疾患は多岐にわたるが、心筋梗塞や不安定狭心症などの〔左室駆出率(LVEF*2)〕の低下はポンプ機能の低下として理解しやすい。これをLVEFの低下した心不全(〔HFrEF〕*3)と呼ぶ。しかし、心不全症例の30~40%では〔LVEF〕は保持されており、LVEFの保たれた心不全(〔HFpEF〕*4)と呼ばれている。HFpEFは左室の〔拡張不全〕が主体であり、その原因として最も頻度が高いのが高血圧症による〔左室肥大〕である。LVEFが軽度低下した心不全は〔HFmrEF〕*5と呼ばれている。

病態

 心拍出量の低下は〔交感神経緊張〕をもたらしカテコールアミンを上昇させ、腎血流の低下から〔レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)〕を亢進させる。これらの体液因子は血管を〔収縮〕させると同時に腎臓に働いて水とナトリウムを〔再吸収〕し、心不全を増悪させる。一方、心房圧および心室圧の上昇は、〔心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP*6)〕や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の分泌を亢進させる。ANPとBNPは〔交感神経活性〕やRAASとは拮抗的に働き、血管を〔拡張〕させ、腎臓からの〔ナトリウム利尿〕を促進し、前負荷と〔後負荷〕を軽減して心不全を改善する方向に働く。このように心不全は〔心拍出量〕の低下と心房圧の上昇という血行動態のみで理解するのではなく、図 3-5のように〔神経体液因子〕のバランスが複雑に関連し合った一つの症候群と考えられるようになった。

 2017年改訂のガイドラインから、心不全は〔LVEF〕により分類されたが、重症度の分類については、心不全の病期の進行を考慮した〔ステージ分類〕が採用されることとなった(図 3-6-1)。すなわち、〔器質的心疾患〕のないリスクステージのステージA、器質的心疾患はあるが〔心不全症候〕のないステージB、心不全症候のあるステージCおよび〔治療抵抗性〕のステージDである。このステージ分類は適切な〔治療介入〕を行うことを目的とされている。なお、従来の〔自覚症状〕による重症度分類であるニューヨーク心臓協会(NYHA*7)心機能分類(表 3-6-2)は心不全症候のある〔ステージCおよびD〕で使用されている。

 

 

 

検査・診断

 心不全の診断には、①〔血行動態〕を中心とした心不全の病態および〔重症度〕を把握し、②〔原因疾患〕を特定し、③この原因疾患のもとで発症した〔増悪因子〕を同定することが重要となる。原因疾患によっては緊急手術や〔緊急心臓カテーテル〕による治療が必要となることを念頭に置かなければならない。

身体所見

 身体所見として心音では〔Ⅲ音〕、Ⅳ音を聴取することが多く、心拍数も多いことから〔奔馬調律(ギャロップリズム)〕となることが多い。呼吸音では肺うっ血により〔水泡音〕を聴取する。また、右心不全の場合は右房圧の上昇に伴う体静脈の〔うっ血〕により、肝臓や消化器のうっ血症状や〔内頚静脈怒張〕、両下肢や顔面の〔浮腫〕が出現する(表 3-6-1参照)。

画像検査

 検査では胸部X線検査における肺うっ血・〔肺水腫〕、胸水貯留、心電図や心臓超音波検査では原因となる〔心疾患〕の有無を確認する。また、〔心臓超音波検査〕では収縮機能(左室駆出率など)と拡張機能も評価できるので重要な検査である。

 〔心臓MRI〕は、正確さと再現性の点から、左右心室の形態と〔駆出率〕、左室心筋重量の測定において最も信頼度の高い検査であると認識されている。

 心臓CTでは〔冠動脈〕の評価が優れており、〔虚血性〕または非虚血性心筋症の鑑別に有用である。

 そのほか、原因疾患によっては〔心臓カテーテル検査〕や心臓核医学検査が行われる。画像検査とは異なるが、急性心不全では心拍出量の低下と〔心房圧〕の上昇という血行動態の把握のために、〔スワン・ガンツ・カテーテル〕を挿入することがある。

血液検査

 血液検査では〔血液ガス所見〕や末梢血液検査、生化学検査、電解質検査が行われるが、中でもバイオマーカーとしての〔血漿BNP濃度測定〕は重要で、診断のみならず重症度や〔予後判定〕としても高く評価されている。

治療

 心不全の各ステージにおける治療目標は〔ステージの進行〕を抑制することにある。ステージAとステージBは明らかに心不全ではなく、〔心不全発症リスク〕のステージであるので、この段階では〔発症予防〕が中心となる。ステージCとステージDの心不全治療のアルゴリズムを図 3-6-2に示す。 ステージCは〔HFrEF〕、HFmrEF、HFpEFに分けて治療内容が示されている。このステージにおける治療には〔慢性心不全治療〕と急性増悪時における急性心不全の両方が含まれる。心不全患者の多くは〔ステージC〕であり、症候が改善してもステージCにとどまるため、〔急性期〕から慢性期治療への移行が重要である。ステージDにおける〔治療目標〕は基本的にステージCと同様であるが、終末期心不全では〔症状の軽減〕が主たる目標となる。

 

非薬物療法

 重症心不全患者では初期には上半身を拳上し、〔絶対安静〕を原則とする。動脈血酸素飽和度は〔95〕%以上を常に確保する。そのためにまず〔酸素投与〕を行う。鼻カニューレ、〔酸素マスク〕による酸素投与で無効の場合は〔非侵襲的陽圧換気(NPPV*8)〕を積極的に活用する。低ナトリウム血症の患者では水分摂取を1日〔1.5~2〕Lに制限する。しかし、画一的な水分摂取制限に〔臨床的〕な利点はない。循環と利尿の安定が得られるまで、〔栄養摂取〕を目的とした食事は禁止である。経口摂取を開始する目安は、〔酸素投与量〕が減量でき、〔酸素飽和度〕を維持できるようになれば可能である。食事の〔減塩〕は必須である。1gの塩分摂取は〔200~300〕mLの体液量を増加させ、〔心臓〕への負担を増大させる。1日3g減塩すると、心血管事故発症を〔10~15〕%減少させる。

薬物療法(ステージ別)

ステージC(心不全ステージ)

 ①NYHA Ⅱ度 ACE阻害薬に加えて〔β遮断薬〕導入を行う。肺うっ血所見や全身浮腫など〔体液貯留〕による症状が明らかである場合には〔利尿薬〕を用いる。LVEF<35%では、〔ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA*9)〕のスピロノラクトンやエプレレノンを追加する。

 ②NYHA Ⅲ度 NYHAⅡ度と同様、〔ACE阻害薬〕、β遮断薬、利尿薬を用いる。LVEF<35%では、〔MRA〕を追加する。

 ③NYHA Ⅳ度 〔入院治療〕とする。カテコールアミン、〔PDE阻害薬〕、利尿薬、カルペリチドなどの非経口投与を行い、状態の〔安定化〕を図る。状態の安定化が得られたならACE阻害薬、利尿薬、MRA、ジギタリスなどの〔経口心不全治療薬〕への切り替えを行い、さらに〔β遮断薬〕導入を試みる。

ステージD(治療抵抗性心不全ステージ)

 〔体液管理〕と薬物療法が適正か、もう一度見直す。〔心臓移植〕の適応について検討する。心臓移植や〔補助人工心臓〕の適応でない場合は、本人や家族の同意のもとで苦痛の解除を主眼とする〔緩和ケア〕を行う。

薬物療法無効例の治療

 〔薬物療法〕が無効な場合の難治性心不全患者には、〔大動脈内バルーンパンピング(IABP*10)〕、心肺補助装置、補助人工心臓(VAD*11)の機械的補助循環がある。これらの装置は基本的に〔短期間〕の使用が基本だが、〔VAD〕は心臓移植までのつなぎで長期使用されている。

 また、器質的心疾患に伴う心不全患者で、〔持続性心室頻拍〕、心室細動、心臓突然死からの蘇生例では、〔植込み型除細動器(ICD*12)〕の使用も推奨される。

 さらに、左脚ブロックを伴う場合には、心不全の治療として両室ペーシングを行う〔心臓再同期療法(CRT*13)〕も行われるようになっている。

(平山 陽示)

虚血性心疾患

 心臓は全身に血液を送り出す〔ポンプ〕の働きをする臓器であり、1日約〔10万〕回も収縮と拡張を繰り返している。心臓自体も〔血液〕が必要であり、心臓に血液を送る血管は〔大動脈〕の近位部より分岐し心臓表面を走行する〔冠動脈〕である。虚血性心疾患とは冠動脈が〔動脈硬化〕などで狭くなったり、閉塞したりするために、その末梢に十分に〔血液〕を届けることができなくなり、〔心筋虚血〕が生じる疾患である。

臨床症状

 典型的な症状は前胸部絞扼感や〔重苦感〕で、重症例では冷汗や〔悪心〕などを伴う。〔労作性狭心症〕は冠動脈に器質的狭窄があっても〔安静時〕は症状を生じない。〔心筋酸素需要〕が増加する労作時に症状が生じるため、安静により〔胸痛〕は速やかに消失する。〔冠攣縮性狭心症〕は夜間から早朝にかけて、寒さや〔ストレス〕、飲酒などが誘因となり冠動脈が攣縮を起こし〔安静時〕に胸痛が生じる。不安定狭心症は労作時の胸痛の頻度と程度が〔重症化〕し、〔安静時〕にも胸痛が出現するようになった病態である。急性心筋梗塞は耐えがたい〔胸痛〕が20分以上持続し、しばしば〔冷汗〕を伴う。悪心・嘔吐、〔呼吸困難〕、動悸、失神を伴うこともある。〔糖尿病患者〕や高齢者の場合は典型的な症状を示さず、心不全が〔初発症状〕であることもある。

病因・病態

病因

虚血性心疾患の危険因子

 虚血性心疾患は〔動脈硬化〕を基盤として生じ、〔加齢〕、冠動脈疾患の家族歴、〔喫煙〕、脂質異常症(高LDL*1コレステロール血症≧〔140〕mg/dL、高トリグリセライド血症≧150mg/dL、低HDL*2コレステロール血症<40mg/dL)、〔高血圧〕、耐糖能異常(糖尿病、境界型糖尿病)、肥満、〔メタボリックシンドローム〕、慢性腎臓病(CKD)、精神的・肉体的ストレスが危険因子とされている。

病態(図3-7)

 

虚血性心疾患の発症機構

 心筋虚血は、心筋の酸素需要と供給の〔アンバランス〕によって生じる。正常の冠動脈は冠血流量を5~6倍に増加させる〔冠予備能〕を有している。冠動脈で〔アテローム動脈硬化〕が進み、内膜の肥厚病変である〔プラーク(粥腫)〕の形成などにより〔冠動脈狭窄〕が進行すると、労作による心筋酸素需要の増加が供給量を上回り〔心筋虚血〕が生じる(「疾病と治療-基礎」p.160参照)。冠攣縮性狭心症は冠動脈が〔一過性〕に攣縮し完全またはほぼ完全閉塞を起こし、〔灌流領域〕に虚血を起こす。

虚血性心疾患の分類

 器質的冠動脈狭窄により生じる〔労作性狭心症〕、冠動脈の攣縮による〔冠攣縮性狭心症〕、冠動脈プラーク破綻および血栓形成による〔急性冠症候群(ACS*3)〕に分けられる。

 a)労作性狭心症

 アテローム動脈硬化により冠動脈の〔血管内腔〕が狭くなるため、労作時に心臓の〔仕事量〕が増えるとそれに見合う〔酸素量〕が心筋に運ばれず、心筋虚血が起こり、〔狭心症〕が生じる。坂道を登るなど、発作の起きる労作の強さが一定で安定している場合は〔安定労作性狭心症〕と呼ぶ。〔不安定狭心症〕は急性心筋梗塞に移行する可能性のある重症な狭心症である。

 b)冠攣縮性狭心症

 冠攣縮とは冠動脈が一過性に収縮した状態で、〔スパズム〕と呼ばれる。夜間や早朝などに労作と関係なく〔胸痛発作〕が生じる。

c)急性冠症候群(ACS)

 不安定狭心症、急性心筋梗塞、虚血に基づく〔心臓突然死〕は、冠動脈プラークの〔破綻〕とそれに伴う血栓形成により冠動脈の〔高度狭窄〕や閉塞をきたす共通の病態であり、〔急性冠症候群〕と定義される。不安定狭心症と急性心筋梗塞は、最終的に〔心筋壊死〕を伴うか伴わないかの違いである。

検査・診断

安静時標準12誘導心電図

 虚血性心疾患の診断で〔最初〕に行われる基本となる検査である。〔心筋虚血〕や梗塞部位を評価する。心筋虚血で誘発される〔不整脈〕の検出にも有用である。狭心症の場合には症状が治まってしまうと〔心電図変化〕を認めないことが多い。

運動負荷心電図

 〔トレッドミル〕やエルゴメーター(自転車)、マスター負荷試験(階段昇降)などの運動負荷により〔心筋虚血〕を誘発し心電図変化を検出する。〔左脚ブロック〕やペースメーカー植込み患者では診断意義は低い。また、〔不安定狭心症患者〕には禁忌である。

24時間心電図(ホルター心電図)

 労作と関係なく安静時に胸痛が生じる〔冠攣縮性狭心症〕などの心電図変化をとらえるのに有用である。〔不整脈〕や無症候性心筋虚血の検出にも有用である。

心臓超音波検査

 不安定狭心症の一部と〔急性心筋梗塞〕では、冠動脈病変部位に一致した〔壁運動異常〕を認める。また、心機能の評価および心破裂や乳頭筋断裂などの〔機械的合併症〕の評価が可能である。狭心症は〔安静時〕に壁運動異常を認めないが、運動負荷や〔ドブタミン負荷〕により心筋虚血を誘発し壁運動異常を検出できる。

心臓核医学検査(心筋シンチグラフィ)

 〔アイソトープ製剤〕を用いた心筋血流評価が可能である。〔運動負荷〕または薬剤負荷時と安静時に2回撮像を行い比較することで、可逆性の虚血領域か、〔梗塞領域〕かを評価できる。

冠動脈CT検査

 冠動脈に高度の〔石灰化〕がなければ冠動脈造影に代用可能な〔検出能〕を有し、陰性的中率が高い検査である(図3-8a)。冠動脈内腔だけではなく、〔動脈壁〕も描出できるため、〔動脈硬化性プラーク〕の性状評価も可能であり、〔不安定プラーク〕を検出する評価法として期待される。

 

冠動脈造影(CAG)

 経動脈的に〔カテーテル〕を挿入し、直接冠動脈を造影する〔侵襲的〕な検査で、器質的狭窄の有無およびその〔重症度〕を評価することができ、〔治療方針〕の決定に不可欠である(図3-8b)。また、アセチルコリン負荷などの誘発試験により、〔冠動脈攣縮〕の有無を評価することが可能である。

 

心筋生化学マーカー

 急性心筋梗塞では、壊死した〔心筋〕から細胞内の成分が〔逸脱〕し、血液中に流れ出る。心筋梗塞の迅速診断には〔心筋トロポニン〕、心臓型脂肪酸結合タンパク(H-FABP*4)、ミオグロビンが有用である。〔クレアチンキナーゼ(CK)〕、CK-MB*5の上昇で心筋梗塞を確定診断する。CKの総遊離量は〔梗塞サイズ〕と相関する。近年、心筋トロポニンによる心筋梗塞の診断に移行しつつある。

治療

一般療法

 介入可能な〔冠動脈危険因子〕の管理を行う。禁煙指導、運動療法、〔食事療法〕、減塩に加え、肥満患者には〔減量〕が推奨される。

薬物療法

 動脈硬化予防に高血圧や〔糖尿病〕、脂質異常症などの治療薬を投与する。特に高LDLコレステロール血症には〔HMG-CoA還元酵素阻害薬〕の投与が有効である。

硝酸薬

 〔冠動脈〕の拡張、前負荷および後負荷の〔軽減〕により抗狭心症作用を示す。〔舌下投与〕により速やかに吸収され、〔胸痛発作〕の寛解に有効である。徐放薬や〔貼付薬〕は発作の予防に有効であるが、長期投与により〔耐性〕が生じる場合がある。

血管拡張薬

 ニコランジルは〔ATP感受性カリウムチャネル開口薬〕で冠動脈の拡張作用を示す。〔血圧低下〕をきたすことが少なく〔耐性〕も生じにくい。

β遮断薬

 〔心拍数減少〕、心収縮力抑制、血圧低下を示し、心筋酸素需要を減らすため、禁忌がなければ労作性狭心症の〔第一選択薬〕となる。心筋梗塞後の〔心不全発症予防〕にも有効である。

カルシウム拮抗薬

 〔冠攣縮〕を予防する最も有効な薬剤である。〔末梢血管〕を拡張し血圧を低下させ、〔後負荷軽減〕により心筋酸素需要を低下させる。

抗血小板薬、抗血栓薬

 アスピリンをはじめとする〔抗血小板薬〕は急性心筋梗塞の発症予防に有用である。冠動脈ステント留置術後には、アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬2剤を使用し、〔ステント血栓症〕を予防する。心房細動合併例では、〔抗凝固薬〕と合わせて3剤投与が必要になり、〔出血〕の合併症に注意が必要である。CAG検査や急性心筋梗塞の急性期では〔ヘパリン静注〕が行われる。

ACE阻害薬、ARB

 ACE阻害薬は〔心肥大〕や動脈硬化の進展、〔プラーク〕破綻、血栓症の抑制、〔血管内皮機能〕の改善、抗炎症作用により心筋梗塞発症を抑制する。〔空咳〕の副作用を伴うことがある。ARBはACE阻害薬と同様な効果が期待され、ACE阻害薬に対する〔忍容性〕の乏しい場合に選択される。〔空咳〕がなく、降圧作用が強い。

血行再建術

経皮的冠動脈インターベンション(PCI*6)

 〔安定労作性狭心症〕に対するPCI(図3-9)は薬物療法と生命予後に差がなく、〔狭心症症状〕を改善する治療である。これに対し〔急性冠症候群〕に対するPCIは生命予後を改善する。急性心筋梗塞では病院到着からPCIまで〔90分〕以内の施行が望ましい。PCI施行部位の〔再狭窄〕が問題であったが、〔薬剤溶出性ステント(DES*7)〕の登場により再狭窄が5%未満となり、ほぼ解決された。第一世代DESは〔遅発性血栓症〕の懸念があったが、〔第二世代DES〕ではこの問題もほぼ解決された。

 

冠動脈バイパス術(CABG*8)

 CABGは〔左冠動脈主幹部狭窄病変〕または冠動脈三枝病変などの〔PCI不適合例〕が適応になる。近年、〔人工心肺〕を用いない体外循環非使用冠動脈バイパス術が一般化してきている。

安定労作性狭心症の治療

 狭心症症状のコントロールに〔PCI〕は有効であるが、心筋シンチグラムなどにより〔心筋虚血〕を証明しなければ、〔生命予後改善〕にはつながらない。PCIは局所治療であり、〔新規冠動脈病変〕には全く無効であることから、〔冠動脈危険因子〕の是正が最も重要になる。

冠攣縮性狭心症の治療

 〔禁煙〕、心身の過労や飲酒を避けるなど、発作の誘因を避けるように、〔患者教育〕が重要である。特に〔禁煙指導〕は徹底する必要がある。〔カルシウム拮抗薬〕を中心とした薬物療法が有効であるが、発作が出現しやすい夜間から〔早朝〕にかけて、薬が最も作用するように投与時間および〔投与方法〕を考慮する必要がある。

急性冠症候群の治療

 冠動脈の〔完全閉塞〕による貫壁性心筋虚血が生じると心電図では梗塞部位に一致する誘導で〔ST上昇〕を認める。冠動脈の不完全閉塞による〔心内膜下虚血〕が生じる場合、非ST上昇型急性冠症候群を呈する。

ST上昇型心筋梗塞

 急性心筋梗塞の〔初期対応〕として、モルヒネ投与(M)、〔酸素吸入(0)〕、硝酸薬舌下(N)、アスピリン投与(A)が重要で、頭文字をとり〔MONA〕と呼ばれる。できるだけ早期にPCIなどの〔再灌流療法〕を行い梗塞範囲の〔縮小〕に努める。術後の心不全予防、〔左室リモデリング抑制〕にβ遮断薬、ACE阻害薬、ARBを早期から〔少量漸増投与〕する。心不全や〔ショック〕を伴う例には、大動脈内バルーンパンピング(IABP)(図3-10)、経皮的心肺補助装置(PCPS*9)を使用する。再灌流療法後は〔心室不整脈〕が生じやすいために注意を要する。

 

非ST上昇型急性冠症候群(非ST上昇型心筋梗塞、不安定狭心症)

 急性冠症候群のリスク分類により低リスク群では、〔ヘパリン静注〕、抗血小板薬、β遮断薬、硝酸薬などにより安定化を図り〔保存的治療〕を行う。〔胸痛〕が20分以上、心筋トロポニン上昇などを認める中等度リスク以上では〔集中治療室〕での管理が必要で、繰り返す安静時胸痛や〔心不全〕、重篤な不整脈を合併する場合は、〔緊急PCI〕を行う。

二次予防管理

 食事療法、〔運動療法〕、禁煙指導、飲酒管理などの一般療法と〔患者教育〕が重要である。〔心臓リハビリテーション〕は心筋梗塞患者や心臓バイパス術後の患者には特に有効である。薬物療法では〔再発予防〕と心不全発症予防のために、抗血小板薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬、β遮断薬、ACE阻害薬、〔ARB〕投与が推奨される。高トリグリセライド血症、低HDLコレステロール血症を有する場合は、〔エイコサペンタエン酸(EPA)〕が有効である。

 急性冠症候群でLDLコレステロール管理目標値〔70mg/dL〕未満を達成できない場合は、スタチン最大耐用量に加えて、〔エゼチミブ〕やPCSK9阻害薬の併用を考慮する。

(渡邊 哲/久保田 功)

不整脈

 不整脈とはさまざまな〔遺伝素因〕や環境ストレスにより、規則的な〔調律〕が崩れた状態で、正常な〔興奮伝導〕が伝わりにくい、あるいは異常な興奮が発生することにより生じる〔頻脈性不整脈〕と徐脈性不整脈に分類される。頻脈性不整脈は不整脈の発生部位により、上室不整脈と〔心室不整脈〕に分けられる。健常者にみられる〔無症候性〕の不整脈は治療の対象にならないことが多い。一方、心疾患患者にみられる不整脈は病態の増悪因子となり、〔突然死〕の原因になることもあり注意を要する。

臨床症状

 最も頻度の高い上室および〔心室期外収縮〕は無症状のことが多いが、脈の〔結滞〕として自覚することがある。高齢者に多く認める〔心房細動〕は、脈が不規則で〔動悸〕や胸痛、息切れを訴えることが多い。規則正しい頻脈による動悸を訴える場合は、〔発作性上室頻拍〕が疑われる。めまいや意識消失を伴う場合は、〔心室頻拍〕や心室細動など致死性頻脈性不整脈を疑うとともに、〔徐脈性不整脈〕も疑われる。

病因・病態

病因

 不整脈発生のメカニズムとしては〔異常自動能〕、triggere dactivity(撃発活動)、〔リエントリー〕が提唱されている。生理的な自動能異常では、〔交感神経緊張〕によるβ受容体刺激により洞房結節自動能が亢進し〔頻脈〕となる。一方、〔副交感神経緊張〕によるM2受容体刺激では洞房結節の自動能は減弱し〔徐脈〕となる。病的な自動能亢進としては、急性心筋梗塞の梗塞巣付近の〔傷害心筋〕が原因となる場合や、甲状腺機能亢進症で〔洞頻脈〕が生じることなどが知られている。撃発活動は心筋の再分極中に生じる小さな〔脱分極〕が引き金になって起こる異常電気活動であり、〔ジギタリス〕、カテコールアミン、抗不整脈薬、虚血再灌流障害などにより生じる。リエントリーは解剖学的構造や病態により、〔興奮波〕が心臓内で旋回して、同一場所を〔再興奮〕させることで不整脈が生じる。加齢、高血圧、心不全、〔弁膜症〕などさまざまな疾患により不整脈が発症しやすくなるが、明らかな〔基礎疾患〕を認めなくても不整脈が生じる。

病態(図3-11)

 

頻脈性不整脈

 a)上室期外収縮、心室期外収縮

 両者とも日常臨床で最も頻度の〔高い〕不整脈である。無症状で、〔基礎心疾患〕がなく、血行動態や心機能に影響を与えない場合は、〔治療〕を必要としない。

 b)発作性上室頻拍

 心拍数が〔150~200〕/分程度の規則正しい頻拍を呈する。頻拍の開始と停止の〔タイミング〕を自覚することが多い。〔先天性〕に副伝導路(ケント束)が房室弁輪に存在する〔WPW症候群〕*1では、発作性上室頻拍が生じやすい。

 c)心房細動、心房粗動

 心房細動は、400~600/分で〔心房〕が興奮する不整脈であり、〔高齢者〕に多い。1秒間に10回心房が興奮し、心房はほぼ収縮しない状態のため左心耳内に〔血栓〕が生じやすくなり、〔心原性脳塞栓症〕の原因となる(p.24参照)。心房の興奮(細動波)が〔房室結節〕を介し心室に伝わる割合で、徐脈になったり、〔頻脈〕になったりする。脈は不規則で、〔絶対性不整脈〕と呼ばれる。心房粗動は、〔240~340〕/分で心房が興奮する不整脈である。心房の興奮(〔粗動波〕)が心室に伝導する比率は4:1や〔2:1〕が多い。房室伝導比が増加すると〔動悸〕を自覚しやすい。両者はしばしば〔合併〕する。

 d)心室頻拍、心室細動

 心室頻拍は、碁礎心疾患がない〔特発性心室頻拍〕と、心筋梗塞や心筋症などの基礎心疾患に伴い発生する〔心室頻拍〕がある。〔血行動態〕が不安定化し、〔失神〕や突然死の原因となる場合がある。心室細動は、〔心室筋〕が無秩序に興奮している状態であり、数分で死に至る〔致死性不整脈〕である。

 e)QT延長症候群

 心筋細胞の活動電位が長くなり、心電図上〔QT間隔〕が延長する。〔トルサード・ド・ポアンツ〕と呼ばれる多形性心室頻拍の原因となる。心筋細胞イオンチャネルの〔遺伝子異常〕による先天性QT延長症候群と、〔薬剤〕などによる二次性QT延長症候群がある。

徐脈性不整脈

 a)洞不全症候群

 〔器質的障害〕やさまざまな外因による洞房結節自動能の抑制、〔洞房伝導抑制〕により生じる。心拍数50/分未満の〔持続性洞徐脈〕、洞停止または〔洞房ブロック〕、発作性上室頻拍や心房粗細動の停止後に生じる洞停止(〔徐脈頻脈症候群〕)に分類される。

 b)房室ブロック

 心房・心室間の興奮伝導障害を〔房室ブロック〕という。伝導障害の程度により〔I~Ⅲ〕度に分類される。

検査・診断

心電図

 安静時標準12誘導心電図は〔不整脈〕の有無の確認のみならず、心疾患の有無、〔電解質異常〕の有無など得られる情報は多い。運動負荷心電図では不整脈の〔運動誘発性〕や虚血性変化の有無を評価する。24時間ホルター心電図は〔発作性〕の不整脈発見に有用である。不整脈の総数や頻度、〔頻発時間帯〕の把握にも有用である。

心臓超音波検査

 不整脈の原因となる〔基礎心疾患〕の有無を非侵襲的に検出できる。心房細動の罹病期間が長くなると〔左房拡大〕が生じる。脳梗塞の原因となる左心耳内血栓の確認には〔経食道心エコー〕が有用である。

血液検査

 基礎心疾患の危険因子となる〔生活習慣病〕の有無を確認するとともに、心臓の収縮運動にかかわる〔電解質〕の異常などを検査する。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)や〔脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)〕は、心不全の有無や〔重症度〕の判定に有用である。

治療

一般療法

 不整脈の原因となる〔基礎疾患〕を治療する。虚血性心疾患に伴う心室不整脈は、〔冠血行再建術〕により改善する。また、心房細動は心不全治療や〔心臓弁膜症〕の手術、甲状腺機能亢進症の治療で改善する場合がある。服用薬剤の〔催不整脈作用〕にも注意が必要である。

薬物療法

 心筋梗塞後の心室不整脈の抑制を目的とした〔CAST*2試験〕では、フレカイニド酢酸塩などナトリウムチャネル遮断薬投与で、むしろ〔死亡率〕が増加した。低心機能患者に対し〔心抑制〕の強い抗不整脈薬投与は〔禁忌〕である。心房細動の薬物治療でも、抗不整脈薬による〔洞調律維持治療〕(リズムコントロール)と心拍数調節治療(レートコントロール)を比較したAFFIRM*3試験において〔予後〕に差がなく、むしろ〔レートコントロール群〕で予後がよいことが示された。心房細動の治療では、まず心原性脳塞栓症予防に〔抗凝固療法〕を行うことが重要である。

 基礎心疾患のない〔動悸症状〕の強い不整脈に関しては、QOLを改善するために〔抗不整脈薬投与〕が是認される。しかし、心筋梗塞や心不全など低心機能患者には、β遮断薬やACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などによる〔基礎心疾患〕の治療が優先される。以下に、ボーン・ウィリアムズによる抗不整脈薬分類を示す。

クラスⅠ群薬

 ナトリウムチャネル遮断薬は心筋の〔活動電位持続時間(APD*4)〕を延長させるIa群、短縮させるIb群、APD不変であるが強い〔伝導抑制〕をもつIc群に分類される。Ia群は〔キニジン硫酸塩〕、プロカインアミド塩酸塩、ジソピラミドなどがあり、心房および〔心室不整脈〕に有効である。抗コリン作用や〔QT延長〕を生じやすい薬剤があるので注意が必要である。Ib群はリドカイン塩酸塩、〔メキシレチン塩酸塩〕、アプリンジン塩酸塩などがあり、〔心抑制〕が少ないために安全で、〔心室不整脈〕に有効である。Ic群は〔フレカイニド酢酸塩〕、プロパフェノン塩酸塩、ピルシカイニド塩酸塩などがあり、〔心房細動〕に有効である。心抑制が強いので〔低心機能患者〕には用いない。

クラスⅡ群薬

 プロプラノロール塩酸塩や〔アテノロール〕などのβ遮断薬が属する。厳密には抗不整脈薬ではないが、〔交感神経緊張〕により生じている不整脈には有効である。低心機能患者には心不全治療と同様に〔少量漸増投与〕が必要である。

クラスⅢ群薬

 〔カリウムチャネル遮断薬〕は心筋の再分極を遅らせ、活動電位持続時間を延長させ、抗不整脈効果を発揮する。〔アミオダロン塩酸塩〕やソタロール塩酸塩などがある。アミオダロン塩酸塩は低心機能患者にも有効であるが、〔甲状腺機能異常〕や肺線維症などの副作用に注意が必要である。

クラスⅣ群薬(カルシウム拮抗薬)

 〔ベラパミル塩酸塩〕およびジルチアゼム塩酸塩の非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と、カリウムチャネル遮断作用を有する〔ベプリジル塩酸塩〕などが含まれる。前者は房室伝導を抑え、〔発作性上室頻拍〕などに有効であるが、後者は心房細動の〔洞調律化〕にも有効である。

アデノシン三リン酸(ATP*5)

 〔ボーン・ウィリアムズ分類〕に含まれない抗不整脈薬である。ATPは〔発作性上室頻拍〕の停止効果に優れ、〔第一選択薬〕として使用される。急速静注されたATPは直ちに代謝を受けて〔アデノシン〕に変換され、洞房結節の自動能を抑制するとともに、〔房室伝導〕を抑えることで不整脈を停止させる。

非薬物療法

カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)

 不整脈の原因となる心筋組織を〔高周波通電〕によって焼灼する方法で、発作性上室頻拍や〔心房粗動〕、特発性心室頻拍の非常によい適応である。近年、発作性心房細動に対する〔肺静脈隔離術〕が確立し普及している。

植込み型除細動器(ICD*6)

 ICDは一時的に〔電気ショック〕を与えて不整脈を止める除細動器で、致死性心室不整脈による〔突然死予防〕に極めて有効である。基礎心疾患に伴う〔致死性不整脈〕の二次予防のみならず、〔低心機能患者〕の一次予防にも有効である。また、QT延長症候群の〔二次予防〕にも有効である。しかし、心室不整脈の〔発症予防〕にはならないことから、頻回作動する場合はアミオダロン塩酸塩投与や〔カテーテルアプレーション〕を行う。

ペースメーカー植込み術

 洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈に対する有効な薬剤は〔少ない〕。めまいや失神、息切れなど自覚症状を伴う〔徐脈性不整脈〕には、心臓の脈を常時確認し、設定以下の心拍数になると心臓に刺激を加えて〔心拍数〕を一定以上に保つ〔ペースメーカー植込み術〕が行われる。

自動体外式除細動器(AED*7)

 AEDは〔一般市民〕が使用できるように心電図の判定が自動化された〔除細動器〕である。心室細動が検出されると〔除細動ボタン〕を押すように指示が出される。胸骨圧迫など〔心肺蘇生〕とともに行われる。

(渡邊 哲/久保田 功)

その他の循環器系の疾病

心臓弁膜症

 心臓の弁が十分に開放しない〔狭窄症〕と、きちんと閉鎖せずに血液が逆流する〔閉鎖不全症〕を総称して〔心臓弁膜症〕と呼ぶ。問題となるのは大動脈弁の狭窄症と閉鎖不全症、〔僧帽弁〕の狭窄症と閉鎖不全症、〔三尖弁閉鎖不全症〕である。かつての主要原因はA群β溶血性連鎖球菌感染に続発する〔リウマチ熱〕であったが、近年は動脈硬化による高齢者の〔大動脈弁狭窄症〕と腱索や弁尖の変性による〔僧帽弁閉鎖不全症〕が多い。大動脈弁狭窄症では進行すると〔狭心症〕、失神、心不全が出現する。僧帽弁閉鎖不全症が進行すると〔心不全〕が出現する。どちらの疾患も診断には〔心臓超音波検査〕が有用である。大動脈弁狭窄症は〔投薬〕で血圧を十分に低下させてコントロールし、上記の症状が出現するか左室-大動脈圧較差が〔50〕mmHg以上となれば手術による〔大動脈弁置換術〕を考慮する。大動脈弁閉鎖不全症と僧帽弁閉鎖不全症では〔容量負荷〕による心不全を管理しながら、左室拡大や〔左室収縮能〕の低下が認められる場合には〔外科手術〕の適応を考慮する。

大動脈瘤

 大動脈瘤は〔大動脈壁〕の一部がもろくなり、その血管径が正常の1.5倍以上に拡張して〔腫瘤状〕に変化した状態である。一部は〔遺伝性〕であるものの、多くは〔高血圧〕・動脈硬化をもとにしており、わが国において増加している疾患である。大動脈瘤の壁構造から真性、仮性、〔解離性〕に分類される。真性は本来の血管壁成分(内膜、中膜、外膜)を残しているが、仮性は〔血管壁成分〕をもたず、解離性は大動脈の〔中膜〕が内外2層に解離している。ほとんどは〔無症状〕で経過するが、胸部の場合には大動脈瘤の拡大により〔圧迫症状〕として嗄声、呼吸困難、〔嚥下困難〕などが現れる。大動脈瘤が自然に小さくなることはなく、〔破裂〕すると重症となり、〔突然死〕の可能性も高い。検査としては造影CTや〔MRA〕が有用で、瘤の直径が〔5cm〕を超えるか、年に4mm以上で急速に拡大する症例では〔手術〕が検討される。内科的には瘤の拡大を防ぐために〔降圧療法〕を厳密に行う。〔禁煙〕も重要である。

急性大動脈解離

 大動脈壁の〔内膜〕に亀裂が生じ、そこから血液が流れ込んで中膜が〔内外2層〕に引き裂かれた病態を指す。大動脈瘤と同様に一部は〔遺伝性〕であるものの、多くは高血圧・動脈硬化をもとにしている部位により〔胸部大動脈解離〕と腹部大動脈解離に分けられる。解離による症状は突然の強い胸痛・〔背部痛〕であり、破裂すると〔出血性ショック〕や失神などが起こる。大動脈起始部で解離が起こると〔心タンポナーデ〕や心筋梗塞を引き起こしたり、〔大動脈弁閉鎖不全〕を併発することがある。検査としては〔緊急造影CT〕が最も有用で、大動脈内に〔内膜フラップ〕(剥離内膜)が認められる。まず〔疼痛〕と血圧のコントロールを行い、基本的に〔人工血管置換術〕や自己大動脈弁温存術などによる外科手術が必要となる。

下肢静脈瘤

 静脈の弁不全による血液の〔逆流〕が主な原因となり、〔下肢表在静脈〕が拡張し瘤状になったものである。〔女性〕に多く、妊娠・〔出産〕を契機とすることが多い。血液のうっ滞による表在静脈の〔怒張〕、下腿の〔浮腫〕、疲労感などの症状を呈し、長時間の立位の仕事に従事する場合は〔重症化〕する傾向がある。重症化すると色素沈着や〔皮膚潰瘍〕を形成する。〔不可逆性〕の変化であり、〔自然治癒〕することなく徐々に進行する。〔視診〕による診断が重要だが、超音波検査で〔下肢静脈〕の観察が行われる。しばしば弾性包帯や弾性ストッキングによる〔圧迫療法〕で経過観察するが、皮膚病変のある〔伏在型静脈瘤〕はストリッピング術という血管病変の抜去切除術の対象となる。ほかに病変部に針で硬化剤を注入し、病変を小さくする〔硬化療法〕や、弁不全が生じている静脈内ヘレーザーファイバーを挿入し、血管内でレーザーを照射して静脈瘤を閉塞させる〔レーザー治療法〕がある。生命予後は〔良好〕である。

静脈血栓症

 血栓形成の誘発因子として、血流の〔停滞〕、血管壁の障害、〔血液凝固能〕の亢進がある。静脈血流は静脈弁基部に存在する〔静脈洞内〕でよどみを生じやすく、〔血栓〕が形成しやすい。中でも骨盤内から下肢の〔深部静脈〕に血栓を形成したものは〔深部静脈血栓症(DVT*1)〕と呼ばれ、〔肺血栓塞栓症〕の原因として重要である(p.73参照)。〔長期臥床〕ではDVTを生じるため、入院患者や周術期の〔予防〕が重要である。四肢の色調変化や〔腫脹〕を確認するとともに、〔触診〕により深部静脈や筋群の性状を判定する。画像検査では〔静脈超音波検査〕、造影CT、静脈造影が有用である。薬物療法としては血栓症の進展や再発を予防するための〔ヘパリン〕とワルファリンカリウムの組み合わせが必須である。また、急性期であればカテーテルを用いた治療として、〔少量ウロキナーゼ〕を用いた血栓溶解療法や〔血栓吸引療法〕がある。〔全身麻酔下〕にカテーテルを使って血栓を摘出する方法もある。肺血栓塞栓症を予防する目的で下大静脈に〔フィルター〕を留置する治療も行われている。

ショック

 ショックとは「組織の酸素需要と供給の〔不均衡〕をもたらす、全身の〔循環障害〕」と定義される。組織にとって、酸素不足は初期には〔可逆的〕だが、急速に〔不可逆的〕となり、細胞死から〔多臓器不全〕、そして死へと至るため〔集中治療〕が必要となる。ショックはその病態により大きく以下の4つに分類されている。

 ①〔脱水〕や出血などによって起こる循環血液量減少性ショック。

 ②急性心筋梗塞などによって心拍出量が低下することで起こる〔心原性ショック〕。

 ③〔敗血症性〕やアナフィラキシーなどの原因で〔末梢血管〕が拡張して起こる血液分布異常性ショック。

 ④〔肺塞栓症〕や心タンポナーデ、緊張性気胸などによる〔静脈還流〕が低下して血圧が低下する心外閉塞・拘束性ショック。

 ショックの一般的な症状は、〔顔面蒼白〕や冷汗、虚脱脈拍触知不能、呼吸不全である。ショックにはさまざまな原因があるため共通の診断基準を確立することは難しいが、ショックと診断したならば〔一次救命処置〕、二次救命処置を行い、次の段階でショックの〔鑑別〕を行う。心原性ショックならば〔原疾患〕の治療を行うが、心原性ショックでなければ、治療の第一選択は〔大量輸液〕となる。

(平山 陽示)