脳・神経系

脳・神経系の疾病(総論)

脳・神経系の疾病

 脳・神経系において、神経組織に過度の〔ストレス〕、ストレス障害、不安などが加わると、これらを原因として〔精神症状系〕の疾病を発症する。主に精神科、〔神経内科〕、心療内科などが対応する。

 脳や脊髄などの神経組織に障害が加わると〔脳・脊髄系〕の疾病が発症する。神経細胞の〔変性〕や神経伝達物質の〔伝達異常〕、神経細胞の異常放電、感染症、脳動脈領域の血管の破綻による〔虚血〕や梗塞、塞栓・出血、悪性腫瘍、外傷(挫傷、頭蓋内血腫)などによる〔神経損傷〕などが原因となる。主に神経内科、〔脳神経外科〕が対応する。

 脳・脊髄に出入りする神経に障害が起きると〔末梢神経系〕の疾病が発症する。末梢神経の障害、〔自律神経〕のバランスなどが原因となる。主に〔神経内科〕が対応する。

 本章ではこの中で、MRの基礎知識として重要と思われる疾患を詳細疾患または概要疾患として解説し、その主な検査と治療を解説する。

 

脳・神経系の検査

 脳神経系の疾病では、急性症状や〔合併症〕の把握、血圧、〔バイタルサイン〕を確認し、一般検査を実施する。精神症状に対しては問診や〔抑うつ尺度〕などの質問票による検査などを行う。脳・神経系の疾病が疑われる場合は、意識、〔脳神経〕、運動系、感覚系、小脳系を診察し、脳・神経系の検査を行う。

 

 

 

 

脳・神経系の治療

 精神症状系の疾病に対しては、症状に応じた薬物療法や〔精神療法〕などの非薬物療法を行う。

 脳・脊髄系の疾病では、薬物療法、外科的治療、〔リハビリテーション〕など多岐にわたる治療を行う。

 

 

 

うつ病

 うつ病は〔抑うつ気分〕、興味や喜びの喪失、〔気力〕の低下、〔不眠〕などの症状が続き、強い苦痛や社会的・職業的機能の障害を引き起こす疾患である。わが国のうつ病の生涯有病率は〔6.7〕%と報告されており、若年者と〔中高年〕に多いのが特徴である。また〔女性〕の有病率が高く、男性の約2倍といわれている。発症には〔遺伝的要因〕や性格傾向、環境要因などの関与が指摘されており、生物学的には古くから〔モノアミン仮説〕が提唱されてきた。うつ病の治療では日本うつ病学会のガイドラインに沿って、軽症では〔精神療法〕、中等症および重症では〔薬物療法〕が第ー選択となり、必要に応じて併用が行われる。うつ病の〔半数〕以上が1年以内に回復するが、初発のうつ病患者の約〔50〕%が再発するといわれている。

臨床症状

抑うつ状態

 うつ病では〔抑うつ気分〕や不眠などを自ら訴えて、または暗い表情や元気のない態度を心配した〔周囲〕に促されて来院する患者が多い。しかし、中には頭痛や〔肩こり〕、胸部や腹部の不快感、倦怠感などの〔身体的不調〕だけを強く訴える場合もあるため、〔抑うつ状態〕の存在を見逃さないことが重要である。

 うつ病は〔躁状態〕(爽快気分、多動・多弁、易怒など)がないことが診断基準の一つになるが、当初はうつ病と考えられていた患者の一部が後に躁状態を呈し、〔双極性障害〕であったことがわかることもある。

精神症状

 ①抑うつ気分 気が滅入る、〔落ち込む〕、感情が湧かない。

 ②興昧や喜びの喪失 〔興味〕や関心がなくなる、以前楽しめていたことが楽しくない。

 ③精神運動の焦燥・制止 〔落ち着かない〕、行動が〔遅い〕、話すスピードが遅くなり、声量や抑揚も減少する。

 ④疲労感・気力の減退 〔億劫さ〕、例えば朝の洗面や着替えにかなりの努力を要し、時間もかかる。

 ⑤無価値感・罪責感 自分には価値がないと思う、過去の〔些細な失敗〕を思い悩む、時に〔妄想的〕になる。

 ⑥思考力や集中力の減退・決断固難 考えがまとまらない、〔些細な決断〕を下すことができない、時に〔記憶障害〕がみられる。

 ⑦死についての反復思考 自殺念慮、〔自殺企図〕がある。

身体症状

 ①睡眠障害 〔不眠〕または過眠

 ②食欲または体重の変化 食欲低下または増加。〔体重減少〕または増加。

 そのほかにも、〔倦怠感〕、頭痛または頭重、肩こり、めまい、〔耳鳴り〕、口渇、味覚障害、〔動悸〕、胸部不快感、呼吸困難感、悪心、腹部不快感(膨満感など)。便秘・下痢、頻尿または〔排尿困難〕、性欲減退などさまざまな身体症状が現れる。

病因・病態

 うつ病の発症には、遺伝的要因、〔性格傾向〕、環境要因などが関与すると考えられている。

病因

 うつ病患者の〔第一度近親者〕(実の親子、兄弟姉妹)では、うつ病の発症の危険性が通常より〔2~4〕倍高くなる。病前性格としては、〔几帳面〕で責任感が強く、秩序や他者との関係に気を遣うことなどが特徴である。〔メランコリー親和型性格〕との関連が知られているが、最近ではうつ病も〔多様化〕し、必ずしも関連がみられるわけではなくなってきている。〔環境要因〕では、親との早期の死別、虐待など幼少期の不幸な体験、ストレスの多いライフイベントなどの影響が指摘されている。

有病率

 わが国のうつ病の生涯有病率は6.7%(約〔15〕人に1人がうつ病を経験する)と報告されており、〔若年者〕と中高年に多いのが特徴である。〔女性〕の有病率が高く、男性の約2倍といわれているが、症状や経過、〔治療反応性〕には明らかな性差は認められない。〔自殺企図〕のリスクも女性のほうが高いが、〔自殺既遂〕は男性のほうが多い。半数以上が〔1年〕以内に回復するが、〔再発〕もしやすい。初発のうつ病患者においては約〔50〕%が再発する。

病態

 うつ病の発症についての古典的仮説として、〔モノアミン仮説〕がある(図2-1)。うつ病では、神経伝達物質である〔モノアミン〕(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど)が不足しており、神経伝達系が〔機能不全〕に陥っていると仮定されている。〔シナプス間隙〕に放出されたモノアミンは、シナプス前モノアミントランスポーターで〔再取り込み〕されるが、〔抗うつ薬〕はこのトランスポーターでの再取り込みを阻害することで〔モノアミン〕を増加させ、抑うつ状態を改善すると考えられている。この仮説は〔抗うつ薬〕のこの働きに基づいているが、いまだ直接的な〔エビデンス〕は得られていない。うつ病の原因としては、このほかにも、視床下部-〔下垂体〕-副腎皮質系仮説、脳由来神経栄養因子や〔炎症性サイトカイン〕などの関与も報告されている。

 

検査・診断

 うつ病の診断には、〔問診〕により患者本人や家族から現在の症状と病歴、生活歴、性格傾向、〔家族歴〕などを聴取するとともに、診察室での患者の表情や〔態度〕、話し振りなどを観察することが重要である。また、一般身体疾患や薬物など〔物質誘発性〕の精神障害を除外するため、身体疾患の既往や〔薬物使用〕の有無、飲酒歴などの聴取、身体診察、必要に応じて〔身体的検査〕を行うこともある。

検査

 身体的検査では特異な所見は認めないが、身体診察、一般臨床検査、脳波、〔脳画像検査〕などは、一般身体疾患による精神障害を〔除外〕するために有用である。〔抑うつ尺度〕などの質問紙は診断や〔治療経過〕の評価に役立つ。

診断

 診断には、WHOの「〔国際疾病分類第10版(ICD-10)〕」またはアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」が広く用いられている。DSM-5の診断基準では、表2-1にある症状のうち、〔5つ〕以上が〔2週間〕続き、強い苦痛や社会的、職業的な障害を引き起こしている場合に〔うつ病〕と診断される。

 

治療

 日本うつ病学会の治療ガイドラインは、軽症例では〔精神療法〕を行い、その後、必要に応じて〔薬物療法〕を開始するよう奨励している。

 中等症および重症例では〔薬物療法〕が選択され、状態に合った〔精神療法〕が併用される。難治性の場合は、〔修正型電気けいれん療法〕が実施されることがある。

薬物療法

急性期治療

 薬物療法では、〔抗うつ薬〕を十分な量と期間で使用する必要がある。〔忍容性〕の観点から第一選択薬となるのは〔選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSR1*1)〕、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI*2)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA*3)のいずれかである。

 抗うつ薬の投与開始初期には、中枢の過剰刺激により不安や焦燥、〔パニック発作〕、不眠、易刺激性、衝動性、〔アカシジア〕、躁状態などがみられるアクチベーション(賦活)症候群、〔24〕歳以下の若者では自殺関連行動のリスクが亢進することに注意する。投与開始後、効果発現までには〔1~2週間〕かかり、治療用量を〔4~8週間〕続けても症状が改善しない場合には治療薬の再検討を行う。

維持期治療

 症状が軽快した維持期には、再発予防のために急性期と〔同用量〕の抗うつ薬を、初発の場合は6か月以上、再発の場合は〔1~3年間〕継続することが推奨される。原則として早急な減薬はしない。

抗うつ薬の中止

 抗うつ薬を中止する際には数週間かけて〔漸減中止〕する。急激な中止によって出現する〔頭痛〕やめまい、悪心、感冒様症状、不安、焦燥といった〔中断症候群〕を生じることもあるが、抗うつ薬の〔再開〕により通常は軽快する。

主な抗うつ薬の特徴

 a)SSRI

 SSRIは、〔セロトニン〕の再取り込みを〔選択的〕に阻害し、シナプス間隙の〔セロトニン〕を増加させる作用をもつ抗うつ薬である。フルボキサミンマレイン酸塩や〔パロキセチン塩酸塩〕などが代表薬である。SSRIは三環系抗うつ薬に比べ副作用は〔少ない〕が、悪心などの〔消化器症状〕、性機能障害のほか、中枢セロトニン活動亢進による不安、焦燥、錯乱、〔ミオクローヌス〕、腱反射亢進、振戦、発熱、発汗などを生じる〔セロトニン症候群〕などにも注意が必要である(表2-2)。セロトニン症候群と診断された場合は、原因となる〔抗うつ薬〕の投与を中止し、全身管理を行う。

 

 b)SNRI

 SNRIは、セロトニンおよび〔ノルアドレナリン〕の再取り込みを阻害し、シナプス間隙の〔セロトニン〕およびノルアドレナリンを増加させる作用をもつ抗うつ薬である。ミルナシプラン塩酸塩や〔デュロキセチン塩酸塩〕などが代表薬である。SNRIも副作用は〔少ない〕が、SSRIと同様に〔悪心〕などの消化器症状、セロトニン症候群などが生じることがある。また、〔排尿障害〕にも注意が必要である。

 c)NaSSA

 NaSSAの主な作用は、〔α2受容体遮断作用〕であり、相互作用している〔ノルアドレナリン〕とセロトニンの放出を促進し、さらに特異的に〔5-HT*41受容体〕を刺激することにより抗うつ作用を示す。〔ミルタザピン〕が代表薬である。また、シナプス後セロトニン受容体である〔5-HT2受容体〕、5-HT3受容体および〔ヒスタミンH1受容体〕の遮断作用もあることから、悪心などの消化器系の副作用は少ないが、眠気や〔体重増加〕がみられやすい。

 d)三環系抗うつ薬/四環系抗うつ薬

 三環系抗うつ薬は、ノルアドレナリンやセロトニンなどのモノアミンの再取り込みを〔非選択的〕に阻害し、シナプス間隙の〔モノアミン〕を増加させる作用をもつ抗うつ薬である。〔イミプラミン塩酸塩〕やアモキサピンなどが代表薬である。特に〔重症うつ病〕に対して高い効果が期待できるが、〔抗コリン作用〕、抗ヒスタミン作用、抗アドレナリン作用、キニジン様作用などをもつため、多くの〔副作用〕が生じやすい。

 ①抗コリン作用 〔口渇〕、便秘、眼の調節障害、〔排尿困難〕、頻脈、記憶障害、せん妄など。

 ②抗ヒスタミン作用 〔眠気〕、体重増加など。

 ③抗アドレナリン作用 〔起立性低血圧〕など。

 ④キニジン様作用 心伝導障害(心電図上の〔QT間隔延長〕など)。

 〔四環系抗うつ薬〕は、三環系抗うつ薬につぐ抗うつ薬として、〔SSRI〕が登場するまで広く使用されていた。マプロチリン塩酸塩は〔ノルアドレナリン〕再取り込み阻害作用をもつ。ミアンセリン塩酸塩とセチプチリンマレイン酸塩は強い〔α2受容体遮断作用〕によりノルアドレナリンの放出を増加させることで抗うつ作用を示す。

気分安定薬の特徴

 双極性障害の〔躁病急性期〕と再発予防(維持)に効果をもつ薬剤を〔気分安定薬〕という。わが国で使用されている気分安定薬には、炭酸リチウム、〔バルプロ酸ナトリウム〕、カルバマゼピン、ラモトリギンがある。また、非定型抗精神病薬である〔オランザピン〕、アリピプラゾールなども〔双極性障害〕の治療に用いる。標準的な治療を行っても改善が得られない〔難治性〕のうつ病に対しては、抗うつ薬と、〔炭酸リチウム〕や非定型抗精神病薬を併用することがある。

非薬物療法

精神療法

 精神療法の基本は、〔心理教育〕と支持的精神療法であり、必要に応じて、〔認知行動療法〕や対人関係療法などの精神療法も行われる。

 ①心理教育 うつ病がどのような病気であり、どのような〔治療〕が必要なのかなどを説明し、患者・家族の意向を把握しながら〔治療目標〕を共有する。

 ②支持的精神療法 うつ病患者の言葉に対して〔批判〕や解釈をすることなく、一貫して〔支持〕を続ける。

 ③認知行動療法 うつ病患者の〔悲観的思考〕を検証し、それに代わる柔軟で〔肯定的〕な認知(もののとらえ方)を身につける。

 ④対人関係療法 うつ病患者と「重要な〔他者〕」との現実的な関係に焦点を当てながら、人間関係上の問題を解決していく。

修正型電気けいれん療法

 症状が〔重篤〕であったり、薬物療法を十分行っても〔改善〕がみられない、高齢者や身体合併症などで〔薬物療法〕が行えないなどの〔難治性〕の場合に施行されることがある。麻酔科医による呼吸循環管理のもと、〔静脈麻酔薬〕や筋弛緩薬を用いた前処置を行った後に、頭部への〔通電〕を行う。通常は、週〔2~3〕回施行され、数回目から効果が現れ始める。〔施行回数〕は決まっておらず、症状の改善が終了の目安になる。

自殺予防

 うつ病患者の自殺は病初期と〔回復期〕に多い。「死にたい」、「自殺する」と直接的に言葉にする場合だけでなく、「生きている意味がない」、「どこかに行ってしまいたい」などの言葉や、周囲に不自然な〔感謝〕の念を伝える場合には、〔自殺の可能性〕に十分注意する必要がある。自殺を考えるほどの患者のつらさを理解した上で〔自殺リスク〕の評価を行い、早期に対処ができるようにする。

CaseStudy

 45歳の男性

 約6か月前に昇進して本社勤務となった会社員。着任直後から大きなプロジェクトを任されていたが、慣れない業務に戸惑いを感じていた。3か月前から寝つきが悪くなり、頭痛や倦怠感も続くようになった。胃のむかつきも出現し、体重も減ったが近医での精査では特に異常は指摘されなかった。仕事を休むことはなかったが、口数も少なくなり、疲れた様子で夜遅くまで1人で仕事をしているのを心配した上司に勧められ、産業医面談を受けることになった。

 面談では、身体的不調のほか、気分の落ち込みが持続し、テレビを見るのも本を読むのも億劫であり、集中力に欠け、考えもまとまらない状態であった。そして、上司や同僚に迷惑をかけて申し訳ないと流涙する様子も認められた。自殺念慮に関しては否定した。患者は、真面目で責任感が強く、我慢強い性格で、慣れない職場環境で重要なプロジェクトを任されて大きなプレッシャーを感じていたことに加え、家庭では最近、父親が脳梗塞で倒れ、介護の問題で悩んでいたことも明らかになった。

 以上からうつ病を疑われ、産業医から精神科クリニックを紹介された。精神科クリニックでは、中等症のうつ病と診断された。治療として、十分な休息をとるための自宅療養と、薬物療法としてSSRIの処方が開始され、併せて精神療法も行う方針となった。

#Point

 ①身体的不調を訴える患者であっても、精神症状の聴取、評価を行うことが重要である。

 ②性格(真面目で責任感が強い)や、ライフイベント(昇進して重なった、父親が脳梗塞で倒れた)などの情報を得る。

 ③DSM-5のうつ病の診断基準に従って診断を行う。

 ④中等症のうつ病では、まず薬物療法、次に精神療法が併用される

 ⑤薬物療法としては、SSRI、SNRI、NaSSAのいずれかが第一選択薬となる。

(中原理佳)

脳血管障害

 脳血管障害には有症候性脳血管障害と〔無症候性脳血管障害〕があるが、脳血管障害により〔急性局所神経症状〕を呈する病態を脳卒中と呼び、脳卒中は脳梗塞、脳出血、〔クモ膜下出血〕に分類される。脳卒中の3/4は〔脳梗塞〕が占め、残りの1/4を〔脳出血〕とクモ膜下出血が占める。脳卒中は予防と治療の進歩により発症率も死亡率も低下しているが、死亡率の低下と高齢者の〔増加〕により脳卒中患者数は依然として増加しており、〔300万〕人前後存在すると推計されている。また脳卒中は介護医療の対象となる疾患の〔首位〕を占めている。

臨床症状

 〔片麻痺〕や言語障害などの局所神経症状が突然発症したら〔脳卒中〕が第一に疑われる。ただし、クモ膜下出血の主症状は今までに経験したことのない〔激しい頭痛〕である。重症の脳卒中では〔意識障害〕を生じる。大脳半球障害では半盲や共同偏視を認め、大脳皮質障害では失語、失行、失認などを生じる。脳幹の障害では〔眼振〕、複視、運動失調、めまい、起立・平衡障害、嚥下障害などの〔小脳症状〕や脳神経麻痺症状を認める。クモ膜下出血では〔項部硬直〕やケルニッヒ徴候などの〔髄膜刺激症状〕がみられる。〔皮質下小梗塞〕では片麻痺や半側の感覚障害などの要素的な症状のみがみられる。意識障害や大脳半球徴候、〔大脳皮質徴候〕を伴わない。軽症の脳出血では、画像診断なしに〔神経症状〕のみから脳梗塞と鑑別するのは困難である。

 脳卒中後遺症としては、上記症状以外に、〔認知症〕、うつ状態、せん妄、〔不眠〕、頻尿・尿失禁などが生じる。視床の梗塞や出血では反対側半身の痛み(〔視床痛〕)が残ることがある。

病因・病態

虚血性脳血管障害

一過性脳虚血発作(TIA)

 TIAは、古典的には〔24時間〕以内に消失する、脳虚血による〔局所神経症状〕と定義されるが、画像検査で〔脳梗塞〕を認める場合にはTIAには含まれないとする立場もある。〔TIA〕は虚血性脳卒中(脳梗塞)の前兆として重要な病態である。〔脳梗塞〕の原因はすべてTIAの原因になり得る。

アテローム血栓性脳梗塞

 〔大動脈弓〕や頚部動脈、脳内主幹動脈の〔狭窄性プラーク〕に起因する脳梗塞であり、皮質梗塞や皮質下に〔中等大〕以上の梗塞を生じることが多い(図2-2)。アテローム血栓性脳梗塞は、頭蓋内動脈の〔プラーク破綻部位〕の閉塞による場合と、頭蓋外動脈の塞栓源に由来する〔動脈原性脳塞栓症〕の場合とがある(図2-3)。脳表の〔動脈支配領域〕や皮質枝と穿通枝の分岐部に生じる〔境界域梗塞〕はアテローム血栓性脳梗塞に分類される。

 

 

 

心原性脳塞栓症

 心臓内の血栓や心臓を通過する血栓が〔塞栓子〕となり生じる脳梗塞である(図2-3)。心原性脳塞栓症の原因となる塞栓子は〔フィブリン血栓〕であり、血栓のサイズが大きいため〔脳主幹動脈〕を閉塞しやすく、皮質を含む大きな梗塞(図2-4a)を生じることが多く、〔出血性梗塞〕を生じやすい(図2-4b)。心原性脳塞栓症の原因となる心疾患は多いが、原因の大多数を占めるのは〔心房細動〕である(p.53参照)。

 

 

 

ラクナ梗塞

 〔穿通枝閉塞〕に起因する皮質下の直径1.5cm未満の〔小梗塞〕である(図2-3)。皮質の小梗塞は〔ラクナ梗塞〕ではない。病理学的には、〔細動脈硬化〕が原因であるが、穿通枝近位部の〔微小プラーク〕や、主幹動脈の穿通枝分岐部の分枝粥腫病変が原因になることもある。大脳基底核、視床、橋などの〔穿通枝支配領域〕に生じる(図2-5)。脳ドックなどで発見される無症候性脳梗塞の大多数は〔ラクナ梗塞〕である。

 

 

その他の脳梗塞

 その他の脳梗塞には特殊な原因による脳梗塞や〔原因不明〕の脳梗塞が含まれる(図2-3参照)。特殊な原因には多くの疾患があるが、その中で頻度が高いのは動脈硬化以外の血管の異常、〔血管攣縮〕、血液凝固異常である。血管異常には〔動脈解離〕、もやもや病、〔血管炎〕などがある。血管攣縮にはクモ膜下出血後、〔片頭痛〕、薬物中毒、可逆性血管収縮症候群などが含まれる。血液凝固異常としては、〔播種性血管内凝固症候群(DIC*1)〕、抗リン脂質抗体症候群、先天性凝固阻止因子欠乏症などがあげられる。

 

出血性脳血管障害

脳内出血

 原発性脳出血は、〔高血圧〕に伴う穿通枝の細動脈硬化により〔血管壊死〕を生じて形成された〔小動脈瘤〕の破裂に起因するので、高血圧性脳出血とも呼ばれる。高血圧性脳出血は被殻、〔視床〕、橋、小脳に好発する(図2-6)。高齢者の増加により〔アミロイドアンギオパチー〕(アミロイドタンパクが溜まることによる血管障害)による脳出血が増加しており、〔皮質・皮質下〕に生じやすい。二次性脳出血で最近増加しているのは〔抗血栓薬〕の副作用として生じる脳出血である。

 

クモ膜下出血

 脳動脈瘤の破裂により〔クモ膜下腔〕に生じる出血である(図2-7)。脳動脈瘤は〔ウィリス動脈輪〕の血管分岐部に好発する(図2-8)。動脈瘤の〔破裂リスク〕は大きさ、形、〔部位〕により異なる。クモ膜下出血の危険因子は〔家族歴〕、高血圧、喫煙、多量飲酒である。若年者のクモ膜下出血は〔脳動静脈奇形〕の破裂により生じる。

 

 

検査・診断

検査

一般的検査

 血球算定では赤血球数、白血球数、〔血小板数〕を測定する。血栓溶解療法の適応決定に〔血小板数算定〕は必須である。生化学検査では〔血糖HbAlc〕*2、リポタンパク分画、中性脂肪(トリグリセライド:TG*3)、〔クレアチニン(Cr*4)〕、推算糸球体濾過量(eGFR*5)、ALT*6、AST*7、γ-GT*8を測定する。胸部X線では肺炎、〔大動脈弓〕の突出や石灰化、心臓や大動脈の〔拡大〕の有無をチェックする。心電図は〔心房細動〕の有無を検索するため必須であり、発作性心房細動の検索にはできるだけ長時間の〔モニタリング〕が推奨される。経胸壁心臓超音波検査は脳塞栓症の〔スクリーニング検査〕として必要である。血液凝固検査では〔フィブリノゲン〕とDダイマーは最低限測定する必要がある。〔脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)〕は心原性脳塞栓症の診断に有用である。

神経学的検査

 神経学的検査により意識、〔脳神経〕、運動系、感覚系小脳系の診察を行う。脳卒中患者には〔NIH脳卒中スケール(NIHSS*9)〕による重症度の評価が必須である。意識レベルの判定には〔ジャパンコーマスケール〕やグラスゴーコーマスケールが用いられる。

頭部CT、MRI、MRA

 CTは〔早期虚血徴候〕(図2-9)や頭蓋内出血の診断、脳卒中以外の脳疾患の〔鑑別〕に必要な基本的検査である。

 

 MRIと〔MRA〕は脳卒中の病型診断治療方針の決定、〔予後〕の推定に有用である。

超音波検査

 頚部血管超音波検査は頚動脈病変(閉塞、〔狭窄〕、不安定プラーク)の検索に必須の検査である(図2-10)。経食道心臓超音波検査(TEE*10)は心原性脳塞栓症の原因となる〔心内塞栓源〕の検索に重要である。〔経頭蓋超音波検査(TCD*11)〕による微小塞栓信号の検出は塞栓症のリスク評価や〔奇異性脳塞栓症〕の診断に有用である。

 

脳血管撮影

 〔カテーテル〕を用いたセルジンガー法による脳血管造影は、脳外科手術や〔血管内治療〕を前提とする場合以外はあまり行われなくなった。代わりに頻用されるようになったのはCT血管造影による〔三次元画像〕である。

診断

 急性期脳梗塞診断のアルゴリズムを図2-11に示す。〔皮質梗塞〕を認め、心内塞栓源を認めれば〔心原性脳塞栓症〕と診断され、心内塞栓源がなく主幹動脈に〔50〕%以上の狭窄を認めれば〔アテローム血栓性脳梗塞〕と診断される。皮質下小梗塞を認め、心内塞栓源も〔主幹動脈病変〕もなく、脳卒中症状がラクナ症候群を示していれば〔ラクナ梗塞〕と診断される。それらのいずれにも該当しなければ分類不能となる。

 

治療

脳卒中の一般的管理

超急性期・急性期の呼吸・循環・代謝管理

 低酸素血症が明らかでない軽症~中等症の脳卒中患者に〔酸素〕を投与する必要はないが、〔意識障害〕の原因が呼吸障害と考えられる患者には〔気道確保〕や人工呼吸管理を行う。重度の無呼吸症候群には〔非侵襲的人工呼吸器管理〕(持続呼吸陽圧療法)を考慮する。脳梗塞急性期では、収縮期血圧>〔220〕mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの高血圧が持続する場合や、〔大動脈解離〕、急性心筋梗塞、心不全・腎不全などを合併している場合に限り慎重な〔降圧〕を行う。著しい〔低血圧〕は輸液、昇圧薬などで速やかに是正する。〔低栄養状態〕や低栄養に陥るリスクのある患者にはエネルギーや〔タンパク質〕の補給を行う。脳卒中発症後7日以上、経口摂取が困難と判断された患者には〔経腸栄養〕を開始する。〔低血糖〕、気道閉塞、誤嚥、〔頭蓋内圧亢進〕がある場合は15~30度の〔頭部挙上〕を考慮し、主幹動脈の閉塞や狭窄がある場合は〔水平仰臥位〕をとる。

合併症対策

 脳卒中患者では呼吸器や尿路の〔感染症〕、褥瘡などを合併しやすい。また、〔転倒〕に注意する。抗菌薬の〔予防的投与〕は推奨できない。〔急性期〕からの理学療法や呼吸のリハビリテーションは〔肺炎〕の発症を減らす。高齢や重症の脳卒中患者では〔消化管出血〕を合併しやすいので抗潰瘍薬の予防的投与を考慮する。脳卒中急性期の〔体温上昇〕には解熱薬を投与し、脳梗塞患者には〔低体温療法〕を考慮してもよい。

対症療法

 〔けいれん〕は転帰不良因子であり、皮質を含む〔出血性病変〕を伴う高齢患者には抗てんかん薬による〔予防的治療〕を考慮する。飲食や服薬開始前には〔嚥下評価〕を行い、誤嚥リスクが高いと判断されれば〔嚥下機能回復訓練〕を実施し、経鼻胃管や〔経皮内視鏡的胃瘻造設〕により栄養補給を行う。高度の頭痛には〔非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)〕を使用する。脳卒中後のうつ症状は〔認知機能〕、身体機能、日常生活動作(ADL)の阻害因子となるので〔抗うつ薬〕の投与が推奨される。

脳梗塞・TIAの管理

急性期の治療

 発症後〔4.5時間〕以内の脳梗塞には〔アルテプラーゼ〕による血栓溶解療法の適応がある。血栓溶解療法で〔血流〕が再開できないか、血栓溶解療法の適応がなく、発症後〔6時間〕以内であれば、〔脳血栓回収機器〕による血管内治療を考慮する。発症後48時間以内の脳梗塞やTIAには〔アスピリン〕(160~300mg/日)の投与が強く推奨される。また、日本では発症後〔48時間〕以内のアテローム血栓性脳梗塞にはアルガトロバン、発症後5日以内の非心原性脳梗塞には〔オザグレルナトリウム〕が推奨されている。非心原性脳梗塞、〔TIA〕にはアスピリンとクロピドグレル硫酸塩による〔2剤併用療法〕も推奨される。発症後24時間以内の脳梗塞にはエダラボンによる〔脳保護療法〕が推奨される。頭蓋内圧亢進を伴う大梗塞には〔高張グリセリン〕やDマンニトールによる〔抗浮腫療法〕を行う。悪性中大脳動脈症候群を呈する脳梗塞には〔外減圧術〕が推奨される。高度の頚動脈狭窄による脳梗塞急性期には〔頚動脈内膜剥離術〕や頚動脈ステント留置術を考慮する。

慢性期の治療

 非心原性脳梗塞、TIAの再発予防には〔抗血小板療法〕の適応があり、抗血小板薬であるアスピリン、クロビドグレル硫酸塩、〔シロスタゾール〕のいずれかを投与する。長期間にわたる抗血小板薬の2剤併用療法は〔出血合併症〕のリスクが増大するので推奨できない。〔心原性脳塞栓症〕の再発予防には抗凝固療法の適応があり、抗凝固薬である〔ワルファリンカリウム〕が用いられる。非弁膜症性心房細動患者にはワルファリンカリウムよりも〔頭蓋内出血〕のリスクが少ない直接経口抗凝固薬(DOAC*12)である〔トロンビン阻害薬〕(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)やXa因子阻害薬(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバントシル酸塩)が推奨される。弁膜症性心房細動患者や人工弁置換患者には〔ワルファリンカリウム〕が適応となり、DOACの適応はない。

危険因子の管理

 脳梗塞の再発予防には〔血圧管理〕が極めて重要であり、少なくとも〔140/90mmHg〕未満を降圧目標とするが、抗血栓薬内服患者では脳出血のリスクを少なくするため〔130/80mmHg〕未満が望ましい。糖尿病患者では〔血糖管理〕が基本となるが、〔血圧〕と脂質管理を同時に行うことが重要である。脂質異常症患者には〔HMG-CoA還元酵素阻害薬〕の投与が推奨される。HMG-CoA還元酵素阻害薬と〔EPA*13製剤〕の併用も推奨される。喫煙者には〔禁煙〕が推奨され、大量飲酒者には〔節酒〕が推奨される。メタボリックシンドロームの患者には食事療法と運動療法による〔減量〕が推奨される。

脳出血の管理

急性期の治療

 高血圧合併例には収縮期血圧を〔140mmHg〕未満に降圧することが推奨される。最大径3cm以上の小脳出血で神経症状増悪、〔脳幹圧迫〕、水頭症の合併がある場合には〔外科的治療〕を考慮する。血腫量lOmL未満の小出血や深昏睡例には〔血腫除去術〕の適応はない。抗血栓療法に伴う脳出血では〔抗血栓薬〕を中止する。

慢性期の治療

 高血圧性脳出血の再発予防には〔血圧〕の厳格な管理が必要であり、少なくとも140/90mmHg未満に、可能であれば〔130/80mmHg〕未満に降圧する。けいれん合併例には〔抗けいれん薬〕を投与する必要があるが、〔急性期〕からの予防的投与の継続は推奨できない。

クモ膜下出血

急性期の治療

 〔再出血〕の予防には十分な鎮痛、鎮静、降圧が必要である。脳内血腫、急性水頭症合併例では〔外科的処置〕を必要とする場合がある。〔破裂脳動脈瘤〕では再出血を予防するため外科的治療(〔クリッピング術〕)や血管内治療(〔コイル塞栓術〕)の適応がある。非重症例では早期(〔72時間〕以内)に予防的処置を行い、重症例では年齢と部位を考慮して〔予防処置〕の適否を判断する。早期手術の際には脳槽ドレナージを留置して〔脳槽内血腫〕の早期除去を行う。遅発性脳血管攣縮には〔ファスジル塩酸塩〕やオザグレルナトリウムの投与が推奨される。

保存的治療

 電解質管理(特に低ナトリウム血症)や〔呼吸循環管理〕、栄養管理に努める。慢性期には〔水頭症〕の発生に注意し、〔シャント術〕など必要な処置を行う。

リハビリテーション

 発症直後から、急性期、回復期、〔維持期〕にわたって一貫した流れで〔リハビリテーション〕を行う。急性期には〔廃用症候群〕を予防し、〔発症後早期〕から積極的なリハビリテーションを行う。その内容には早期坐位・立位、装具を用いた〔早期歩行訓練〕、摂食・嚥下訓練、セルフケア訓練が含まれる。早期リハビリテーションに引き続き、専門的かつ集中的な〔回復期リハビリテーション〕を行う。回復期には薬物療法、〔理学療法〕、作業療法、言語聴覚療法、手術療法などの適応を判断して実施する。〔維持期〕には訪問リハビリテーション、外来リハビリテーション、〔地域リハビリテーション〕の適応を考慮して筋力、体力、歩行能カの維持を目指す。

(内山 真一郎)

その他の脳・神経系の疾病

認知症

 認知症とは、いったん正常に発達した〔知的機能〕が持続的に低下し、複数の〔認知障害〕があるために、〔社会生活〕に支障をきたすようになった状態である。患者数は現在〔500万〕人といわれ、2025年には700万人に達し、65歳以上の〔5〕人に1人は認知症になると推定されている。アルツハイマー型認知症が全体の約〔60〕%を占め、〔記憶障害〕(特に短期記憶障害)、日時場所などの〔見当識障害〕、失語、失行、〔失認〕などを特徴とする。脳血管障害を原因とする〔脳血管性認知症〕がこれについで約20%を占め、意欲の低下や〔感情〕の制御が難しくなるなどの特徴をもつ。最近、存在しないものが見える〔幻視〕と体がこわばるなどのパーキンソン病の症状を特徴とする〔レビー小体型認知症〕が注目されている。アルツハイマー型認知症の病態には〔アミロイドβタンパク質〕と異常リン酸化タウタンパク質による〔神経細胞障害〕が考えられているが、真のメカニズムはまだ解明されていない。画像診断では〔海馬〕の萎縮を特徴とし、〔SPECT〕では側頭頭頂葉の血流低下、PET*1を用いた検査で〔アミロイド〕の脳ヘの沈着が証明される。治療として〔アセチルコリンエステラーゼ阻害薬〕、NMDA*2受容体拮抗薬などを投与するが、根本的な治療薬はいまだない。

てんかん

 てんかんは〔大脳皮質〕の神経細胞に突然自発的な異常放電発射(〔てんかん発作〕)が起こる脳疾患で、有病率は人口の〔0.5~1〕%を占め、乳幼児から高齢者までのすべての年齢層で発症する。てんかんの診断は、①てんかん発作の性状、〔発症年齢〕、発症頻度の確認、②〔脳波〕およびMRI異常の有無、③てんかんに伴う発達・認知および〔心理社会障害〕についての評価などから行う。臨床像から特発性全般てんかん、〔特発性部分てんかん〕、症候性全般てんかん、症候性部分てんかんに分けられる。発作症状を知るのに〔前兆〕の有無を聞くことが大切で、前兆(前胸部不快感、既視感、視覚発作)があると〔部分てんかん〕の可能性が高い。全般発作では通常、〔前兆〕なく意識を消失し、突然〔左右差〕のない全身性の発作症状を示す。薬物治療としては第一選択薬として、全般てんかんには〔バルプロ酸ナトリウム〕、部分てんかんには〔カルバマゼピン〕などを用いる。症候性てんかんで難治例、局在が明らかな病変では〔外科的治療〕が適応となる例もある。

パーキンソン病

 パーキンソン病は主に〔中脳黒質〕にあるドパミン産生神経細胞が徐々に〔変性〕、脱落するために脳内の〔ドパミン〕が減少し、〔振戦〕、固縮、無動、姿勢反射障害などの症状を示す〔進行性〕の神経変性疾患である。有病率は10万人に150人とされ、約90%は〔孤発性〕であるが5~10%は〔家族性〕である。診断には上記症状のうち〔2つ〕以上あり、抗パーキンソン病薬の効果がみられればパーキンソン病の可能性が高い。最近、パーキンソン病の非運動症状である〔嗅覚低下〕、便秘、REM*3睡眠期行動異常症(睡眠中に大声、手足を動かす、悪夢)は運動症状に〔先行〕することがあるため、これらの存在を確かめることも重要である。治療法は〔ドパミン〕の補充・放出促進、〔ドパミン受容体〕の刺激、ドバミン分解抑制、〔ノルアドレナリン〕の補充、脳深部刺激などである。

(北川 泰久)

心身症

 心身症とは身体疾患の中で、その発症や経過に〔心理社会的因子〕が密接に関与し、器質的ないし〔機能的障害〕が認められる病態と定義される。つまり、心と身体が相互に密接に関連している病態(〔心身相関〕)を特徴にもつ身体疾患を指す。代表的なものとしては、〔過敏性腸症候群〕、緊張型頭痛や片頭痛、〔気管支喘息〕、消化性潰瘍、本態性高血圧、冠動脈疾患などがある。ただし同じ病名であっても、〔心身症〕としての病態を呈する場合とそうでない場合が存在する。治療は身体的治療と併せて〔精神療法〕、リラクゼーション法などを行い、必要に応じて〔向精神薬〕も用いる。患者は〔心理社会的因子〕の関与に気づいていない場合や関与を否定することもあるので、〔信頼関係〕を築きながら丁寧に話を聞き、〔心身相関〕の理解を促すことが重要である。

自律神経失調症

 〔自律神経失調症〕とは自律神経系のバランスが乱れることで生じる〔身体症状〕と定義される。自律神経系は緊張しているときに優位となる〔交感神経〕と、リラックスしているときに優位となる〔副交感神経〕からなる。自律神経系の中枢は〔視床下部〕にあり、情動をつかさどる〔大脳辺縁系〕と連絡している。体のあらゆる器官は〔自律神経系〕の支配を受けているため、その〔バランス〕が乱れることでさまざまな身体症状を呈する。自律神経失調症という病名は〔臨床病名〕としてしばしば用いられるが、その〔疾患概念〕はあいまいである。代表的な症状としては〔動悸〕やめまい、頭痛・頭重、〔冷汗〕、のぼせ、しびれ、倦怠感などの身体症状であるが、実際には自律神経症状を前景にした〔うつ病〕などの精神疾患であることも多い。また、甲状腺疾患などの〔内分泌疾患〕や循環器系、呼吸器系疾患の除外も必要である。治療は、精神状態と身体状態を正しく評価し、状態に応じて〔身体的治療〕や精神療法を行う。

統合失調症

 統合失調症は〔妄想〕や幻聴、まとまりのない会話(脱線や滅裂)などの〔陽性症状〕と、感情の〔平板化〕(感情の表出が乏しくなる)や意欲低下などの〔陰性症状〕を呈する疾患である。生涯有病率は約〔1〕%であり、〔男女差〕はない。発症は〔思春期〕~青年期に多い。統合失調症患者の〔第一度近親者〕(実の親、子、兄弟姉妹)では、発症の危険性が一般人口の約10倍と高くなる。発症に関する〔生物学的仮説〕としては、ドパミンや〔セロトニン〕、グルタミン酸などの神経伝達物質の関与が指摘されている。また、脳の〔脆弱性〕と社会生活におけるストレスなどの〔環境的要因〕の相互作用により発症するという仮説もある。治療では〔薬物療法〕による精神病症状の改善とともに日常生活や社会生活の改善のために〔心理社会的支援〕を行うことも重要である。薬物療法の基本は〔抗精神病薬〕である。抗精神病薬には定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬があるが、〔錐体外路症状〕などの副作用が少なく、陽性症状、陰性症状ともに効果が期待できる〔非定型抗精神病薬〕がまず選択されることが多い。難治例では〔修正型電気けいれん療法〕が施行されることがある。非薬物療法としては〔精神療法〕やリハビリテーション(〔生活技能訓練〕、作業療法、デイケアなど)が行われる。

双極性障害

 双極性障害とは従来、〔躁うつ病〕と呼ばれていた疾患であり、躁状態または軽躁状態と、〔抑うつ状態〕を繰り返す。発症年齢は〔若<〕、30歳以前が多い。躁状態の代表的な症状は高揚気分や〔易怒性〕、自尊心の肥大・誇大(自分が偉くなったように感じ、〔誇大妄想〕が認められることもある)、睡眠欲求の〔減少〕(眠らなくても平気でいる)、〔多弁〕(勢いよく話し続ける)、観念奔逸(考えが次々浮かんでまとまらない)、〔注意散漫〕(さまざまなことに関心を示すが持続しない)、目的志向性の活動(非常に行動的になり、疲れを自覚できず、活動を止めない)、困った結果になる可能性が高い快楽的活動への熱中(制御のきかない浪費など)などである。症状の〔程度〕や持続期間により、躁状態または〔軽躁状態〕と診断される。双極性障害における〔抑うつ状態〕は、うつ病のそれと同様である。治療は躁状態または軽躁状態の治療、抑うつ状態の治療、〔維持療法〕(再発予防)からなる。薬物療法の基本は〔気分安定薬〕であり、必要に応じて〔非定型抗精神病薬〕が併用される。双極性障害の抑うつ状態では、〔躁転〕の可能性もあるため、〔抗うつ薬〕の使用は推奨されない。また、〔修正型電気けいれん療法〕が選択されることもある。長期に治療を継続するためには〔心理教育〕も重要である。

(中原 理佳)