身体症状と炎症

身体症状と検査・治療(総論)

領域別にみた主な身体症状

 〔生体機能〕を維持する仕組みに異常が発生すると〔身体症状〕が発現する。患者は身体症状を訴えて来院する場合が多いが、疾病によっては〔自覚症状〕がなく、健康診断や人間ドックなどで〔臨床検査値異常〕を指摘されて来院するケースも少なくない。

 身体症状の強度はその背景にある〔病態生理〕や原因(疾患)、その障害の〔程度〕、時間的経過などに左右される。同じ身体症状でも背景となる病態生理が異なる場合も多く、〔診断〕は容易ではないこともある。主な身体症状を列記する。

 

 

身体症状の検査

 各種症状を訴えて来院した患者に対し、診断前に各種〔検査〕を行う。〔問診〕などのヒアリング、視診・触診・聴診などで患者の状態を把握する。同時に〔バイタルサイン〕を測定し、各領域に即した検査を行う。検査結果を踏まえ〔確定診断〕へと至る。

 

治療

 確定診断後は患者に対し、治療の〔方針〕が決定される。〔重症度〕、年齢、〔合併症〕の有無、アレルギーの有無などの患者背景を考慮する。

 主な治療法としては、非薬物療法、薬物療法、〔外科的療法〕などである。

 非薬物療法では〔運動療法〕、生活指導、精神療法などを行う。

 薬物療法では対症療法、〔原因療法〕、補充療法などを行う。

 外科的療法では薬物療法などで改善が期待できない場合の〔切除術〕や、器質的障害がある場合の除去手術などを行う。

 さらに後遺症などがある場合は〔リハビリテーション〕などを行う。本章ではこの中で、重要と思われる身体症状について解説する。

 

身体症状と疾病

頭痛

身体症状

 頭部(頚部)に自覚する痛み。

病態生理

 脳実質の大部分は痛みを感じないので、〔頭痛〕の発生に直接関与しない。頭蓋内では疼痛刺激の伝達経路は主に血管や〔硬膜〕に分布している。これらの部位に〔拡張〕や圧迫、牽引、〔炎症〕など変化が生じることで頭痛を自覚する。脳実質病変が頭痛を主症状とすることがあるのは、髄膜刺激や〔頭蓋内圧亢進〕により、〔血管〕や硬膜に刺激が加わるためである。また、頭頚部の筋肉の過剰な緊張が関与する〔緊張型頭痛〕をはじめ、〔副鼻腔炎〕や緑内障、眼精疲労など頭蓋外の原因による頭痛もある。

原因疾患

 国際頭痛分類(第3版)では、頭痛を「一次性頭痛」、「〔二次性頭痛〕」、「〔有痛性脳神経ニューロパチー〕、ほかの顔面痛およびその他の頭痛」に大別している。緊張型頭痛、〔片頭痛〕、群発頭痛などは機能的異常による頭痛であり〔一次性頭痛〕に分類される。〔緊張型頭痛〕は極めて一般的であり、各種調査で生涯有病率は〔30~78〕%とされ、社会経済にも大きな影響を与えている。片頭痛は〔片側性〕、拍動性の中等度以上の頭痛で、〔日常的な動作〕により頭痛が悪化するのが特徴である。随伴症状として悪心や〔光過敏〕、音過敏を伴う。〔群発頭痛〕は、片側性に〔重度〕の頭痛発作が日に何度も生じる群発期があり、発作時は頭痛と同側の〔結膜充血〕や流涙、鼻閉などの〔随伴症状〕を認めるのが特徴である。脳血管障害や脳腫瘍、髄膜炎など原因疾患がもたらす〔構造的異常〕で生じる頭痛は二次性頭痛に分類される。一次性頭痛を〔機能性頭痛〕、原因疾患が明らかな二次性頭痛を〔症候性頭痛〕と表現することもある。特にこれまで経験したことがない激しい頭痛が突然発症した場合は、〔脳血管障害〕について緊急に評価が必要である。このように頭痛は〔発症経過〕によっても分類可能であり、突然発症では〔脳出血〕やクモ膜下出血などの脳血管障害、数日の急性の経過なら〔髄膜炎〕や脳炎などの感染症、数週の経過では〔脳腫瘍〕や結核・真菌による髄膜炎などがあり、数年来の経過にもかかわらず〔進行性〕でなければ、片頭痛や緊張型頭痛などの機能性頭痛が考えられる。

腹痛

身体症状

 腹部に自覚されるさまざまな不快感が〔腹痛〕と表現され、七転八倒するような激烈なものから、〔慢性的〕な腹部の軽い違和感まで対象となる。症状は幅広く、多彩な疾患が腹痛を引き起こす。

病態生理

 腹痛には疼痛を伝達する〔神経線維〕や経路の違いにより体性痛、内臓痛、〔関連痛〕と分類される異なった痛みが存在する。体性痛を担当する〔体性神経〕は人体では皮膚や粘膜、〔〕、腱関節、骨膜などに幅広く分布するが、腹腔内では〔腹膜〕に存在している。腹膜は〔物理的刺激〕に敏感で、弱い刺激でも反応する。腹腔内に〔消化液の漏出〕や炎症などが生じると腹膜が刺激され強い腹痛が生じる。〔内臓痛〕は消化管の拡張や伸展、収縮などで生じ、情報を伝える神経は伝導速度が〔遅く〕、脊髄の複数の領域にまたがっているため、部位の不明瞭な〔鈍い痛み〕となる。内臓痛を伝達する神経線維は、皮膚からの〔体性神経〕と同じ経路を通っており、刺激の短絡が起きると、内臓の刺激であるにもかかわらず、病変から離れた〔皮膚〕などに関連痛をもたらす。同様に、一部の〔心筋梗塞〕や胸膜炎、肺塞栓など、腹部以外の病変でも〔腹痛〕と自覚されることがある。腹腔内に生じた炎症、腸管や胆道、尿管などの管腔構造の〔閉塞〕、血管の破綻、塞栓、〔代謝性〕の要因などでこれらの神経が刺激されて腹痛が生じることに加え、腹部外の疾患による〔関連痛〕でも腹痛を呈する場合があると理解すればよい。

原因疾患

 腹痛の原因には、〔消化管穿孔〕、虫垂炎、急性膵炎、急性胆嚢炎、骨盤内炎症性疾患、イレウス、尿管結石、〔胆石〕、腹部大動脈瘤破裂、急性大動脈解離、上腸管膜動脈血栓症、腎梗塞、胃腸炎、〔過敏性腸症候群〕、感染性腸炎、〔胃潰瘍〕、十二指腸潰瘍、糖尿病ケトアシドーシス、心筋梗塞、帯状疱疹などがあげられる。

胸痛

身体症状

 文字どおりの胸部の痛みから胸部の〔圧迫感〕、重い感じ、灼熱感などの多彩な症状が〔胸痛〕と表現される。程度や性質の異なるさまざまな胸痛症状の中から、〔致命的〕な胸痛を見分けることが臨床では重要となる。

病態生理

 心筋は〔冠動脈〕により血液の供給を受けている。動脈硬化や攣縮などの理由で冠動脈に〔狭窄〕が生じると心筋への血流が低下し(〔心筋虚血〕)、〔酸素供給〕が減少することで胸痛、胸部不快感といった〔狭心症症状〕が出現する。酸素供給の減少だけではなく、運動などによる〔酸素需要〕の増加、あるいはその両者により、心筋の酸素需要と供給のアンバランスが生じても〔心筋虚血〕になる。〔労作性狭心症〕で運動時に症状が出現するのは、このような〔酸素需給〕の乱れに基づく。血流が途絶え、心筋組織が〔壊死に陥った状態が〔心筋梗塞〕である。心臓以外では、胸膜や大動脈には痛みを伝達する〔神経線維〕が分布しており、〔肺炎〕や胸膜炎など胸膜への炎症の波及、大動脈の〔解離〕などは胸痛を起こす。また、食道への胃酸の〔逆流〕や食道の収縮・けいれん、〔嘔吐〕の反復などによる粘膜の〔損傷〕も胸痛の原因となる。胸腔内にとどまらず、〔胸郭〕、胸壁の皮膚、筋骨格系の問題も胸痛をきたすため、〔帯状疱疹〕や肋軟骨の炎症、外傷も一般的な原因である。さらに、腹部臓器である胃、〔胆嚢〕、胆管疾患の関連痛により〔胸骨後部〕に痛みを感じることがある。

原因疾患

 胸痛の原因には、〔狭心症〕、急性心筋梗塞、急性大動脈解離、〔肺塞栓症〕、肺炎・胸膜炎、気胸、〔肺がん〕、逆流性食道炎、帯状疱疹、肋軟骨の炎症外傷などがあげられる。

関節痛

身体症状

 〔関節部〕に自覚する痛み。狭義の関節構造に限らず腱や靱帯など関節周囲の異常が〔関節痛〕と表現されることも多い。

病態生理

 〔痛覚〕を伝達する神経終末は骨膜、〔滑膜〕、関節包などの関節構造や腱、靱帯など関節周囲の〔軟部組織〕に分布しており、これらに物理的・〔化学的刺激〕が加わることで関節痛が生じる。

原因疾患

 関節痛の原因には、〔化膿性関節炎〕、淋菌性関節炎、結核性関節炎、痛風、偽痛風、〔関節リウマチ〕、全身性エリテマトーデス(SLE*1)、外傷、変形性関節症などがあげられる。

発熱

身体症状

 発熱とは体温が正常な〔日内変動〕を逸脱して上昇することで、視床下部の〔体温調節中枢〕の制御に基づく体温上昇である。一方、過剰な高温環境への曝露、〔熱放散〕の低下があると、受動的に体温は上昇し高体温となるが(例えば〔熱中症〕)、これは〔体温調節中枢〕で制御されない体温上昇であり、〔発熱〕とは区別される。

病態生理

 感染症や〔膠原病〕などの炎症性疾患、悪性腫瘍、身体組織の挫滅などが生じると〔発熱サイトカイン〕と呼ばれる一群の物質が放出され、〔視床下部〕の体温調節中枢に作用し、体の〔熱産生〕を亢進させるとともに〔熱放散〕を抑えることで体温を上昇させる。発熱は感染などに対する〔生体防御反応〕の一つの症状でもある。高熱出現直前の体の震えは〔筋運動〕による熱産生であり、同時に認められる手足の冷感は〔末梢血管収縮〕による熱放散の抑制で、いずれも体温を上昇させるための〔身体反応〕である。

原因疾患

 発熱の原因には、〔細菌感染症〕、ウイルス感染症、膠原病、〔血管炎〕、偽痛風、白血病、悪性リンパ腫、腎細胞がんなどがあげられる。

下痢

身体症状

 水分量の多い〔液状〕の糞便を頻回に排出する状態である。1日の糞便の水分量として〔200〕mL以上、もしくは糞便の重量として200g以上の状態が〔下痢〕といわれている。

病態生理

 下痢の原因は単ーではなく、病因・病変部位別に〔複数〕の病態が存在する。毒素型の〔細菌性腸炎〕では、主に小腸で腸液の分泌が亢進し、電解質の〔吸収障害〕が起こることで下痢が生じ、〔緩下薬〕使用時の下痢では非吸収性合成糖類などにより腸管内容の〔浸透圧〕が上昇し、腸管内腔に〔水分〕が引き出されることで下痢になる。大腸炎では大腸の〔粘膜障害〕などにより、正常ではほとんど吸収されるはずの〔水分〕が吸収を阻害されて下痢になる。大腸への水分の流入量は1日当たり〔1.5~2〕Lであり、〔コレラ〕でみられるような十数Lに及ぶような大量の下痢は大腸病変では生じない。下痢型の〔過敏性腸症候群〕は、腸管運動の異常で〔排便回数〕の増加が起こるが、便の〔総量〕の増加はないとされる。

原因疾患

 下痢の原因には、細菌感染症、〔ウイルス感染症〕、薬物の副作用、虚血性大腸炎、原虫寄生虫感染症、感染性腸炎、〔潰瘍性大腸炎〕、過敏性腸症候群などがあげられる。

便秘

身体症状

 排便に〔困難〕を感じ、排便の〔頻度〕が少なく、排便しきっていないと感じられる状態である。排便習慣には〔個人差〕があり、数値による定義は困難であるが、便量が1日〔35〕g以下や3~4日以上排便がない状態を〔便秘〕とすることが多い。

病態生理

 〔癒着〕や腫瘍などで腸管に物理的な〔通過障害〕が生じるか、ニューロパチーや〔脊髄疾患〕、内分泌・代謝疾患などの理由で腸管の〔蠕動運動〕が低下すると便秘になる。器質的異常に基づく前者のような便秘を〔器質性便秘〕、機能的異常による後者を〔機能性便秘〕と呼ぶ。

原因疾患

 便秘の原因には、〔食物繊維〕の摂取不十分、腫瘍、癒着などによる〔腸管〕の通過障害、腸管神経疾患による直腸、肛門機能の障害、〔薬剤〕、腸管病変を伴う各種全身疾患、大腸がん、開腹手術後の腸管癒着、腹腔内腫瘍による〔圧迫〕、糖尿病によるニューロパチー、〔過敏性腸症候群〕、抗コリン作用のある薬剤服用、パーキンソン病、〔甲状腺機能低下症〕、加齢に伴う腹筋カ・腸管蠕動の低下などがあげられる。

発疹

身体症状

 皮膚および粘膜の肉眼的変化を発疹という。

病態生理

 発疹は正常の皮膚に最初に出現する〔原発疹〕と、原発疹あるいはほかの続発疹に引き続いて二次的に出現する〔続発疹〕に分けられる。原発疹には斑、〔丘疹〕、結節、腫瘤、〔膨疹〕、水疱、膿疱、嚢腫がある。斑は表面が〔平坦〕な皮膚の色調変化であり、炎症性の血管拡張や充血で生じる〔紅斑〕や、出血による〔紫斑〕などが含まれる。丘疹、〔結節〕、腫瘤は限局性の皮膚の〔隆起性病変〕であり、大きさにより区別する。水疱、膿疱は〔液体〕を内包する皮膚病変であり、内容が水様のものを水疱、膿性の内容を含むものを〔膿疱〕と呼ぶ。続発疹として、皮膚の欠損による〔びらん〕、表皮剥離、潰瘍、亀裂、〔角質剥離〕の亢進がある。

原因疾患

 発疹の原因には、麻疹、〔風疹〕、水痘、梅毒、疥癬、薬疹、SLE、〔蕁麻疹〕、アトピー性皮膚炎、乾癬などがあげられる。

浮腫(むくみ)

身体症状

 成人体重の約〔60〕%は水分(体液)で構成されており、その2/3が〔細胞内〕に、1/3が〔細胞外〕に分布する。さらに細胞外に分布する体液のうち、1/4は〔血漿〕として血管内に、残りの3/4が〔間質〕と呼ばれる細胞間の間隙に存在する。この間質に存在する間質液が増加すると、〔浮腫〕と呼ばれる身体の腫れが出現する。

病態生理

 間質液の貯留は毛細血管の〔静水圧〕、血漿中のタンパク質に由来する血漿膠質浸透圧、毛細血管の〔透過性〕、間質からリンパ管への〔体液〕の流出などで規定される。体液量が増加すると、血管内容量が増加し〔毛細血管静水圧〕が上昇するため水分の〔間質〕への移動が起こる。また、低タンパク・低アルブミン血症で〔血漿膠質浸透圧〕が低下すると血管内に水分を保持できず、間質に水分が移動する。熱傷、外傷、アレルギー反応などでは、〔毛細血管〕の透過性自体が亢進していることで〔水分移動〕が起こる。間質液はリンパ管を通じて吸収されるため、リンパ系の流出障害や閉塞も浮腫の原因になる。浮腫症状が出るまでには数Lの〔体液貯留〕が起きており、浮腫には〔体重増加〕を伴うことが多い。

原因疾患

 浮腫の原因には、〔うっ血性心不全〕、腎不全、薬剤〔〔副腎皮質ステロイド薬〕、甘草、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs*2)など〕、ホルモン異常、妊娠、栄養不良、〔肝硬変〕、ネフローゼ症候群、乳がん術後などの〔リンパ阻害〕、アナフィラキシーショックなどがあげられる。

動悸

身体症状

 鼓動の〔強調〕や乱れなど、心拍動の不快な〔自覚症状〕を指すことが多い。

病態生理

 〔心拍動〕の急な変化、リズムの異常、拍動数の〔増加〕、心収縮性の亢進などを〔動悸〕と自覚する。動悸の原因は多彩であり、病態として心拍動が増加する〔貧血〕や甲状腺機能亢進症といった心臓以外の疾患の場合や、〔他覚的〕な拍動異常を伴わない自覚症状としての動悸も多い。

原因疾患

 動悸の原因には、〔不整脈〕、弁膜症、心不全、貧血、〔甲状腺機能亢進症〕、不安神経症、薬剤(テオフィリン、〔抗コリン薬〕、インスリンなど)、アルコール、カフェイン(コーヒー、紅茶など)などがあげられる。

息切れ・呼吸困難、咳

身体症状

 ①息切れ・呼吸困難 呼吸運動時に不快な感覚や努力感を伴い、呼吸を異常に意識するようになった状態をいう。

 ②咳 気道刺激で発生する爆発的な呼気現象である。気道内の異物や過剰に蓄積した分泌物の排出が可能となり、気道の清掃作用がある。

病態生理

 ①息切れ・呼吸困難

体液中の〔二酸化炭素〕の蓄積、もしくは〔酸素〕の欠乏で生理的な換気需要が増加した場合や、神経・筋疾患などによる〔呼吸筋〕の活動制限、呼吸器疾患など換気にかかわる臓器の障害で十分な換気作業が行えないと、〔息切れ〕・呼吸困難が出現する。さらに生理的な〔換気〕の需給に問題がなくても、強い〔情動刺激〕などの影響により呼吸困難が出現する。〔激しい運動時〕などの換気需要が高まった状況では正常でも呼吸困難を生じるが、安静時や普通の〔日常生活動作(ADL*3)〕で出現する場合は病的意義がある。

 ②咳

咳は咽喉頭や〔気管〕、気管支などへの〔機械的〕、化学的、物理的刺激が神経(〔舌咽神経〕、迷走神経)を刺激して延髄の〔咳中枢〕を興奮させ、脊髄神経、〔反回神経〕を通じて引き起こされる。

原因疾患

 息切れ・呼吸困難の原因には、〔心不全〕、虚血性心疾患、弁膜症、〔心筋症〕、高血圧性心疾患、先天性心疾患、肺炎、〔肺塞栓症〕、気胸、気管支喘息、〔慢性閉塞性肺疾患(COPD)〕、貧血、糖尿病、尿毒症、甲状腺機能亢進症、筋萎縮性側索硬化症、〔ギラン・バレー症候群〕、重症筋無力症、肥満、妊娠、心因性などがあげられる。

 咳の原因には、肺炎、気管支炎、結核などの〔感染症〕、肺がん、気管支喘息、〔アンジオテンシン変換酵素(ACE*4)阻害薬〕の服用、気道過敏、後鼻漏、〔咳喘息〕、逆流性食道炎、成人の百日咳、間質性肺炎やうっ血性心不全などがあげられる。

めまい・ふらつき

身体症状

 自分または〔外界〕が動いていないにもかかわらず〔回転〕している感覚を生じる。目の前が暗くなるような感覚、体の〔バランス〕がとれない感覚なども〔めまい症状〕として表現されることが多く、〔原因〕も病態も異なるさまざまな感覚が含まれる。

病態生理

 姿勢の維持には〔視覚〕や位置覚、〔平衡感覚〕、運動器の機能(筋力など)が関係している。視力障害、ニューロパチーなどで〔大脳〕への感覚の入力が障害されたり、神経・運動器疾患で〔運動機能〕や筋力が低下したりすると、〔体位〕を安定させることができないため、体が動揺し、〔ふらつく感覚〕が生じる。平衡感覚は、回転や移動の際に体に加わる加速度を〔内耳〕の前庭器官が感知し、脳幹・〔小脳〕に伝達して〔姿勢〕を制御しようとする感覚であり、この経路の障害では、自分や外界が動いていないのに動いているようなグルグル回る感覚がする〔回転性めまい〕が生じる。また、不整脈や起立性低血圧などで一過性の〔脳血流低下〕が起こると、〔失神〕の前兆として目の前が暗くなり、気が遠くなる感じが出現し、〔めまい〕やふらつき症状として認識されることがある。

原因疾患

 めまい・ふらつきの原因には、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、〔メニエール病〕、突発性難聴、脳幹・小脳の出血・梗塞、〔起立性低血圧〕、血管迷走神経反射性失神、〔心原性失神〕、パーキンソン病、多発性脳梗塞、不安症、うつ病などがあげられる。

しびれ

身体症状

 末梢神経から大脳に至るまでの〔感覚伝導路〕の障害によって生じる異常感覚である。

病態生理

 感覚には表在感覚(触覚、〔痛覚〕、温度覚)と〔深部感覚〕(位置覚、振動覚)があり、それぞれ伝導経路が異なる。大脳が関係する感覚障害では、〔複合感覚〕(立体覚、二点識別覚など)の異常を随伴している可能性がある。障害されている感覚の〔種類〕と、症状の〔分布パターン〕を評価することで、〔感覚伝導路〕のどのレベルでの障害なのかを推測することができる。例えば顔面を含む同側上下半身の全感覚障害では、病巣は感覚障害のある側と〔反対側〕の脳(橋より上部)の病変であろうし、〔両手足〕の先の手袋・靴下型の症状であれば、脳ではなく、多発ニューロパチーとしての〔末梢神経〕の障害が有力である。同様に、〔神経根〕、脊髄脳幹、視床の病変の典型例では、それぞれの障害レベルごとに〔しびれの分布〕などに特徴的な症状を示す。

原因疾患

 しびれの原因には、単ニューロパチー(〔手根管症候群〕、橈骨神経麻痺、総排骨神経麻痺など)、〔多発ニューロパチー〕(糖尿病多発神経障害、ギラン・バレー症候群など)、脊椎(頚椎、腰椎)椎間板ヘルニア、頚椎症性脊髄症、脊髄梗塞、〔多発性硬化症〕、脳幹梗塞、脳出血、〔脳梗塞〕、脳腫瘍などがあげられる。

意識障害・失神

身体症状

 ①意識障害

 正常な〔意識〕が損なわれた状態である。意識の〔清明度〕の低下(量的な異常)と〔意識内容〕の変化(質的な異常)が含まれる。意識障害の評価で頻用されているジャパンコーマスケールは主に〔量的評価〕であり、〔せん妄〕やもうろう状態、錯乱状態などは意識内容の〔質的〕な変化を表す。

 ②失神

一過性〕の意識消失発作である。〔体位〕の保持ができず、転倒時に〔防御姿勢〕をとれないことから頭部・顔面を打撲するのが典型である。〔急速〕に発症し、速やかに回復する意識障害とは同義ではない。

病態生理

 ①意識障害

意識の維持には〔網様体賦活系〕と呼ばれるニューロンの〔集合体〕が主要な役割を果たしている。網様体賦活系は視床や脳幹から〔大脳皮質〕に投射し、大脳皮質の〔覚醒状態〕を維持している。これらの意識の維持にかかわる部分に構造的異常(破壊、圧迫など)や〔機能的異常〕(血流低下、エネルギー枯渇など)が生じると〔意識障害〕をきたす。脳以外の疾患・病態が意識障害の原因であることも多い。

 ②失神

脳への一時的な〔血流の低下〕が原因となる。原因は、①〔神経反射性〕、②起立性低血圧、③心原性、④〔薬剤性〕、⑤精神性、⑥原因不明と分類できる。恐怖やショックで〔失神〕が起きるのは、心臓や末梢血管への〔神経反射経路〕の作用による。心臓の〔血液拍出〕に支障をきたす構造的心血管疾患(〔弁膜症〕や心筋症、心筋梗塞)や不整脈に由来する〔心原性失神〕は、将来〔致命的〕な経過をたどる可能性が高く、心原性かどうかの見極めが重要である。

原因疾患

 意識障害の原因には、脳出血、〔脳梗塞〕、クモ膜下出血、頭蓋内血腫(〔硬膜外血腫〕、硬膜下血腫)、脳腫瘍、髄膜炎、脳炎・ショック・不整脈による〔脳循環障害〕、肺炎・COPDによる〔呼吸不全〕、重症貧血、低血糖、〔糖尿病性昏睡〕、下垂体機能低下、甲状腺機能低下、副腎不全、低ナトリウム血症などの〔電解質異常〕、尿毒症、肝性脳症、薬物過量内服、アルコール、〔てんかん〕、精神疾患などがあげられる。

 失神の原因には、〔神経調節性失神〕、頚動脈洞症候群、パーキンソン病、糖尿病、体液量減少をきたす出血、高度の〔脱水状態〕、不整脈、構造的心血管疾患(〔大動脈弁狭窄症〕、急性心筋梗塞、急性大動脈解離、心タンポナーデ、肺塞栓など)、降圧薬(α遮断薬など)、〔抗不整脈薬〕、硝酸薬、QT延長作用のある薬剤、〔アルコール〕、ヒステリー(転換性障害)などがあげられる。

疲労感・倦怠感

身体症状

 平時であれば問題なく行えていた〔ADL〕に過大な労力を要し、〔疲労〕を感じる状態である。また、漠然とした〔健康感〕の喪失を指す。

病態生理

 過労などの誘因に加え、〔回復〕を妨げる要因(不眠など)が明らかであれば、生理的な範囲の疲労と解釈することも可能だが、特に理由もなく〔休息〕によっても回復しない場合は病的な〔疲労感〕・倦怠感の可能性がある。

原因疾患

 疲労感・倦怠感の原因には、〔感染症〕、悪性腫瘍、慢性炎症性疾患、〔代謝性疾患〕、精神・心理的問題などあらゆる系統の疾患が原因となり得る。疲労感・〔倦怠感〕を主訴として医療機関の受診に至る原因疾患としては、〔甲状腺機能異常〕、下垂体・副腎皮質機能低下症、糖尿病などの〔内分泌疾患〕、腎不全、肝炎、貧血、うつ病などが重要である、

体重減少

身体症状

 体内の〔脂肪組織〕および除脂肪組織が減少し、〔体重〕が著明に減少した状態である。病的な体重減少とは6~12か月で通常の体重から〔5〕%以上減少する場合を指す。

病態生理

 体重減少の病態生理は、エネルギー需要の〔増加〕や栄養分喪失、〔エネルギー摂取〕の減少のいずれかに分類できる。これらのいずれかにより〔組織量〕が減少し、体重減少をきたす。

原因疾患

 体重減少の原因には、〔食道がん〕、胃がん、進行がん、食道狭窄、〔胃潰瘍〕、十二指腸潰瘍、〔甲状腺機能亢進症〕、未治療の糖尿病、炎症性腸疾患、寄生虫感染症、感染性心内膜炎、〔結核〕、HIV*5感染、COPD、うつ病などがあげられる。

頚部腫脹・リンパ節腫大

身体症状

 頚部に〔結節〕が触れたり、〔腫脹〕が生じたりすることはまれではない。多くは〔リンパ節〕に関連した病態だが、耳下腺・顎下腺などの〔唾液腺〕や甲状腺の病変、部位によっては〔先天性〕の嚢胞なども頚部腫脹の原因となる。若年者は〔リンパ組織〕が豊富であることから〔反応性〕に腫脹しやすく、自然経過で改善するような〔非特異的〕な腫脹も多い。健康な人でも小さな〔リンパ節〕を触れることはよくある。リンパ節腫大の原因疾患は多彩だが、〔大きさ〕や触知される部位、〔硬さ〕や圧痛の有無、患者の〔年齢〕などの条件によっては、悪性リンパ腫や〔がんの転移〕、結核など重大な疾患を考えなければならない。

病態生理

 リンパ節は、生体防御を担当する〔マクロファージ〕およびリンパ球が、侵入してきた異物(〔抗原〕)と接触する場であり、異物が認識され〔免疫システム〕が活性化される過程にかかわっている。その後、異物の刺激が生じた際には、〔リンパ節〕への血液の流入量が増加し、活性化された〔リンパ球〕の増殖が進み、リンパ節は反応性に〔腫大〕する。この過程はリンパ節の〔正常な反応〕によるものだが、リンパ節自体の感染によるリンパ節炎は〔好中球〕など炎症細胞の浸潤による〔腫大〕であり、反応性のリンパ節腫大とは異なる。また、〔転移性〕のリンパ節腫大では〔腫瘍細胞〕が増殖し、悪性リンパ腫では〔腫瘍化〕したリンパ系細胞による腫大となる。病的な〔リンパ節腫大〕は反応性腫大と異なる。

原因疾患

 頚部腫脹・リンパ節腫大の原因には、〔上気道炎〕、風疹、麻疹、扁桃炎、〔悪性リンパ腫〕、咽頭がん、胃がん、肺がん、アトピー性皮膚炎、SLE、〔関節リウマチ〕、白血病、結核、梅毒などがあげられる。

排尿障害

身体症状

 〔排尿〕にかかわる運動が円滑に行われなくなった状態であり、頻尿や〔尿失禁〕、排尿困難・尿閉などの症状が含まれる。

病態生理

 膀胱と尿道括約筋には〔排尿機能〕と蓄尿機能があり、正常の排尿は〔膀胱平滑筋〕が収縮すると同時に〔内尿道括約筋群〕(膀胱頚部)が開大し、〔外尿道括約筋〕が弛緩する協調運動によってなされる。尿路の通過障害や〔膀胱容量〕の変化、およびこれらの機能を調節している神経・〔括約筋〕の障害などで、排尿に関連する一連の運動が円滑に行われなくなると、〔頻尿〕や尿失禁、排尿困難・〔尿閉〕など排尿障害が生じる。

原因疾患

 排尿障害の原因には、〔前立腺肥大〕、神経因性膀胱、〔腹圧性尿失禁〕、薬剤性排尿障害、膀胱炎などがあげられる。

(鄭 東孝)

炎症

 炎症は傷や〔感染〕に対して体を守るために本来備わる〔保護的〕な生体反応の一つである。炎症は原因となる〔剌激〕の種類や、短期間でその原因を除去できるかどうかによって、〔急性〕あるいは慢性に経過する。急性炎症は急速に始まり(典型的には〔数分〕以内)、短い時間(〔数時間~数日〕)で収まる。〔急性炎症〕によって病原体や傷害を受けた組織などを取り除くことができれば、炎症は収束し、組織の〔ホメオスタシス(恒常性)〕が回復される。しかし、原因が取り除かれなかった場合には、炎症が〔慢性化〕する可能性がある。一部の感染症は当初から慢性に経過する。また、〔生活習慣病〕やがんでみられる慢性炎症は、急性炎症の〔徴候〕を示さないまま〔低レベル〕の炎症として始まり、〔遷延〕する。

 〔炎症応答〕の中には細胞や組織を傷害する作用も含まれる。したがって、過剰な炎症応答は〔疾患〕の原因となり得る。また、炎症が持続すると、組織の〔破壊〕や構造の改変が起こり、〔組織機能〕が障害される。例えば〔関節リウマチ〕やアテローム(粥状)動脈硬化は慢性炎症によって引き起こされる疾患である。

臨床症状

急性炎症

 急性炎症を起こした組織では、典型的には炎症の4徴(〔発赤〕、熱感、疼痛、〔腫脹〕)を呈する。炎症局所では血管の〔拡張〕や透過性の亢進による間質への〔液体貯留〕、好中球をはじめとした〔白血球〕の集積が起こっており、血管と白血球を主体とした〔応答〕がこれらの症状を引き起こす(図1-1)。このような急性炎症に共通した応答に加えて、〔原因〕や組織によって特徴的な変化を示すことがあり、それに基づく分類もなされる。火傷による水疱でみられるような〔漿液性炎症〕では、血漿や中皮からの分泌物に由来する液体成分主体の〔貯留〕がみられる。これに対して、急性虫垂炎でみられるような〔化膿性炎症〕では、多数の〔好中球〕や壊死した細胞由来の成分を含む多量の〔〕の産生を特徴とする。膿瘍では〔化膿性炎症〕が組織内に限局して、中心部に死んだ〔白血球〕や細胞に由来する膿を満たした〔空洞〕が形成される。その周辺では細胞の増殖や〔線維化〕が起こり、慢性炎症の特徴を示すようになる。

 

 

慢性炎症

 慢性炎症では急性炎症の〔4徴〕が明確に現れないことも多い。そして、炎症が〔長期〕に続くために組織の〔破壊〕と、損傷された組織を線維化などによって〔修復〕しようとする働きが同時に進行する。この長期に続く炎症の〔プロセス〕によって組織が傷害され、それに伴う〔症状〕が現れることもある(図1-2)。例えば、関節リウマチでは慢性炎症によって〔骨破壊〕や軟骨破壊が進み、〔関節痛〕をもたらす。一方で、例えば、動脈硬化を進行させる〔血管壁〕の炎症はそれ自体で痛みを生じない。心筋梗塞や〔大動脈瘤〕の破裂といった帰結によって初めて症状を引き起こす。このように〔慢性炎症〕においては、組織や疾患によってその症状の現れ方は多様なものになる。

 

原因・発症機序

急性炎症

炎症の原因

 急性炎症は病原体感染や〔細菌毒素〕、虚血、外傷などさまざまな原因によって引き起こされた組織の〔壊死〕、〔自己抗原〕に対する免疫応答や過敏な免疫応答など、外来性の因子や〔組織傷害〕をきっかけとして誘導される。

発症機序

 微生物や死細胞など、細胞や組織を傷害する要因に対して、生体は〔貪食細胞〕を中心とする自然免疫系の〔応答〕によって排除しようとする。細胞からは〔炎症性サイトカイン〕や脂質メデイエーターといった化学伝達物質が放出され、血管の応答と〔白血球〕の集積が誘導される。白血球の集積は、さらなる炎症反応の〔活性化〕を引き起こす(図1-1参照)。傷害要因が排除され、〔収束メカニズム〕が活性化されると、炎症プロセスは消退し、組織は〔ホメオスタシス〕を回復する(図1-2参照)。

 

 

 

 急性炎症では血管と〔白血球〕が主要な役割を果たす。血管は拡張し、〔透過性亢進〕により血漿タンパク質が〔漏出〕・集積する。白血球と〔内皮細胞〕の相互作用が亢進し、白血球(早期には主に〔好中球〕)は血管外に出ていき、傷害原因となる微生物や〔死細胞〕の処理を進める。これらのプロセスは多様な〔化学伝達物質〕によって制御されている。

慢性炎症

炎症の原因

 急性炎症の〔原因〕がうまく取り除かれなかったり、〔炎症〕の収束が阻まれたときに急性炎症が〔慢性炎症〕へと移行する場合がある。また、最初から〔慢性炎症〕として始まる場合もある。〔感染性〕と非感染性の両方の原因があり、前者ではその排除が難しい〔抗酸菌〕や一部のウイルス、真菌、寄生虫があげられる。後者の原因は、〔自己抗原〕や組織・細胞傷害に起因する〔シグナル〕が含まれるが、複数の要因が絡むことも多く、疾患によってはその原因が同定されていない場合もある。

発症機序

 急速な好中球の集積と血管の〔応答〕が特徴的な急性炎症と異なり、慢性炎症では〔マクロファージ〕やリンパ球が主体の〔白血球の集積〕がみられる。病原体や白血球による持続する〔組織傷害〕と、それに対して〔血管新生〕や細胞の増殖線維化といったプロセスにより治癒や修復をもたらそうとする応答が続く(図1-2参照)。

 

検査・診断

 全身的または〔局所的〕な炎症を診断するさまざまな検査法が日常的に使われている。血液検査では赤血球沈降速度(ESR*1図1-3)や〔C反応性タンパク(CRP*2)〕が従来から頻用されている。CRPは炎症に対して急速に血中濃度が増加する〔急性期反応タンパク質〕の一つである。感染などによる急性炎症が消退すると、CRPの血中濃度も〔低下〕する。このようにCRPは〔急性炎症〕のマーカーとなるほか、〔軽度〕の上昇は慢性炎症性疾患である〔動脈硬化〕と関連することも知られている。急性炎症では〔白血球数〕も増加することが多く、特に細菌感染では〔好中球〕が増加し、中でも未熟な形質を示す〔好中球〕の割合が高くなる。ウイルス感染では〔リンパ球数〕の増加、慢性炎症では〔単球数〕の増加がみられることがある。白血球数は〔外傷〕や心筋梗塞など、〔組織傷害〕によって誘導される急性炎症でも増加する。

 

 炎症の原因となっている疾患や組織傷害を診断するためには、〔ESR〕やCRP、〔白血球数〕などとは異なった、より特異的な検査が用いられる。例えば自己免疫疾患の診断には抗核抗体や〔リウマトイド因子〕など、さまざまな自己抗原に対する抗体(〔自己抗体〕)が用いられる。これらの自己抗体の陽性率は〔自己免疫疾患〕により異なることから、診断に有益な情報を与える。局所の炎症の診断には、CTや〔MRI〕などの画像診断も用いられる。これらの検査を組み合わせることにより、炎症の生じている〔組織〕と原因、病態、〔病勢〕の診断を行う。

治療

 炎症の治療はその原因となる〔刺激〕を取り除くことがまず最重要となる。細菌感染に対する〔抗菌薬〕投与や、創傷部位の処置がこれにあたる。また、予防の観点からは炎症の原因への〔曝露〕を抑制することも重要となる。例えば、アレルギー性鼻炎では〔マスク〕を用いたり、特定の抗原の吸入が原因となる過敏性肺炎では原因となる〔抗原〕を取り除く環境改善が重要となる。

 炎症は、本質的には体を守る〔保護的〕な生体応答である。しかし、その応答は免疫細胞による〔細胞傷害〕や線維化という、場合によっては〔組織機能〕を障害する負の側面を併せもつ。特に過剰な炎症や炎症の〔遷延化〕は、むしろ疾患を悪化させることがある。このような観点から炎症を制御する〔薬物療法〕が重要となる。また、炎症に伴う〔疼痛〕などの症状を改善するためにも薬剤が使われる。

 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)は〔アラキドン酸カスケード〕(「医薬品情報」図3-9参照)を阻害して抗炎症作用を示し、炎症に伴う疼痛や〔発熱〕に用いられる。副腎皮質ステロイド薬はアラキドン酸カスケードや〔サイトカイン合成〕などを阻害し、炎症・免疫応答を抑制する。これらの薬剤に加え、疾患に応じて〔免疫調節薬〕(ブシラミンなど)、免疫抑制薬(シクロスポリンなど)、〔サイトカイン阻害薬〕(インフリキシマプなど)などのさまざまな薬剤を用いて、炎症と〔免疫応答〕を制御する。このように、各疾患の背景にある炎症にかかわる細胞や〔シグナル〕に応じた治療法が開発され、効果をあげている。

慢性炎症と生活習慣病・がん

 最近の研究は、慢性炎症がさまざまな〔生活習慣病〕とがんに共通する〔基盤病態〕であることを明らかとした。例えばアテローム動脈硬化では〔血管壁〕に炎症が生じ、メタボリックシンドロームでは〔内臓脂肪組織〕に炎症が生じており、〔2型糖尿病〕の発症にも炎症がかかわっていることがわかってきた。また、炎症は〔がん化〕とがんの増殖、転移にも重要な役割を果たしていることから、がんを特徴づける必須の要素と考えられるようになっている。

 生活習慣病やがんに対して、〔炎症〕を制御する治療法の開発も進められている。また糖尿病治療薬である〔チアゾリジン薬〕の作用にも炎症抑制作用が寄与している可能性が指摘されている。このように、〔既存薬剤〕が炎症に対して作用して薬効を示している可能性もある。

(真鍋 一郎)