法規

法と倫理

 われわれは、社会や組織の中で一定程度の〔秩序〕を保つ必要があることから、さまざまな〔社会規範〕という決まりごとに縛られて生活をしている。法律は、国家が〔強制力〕をもって国民に守らせ、違反した場合は〔罰則〕に従って制裁を科すものである。法律以外にも就業規則、製薬業界で取り決めた〔自主規範〕、医療機関への〔訪問ルール〕など明文化された決まりごとがある。また、明文化されていなくても、より良い人間関係を築き信頼を高めるために心得て行動すべき常識や〔マナー〕などがある。このように、法律以外に人の行動を規律するものを〔倫理〕という。

 MRが医療関係者から信頼され、国民から期待されるには、〔法律〕を遵守することはもちろん、〔倫理的な行動〕を心がける必要がある。

法とは何か

 〔法(法律)〕とは人の行動の基準として定めたものである。法律は選挙で選ばれた国会議員で構成する国会で制定されることから、国民は間接的に自ら制定した〔法律の遵守〕を承認したこととなる。

 一方、倫理は法より広い意味で〔行動規範〕として働いているが、法律のように〔強制力〕により実現するものではなく、〔国民自ら〕の判断に委ねられたものである。

法体系

 法律は、それを実現するために命令(〔政令〕・省令)または〔規則〕で具体的な必要事項を定めている。

 例えば、医薬品医療機器法第12条では医薬品等の製造販売業には〔許可〕が必要であると定めているが、その〔有効期間〕は医薬品医療機器法施行令第3条で、〔許可証〕の交付については第4条で定めている。さらに、製造販売業の許可の〔申請方法〕については医薬品医療機器法施行規則第19条で定めている。医薬品医療機器法は〔国会〕で承認された法律であり抽象的・概念的な記述にとどまることから、医薬品医療機器法施行令(〔政令〕)や医薬品医療機器法施行規則(〔省令〕)で〔詳細〕を定めている。また、医薬品製造業や医薬品製造販売業が守るべき基準として、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(〔GMP〕*1)」、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準(〔GLP〕*2)」、「医薬品の臨床試験の実施の基準(〔GCP〕*3)」、「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の〔製造販売後安全管理〕の基準(医薬品等の製造販売後安全管理の基準)(〔GVP〕*4)」、「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準(〔GPSP〕*5)」などが定められているが、これらも〔厚生労働省令〕として位置付けられる。

法令の適用順位

 法令(法律、命令)は、その種類によって〔適用順位〕が決まっている(表3-1)。

 

 日本国憲法第98条では、この憲法は国の〔最高法規〕であって、その条規に反する法律、命令はその〔効力〕を有しないと定めている。したがって、憲法と法律が矛盾する場合、憲法に反する法律は〔違憲〕となる。

医薬品に関する法や制度

 日本国憲法第13条は、〔個人の尊重〕および自由および幸福追求権について定め、同第25条第2項は社会福祉、〔社会保障〕および公衆衛生の向上を図るよう定めている。これを受けて国は、医薬品に関するさまざまな法や制度を制定している。詳細は本章次節以降で紹介する。

法的責任と倫理的責任

 責任には、法的責任および〔倫理的責任〕がある。

法的責任

 〔民事責任〕は契約違背あるいは不法行為(民法第709条)などにより相手方に被害を与えた場合、その相手方に対し〔損害賠償〕を負う。刑事責任は犯罪行為に対し〔刑罰〕を課している。〔行政責任〕は、職業上不適切な行為と判断された場合に受ける罰則で、戒告、〔業務停止〕、資格の剥奪などがある。

 例えば、薬剤師が医薬品の〔情報提供義務〕に違反したことにより患者の身体に傷害を与えた場合、次のような責任が考えられる。

 民事責任:患者に対する〔治療費〕および慰謝料などの〔損害賠償義務

 刑事責任:〔業務上過失傷害罪〕(5年以下の懲役または禁固もしくは100万円以下の罰金)

 行政資任:①〔戒告〕、②3年以内の業務停止、③〔免許〕の取り消しなど

倫理的責任

 倫理も法も人が行動するに際しての基準である。倫理は行動する人の〔自主性〕に任せているが、他人に対する〔尊厳〕にかかわる。倫理に反する行為は、法律上の〔制裁〕はないが、社会からの〔信用〕を失うことになる。

 MRの業務は、医薬品の安全性、〔有効性〕に関する情報を提供し、〔収集〕するという人の〔健康〕と密接に関係している。提供する情報に間違いがあると患者の健康に影押することになる。そしてMRは、情報収集した〔副作用情報〕を医療関係者に〔フィードバック〕することにより、国民の〔保健衛生〕を向上するという高度な社会性を有している。高い〔倫理観〕が要求されるMRは、企業に雇用されている立場ではあるが、会社利益より〔社会的利益〕を優先すべきである。MRは〔医療関連法規〕はもちろん、業界で取り決めた〔ルール〕を十分に理解し、国民の健康を担うという社会性を自覚し、〔医療関係者〕に信頼されるよう、研鑚に励まなければならない。

(小林郁夫)

医薬品医療機器法

 医薬品は、そもそもは化学物質など場合によっては人体に害を及ぼすこともある物質であるが、さまざまな試験結果などをもとにして〔情報〕を付加し、それを〔人体〕に使用できるようにしたものである。したがって、〔医薬品〕として求められる条件は重要で、厳格な〔法規制〕とその〔遵守〕が必要である。その根幹的な法律が、「医薬品医療機器等の品質有効性及び安全性の確保等に関する法律」(〔医薬品医療機器法〕)である。同法は、医薬品と医療機器のみならず、〔医薬部外品〕、化粧品および〔再生医療等製品〕(これらを合わせて「医薬品等」としている)の規制も行っている。

医薬品医療機器法の位置付けとその目的

 医薬品医療機器法には、医薬品等に関するさまざまな規制が規定されている。医薬品等の製造、〔販売〕などをするためには国の〔承認〕や許可が必要である。その承認や許可を得ようとする者は、法に規定する条件を満たしていることを自らが〔提出資料〕の中で証明しなければならない。その提出資料に記載する事項は真正なものでなければ、国の〔判断〕を惑わせることになる可能性があるため、それを行おうとする者は〔高い倫理性〕が必要である。

 国民の〔健康〕を守るために必要な規制(法律)と、それに従って業務を行おうとする者の高い倫理性の両者があって初めて、医薬品等の存在目的が達成できるのである。

憲法第25条と医薬品医療機器法の位置付け

 医薬品医療機器法はいわゆる〔衛生法規〕であり、日本国憲法第25条の規定のうちの〔公衆衛生〕に関するものである。そのため、薬局に関する規定医薬品等の製造等の〔許認可〕に関わる規定、医薬品等の〔流通〕や取り扱いに関わる規定などが書かれている。

医薬品医療機器法の目的

 医薬品医療機器法は、医薬品、〔医薬部外品〕、化粧品、〔医療機器〕および再生医療等製品の品質、有効性および〔安全性〕の確保(以上①)、ならびにこれらの使用による保健衛生上の〔危害〕の発生および拡大の防止のために必要な規制(以上②)を行うとともに、〔指定薬物〕の規制に関する措置を講ずる(以上③)ほか、医療上特にその必要性が高い医薬品、医療機器および再生医療等製品の〔研究開発〕の促進のために必要な措置を講ずる(以上④)ことにより、〔保健衛生〕の向上を図ることを目的とする(医薬品医療機器法第1条)。

 概略を記せば、

①医薬品等の〔承認〕、流通関係

②医薬品等の〔安全対策〕関係

③指定薬物(いわゆる〔危険ドラッグ〕)の規制

④希少疾病用医薬品・医療機器と〔再生医療等製品〕の開発促進

である。

医薬品医療機器法の制定・改正の経緯

薬事法から医薬品医療機器法への改正

 医薬品医療機器法の前身である薬事法は、1960(昭和35)年に制定された。

 この薬事法は、1889(明治22)年に制定された「〔薬律〕」の流れをくむもので、〔物質〕としての医薬品等の規制に主眼を置いたものであった。

 その後、医薬品等を巡るさまざまな出来事から、より精度の高い法規制を行うために、何度かの改正が行われた。主なものは次のとおりである。

・1979(昭和54)年 〔再審査・再評価制度〕の導入、安全性確保対策、副作用報告の義務化

・1993(平成5)年 希少疾病用医薬品・医療用具の研究開発促進規定の新設

・1996(平成8)年 〔感染症報告〕の義務化

・2002(平成14)年 〔生物由来製品〕などの規定新設、医療用具を医療機器に変更

・2006(平成18)年 医薬品販売制度の変更、〔指定薬物〕の規定新設

 これらの改正によって、物質としての医薬品等の規制から、医療や〔人の健康〕に密接に関係するものとして必要な規制へ、守備範囲が広がっていったことがわかる。

 〔薬事法〕は、上述のように制定以来改正を行ってきたが、2013(平成25)年11月に大規模な改正が行われ、法律名が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略称:〔医薬品医療機器法〕)」となった〔施行は2014(平成26)年11月〕。内容についても、新設・拡充が図られ、〔添付文書〕等の届け出の義務規定、〔再生医療等製品〕の規定が設けられた。また国、〔都道府県等〕、医薬品等関連事業者等および医薬関係者の〔責務〕、ならびに国民の〔役割〕も規定され、〔医薬品等〕にかかわる事項については国を挙げて取り組んでいくものであることが示された。

国、都道府県等、医薬品等関連事業者等および医薬関係者の「責務」、国民の「役割」

 国などの責務と国民の役割を、簡略に整理して表3-2に示す。医薬品等の人の生命に関連するものに関しては、〔他人任せ〕にすることなく、それぞれが責務や〔役割〕を自覚し、それを実行していくことが重要である。

 

医薬品医療機器法の規定する分野・基本構造

 医薬品医療機器法は、大まかに分けて、

 ①法律の〔目的〕や用語の定義を規定した〔総則

 ②薬局

 ③医薬品、〔医薬部外品〕および化粧品の製造販売業および製造業

 ④医療機器および体外診断用医薬品の製造販売業および製造業等

 ⑤〔再生医療等製品〕の製造販売業および製造業

 ⑥医薬品、医療機器および再生医療等製品の販売業等

 ⑦医薬品等の基準および検定

 ⑧医薬品等の取り扱い(例:毒薬・劇薬の取り扱い)

 ⑨医薬品等の〔広告

 ⑩医薬品等の〔安全対策

 ⑪〔生物由来製品〕の特例

 ⑫〔指定薬物〕の取り扱い

 ⑬希少疾病用医薬品、希少疾病用医療機器および希少疾病用再生医療等製品の指定等

 ⑭監督(例:立入検査)、〔罰則〕等

からなっている。

医薬品医療機器法の規制対象と医薬品等

医薬品医療機器法の規制対象

 医薬品医療機器法の品質、有効性および〔安全性〕の確保の対象は、医薬品、医薬部外品、〔化粧品〕、医療機器および〔再生医療等製品〕の5種類である(医薬品医療機器法第2条)。

 医薬品医療機器法の規制対象の分類と具体例を表3-3に示した。

 

 以下、本節では主として、医薬品の取り扱いについて述べる。

医薬品

 医薬品とは、次に掲げる物をいう。

 (1)〔日本薬局方〕に収められている物

 (2)人または動物の疾病の〔診断〕、治療または〔予防〕に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等[機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品ならびにプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ)およびこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ]でないもの(医薬部外品および再生医療等製品を除く)。

 (3)人または動物の身体の構造または〔機能〕に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、〔機械器具等〕でないもの(医薬部外品、化粧品および再生医療等製品を除く)。

医薬部外品

 医薬部外品とは、次に掲げる物であって人体に対する作用が〔緩和なもの〕をいう。

(1)次の①から③までに掲げる目的のために使用される物(医薬品を除く)であって〔機械器具等〕でないもの。

 ①〔吐きけ〕その他の不快感または〔口臭〕もしくは体臭の防止

 ②〔あせも〕、ただれ等の防止

 ③脱毛の防止、〔育毛〕または除毛

(2)人または動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物の〔防除〕の目的のために使用される物(医薬品を除く)であって機械器具等でないもの。

(3)〔厚生労働大臣〕が指定するもの。

化粧品

 化粧品とは、人の身体を〔清潔〕にし、美化し、魅力を増し、〔容貌〕を変え、または皮膚もしくは〔毛髪〕を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が〔緩和なもの〕をいう。ただし、医薬品の使用目的を併せもつ物および〔医薬部外品〕を除く。

医療機器

 医療機器とは、人もしくは動物の疾病の〔診断〕、治療もしくは予防に使用されること、または人もしくは動物の身体の〔構造〕もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く)であって、〔政令〕で定めるものをいう。

再生医療等製品

 再生医療等製品とは、次に掲げる物(医薬部外品および化粧品を除く)であって、〔政令〕で定めるものをいう。

(1)次に掲げる医療または〔獣医療〕に使用されることが目的とされている物のうち、人または動物の細胞に〔培養〕その他の加工を施したもの。

 ①人または動物の身体の構造または機能の〔再建〕、修復または形成

 ②人または動物の疾病の治療または〔予防

(2)人または動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人または動物の細胞に〔導入〕され、これらの体内で発現する〔遣伝子〕を含有させたもの。

希少疾病用医薬品

 〔患者数〕が少ないため、医薬品を開発しても採算性に乏しいもの、いわゆる〔オーファンドラッグ〕である。少ないとはいえ患者が存在し、治療に難渋しているものであるから、それに対する医薬品の〔開発〕は意義が大きい。そのため、国が開発の〔援助〕をする制度である。

 ①対象患者数がわが国において年間〔5万〕人未満(指定難病に使用するものについては人口のおおむね〔1/1,000〕)であること

 ②医療上、特にその〔必要性〕が高いものなどの条件に合致するものとして、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて〔厚生労働大臣〕が指定するもの。

 指定されたものに対して、国は、試験研究を促進するのに必要な〔資金〕の確保や税制上の措置をとることに努めるものとされている。また、審査上の〔優遇措置〕などの施策もとられている。

医薬品の研究開発から製造販売後に至る各種規制体系

 医薬品の研究開発から製造販売後までの間に行うべきことに対応するため、医薬品に関する規制が定められており、また、各種の基準が制定されている。

 医薬品の研究開発から製造販売後に至る規制体系を図3-1に示す。

 

 このうち、研究開発から承認を受けて〔製造販売〕に至る過程で、業務を行う際に従うべき基準が〔厚生労働省令〕で定められている。その概略は次のとおりである

GLP(医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準)

 GLPとは、〔非臨床試験〕といわれる各種の動物実験等における試験の実施にかかわる〔違守事項〕の規定であり、申請資料の〔信頼性〕を確保するためのものである。

GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)

 GCPとは、人に投与して〔有効性〕や安全性を試験するための臨床試験(〔治験〕)の実施にかかわる規定であり、被験者の〔人権〕の保護や〔安全〕の保持などを図り、治験の科学的な〔質の担保〕および信頼性を確保するためのものである。

GVP(医薬品等の製造販売後安全管理の基準)

 GVPとは、〔安全管理情報〕の収集、検討および安全確保措置の実施などに関する〔製造販売後安全対策〕について規定している。

GQP(医薬品等の品質管理の基準)

 GQP*6とは、製造販売する製品の〔品質〕を確保するために必要な業務である、出荷管理や〔品質確保〕の管理などについて規定している。

GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)

 GMPとは、製造所における〔構造設備〕およびその管理に関して規定している。

GPSP(医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準)

 GPSPとは、医薬品の製造販売後の〔調査〕や試験の実施の際に求められる〔遵守事項〕を規定している。

医薬品製造販売業の許可制度

 医薬品を製造販売しようとする者は、その製造販売しようとするものが医薬品として適当であるという厚生労働大臣の〔承認〕を受けることが必要である。そして、その承認を受けた医薬品を、業として〔製造販売〕(製品を出荷・販売)するためには、〔医薬品製造販売業〕の許可が必要である。なお、この場合の製造には、〔自らの工場〕において製造する場合と、他の企業に製造を〔委託〕する場合とがある。かつては、ごく一部の場合を除いて〔自ら製造〕しなければならなかったが、2002(平成14)年の〔薬事法改正〕により、このような形態となった(図3-2)。

 

 なお、「製造販売」の定義は、医薬品医療機器法に次のように規定されている。

 「製造等(他に委託して製造をする場合を含み、他から委託を受けて製造をする場合を除く)をし、または輸入をした〔医薬品〕(原薬たる医薬品を除く)、医薬部外品、化粧品、〔医療機器〕もしくは再生医療等製品をそれぞれ〔販売〕し、貸与し、もしくは〔授与〕し、または医療機器プログラム(医療機器のうちプログラムであるものをいう。以下同じ)を〔電気通信回線〕を通じて提供することをいう」。したがって、〔製造行為〕を自ら行わなくても医薬品を〔市場〕に供給できるが、安全性等の責任は〔製造販売業者〕が負うものである。

許可の種類

 医薬品製造販売業の許可には第一種医薬品製造販売業許可と〔第二種医薬品製造販売業許可〕とがある。第一種医薬品製造販売業許可は〔処方箋医薬品〕の場合であり、第二種医薬品製造販売業許可は、その他の医薬品(処方箋医薬品以外の医療用医薬品や要指導・〔一般用医薬品〕等)の場合である。

許可権限

 許可権限者はいずれも〔厚生労働大臣〕であるが、現在は、総括製造販売責任者(後述)が勤務する事務所の所在地の〔都道府県知事〕に委任されている。

許可基準

 次のような場合には、許可が与えられない。

 ①医薬品の品質管理の方法が〔GQP〕に適合しないとき。

 ②医薬品の製造販売後安全管理(〔品質〕、有効性および安全性に関する事項その他適正な使用のために必要な情報の〔収集〕、検討およびその結果に基づく必要な措置)の方法が、〔GVP〕に適合しないとき。

 ③申請者が〔欠格条項〕(禁錮以上の刑の執行を終わり3年を経過していない者、成年被後見人または麻薬、大麻、あへんもしくは覚醒剤の〔中毒者〕など)に該当するとき。

 また、医薬品製造販売業の許可を受けた場合、〔総括製造販売責任者〕、品質保証責任者、安全管理責任者を置かなければならない。総括製造販売責任者は品質管理および〔製造販売後安全管理〕を行う者として医薬品医療機器法で規定され、〔品質保証責任者〕はGQPで、安全管理責任者は〔GVP〕で規定されている。これらは総称して「〔製造販売業の三役〕」という(p.162参照)。

許可更新

 〔5〕年ごとに許可の〔更新〕を受けなければ、その期間の経過によってその効力を失う。

医薬品製造業の許可制度

許可の種類

 医薬品製造業は、医薬品の〔製造行為〕のみを行う業態である。

 医薬品製造販売業者が医薬品を製造販売しようとする場合、その医薬品の製造に関しては〔自らのエ場〕において製造する場合と、ほかの企業に製造を〔委託〕する場合とがある。

 そのため、医薬品製造販売業者が自らの工場において製造する場合は、医薬品製造業の〔許可〕も併せて受けることになる。

 医薬品製造業の許可には、次の種類がある。

 ①〔生物学的製剤〕、国家検定医薬品、遺伝子組換え技術応用医薬品など

 ②〔放射性医薬品

 ③無菌医薬品

 ④上記①から③以外の医薬品

 ⑤製造工程のうち、〔包装〕、表示または保管のみを行うもの

 なお、製造業の許可は、上記の〔許可区分〕に従って製造所ごとに与えられる。

 また、医薬品の製造所は〔GMP〕に適合することが「〔遵守事項〕」として規定されている。

許可権限

 許可権限者は〔厚生労働大臣〕であるが、現時点では、次のもの以外は〔都道府県知事〕に委任されている。

①〔生物学的製剤

②放射性医薬品

③国家検定医薬品

④〔遺伝子組換え技術応用医薬品〕 他

許可基準

 次のような場合には許可が与えられない。

 ①その製造所の〔構造設備〕が、〔厚生労働省令〕で定める基準(薬局等構造設備規則)に適合しないとき。

 ②申請者が欠格条項(禁錮以上の刑の執行を終わり〔3〕年を経過していない者、〔成年被後見人〕または麻薬、大麻あへんもしくは覚醒剤の中毒者など)に該当するとき。

許可更新

 〔5〕年ごとに許可の更新を受けなければ、その期間の経過によって、その〔効力〕を失う。

医薬品の製造販売承認制度

 医薬品医療機器法では、「医薬品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬品を除く)の製造販売をしようとする者は、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない」と規定している。

医薬品の製造販売承認の要件

 医薬品製造販売承認、医薬品製造販売業および製造業許可の概略について、図3-3に示す。

 

 医薬品が世に出るためには、「医薬品としての厚生労働大臣による〔製造販売承認〕」と「製造販売するための許可(製造販売業許可および〔製造業許可〕)」が必要である。

医薬品の承認審査の手順

医薬品の承認手順

 医薬品の製造販売承認を受けようとする者は、次の資料を添付して申請する。この場合、〔厚生労働大臣〕が承認権限者である品目については、〔医薬品医療機器総合機構(PMDA)〕に申請書を提出する。また、〔都道府県知事〕が承認権限者である品目については、申請者の住所地の都道府県に申請書を提出する。

 ①起原又は発見の〔経緯〕及び外国における使用状況等に関する資料

 ②製造方法並びに〔規格〕及び試験方法等に関する資料

 ③〔安定性〕に関する資料

 ④薬理作用に関する資料

 ⑤吸収、分布、代謝、排泄に関する資料

 ⑥急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、〔催奇形性〕その他の毒性に関する資料

 ⑦臨床試験の試験成績に関する資料

 ⑧添付文書等記載事項に関する資料

 申請されたものの区分(〔新医薬品〕であるか、その他のものであるかなど)によって、手続きは多少異なるが、新医薬品の場合、申請を受け付けた〔PMDA〕では提出資料をもとに調査を行い、〔審査報告書〕を作成して厚生労働省へ提出する。厚生労働大臣は、この報告書をもとに〔薬事・食品衛生審議会〕の意見を聴いて〔承認〕する。

 都道府県に申請するものは、審査基準が定められている〔一般用医薬品〕や薬局製造販売医薬品であるので、都道府県ではその基準に沿って〔審査〕を行い、承認する。

 なお、後発医薬品の場合は、(AG*7を除き、または一部を除き)すでに承認されている〔先発医薬品〕と生物学的に同等であることを証明するため、上記の申請資料のうち、②③および〔生物学的同等性〕の資料を提出することになっている。

承認拒否事由

 申請があったものについて次のいずれかに該当するときは、承認は与えられない。この条件を「〔承認拒否事由〕」と呼んでいる。

 ①申請にかかる〔効能または効果〕を有すると認められないとき

 ②効能または効果に比して著しく〔有害な作用〕を有することにより、使用価値がないと認められるとき

 ③その他不適当なものであるとき

特例的な製造販売承認

 通常の承認審査では審査にある程度の日時を要することになるが、〔新興・再興感染症〕の発生など緊急的に医薬品を使用しなければならなくなった場合のため、〔特例承認〕という規定が設けられている。その条件は、次のように規定している。なお、承認審査に際しては、提出すべき資料の一部について〔提出猶予〕が認められている。

 ①国民の生命および健康に〔重大な影響〕を与えるおそれがある疾病の蔓延、その他の〔健康被害〕の拡大を防止するため、〔緊急〕に使用されることが必要な医薬品であり、かつ、当該医薬品の使用以外に適当な方法がないこと。

 ②その〔用途〕に関し、外国(わが国と同等の水準にあると認められる医薬品の製造販売の承認の制度を有している国として政令で定めるものに限る)において、〔販売〕し、授与し、または販売もしくは授与の目的で貯蔵し、もしくは〔陳列〕することが認められている医薬品であること。

 また、この承認を与えた場合、〔厚生労働大臣〕は保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するため必要があると認めるときは、〔特例承認〕を受けた者に対して当該品目の使用によるものと疑われる疾病、障害または死亡の発生を〔報告する〕ことおよびその他の措置を講ずる〔義務〕を課することができる、としている。

 なお、これまでの例では「〔新型インフルエンザ〕〔厚生労働大臣が2009(平成21)年4月28日にその発生にかかる情報を公表したもの〕に係るワクチン」があり、②で定める国は、「英国、カナダ、〔ドイツ〕およびフランス」としている。

3つの製造販売後評価制度と2つの法的基準

 再審査制度および安全性定期報告、〔再評価制度〕ならびに副作用・感染症報告制度は、〔承認審査〕までには知り得なかった副作用等の報告を収集、分析、〔評価〕することにより、より〔安全性〕を確保できるようにしようとするものである。その実施は、〔GPSP〕とGVPの2つの法的基準に基づく(第5章参照)。

日本薬局方・医薬品の基準および検定

 医薬品医療機器法第1条の目的については既述したが、医薬品等の品質、有効性および〔安全性〕の確保は、その筆頭に掲げられているものである。現在でも国際的には贋薬が問題視されているように、医薬品の性状および〔品質〕の適正を図ることは、重要なことである。このために、〔日本薬局方〕および各種の医薬品基準、そして〔国家検定〕の制度が設けられている。

日本薬局方

 医薬品医療機器法では日本薬局方について、「〔厚生労働大臣〕は、医薬品の性状及び〔品質〕の適正を図るため、〔薬事・食品衛生審議会〕の意見を聴いて、〔日本薬局方〕を定め、これを公示する」と規定している。日本薬局方は医薬品の〔規格基準書〕であり、収載される医薬品は、わが国において〔繁用〕され、また重要な医薬品である。加えて、日本薬局方に収載されているものは〔医薬品〕であるとされている。

 初めて日本薬局方が施行されたのは1887(明治20)年である。現在は〔第十七改正日本薬局方〕[2016(平成28)年公示]が施行されており、〔1,962〕品目が収載されている。医薬品医療機器法では、少なくとも〔10〕年ごとに全面見直しを行うよう規定しているが、実際には〔5〕年ごとに改定されており、それに加えて必要に応じて〔追補〕が公示されている。

品質基準

 日本薬局方に収載されているもののほかにも、医薬品の〔特性〕から、国が〔基準〕を定めることが必要なものがある。医薬品医療機器法は「厚生労働大臣は、保健衛生上特別の注意を要する医薬品又は〔再生医療等製品〕につき〔薬事・食品衛生審議会〕の意見を聴いて、その製法、〔性状〕、品質、貯法等に関し、必要な基準を設けることができる」と規定しており、これに基づいて〔生物学的製剤基準〕、放射性医薬品基準、血液型判定用抗体基準および〔生物由来原料基準〕が定められている。

国家検定

 製造技術、〔試験技術〕あるいは製造過程の状況から、公的機関の検査を経なければ〔保健衛生上〕の危害を生ずるおそれの大きいものについて、〔検定品目〕として指定される。医薬品医療機器法は「厚生労働大臣の指定する医薬品又は再生医療等製品は、厚生労働大臣の指定する者の〔検定〕を受け、かつ、これに〔合格〕したものでなければ販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列してはならない」と規定しており、現在は〔ワクチン〕、血液製剤等の生物学的製剤が指定されている。

 なお、国家検定医薬品については、直接の〔容器〕に検定に合格した旨と〔検定合格年月日〕の表示がなされていなければ販売・授与等ができない。

規制医薬品

 医薬品医療機器法による規制医薬品には種々のものがあるが、ここでは、毒薬・劇薬、〔処方箋医薬品〕、生物由来製品について記述する(「医薬品情報」p.175参照)。

毒薬・劇薬

定義

 医薬品の中で〔毒性〕が強いものについて、その他の医薬品の規制に〔上乗せ〕した規制がなされている。

 毒性が強い医薬品をその〔程度〕に応じて「毒薬」および「劇薬」としている。これは、毒性のデータに基づいて、厚生労働大臣が〔薬事・食品衛生審議会〕の意見を聞いて指定するものである。

表示

 医薬品の直接の容器または被包には、毒薬は「〔黒地〕に白枠、〔白字〕」をもって、「その品名及び「毒」の文字」を、劇薬は「白地に〔赤枠〕、〔赤字〕」をもって、「その品名及び「劇」の文字」を記載しなければならない(図3-4)。これらの表示のないものは〔販売〕することができない。

 

販売規制・陳列

 毒薬・劇薬は、〔14〕歳未満の者その他安全な取り扱いをすることについて不安があると認められる者には交付してはならない。また、〔貯蔵・陳列〕する場合は他のものと区別しなければならず、さらに毒薬は貯蔵・陳列する場所に〔施錠〕しなければならない。

記録保存

 譲渡の際には、譲受人から、その品名、数量、〔使用の目的〕、譲渡の〔年月日〕ならびに譲受人の氏名、住所および職業が記載され、署名または記名・捺印された〔文書〕を徴収することが必要である。なお、この文書の保存期間は〔2〕年である。ただし、医師、薬剤師、販売業者、〔薬局〕、病院などに対し、その身分に関する公務所(都道府県、厚生労働省等)の〔証明書〕の提示を受けるか、または常時取引関係がある場合には、このような手続きは必要ない。

処方箋医薬品

定義

 医薬品を使用するに当たって、〔処方箋〕による指示が必要な医薬品は、処方箋医薬品として〔厚生労働大臣〕が指定している。処方箋医薬品は、次の分類に属するもの(もっぱら疾病の診断に使用されることが目的とされている医薬品であって、人の身体に直接使用されることのないものを除く)は自動的に指定され、その他は〔有効成分〕ごとに指定される。

 ①〔放射性医薬品

 ②麻薬

 ③向精神薬

 ④〔覚醒剤

 ⑤覚醒剤原料

 ⑥〔特定生物由来製品

 ⑦注射剤(①~⑥は除く)

販売規制

 処方箋医薬品は、〔処方箋〕の交付を受けた者以外の者に対して、〔正当な理由〕なく、販売・授与してはならない。

記録保存

 処方箋医薬品を販売または授与したときは、〔厚生労働省令〕の定めるところにより、その医薬品の販売または授与に関する事項を記載して、〔2〕年間保存しなければならない。

生物由来製品および特定生物由来製品

定義

 植物以外の生物に由来する製品には、〔感染〕のリスクがあり、一般の医薬品に対する規制に加えて、〔上乗せ〕の規制が必要である。

 生物由来製品は、人その他の生物に由来するものを原料または材料として製造される医薬品等のうち、保健衛生上〔特別の注意〕を要するものとして〔厚生労働大臣〕が指定するものである。さらに生物由来製品のうち保健衛生上の〔危害〕の発生または拡大を防止するための措置を講ずることが必要なものであって、厚生労働大臣が指定するものが〔特定生物由来製品〕である。また、生物由来製品または特定生物由来製品として厚生労働大臣が指定する場合は、〔薬事・食品衛生審議会〕の意見を聴く必要がある。

 生物由来製品の例としては、〔インフルエンザワクチン〕やエポエチンベータ(遺伝子組換え)が、特定生物由来製品の例としては〔人免疫グロブリン〕があげられる。

表示

 a)生物由来製品(特定生物由来製品を除く)

 ①生物由来製品(特定生物由来製品を除く)には、直接の容器または直接の被包に〔生物由来製品〕であることを示す表示を記載することとなっており、「白地に〔黒枠〕、〔黒字〕」で「〔生物〕」の文字を記載する。

 ②製造番号または〔製造記号〕を必ず記載する。

 ③原材料である血液が採取された国の国名および〔献血または非献血〕の別を記載する(人の血液またはこれから得られた物を有効成分とする場合)

 b)特定生物由来製品

 ①特定生物由来製品には、直接の容器または直接の被包に〔特定生物由来製品〕であることを示す表示を記載することになっており、「白地に〔黒枠〕、〔黒字〕」で「〔特生物〕」の文字を記載する。

 ②〔製造番号〕または製造記号を必ず記載する。

 ③原材料である血液が採取された国の〔国名〕および献血または非献血の別を記載する(人の血液を〔原材料〕として製造される場合)

記録保存

 a)生物由来製品承認取得者等が行う記録および保存

 生物由来製品の〔承認取得者等〕は、生物由来製品の譲受・譲渡について記録し、〔特定生物由来製品〕または人の血液を原材料として製造される生物由来製品についてはその出荷日から起算して少なくとも〔30〕年間保存しなければならない。また、それ以外の生物由来製品についてはその出荷日から起算して少なくとも〔10〕年間保存しなければならない。

 b)特定生物由来製品を取り扱う医療関係者が行う記録および保存

 〔特定医療関係者〕(特定生物由来製品を取り扱う医師その他の医療関係者)は、その担当した特定生物由来製品の使用の対象者の氏名、〔住所〕、使用年月日などを記録し、医療機関は使用した日から起算して少なくとも〔20〕年間保存しなければならない。

販売先等に関する情報提供

 生物由来製品の販売業者が薬局、医療機関等に販売した時は、販売先の〔氏名〕または住所、生物由来製品の名称等を〔当該生物由来製品承認取得者等〕に提供しなければならない。また、卸売販売業者等が生物由来製品を取り扱う場合にあっては、〔二次卸〕として販売等を行う者についても、生物由来製品承認取得者等に対する〔情報提供〕を同様に行わなければならない。

指定薬物

指定薬物の経緯

 〔幻覚作用〕などのある化合物は多数存在する。このうち、麻薬に指定されているものは「〔麻薬及び向精神薬取締法〕」で規制できるが、指定には〔依存性〕などについての科学的データが必要であることから、すべてを指定できているわけではない。また、麻薬に指定されている物質と〔構造〕が類似しているだけでは、麻薬ではないため、そのような化合物は麻薬としての規制の〔対象外〕である。

 このような法律上取り締まりの対象となっていない化合物を輸入して販売する例が生じてきていた。法律に抵触しないという意味で「〔脱法ドラッグ〕」と称し、取り締まられないということから「〔合法ドラッグ〕」と称している場合もあった

 これを取り締まるため、2006(平成18)年、薬事法に〔指定薬物〕の規定を設け、〔保健衛生上〕の観点から規制することにしたものである。現在の規制の内容は、〔医療等〕の用途以外で販売や所持している者の取り締まり、指定薬物の疑いがある物品の〔検査〕および製造等の制限などである。なお、呼称も政府が統一して「〔危険ドラッグ〕」とし、その危険性の一層の喚起を図っている。

薬局の定義・許可

薬局の定義

 薬局とは、「薬剤師が販売又は授与の目的で〔調剤〕の業務を行う場所(その〔開設者〕が医薬品の販売業を併せ行う場合にはその販売業に必要な場所を含む)」と規定されている。病院もしくは診療所の調剤所は、〔薬局〕と称することはできるが、〔医療法〕の対象であるので、ここで規定する薬局からは除外されている。

薬局開設の許可

 薬局は、その所在地の〔都道府県知事〕(その所在地が保健所を設置する市または特別区の区域にある場合においては、市長または区長)の許可を受けなければ、〔開設〕することができない。その許可の基準は、〔構造設備〕が基準に適合すること、調剤および調剤された薬剤の〔販売等〕の業務を行う体制などが基準に適合すること、〔欠格条項〕に該当しないこととなっている。

 この許可は、〔6年〕ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によってその〔効力〕を失うこととなる。

薬局および医薬品の販売業

 薬局において医薬品の〔販売業〕を併せ行う場合は、薬局医薬品(医療用医薬品および薬局製造販売医薬品)、〔要指導医薬品〕および一般用医薬品のいずれも販売することができる。

 なお、2013(平成25)年12月の改正において、調剤された薬剤の販売に従事する者の規定(〔薬剤師〕に販売させ、または授与させなければならない)や調剤された薬剤に関する〔情報提供〕および指導等の規定が新設されている。

医薬品販売業の3つの区分と販売に関する規制

 薬局以外で医薬品を業として販売等を行おうとするときは、〔医薬品販売業〕の許可が必要である。医薬品販売業には、店舗販売業、〔配置販売業〕および卸売販売業の3種類がある。これらの許可も薬局と同様に、〔6〕年ごとにその更新を受けなければその期間の経過によって、その効力を失う。

 なお、一般用医薬品の販売に従事できる者としては、薬剤師のほかに〔登録販売者〕がある。登録販売者は、定められた条件を満たしたうえで、〔都道府県知事〕が行う試験に合格しなければならない。また、業務に従事するには、〔都道府県知事〕の登録を受けなければならない。薬剤師と異なり登録販売者が販売できる一般用医薬品には〔制限〕がある。

店舗販売業

 店舗販売業は、一般には〔ドラッグストア〕などと呼ばれており、要指導医薬品または〔一般用医薬品〕を、店舗において販売または授与する業態である。その許可は薬局と同じく、その所在地の〔都道府県知事〕(その所在地が保健所を設置する市または特別区の区域にある場合においては、市長または区長)が行う。

 その許可の基準は、〔構造設備〕が基準に適合すること、薬剤師または〔登録販売者〕を置くこと、〔欠格条項〕に該当しないこと、などとなっている。なお、登録販売者とは、〔一般用医薬品〕の販売または授与に従事しようとする者がそれに必要な資質を有するとして、〔都道府県知事〕が確認した者である。

 店舗販売業で販売できる医薬品のうち、〔要指導医薬品〕を販売する場合は、〔薬剤師〕が文書を用いて〔対面〕で情報を提供し、〔薬学的知見〕に基づく指導を行うことが必要である。また、一般用医薬品は、リスクに応じて第一類、第二類(指定第二類を含む)および〔第三類〕に区分され、直接の容器等にそれぞれ〔表示〕がなされるとともに、その販売に当たっての〔情報提供〕の義務の有無や販売者について規定されている。それらを表3-4に示す。

 

配置販売業

 配置販売業は、一般用医薬品を〔配置〕により販売または授与する業態である。これは、〔販売業者〕があらかじめ消費者に医薬品を預けておき、消費者が使用した分の〔代金〕を請求するものである。許可は配置しようとする区域をその区域に含む〔都道府県知事〕が行い、〔薬剤師〕または登録販売者が配置することなど医薬品の〔配置販売〕を行う体制が基準に合致することなどの条件を満たすことが必要である。

 配置販売業者が販売できる医薬品は、一般用医薬品のうち〔経年変化〕が起こりにくいことなどの基準に適合するもののみである。

卸売販売業

 卸売販売業は、医薬品を、〔薬局〕や医療機関等にのみ販売または授与する業態である。したがって、医薬品を患者や消費者に〔直接販売〕することはできない。卸売販売業の許可は、営業所ごとにその営業所の所在地の〔都道府県知事〕が与える。許可を受けるためには、その営業所の〔構造設備〕が基準に適合することなどの条件を満たすことが必要である

 卸売販売業者は、原則として、営業所ごとに〔薬剤師〕を置き、その営業所を管理させなければならない。製造販売業者の支店、出張所で、医薬品の〔製剤見本〕や〔臨床試用医薬品〕のみを取り扱う場合も卸売販売業者となる。

販売方法の制限

 〔薬局開設者〕または店舗販売業者は、〔店舗〕による販売または授与以外の方法により、医薬品を販売等することができない。したがって、〔配置販売〕はできない。一方、〔配置販売業者〕は配置以外の方法により、医薬品を販売等することができない。また、配置販売業者は、医薬品の直接の〔容器〕または直接の被包を開いて〔分割販売〕することができない。

 薬局開設者または店舗販売業者は、その薬局または店舗から、それ以外の場所にいる者に対して〔通信手段〕を介して〔一般用医薬品〕を販売することができる(〔特定販売〕)。インターネットなどの方法を用いるものであり、実施する場合の方法が定められている。一方、〔要指導医薬品〕は、インターネットなどによる特定販売は認められていない。

医薬品の販売の記帳義務

 医薬品の販売に際しては、〔記帳〕の義務がある。

 例えば薬局の開設者であれば、医薬品を譲り受けたときおよび薬局開設者等に販売などしたときは、〔品名〕、数量、譲り受けまたは販売等の年月日、譲渡人または譲受人の〔氏名〕を書面に記載しなければならない。また、この書類を記載の日から〔3年間〕保存しなければならない。

情報提供等の規定

 医薬品にかかるさまざまな情報は、次のAからCまでに記載(条文は適宜省略して記載)するとおり、〔医薬品医療機器法〕でそれぞれ規定している。

 要約すればAは医薬品を供給する側が、医薬品に関する情報をきちんと〔収集〕し、それを検討した上で、医薬品を使用する側へ情報を〔提供〕するということである。Bは医薬品を使用する側が、医薬品を供給する側の〔情報収集〕に協力するということである。Cは医薬品を使用する側が、提供された情報を有効に〔活用する〕ということである。

A 情報の収集・検討・提供(第68条の2第1項)

 「医薬品の製造販売業者、卸売販売業者等は、医薬品の〔有効性〕及び安全性に関する事項その他医薬品の〔適正な使用〕のために必要な情報を収集し、及び検討するとともに、〔薬局開設者〕、病院等の開設者、医薬品の販売業者等又は〔医師〕、歯科医師、薬剤師等に対し、これを〔提供〕するよう努めなければならない」

B 情報収集への協力(第68条の2第2項)

 「薬局開設者、病院等の開設者、〔医薬品の販売業者等〕又は医師、歯科医師、薬剤師等は、医薬品等の〔製造販売業者〕、卸売販売業者等が行う医薬品等の適正な使用のために必要な情報の収集に〔協力〕するよう努めなければならない」

C 情報の活用・収集/利用(第68条の2第3項)

 「薬局開設者、病院等の開設者又は医師、歯科医師、薬剤師等は、医薬品等の適正な使用を確保するため、相互の密接な〔連携〕の下に(医薬品の製造販売業者等から)提供される情報の〔活用〕その他必要な情報の〔収集〕、検討及び〔利用〕を行うことに努めなければならない」

MRの責務

 上述のAからCまでのことは、医薬品は〔情報〕とともに成り立っているものであることからして、当然のことである。しかし、業務が異なり組織が異なり、従事者の〔専門的背景〕が異なり、と多くのことが異なっている医薬品の〔供給側〕と使用する側とでは、〔努力〕なしにはこれらのことが円滑に行われることは難しい。例えば、製造販売後の副作用情報は医薬品を〔使用する側〕が提供しない限り知られることはないし、それを医薬品を〔供給する側〕が収集して検討しなければ単発的情報で終わってしまう。重篤で未知な副作用が発生すれば、〔使用上の注意〕を改訂して医療機関に伝達しなければならないし、場合によっては販売を中止して〔回収〕しなければならない。

 したがって、このような情報の収集・提供に当たる〔MR〕の役割は重要である。医薬関係者の間で、それらの橋渡しをする役割がMRには求められている。また、医薬品の情報に、「良い」、「悪い」はない。一見、有効性を示す情報が「〔良い〕」情報で、副作用の発生情報が「〔悪い〕」情報のように思われる。しかし、先に述べたように本来人に投与できない化学物質に〔情報〕を付加することで医薬品になったものであるから、医薬品にはさまざまな〔情報〕が必要である。もし〔副作用〕の情報がなければ、全くの手探りで投与せざるを得ない。〔副作用〕の情報があってこそ、それに注意しつつ投与ができるのである。

MRの守秘義務

 医薬品医療機器法では、「治験の依頼をした者又はその役職員は、〔正当な理由〕なく、治験に関しその職務上知り得た人の〔秘密〕を漏らしてはならない。これらの者であった者についても同様とする。」と規定している。製造販売後調査・試験の場合も同様な規定がある。また、〔特定生物由来製品〕についても、保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するために講ずる措置の実施に関して同様の規定がある。現に在職している場合のみならず、〔退職した後〕も同様であることに注意すべきである。

 ところで、これらの規定は〔罰則付き〕で禁止されているが、職務上知り得た人の〔秘密〕は、本来ほかの人に伝えるべきものではない。〔禁止規定〕があるから秘密を守り、そうでないから守らないという態度は、許されることではない。そもそも職務上知り得たことはみだりに〔口外〕しないという基本的なことを身につけていれば、法律上の〔守秘義務違反〕に問われることはない。

 なお、刑法には「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、〔正当な理由〕がないのにその業務上取り扱ったことについて知り得た人の〔秘密〕を漏らしたときは、〔6カ月〕以下の懲役又は〔10万〕円以下の罰金に処する」(第134条)と規定されており、保健師、〔看設師〕、臨床検査技師などの医療関係職種も、それぞれその資格に関する法律に同様な規定がある。

医薬品の容器、被包等への表示、添付文書等への記載事項および届け出制、記載禁止事項、封など

直接の容器等への記載義務事項

 医薬品の場合、例外として定められているときを除いてその直接の〔容器〕または直接の被包に、次に掲げる事項を記載しなければならない。

 ①製造販売業者の氏名または名称および〔住所

 ②名称(日本薬局方の名称、日本薬局方に収載されていない医薬品は〔一般的名称〕)

 ③〔製造番号〕または製造記号

 ④重量、容量または個数等の内容量

 ⑤日本薬局方に収載されているものは「〔日本薬局方〕」の文字等

 ⑥要指導医薬品は、「要指導医薬品」の文字

 ⑦一般用医薬品は、〔リスク区分〕ごとに第1類医薬品、第2類医薬品、第3類医薬品などの〔四角枠〕で囲んだ文字(表3-4参照)

 ⑧基準が定められた体外診断用医薬品は、その基準で規定された事項

 ⑨基準が定められた医薬品は、〔貯法〕、有効期間等

 ⑩日本薬局方に収載されていない医薬品は、有効成分の名称(一般的名称)および〔分量

 ⑪習慣性医薬品は、「〔注意-習慣性あり〕」の文字

 ⑫処方箋医薬品は、「注意-医師等の処方箋により使用すること」の文字

 ⑬厚生労働大臣が指定する医薬品は、「〔注意-人体に使用しないこと〕」の文字

 ⑭厚生労働大臣の指定する医薬品は、その〔使用の期限

 ⑮その他厚生労働省令で定める事項

添付文書等への記載事項

 医薬品は、添付文書等に最新の論文その他により得られた知見に基づき、次の事項を記載しなければならない。

 ①〔用法・用量〕その他使用及び取扱い上の必要な注意

 ②日本薬局方に収載されているものは、日本薬局方において記載するように定められた事項

 ③基準が定められた〔体外診断用医薬品〕は、その基準で記載するように定められた事項

 ④基準が定められた医薬品は、その基準で記載するように定められた事項

 ⑤その他〔厚生労働省令〕で定める事項

添付文書等記載事項の届け出等

 医薬品の製造販売業者は、医療用医薬品および要指導医薬品の製造販売をするときは、あらかじめ、その医薬品の名称と使用および取扱い上の必要な注意を〔厚生労働大臣〕に届け出なければならない(実際の届け出先は〔PMDA〕となっている)。これを変更しようとするときも同様である。また、届け出た添付文書等は、直ちに公表することになっており、PMDAの〔ホームページ〕に掲載される。

記載禁止事項

 医薬品は、〔添付文書〕または容器もしくは被包に、次に掲げる事項を記載してはならない。

 ①〔虚偽〕または誤解を招くおそれのある事項

 ②承認を受けていない〔効能・効果

 ③保健衛生上危険がある用法・用量または〔使用期間

封に関する規定

 医薬品の製造販売をするときは、〔厚生労働省令〕で定めるところにより、医薬品を収めた容器または被包に〔〕を施さなければならない。この封は、封を開かなければ医薬品を取り出すことができず、かつ、その封を開いた後には、容易に〔原状〕に復することができないように施さなければならない。

医薬品の広告に関する規制

虚偽・誇大広告の禁止

 医薬品は誤って使用されると被害が〔甚大〕になるおそれがあることから、名称、製造方法、〔効能・効果〕または性能に関して虚偽や〔誇大な広告〕が禁止されている。その方法は明示的なものに限らず、〔暗示的〕なものも禁止されている。また、〔医師〕が効果を保証したと誤解されるような広告や堕胎を暗示したり、わいせつな文書などを用いる広告も禁止されている。

特殊疾病用の医薬品および指定薬物等の広告の制限

 〔がん〕などの疾病に使用される医薬品または〔再生医療等製品〕であって、医師などの〔指導〕のもとに使用されなければ危害を生じるおそれが特に大きいものは、医薬関係者以外の一般人を対象とする〔広告方法〕が制限されており、医事または薬事に関する記事を掲載する〔医薬関係者向け〕の新聞・雑誌などに限って広告が認められている。

 〔指定薬物〕については、医事もしくは薬事または自然科学に関する記事を掲載する〔医薬関係者等向け〕の新聞または雑誌により行う場合などを除いて、広告が禁止されている。

承認前の医薬品等の広告の禁止

 医薬品が承認される前に広告することは、〔虚偽〕や誇大広告になるおそれがあるため、その名称、製造方法、〔効能・効果〕に関する広告が禁止されている。

医薬品等適正広告基準

 医薬品等の広告の〔適正化〕に関して、法令の規定を〔補完〕するため、〔医薬品等適正広告基準〕が定められている。これは、医薬品等の広告が虚偽、〔誇大〕にわたらないようにするとともに、適正を図ることを目的としている。使用する名称の範囲、効能または効果等の〔表現〕の範囲(一部分のみを強調することの禁止)などの規定がある。医薬品等適正広告基準は、医薬品の広告に関する法令の規定を遵守するための〔指針〕を示したものである。

治験およびGCPに関する規定

企業主導治験と医師主導治験の違い

企業主導治験

 新薬を販売するには、医薬品の安全性と〔有効性〕を確認する臨床試験(〔治験〕)は不可欠であり、企業は、厚生労働大臣(実際の届け出先はPMDA)に〔治験計画書〕を届け出たうえで、〔治験実施医療機関〕と契約を行い、〔GCP〕に従って治験を実施する(図3-5)。営利を追求する企業にとって〔莫大な金額〕を要する治験は、有効性や安全性が確認できなかった場合には投資した金額が回収できなくなるため、〔大きなリスク〕を伴う。企業は、医療における有益な医薬品を開発する使命をもっているが、このようなことから、高血圧症や糖尿病、脂質異常症など患者数の〔多い〕疾患の治療薬に開発がシフトすることもある。

 

医師主導治験

 〔オーファンドラッグ〕など、企業が開発しない治験が〔医師主導〕で行われることがあり、最終的には得られた臨床試験成績が医薬品の〔承認申請〕の資料に用いられるため、実施主体者である〔治験責任医師〕は治験のスポンサーと実施者の役割を兼ねた存在となる。したがって治験責任医師は〔GCP基準〕を遵守するなどの〔責務〕を有する。

 医師主導治験における製薬企業が関係する部分として治験薬の〔提供〕がある。製薬企業は、治験薬を提供する場合には、〔治験薬GMP〕に則って製造し、供給する必要がある。なお、提供した治験薬について、治験の計画の届け出に記載された以外の目的で使用された場合は、〔未承認医薬品〕の授与等とみなされ、治験薬を提供した製薬企業に〔医薬品医療機器法違反〕のおそれが出てくるので、治験薬供給後の医療機関での〔使用状況〕などを適宜確認しておく必要がある。

GCPに関する規定

 GCPは、被験者の〔人権保護〕・安全保持および治験の科学的な質の担保および〔信頼性〕を確保することを目的に、治験の〔準備〕に関する基準、治験の〔管理〕に関する基準および治験を行う基準から構成されている(表3-5)。

 

治験計画の届出、依頼・実施

 治験の依頼をしようとする者(あるいは自ら治験を実施しようとする者)はあらかじめ、〔厚生労働大臣〕(実際の届け出先はPMDA)に治験の計画を届け出なければならない。この届け出をした者は、当該届け出をした日から起算して〔30日〕を経過した後でなければ治験を〔依頼〕(あるいは自ら治験を実施)してはならない。この30日間に、PMDAは保健衛生上の観点から〔調査〕を実施し、必要があれば治験の〔中止〕あるいは変更を命ずることになる。

副作用・感染症等の報告義務

 治験の依頼をした者(あるいは自ら治験を実施した者)は、治験薬等について、〔副作用〕によるものと疑われる疾病、障害または死亡の発生、〔感染症〕の発生その他の有効性および安全性に関する事項で定められているものを知ったときは、〔厚生労働大臣〕に報告しなければならない。

 厚生労働大臣は、治験薬等の使用による保健衛生上の〔危害〕の発生または拡大を防止するため必要があると認めるときは、治験の依頼の〔取り消し〕またはその変更、治験の〔中止〕またはその変更その他必要な指示を行うことができる。

品質苦情に対する製造販売業者のGQP対応規定

製造販売業者の品質苦情等への対応規定

 品質を確保するためには、日常的に〔品質管理〕を行う必要がある。医薬品の製造販売業者は、〔品質管理業務手順書〕等に基づき、品質保証部門のあらかじめ指定した者に、〔製造管理〕および品質管理が適正かつ円滑に実施されていることを〔定期的〕に確認し、その結果に関する〔記録〕を作成させるなどの方策をとらせる必要がある。また、改善が必要な場合には、品質管理業務手順書等に基づき、〔品質保証責任者〕に、製造業者等に対して所要の措置を講じるよう〔文書〕により指示することなどを行わせる必要がある。

品質情報の対応責任者と処理

 医薬品の製造販売業者は、医薬品にかかる品質等に関する情報(品質情報)を得たときは、〔品質管理業務手順書〕等に基づき、〔品質保証責任者〕に次に掲げる業務を行わせなければならない。

 ①その品質情報を検討し、医薬品の品質、〔有効性〕および安全性に与える影響ならびに人の〔健康〕に与える影響を適正に評価すること。

 ②その品質情報にかかる事項の〔原因〕を究明すること。

 ③①および②の評価または究明の結果に基づき、品質管理業務または製造業者等における製造管理および品質管理に関し〔改善〕が必要な場合には、所要の措置を講じること。

 ④①から③までの情報の内容、評価の結果、〔原因究明〕の結果および改善措置を記載した記録を作成し、〔総括製造販売責任者〕に対して〔文書〕により速やかに報告すること。

 ⑤②の究明または③の改善措置のために、製造業者等に対し指示が必要な場合には、その指示を〔文書〕により行うとともに、製造業者等に対し文書による結果の報告を求め、それを適正に評価し、必要に応じてその製造所等の〔改善状況〕について実地に確認し、その結果に関する〔記録〕を作成すること。

 ⑥その品質情報のうち製造販売後安全管理基準に規定する〔安全確保措置〕に関する情報を〔安全管理統括部門〕に遅滞なく文書で提供すること。

品質不良等への対応責任者と措置

 医薬品の製造販売業者は、〔品質不良〕またはそのおそれが判明した場合には、品質管理業務手順書等に基づき、総括製造販売責任者および〔品質保証責任者〕に次に掲げる業務を行わせなければならない。

 ①品質保証責任者は、品質不良またはそのおそれにかかる事項を速やかに〔総括製造販売責任者〕に対して報告し、それを〔記録〕すること。

 ②総括製造販売責任者は、①に規定する報告を受けたときは、速やかに、危害発生防止などのため〔回収〕等の所要の措置を決定し、〔品質保証責任者〕およびその他関係する部門に指示すること。

 ③品質保証責任者は、②の規定により〔総括製造販売責任者〕の指示を受けたときは、速やかに所要の措置を講じること。

 ④品質保証責任者は、③の措置が適正かつ円滑に行われるよう、〔安全管理統括部門〕その他関係する部門との〔密接な連携〕を図ること。

 ⑤品質保証責任者は、③の措置の実施の〔進捗状況〕および結果について、〔総括製造販売責任者〕に対して〔文書〕により報告すること

品質クレームに対するMRの対応

 MRは、品質等に関する〔苦情〕を入手したときは、社内の規定に従って、迅速かつ的確に〔担当責任者〕に連絡する必要がある。また、検討結果について、〔適切な伝達〕が行われるように配慮する必要もある(「医薬品情報」p.146参照)

回収報告

 医薬品等の製造販売業者等は、その製造販売などをした医薬品等を〔回収〕するときは、回収に着手した旨および回収の状況を〔厚生労働大臣〕に報告しなければならない。回収命令(後述)による回収の場合以外でGQP、〔GMP〕、GVP等の規定によって回収する場合が該当する。この場合、薬事監視の権限が〔都道府県知事〕に委任されていることから、通常は〔都道府県知事〕への報告となる。

立入検査緊急命令等

立入検査

 厚生労働大臣または都道府県知事(保健所を設置する市の市長または特別区の区長)はそれぞれその有している〔権限〕によって、医薬品等の製造販売業者、〔薬局開設者〕等に必要な報告をさせ、または当該職員に業務上取り扱う場所に〔立ち入り〕あるいは検査させ、従業員に質問させるなどのことができる。

緊急命令

 〔厚生労働大臣〕は、医薬品等による保健衛生上の危害の発生または〔拡大〕を防止するため必要があると認めるときは、医薬品等の製造販売業者等や薬局開設者に対して、医薬品等の販売等を〔一時停止〕すること、その他保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するための〔応急の措置〕をとるべきことを命ずることができる

回収命令、検査命令、改善命令

 厚生労働大臣または都道府県知事は、医薬品等を業務上取り扱う者に対して法令の規定に従って、廃棄、〔回収〕、その他公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置をとるべきことを命ずること、〔検査〕を受けるべきことを命ずること、〔改善〕を命じまたはその改善を行うまでの間その業務の〔停止〕を命ずることができる。

中止命令等

 厚生労働大臣または都道府県知事は、〔承認前〕の医薬品等の〔広告〕の禁止または〔指定薬物〕の広告の禁止の規定に追反した者に対して、その行為の〔中止〕、その他〔公衆衛生上〕の危険の発生を防止するに足る措置をとるべきことを命ずることができる。

(浦山隆雄)

麻薬及び向精神薬等に関する取締法

 麻薬や向精神薬は、優れた〔鎮痛・鎮咳作用〕あるいは精神的な疾患に対する効果をもつ有用な医薬品である。しかしながら、濫用された場合の〔健康被害〕が大きいものでもある。このような医薬品を正しく使用して医療に役立てるために、必要な〔規制〕が定められている。また、あへん、大麻および覚醒剤についても、取り締まりに関する法律があるので、併せて説明する。

麻薬及び向精神薬取締法

目的

 「麻薬及び向精神薬取締法」の目的は「麻薬及び向精神薬の〔輸入〕、輸出、〔製造〕、製剤、譲渡し等について必要な取締りを行うとともに、〔麻薬中毒者〕について必要な医療を行う等の措置を講ずること等により、麻薬及び向精神薬の〔濫用〕による保健衛生上の〔危害〕を防止し、もって〔公共の福祉〕の増進を図ることを目的とする(麻薬及び向精神薬取締法第1条)」と規定している。

規制対象物質

 この法律で規制対象になっているものをまとめると表3-6のようになる。ここで注意すべきは、〔定義〕が法律の別表に掲載するものとなっていることである。すなわち、麻薬や向精神薬は一律に定義されるものではなく、〔科学的データ〕をもとに、その物質の〔性質〕を個々に勘案して指定される。また、向精神薬は〔有害作用〕の程度により、第一種向精神薬、第二種向精神薬および第三種向精神薬に分類して規制されている(表3-7)。

 

 

規制の内容

 麻薬および向精神薬は、有資格者が〔免許〕を受けなければ取り扱うことができない。規制されている取り扱いには、輸入、輸出、〔製造〕、製剤、〔譲渡〕、譲受、使用等がある。例えば、麻薬を購入して、それを錠剤にしようとする場合(麻薬に化学的変化を加えない)には、〔麻薬製剤業者〕の免許が必要である。この場合、医薬品医療機器法の規定による医薬品の〔製造販売業〕および製造業の許可を受けている者でなければ、〔免許〕を受けることができない。

 ただし、麻薬の中でも強い毒性をもつ〔ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)〕は、〔研究〕のための例外を除いて、あらゆる行為(輸入、輸出、製造、製剤、〔小分け〕、譲渡、譲受、交付、施用、被施用、所持および〔廃棄〕)が禁止されている。

 なお、〔疼痛緩和〕などの目的で麻薬を処方されている患者が、自己の疾患の〔治療目的〕で携帯して出国・入国(海外旅行)をする場合も輸出・輸入となるが、申請して〔許可〕を受けることで、それを行えるようになっている。

家庭麻薬

 家庭麻薬とは、1%以下の〔コデイン〕、〔1〕%以下のジヒドロコデインまたはこれらの塩類を含有する物(かつ、他の麻薬が含まれていない物)である。家庭麻薬は麻薬から除外されており(麻薬としての規制を受けない)、〔鎮咳薬〕(医療用医薬品)として処方されるほか、〔一般用医薬品〕(いわゆる総合感冒薬、鎮咳去痰薬)に配合されている。

医療用麻薬の取り扱い

麻薬施用者

 医師、歯科医師等が治療の目的で業務上麻薬を施用もしくは交付するためには〔麻薬施用者免許〕が必要である。

麻薬管理者

 〔2〕人以上の麻薬施用者が従事する医療機関では、使用する麻薬を一元的に管理する〔麻薬管理者〕を置かなければならない。常勤の医師や薬剤師などで、〔麻薬管理者免許〕が必要である。麻薬の管理は麻薬の受け払いを記録する〔帳簿〕を備え、記録する必要がある。

麻薬の管理

 麻薬は薬局等の麻薬事業所に〔〕をかけた堅固な〔保管庫〕を設置し、その中に保管しなければならない。この保管庫は〔麻薬専用〕でなければならず、〔覚醒剤〕を除く他の医薬品は一緒に保管できない。

麻薬処方箋

 〔麻薬施用者免許〕を有している医師が、患者に麻薬を投与しようとする場合は、通常の処方箋ではなく、〔麻薬処方箋〕を交付する必要がある。麻薬処方箋には、患者の氏名・〔住所〕、麻薬の品名、分量、用法・用量、自己の氏名、〔免許証〕の番号、発行年月日などを記載して、〔記名押印〕または署名をしなければならない。

医療用麻薬の取り扱い

 医療用医薬品として製造された麻薬製剤は、医薬品製造販売業者から〔医薬品卸売業者〕を経て、薬局・医療機関で患者に〔交付〕される。これらの過程において、各業者は〔麻薬製造業者〕、麻薬製剤業者、麻薬元卸売業者、麻薬卸売業者、〔麻薬小売業者〕などの免許が必要になる。必要な免許がない業者とは〔譲渡・譲受〕することができない。このうち、麻薬小売業者である薬局に対する麻薬の譲渡は、同一都道府県内の〔麻薬卸売業者〕からに限られている。また、麻薬の譲渡・譲受の際にはそれを証する〔書類〕の交付が必要であるなど、厳格な取り扱いが定められている。なお、麻薬処方箋を受け取った患者は、それと引き替えに〔麻薬〕の交付を受けることができる。

あへん法

目的

 あへん法の目的は、「医療及び〔学術研究〕の用に供するあへんの供給の適正を図るため、国があへんの輸入、輸出、収納及び〔売渡〕を行い、あわせて、〔けし〕の栽培並びにあへん及びけしがらの譲渡、〔譲受〕、所持等について必要な取締を行うことを目的とする(あへん法第1条)」と定めている。

 この目的をみると、取り締まりだけではなく、〔利用〕にも重点を置いていることがわかる。あへんからは有用な〔医薬品〕が何種類も得られるが、それらの〔化学的合成〕が行いにくく、あへんから製造する方法が最も効率的なためである。

規制対象物質

 規制対象物質は、〔けし〕、あへんおよびけしがらである(表3-8)。

 

 あへんはけし坊主といわれる部分から取れる〔液汁〕を固めたもので、けしがらは〔種子〕以外のけしの全草である(図3-6,7)。

 

 

規制の内容

 国は、あへんの〔輸入〕、輸出、国内のけし栽培者からの買取麻薬製造業者等への売渡を〔独占〕しており、国以外の者がこれらのことを行うことはできない(ただし、輸出入は国から〔委託〕を受けた者は行える)。

 けしを栽培できるのは、〔けし栽培者〕の許可を受けた者のみである。〔観賞用〕であっても許可のない者が栽培することはできない。あへんの譲渡・譲受は、〔国に対する譲渡〕または国からの譲受しか認められない。あへんの所持は、〔けし耕作者〕など必要な許可を受けた者しか認められない。あへんの廃棄には〔厚生労働大臣〕の許可が必要である。さらに、何人もあへんまたはけしがらを〔吸食〕してはならない。

大麻取締法

目的

 大麻取締法には〔目的〕の記載がない。それは、大麻には医薬品等としての〔利用方法〕が認められておらず、〔取り締まり〕自体が目的であり、法律の名称がそのまま目的を示しているためである。ただし、〔研究目的〕で大麻を栽培する場合や〔繊維〕の採取を目的として栽培する場合があるので、その〔免許〕に関する規定が設けられている。

規制対象物質

 法律では、「大麻」は「〔大麻草〕(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く)並びに大麻草の〔種子〕及びその製品を除く」と定義されている(図3-8)。

 

規制の内容

 〔研究目的〕で大麻を栽培する場合や繊維の採取を目的として栽培する場合には、〔都道府県知事〕の免許が必要である。この免許を受ければ、大麻の〔所持〕、栽培、譲受、譲渡または研究をすることができるが、あくまでも〔限定的〕に認められているものである。

 一方、大麻の輸入・輸出(研究用の例外あり)、大麻から製造された〔医薬品〕を施用すること、または施用のための〔交付〕、大麻から製造された医薬品の施用を受けることについては、禁止されている。

 なお、大麻の〔種子〕の所持は違法ではなく、発芽防止のために〔加熱処理〕されたものが小鳥のえさなどとして販売されている。しかしながら、〔発芽能力〕のある種子を購入して発芽させれば違法である。

覚醒剤取締法

目的

覚醒剤取締法の目的は、「覚醒剤の濫用による〔保健衛生上の危害〕を防止するため、覚醒剤及び〔覚醒剤原料〕の輸入、輸出、所持、〔製造〕、譲渡、譲受及び使用に関して必要な取締を行うことを目的とする(覚醒剤取締法 第1条)」と規定されている。

規制対象物質

覚醒剤

 覚醒剤として指定されているものは、①フェニルアミノプロパン(アンフェタミン)およびその塩類ならびにこれらのいずれかを含有する物、②〔フェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)〕およびその塩類ならびにこれらのいずれかを含有する物、また①または②のいずれかを含有するものも同様である。

覚醒剤原料

 覚醒剤原料は、表3-9に示すように全部で〔12〕種類が指定されている。

 

規制の内容

 覚醒剤は、〔覚醒作用〕があり、濫用により〔依存〕を生じるとともに、〔幻覚〕や妄想が現れるようになる。わが国において濫用による検挙者が最も多い薬物が〔覚醒剤〕である。

 一方、医薬品としては、フェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)が、〔ナルコレプシー〕などに対する適応を有している。しかし、使用等についての〔規制〕が厳しいことから、現在使用されることはまずないといってよい。

覚醒剤

 覚醒剤の〔輸入〕または輸出は、全面的に禁止されている。製造所持譲渡・譲受等については、〔覚醒剤製造業者等〕が限定的に認められている。これが認められるためには、覚醒剤製造業者、覚醒剤施用機関(医療機関)、〔覚醒剤研究者〕として指定を受ける必要がある。

覚醒剤原料

 覚醒剤原料は、〔医療用医薬品〕として広く使用されているものもあり、〔覚醒剤〕のような厳しい規制はないものの、取り扱うためには、法律の規定に従って、〔覚醒剤原料取扱者等〕の指定を受ける必要がある。

(浦山隆雄)

独立行政法人医薬品医療機器総合機構法

 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の主要業務は次のとおりである。

 ①医薬品等の副作用や生物由来製品等を介した感染等による健康被害に対する〔救済

 ②医薬品等の〔承認審査

 ③医薬品等の〔安全対策

 本書では主として医薬品に関する業務を説明し、医療機器および再生医療等製品にかかわる内容は割愛している。

PMDAの目的と業務

PMDA設立の経緯

 PMDAの前身は1979(昭和54)年に設立された〔医薬品副作用被害救済基金〕である。その後、1987(昭和62)年には研究振興業務を加えて、〔医薬品副作用被害救済・研究振興基金〕に変更され、1994(平成6)年には医薬品等の同一性調査業務を加えて、〔医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構〕に改められた。

 さらに2004(平成16)年4月1日独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(機構法)の施行により、〔PMDA〕が同日設立され、救済給付業務、〔審査関連業務〕、安全対策業務等を行うこととなった(表3-10)。独立行政法人とは、国民生活および社会経済の安定等の〔公共上〕の見地から確実に実施されることが必要な事務および事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、〔民間〕の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの、または1つの主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、〔独立行政法人通則法〕および個別法の定めるところにより設立される法人をいう。厚生労働省関係の〔国立病院〕や文部科学省関係の〔国立大学〕などが独立行政法人となっている。

 

 2014(平成26)年11月の改正では、再生医療等製品の〔健康被害救済事業等〕が対象に加えられた。

PMDAの目的と業務

 次の業務を行うことにより、〔国民保健〕の向上に資する。

 ①許可医薬品等の〔副作用〕や許可生物由来製品等を介した感染等による健康被害の〔救済業務〕。

 ②医薬品等の品質、有効性および安全性の向上に資する〔審査〕等の業務。

 ③安全対策等に関する業務:医薬品等の〔品質〕、有効性および安全性に関する情報を〔収集〕し、整理し、および提供し、ならびにこれらに関する〔相談〕に応じること、その他医薬品等の品質、有効性および安全性の〔向上〕に関する業務。

【根拠条文】

機構は、許可医薬品等の〔副作用〕又は許可生物由来製品等を介した〔感染等〕による健康被害の迅速な〔救済〕を図り、並びに医薬品等の品質、有効性及び安全性の向上に資する〔審査等〕の業務を行い、もって〔国民保健〕の向上に資することを目的とする(機構法第3条)

医薬品副作用被害救済制度と生物由来製品感染等被害救済制度の趣旨

制度の趣旨

医薬品副作用被害救済制度

 医薬品は、人の生命・健康の維持に直接関与し、人の生活に〔不可欠〕な物質であるが、その副作用の中には事前の万全な〔予防対策〕によってもその発生を防止し得ないものもある。したがって、副作用の発生を企業の民事責任とするのではなく、〔社会的責任〕により、被害者を〔救済〕するものである。

生物由来製品感染等被害救済制度

 生物由来製品等については、原材料の採取から〔製造販売後〕の段階に至る最新の〔科学的知見〕に基づく安全対策が講じられたとしても、感染等による〔健康被害〕を生じるおそれを完全に否定できないものであり、〔医薬品副作用被害救済制度〕に準じた制度が設けられ、2004(平成16)年4月より実施された。また、2014(平成26)年11月より〔再生医療等製品〕がその対象に加えられた。

民事責任との関係

 このような医薬品等の特殊性から、副作用等の被害について〔民事責任〕が発生しないものがあったり、また、訴訟などによる解決には〔長期間〕を要することなどから、〔副作用〕によって被害を被った患者に対して、民事責任=〔損害賠償責任〕とは一応無関係に、その現実的救済を図っていくため、PMDAにおいて〔救済制度〕が実施されている。

救済対象となる副作用・感染症等

副作用

 「許可医薬品等の副作用」とは、「許可医薬品または許可再生医療等製品が〔適正な目的〕に従い適正に使用された場合においても、その薬により人に発現する〔有害な反応〕」である。

感染症

 「許可生物由来製品等を介した感染等」とは、許可生物由来製品等が適正な〔使用目的〕に従い適正に使用された場合においても、その許可生物由来製品等の〔原料〕もしくは材料に混入し、または付着した〔感染症の病原体〕に当該許可生物由来製品等の使用対象者が感染すること、または健康被害を受けたものを介して〔二次感染〕を受けることをいう。

除外例

 a)「許可医薬品等」または「許可生物由来製品等」から除外されるもの

 許可医薬品等とは、〔医薬品医療機器法〕に規定された医薬品および〔再生医療等製品〕で、これらの〔製造販売業〕の許可を受けて製造販売されたものをいう(図3-9)。

 

 許可生物由来製品等とは、医薬品医療機器法に規定された生物由来製品および〔再生医療等製品〕で、これらの製造販売業の許可を受けて〔製造販売〕されたものをいう。

 この定義のもとにこの制度の対象となる医薬品または生物由来製品を限定し、これ以外を除外している。

 「許可医薬品」から除外されるものは次のとおりである。

 ①人体に直接使用しないもの

 ②〔薬理作用〕がないとされるもの:常水、白糖、ダイズ油等の医薬品添加物

 ③〔副作用〕の発現を受忍して使用するもの:〔抗がん薬〕、免疫抑制薬など厚生労働大臣の指定するもの

「許可生物由来製品」から除外されるものも、上記と同様なものである。

 b)その他の除外例

 ①〔予防接種法〕の規定による予防接種を受けたことによるものである場合。

 予防接種法の規定による予防接種には〔定期〕の予防接種が該当し、同法に健康被害の〔救済制度〕がある。〔任意〕の予防接種による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象となる。

 ②〔救命〕のためにやむを得ず通常の使用品を超えて使用し、かつ、当該健康被害の発生があらかじめ認識されていた場合、その他〔これに準ずる〕と認められる場合。

 ③不適正使用:〔適正目的〕以外に使用した場合(例えば〔自殺〕に用いた場合、医師が処方した患者以外の家族の使用、残薬の使用)。

 ④他に賠償の責任があるもの:いわゆる〔医療過誤〕が被害発生の原因である場合、など

副作用被害・感染症被害の救済

 PMDAは許可医薬品等による〔副作用〕または許可生物由来製品等による〔感染症〕による健康被害者についての〔救済給付〕に要する費用をあらかじめ関係業者から〔拠出金〕として徴収しておき、請求があった場合は内容に応じて〔給付〕を行う。この際、医学、薬学的判断を要する場合は〔厚生労働大臣〕に判定を申し出、〔薬事・食品衛生審議会〕の意見により、判定が行われる。また、原因となった製品を販売した企業からは〔付加拠出金〕が徴収される(図3-10)。

 

救済の方法

 許可医薬品等の使用により不可避的に発生した〔副作用被害〕および許可生物由来製品等を介した〔感染等〕による健康被害(以下、副作用または感染症という)は大別して、疾病、〔障害〕、死亡の3種類がある。これら3種類の健康被害に対し、〔金銭給付〕である救済給付等が行われる。

救済給付の請求

 救済給付の請求は、それを受けようとする者(健康被害者またはその遺族など)が請求書に医師の作成した〔診断書〕など必要な書類を添えて〔PMDA〕に直接行う。

副作用被害・感染症被害の判定

 ある健康被害が〔許可医薬品等〕の使用によるものであるかどうか、許可医薬品等の使用は〔適正〕であったかどうかといった判断は、〔厚生労働大臣〕が医学、薬学等の専門家からなる〔薬事・食品衛生審議会〕の意見を聴いて判断する。

救済業務の実施主体

 救済業務の実施主体は、その業務の〔公益性〕、公共性などを鑑み、機構法に基づき〔PMDA〕が行う。

救済給付の内容(図3-11)

 

医療費および医療手当

 副作用または感染症による疾病について〔入院〕を必要とする程度の医療を受ける者へ給付。

障害年金

 副作用または感染症により政令で定める程度の〔障害〕の状態にある〔18歳〕以上の者へ給付。

障害児養育年金

 副作用または感染症により政令で定める程度の障害の状態にある〔18〕歳未満の者を〔養育する者〕へ給付。

遺族年金または遺族一時金

 副作用または〔感染症〕により死亡した者の政令で定める〔遺族〕へ給付。

葬祭料

 副作用または感染症により死亡した者の〔葬祭〕を行う者へ給付。

 副作用被害救済制度設立後の実績は表3-11のとおりである。1980(昭和55)年の設立当初は請求が少なかったが、近年は年間〔1,000〕件を超えている。

 

 生物由来製品感染等被害救済制度設立後の実績は表3-12のとおりである。2004(平成16)年の設立当初より年間平均〔10〕件以下で推移している。

 

財源

 救済事業に要する費用は、すべての許可医薬品等製造販売業者から徴収する〔副作用拠出金〕およびすべての〔許可生物由来製品等製造販売業者〕から徴収する感染拠出金によって賄われるのを原則とする。

一般拠出金

 許可医薬品等製造販売業者または許可生物由来製品等製造販売業者がその製品の〔出荷数量〕に応じて毎年負担する。

付加拠出金

 一般拠出金とは別に、救済給付を必要とする〔健康被害〕を発生させた許可医薬品等または許可生物由来製品等の製造販売業者は、さらに一定の〔付加拠出金〕を拠出する。

審査関連等のPMDAの業務

審査関連等の業務内容

 医薬品等の承認申請にかかる〔審査業務〕は従来行政庁である〔厚生労働省〕が直接行っていたが、新薬等の専門知識を必要とする審査業務を〔外部専門家〕である審議会の委員に委託する方法であった。

 審査の公平性、〔迅速性〕を図るため、行政庁内部に専門家を擁し審査を行う体制が求められたが、定員増加等の課題があり、〔承認権限〕は行政庁に残しつつ、実務を公的機関で行うこととし、〔PMDA〕の発足とともに、これらを一括して行わせることになった。

 このための費用としてPMDAでは〔申請手数料〕を申請者から直接徴収する。

承認審査等業務(図3-12)

 

 ①医薬品等の製造業の許可または許可の更新にかかる許可基準の〔適合性〕に関する調査および報告

 ②医薬品等の承認申請に関する審査、〔調査〕および報告

 ③医薬品および再生医療等製品の〔再審査〕・再評価申請に関する確認調査および報告

 ④外国製造医薬品等の承認申請に関する審査、調査および報告

 ⑤治験計画にかかる届け出の〔受理〕、同計画に関する〔調査〕および報告

治験等の指導・助言等の業務

 民間において行われる〔治験〕、その他医薬品等の〔安全性〕に関する試験、その他の試験の実施、医薬品等の〔使用の成績〕、その他厚生労働省令で定めるものに関する調査の実施および〔医薬品医療機器法〕の規定による承認の申請に必要な〔資料〕の作成に関し、〔指導〕および助言を行う。

安全対策等に関する業務

 安全対策業務の概要については第5章を参照。

副作用情報の報告制度

 審査業務と同様の観点から、安全対策に関する行政権限は〔行政庁〕に残しつつ、実務を〔PMDA〕で行うことになった

 このための費用としてPMDAでは安全対策等拠出金を企業から直接徴収する。

企業報告等の情報収集・調査・対策検討

 製造販売されている医薬品・医療機器等の〔安全性〕の向上を図るとともに、患者や医療関係者が安心して適正に医薬品・医療機器等を使用できるよう、〔厚生労働省〕と連携して次の業務を行っている。

 ①副作用・不具合・感染症等に関する〔企業〕からの報告、〔医療機関〕からの情報、〔海外規制機関〕からの情報、学会報告など、医薬品・医療機器等の安全性等に関する情報を幅広く、一元的に〔収集〕し、収集した情報を〔整理〕する業務(情報収集・整理業務)。

 ②①により収集した情報に基づき、〔安全対策〕に関する調査、検討を行う業務(調査・検討業務)。

相談業務

 ①医薬品等の安全性に関して、製造販売業者等を対象に〔添付文書〕の改訂等に伴う相談、その他製造販売後の製品の〔安全対策計画〕に関する相談を受け付け、〔相談業務〕を行う。

 ②一般の人からの薬に関する疑問や照会などに答える〔消費者くすり相談業務〕を行う。

情報提供業務

 医療用医薬品等の〔安全な使用〕を推進するため、〔副作用情報〕、添付文書情報等の医薬品情報をインターネットのホームページに掲載し、医療関係者等への〔情報提供業務〕を行う。

立入検査・質問・収去

 厚生労働省の〔委託〕を受けて行う業務について、必要に応じ国内外の関係施設および関係者に対し〔立入検査〕、質問および収去を行う。

(手島邦和)

その他の法規

 MRに関連するその他の法規には、〔製造物責任法(PL法*8)〕、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(〔独占禁止法〕)、不当景品類及び不当表示防止法(〔景品表示法〕)、金融商品取引法、国家公務員倫理法および倫理規程、刑法の〔贈収賄罪〕および個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)などが関係する。PL法は、製造または加工した製造業者に対し、〔消費者保護〕の観点から被害者の救済を図った法律である。また独占禁止法、景品表示法等の趣旨は、業務の遂行において〔不正な競争〕を防止し、消費者の取引における信頼を確保することである。国家公務員倫理法・倫理規定および贈収賄罪の趣旨は、〔公務員〕に対する国民の信頼を確保することである。また個人情報保護法は、〔個人情報〕がみだりに使用されないことを図ったものである。

製造物責任法(PL法)

 PL法は、製品の〔欠陥〕により生命、身体および財産に被害を受けた〔消費者〕を救済するための法律である。通常、製品は〔製造業者〕、卸売業者、小売業者を経て消費者に届く。PL法は、〔被害者〕が製品に欠陥があったことを証明すれば、購入した小売業者ではなく直接製造業者に〔損害賠償〕を求めることができる法律である。さらにPL法は、被害者救済の趣旨から、〔欠陥〕の存在について〔製造業者〕に過失がなくても損害賠償義務を負わせる〔無過失責任〕を採用している。

PL法と民法との関係

 民法は、〔契約当事者〕あるいは不法行為等の法律関係を規律する法律である。被害者が〔民法〕に基づき製造業者の責任を問うためには、製造業者の「故意・過失」「〔損害〕の発生」および「故意・過失と損害の発生との〔因果関係〕」を立証する必要があった。しかし、機械化により大量生産される製品の製造について、消費者に製造業者の〔故意・過失〕を立証させることは、製造業者と消費者間の〔技術的知識〕の差異あるいは製造資料のほとんどを〔製造業者〕が保管しているため、立証が〔困難〕であるとして〔民法〕の一部要件を修正して制定したのが〔PL法〕である。

 PL法は、製造物の欠陥により生命、〔身体〕または財産に損害を受けた被害者は、製造業者が製造した製品に「〔欠陥〕があること」「〔損害〕が発生したこと」および「その損害が欠陥により生じた因果関係の存在」を立証すれば、製造業者に対し被った〔損害の賠償〕を請求することができる。すなわち、製造業者の「故意・過失」に代えて製品に「〔欠陥〕」があることを〔立証〕すれば足りることになった。

PL法の用語の定義

製造物

 製造物とは、製造または加工された〔動産〕である。製造、加工されていない動産および動産以外の不動産、〔サービス〕などは含まれない。

欠陥

 欠陥とは、製品が通常有すべき〔安全性〕を欠いていることをいう。

 この通常有すべき安全性を欠く欠陥は、製品の性能、〔製造技術〕あるいは使用説明等に関して生じる。欠陥には、①〔設計上〕の欠陥、②製造上の欠陥、および、③〔指示・警告上〕の欠陥がある。

 a)設計上の欠陥

製品の設計や〔構造自体〕に欠陥がある場合である。医薬品は、医薬品医療機器法により国の〔承認〕を得ているが、医薬品の構造に〔設計上のミス〕がないとはいえない。〔試験データ〕に間違いがあったような場合が該当する。

 b)製造上の欠陥

製造工程〕にミスがある場合で、製造にかかる〔品質管理〕の問題である。医薬品の場合、製造過程で〔異物〕が混入するような場合が該当する。

 c)指示・警告上の欠陥

 製品が有している危険の〔警告〕や指示が不適切な場合である。この欠陥には、(ア)警告に〔不足〕がある場合(イ)警告自体が不明確、不十分な場合、(ウ)警告の〔表示〕が不適切な場合がある。

 医薬品の添付文書において、〔副作用〕に関する情報、相互作用に関する情報および〔長期服用〕の場合の情報、〔高齢者〕が服用する場合の副作用の情報などが不十分な場合である。

 〔MR〕が医療関係者に対して、誤解を与えるような情報提供を行ったり、〔説明不足〕によって医薬品の適正使用が歪められれば、指示・警告上の欠陥に該当するので、十分注意する必要がある。

製造業者

 製造業者には、次の3つの業態がある。

 ①製造物を業として製造、加工または〔輸入〕した者。

 ②自ら当該製造物の製造業者として、その〔氏名〕、商号、商標その他の表示をした者、またはその製造業者と〔誤認〕させるような氏名等の表示をした者。

 ③製品の製造、加工、輸入または販売にかかる〔形態〕その他の事情からして、当該製品にその〔実質的な製造業者〕と認めることができる氏名等の表示をした者。

 実質的な製造業者とは、表面的には〔販売業者〕であるがその製品の製造に関し、設計、〔製造指示〕などに深くかかわったような者をいう。

 PL法は、製造業者が製品を引き渡したものの〔欠陥〕により、他人の生命、身体または財産を侵害したとき、これにより生じた〔損害〕を賠償する責任を負う。ただし、損害が〔その製品のみ〕に生じた場合には適用されない。

免責事由

 製造業者は、次の点を証明したときはPL法の責任を免責される。

 ①製品を流通させたときを基準として、科学的または技術的知見によってその製品の欠陥を認識できなかった場合(〔開発危険〕の抗弁)。

 ②製品が、他の製品の部品または原材料が使用されている場合、その欠陥がもっぱら〔他の製造業者〕の設計指示に従った場合、医薬品については、〔賦形剤〕による欠陥が考えられる。

PL法と医薬品の関係

 医薬品開発は、人の生命・身体にかかわるため極めて専門的な知識と厳しい〔手続き過程〕を経なければならない。そして開発過程の各種試験、〔製剤化〕などに関しては他社に委ねるのが通常だが、次の点に留意しなければならない。

既知の副作用

 既知の副作用に関しては、医薬品は副作用の存在が〔前提〕となっているので、〔既知の副作用〕があっても予定された副作用であるため欠陥とはいえない。ただし、当該副作用に関し、〔指示・警告上〕の欠陥があれば、当然責任を負うことになる。

未知の副作用

 未知の副作用は、医薬品を流通したときにその欠陥が〔科学的、技術的知見〕から認識できなかった場合の問題である。通常、医薬品は〔市販後〕に未知の副作用が見つかる。〔未知の副作用〕と医薬品の有効性を鑑みて、医薬品として〔有用性〕が認められれば欠陥にはあてはまらない。

副作用の緩和・解消の努力

 医薬品の開発時点において欠陥が認識されていた場合、医薬品の有効性の〔優位性〕が認められるとしても、その欠陥を科学的に〔解消〕するか、解消できなければその副作用の試験研究を継続しその副作用を科学的に〔緩和〕するか、その医薬品を選択した患者に危険が及ばないよう〔添付文書〕への記載および説明などが必要である。

損害賠償請求権にかかわる時効

 ①被害者が、損害および損害賠償義務者を知ったときから〔3〕年間経過したときは、損害賠償請求権は〔時効〕により消滅する。 

 ②製造業者が、製品を市場に流通させたときから〔10〕年間経過したときの損害賠償請求権は、時効により消滅する。

 ③医薬品のように身体に一定期間蓄積した結果、〔健康被害〕が生じるような場合における10年間の消滅時効の起算点は、その損害が〔発生したとき〕から計算する。

PL法と医薬品副作用被害救済制度および生物由来製品感染等被害救済制度との関係

 〔医薬品副作用被害救済制度〕は許可医薬品等の副作用によって生じる健康被害を、生物由来製品感染等被害救済制度は〔許可生物由来製品〕や再生医療等製品の使用による感染等の健康被害を〔民事責任〕とは切り離して、製薬企業の〔社会的責任〕に基づき救済する制度である。

 一方、〔PL法〕は欠陥製品による被害を対象としており、〔民事責任〕に基づいた損害賠償制度である。いずれも〔被害者〕の保護を目的にしているが、制度の内容は異なっている。

医療におけるPL法

 医療行為に伴う〔混合注射〕、義歯の製作または調剤による医薬品の〔混合〕などは〔医療行為〕の一環であり、立法の趣旨としてはPL法の〔製造物〕には該当しないと説明されている。

 もし〔医療行為〕に過失があって被害が発生した場合には、民法に基づく〔過失責任〕を問われて、不適切な医療行為による〔損害賠償責任〕を負うことになる。

PL法と医療行為

 医師が、添付文書に基づき〔処方箋〕を発行し、これに基づいて〔薬剤師〕が調剤を行った場合のPL法との関係は以下のように考えられる。

 医師が医薬品の〔投与量〕を間違え、薬剤師がこれを見逃して調剤したときは、医師および薬剤師は、民法の規定(〔債務不履行〕、不法行為)により責任を負うことになるので〔PL法〕に関係しない。

 しかし、〔長期服用〕または他の薬剤を服用している患者に対し、適正な処方および調剤が行われたとしても、〔添付文書〕の説明が不十分であったような場合、医師および薬剤師の責任は問われなくとも、〔医薬品の製造業者〕はPL法により責任を問われることがある。

 したがって、MRは医師、薬剤師からの医薬品の最新の〔臨床情報〕を収集し、社内検討された結果を医師、薬剤師に〔フィードバック〕するなどして〔適切な情報提供〕をしなければならない。

医薬品PLセンター

 医薬品PLセンターは、医薬品に関する〔苦情〕等につき裁判外で中立、〔公平〕、迅速に解決できるよう〔日本製薬団体連合会〕が設けた機関である。

独占禁止法と景品表示法

独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

 本来、職業選択の自由および〔取引自由〕の原則が認められているが、消費者の利益を保護するため不公正な取引方法を〔独占禁止法〕は制限している。〔公正な競争〕は、技術を向上させ消費者にとって利益となるが、〔取引の独占〕や不公正な取引を認めると商品、サービスなどの独占につながり〔消費者〕に不利益を与える。

独占禁止法によるMRの禁止行為

 独占禁止法では、①〔私的独占〕、②不当な取引制限、③不公正な〔取引方法〕等を禁止している。

 このうち、MRが注意すべきは、〔不公正な取引方法〕である。例えば、〔再販売価格〕を拘束する行為や、他社の製品の取引を不当に妨害することなどが対象となる。また、〔リベート供与〕などの不公正な取引は、〔医療用医薬品製造販売業公正競争規約〕でも禁止されている(p.222参照)。

景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)

 この法律は、商品およびサービスの取引に関連し〔不当な景品類〕の提供や不当な表示による〔顧客の誘引〕を防止して〔消費者の利益〕を保護することを目的とした法律で、消費者が商品やサービスを合理的に選択できることを図っている。

金融商品取引法、国家公務員倫理法・倫理規定、贈収賄罪、個人情報保護法とMRの活動との関係

金融商品取引法

 上場会社の業務等に関する重要事項について、その公表がなされる前に、会社関係者が会社の〔株式〕の売買等の取引を行うことは、金融商品取引法によって〔インサイダー取引(内部者取引)〕として禁止されている(金融商品取引法第166条)。

 医師が、出入りのMRから新製品の〔副作用情報〕を入手し、それが公表される前に、その製薬企業の株を〔信用売り〕したところ、証券取引法(現在の金融商品取引法)の禁止する〔インサイダー取引〕に該当したとして〔刑事責任〕を科せられた事案が発生している[最高裁判所1999(平成11)年2月16日、大阪高等裁判所2001(平成13)年3月16日差し戻し判決]。

国家公務員倫理法および倫理規程

 公務員の不祥事や公務員に対する〔過剰接待〕が社会問題化したのを受けて、1999(平成11)年に、公務員の職務の執行の〔公正さ〕に対する国民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図り、公務に対する〔国民の信頼〕を確保することを目的として〔国家公務員倫理法〕が制定された。以来、公務員が遵守すべき具体的な〔行為規範〕が定められ、国家公務員は利害関係者からの次の行為が禁止されている。

 ①金銭・物品または〔不動産〕の贈与を受ける

 ②金銭の〔貸付け〕を受ける

 ③〔無償〕で物品または不動産の貸付けを受ける

 ④無償でサービスの提供を受ける

 ⑤〔未公開株式〕を譲り受ける

 ⑥きょう応接待を受ける

 ⑦ともに〔飲食〕をする

 ⑧ともに麻雀などの遊技やゴルフをする

 ⑨ともに〔旅行〕する

 MRは、国家公務員である医師にとって〔利害関係者〕とみなされる。したがって、国家公務員である医師と接触する場合は、これらの〔規定〕に触れないように注意する必要がある。地方公務員は〔国家公務員倫理法〕の直接の対象者ではないが、国の施策に準じた倫理が求められているので、〔地方公務員〕である医師との接触においても〔同様の注意〕が必要である。行政改革により〔独立行政法人〕という準公務員型の組織が設けられ、国立大学附属病院および〔国立病院機構〕に所属する医師・職員が該当する。国家公務員と接触する場合と同様の注意をしておくべきである。

刑法上の贈収賄罪

 公務員が自己の職務に関し、あるいは公務員になろうとしている人が担当すべき職務に関し、〔金品〕の受け渡しやその約束をした場合に〔収賄罪〕に問われる。MRは〔贈賄側〕の立場になるので、〔官公立病院〕の医師、薬剤師に接する場合、金品の取り扱いには十分注意しなければならない。

 なお、MRが金品を提供した場合の贈賄罪は、〔3年以下の懲役〕または250万円以下の罰金に処せられる。

個人情報保護法

 個人を特定する情報を個人の承諾なく〔第三者〕に提供することを制限している。MRは、職務上医師、薬剤師、病院・薬局の従事者と接する機会が多い上、〔個人情報〕を入手する機会も多いので、個人情報の〔取り扱い〕については厳重に注意すべきである。個人情報は、紙ベース、〔パソコン〕、スマートフォンなどで管理している場合、他人に見られないよう、また〔紛失〕しないよう留意しなければならない。

(小林郁夫)