医薬品産業

医薬品産業を取り巻く環境

 研究開発型の製薬企業は、常に患者・国民から有用な〔治療薬〕の創出を期待されている一方で、後発医薬品企業には〔安価〕で高品質の医薬品を〔安定的〕に供給することが期待されている。また医薬品産業は、〔公的医療財源〕によって成り立っていることから、他産業に比べてより〔透明性〕の高い取り組みや〔説明責任〕が求められている。

 2013(平成25)年6月「日本再興戦略(成長戦略)」が閣議決定され、その中でも重点分野として位置付けられた〔健康医療分野〕については、閣議決定に準じる形で「〔健康・医療戦略〕」としてとりまとめられた。これらの一連の戦略の中で、省資源・〔知識集約型〕の産業である医薬品産業は、今後の日本経済を支える産業の一つとして大きな期待が寄せられている。ただし、〔医療技術イノベーション〕の進歩と医薬品の〔価格〕の問題については、洋の東西を問わず、いつの時代も大きな議論を巻き起こしている。

医薬品産業の特色である薬価

 医療用医薬品は最終価格(〔薬価〕)を製薬企業自らが決めることができない。産業、また法規制上自社の商品を直接患者・消費者に〔広告宜伝〕できない産業である。ゆえに企業の顔が見えにくい産業といわれている。

 医薬品の研究開発は、人にとって有効であろうと想定される物質を〔発見同定〕することから始まり、基礎実験や動物実験などの〔非臨床試験〕、さらには〔健常人〕への投与をはじめとする長期間の〔臨床試験〕を繰り返してようやく世に出てくる(p.46参照)。その間〔十数〕年の年月と〔一千億〕円にも上る莫大な資金が必要となる。〔リード化合物〕を発見してから商品化に至るまでの成功確率は2015(平成27)年のデータによると約〔1/25,000〕と非常に低い(図2-1)。

 

 また、〔製造販売承認〕を受け、新発売にこぎつけても、研究開発段階では現れなかった〔副作用〕が製造販売後に報告されるケースもあり、特に〔重篤な副作用〕が発現した場合は発売中止に至ることもある。そのため、製造販売後の副作用や〔有害事象〕の収集、〔フィードバック〕に莫大な時間と費用をかけている。その主な担い手は〔MR〕である。

 患者に投与された医療用医薬品は、患者の自己負担分を除けば〔保険料〕と税金の中から支払われるため、一度〔薬価収載〕されると、国民皆保険のもと、少ない〔自己負担〕で使用できるというメリットがある。そのことが逆に〔公的保険〕に守られて、企業数が多く、〔統廃合〕・淘汰が進んでいない業界との指摘を受けることにつながっている。ただし、世界中の製薬企業が総力をあげて新薬の〔研究開発〕に取り組んでも、いまだ有効な治療薬がなく、困っている患者が世界中にいることも事実である。

 今後、医薬品、医療機器のみならず〔再生医療等製品〕の研究開発がますます充実し、患者やその家族の〔ニーズ〕に応えることのできる〔医療サービス〕が増えていくものと考えられている。

国民皆保険導入前の医薬品産業

明治から昭和初期の医薬品産業

 明治政府は積極的に海外、特に〔ドイツ〕などから医薬品の〔輸入〕を進めた。1873(明治6)年には国内で初めて〔製薬学科〕が創立(現在の東京大学薬学部)されたのと同時に、同年に政府の支援を受けて日本で最初の〔製薬会社〕が設立された。

 また1887(明治20)年には、医薬品の公定書である〔日本薬局方〕が施行され、医薬品の規格の〔標準化〕がスタートした。

 さらに1888(明治21)年には「大阪薬品試験会社」が、1897(明治30)年には「〔大阪製薬株式会社〕」が設立され、国内の医薬品に関する事業は充実していった。しかしながら、当時はまだ国産での〔新薬開発力〕は乏しく、ほとんどが海外からの〔輸入〕に頼っていた。

 状況が一変するのは、〔第一次世界大戦〕の勃発である。輸入の多くを占める〔ドイツ〕からの医薬品の入手が困難となったことから、国内での研究開発、〔製造〕が一気に進んだ。その当時はモルヒネの抽出や〔アスピリン〕の合成などが主であった。

第二次世界大戦後の医薬品産業

 第二次世界大戦直後〔1945(昭和20)年〕の日本は、〔食糧事情〕の悪さ、上下水道の未整備などから、国民の〔衛生状態〕が劣悪であることに拍車をかけて、〔結核〕、赤痢、ジフテリアなどによる〔感染症〕が蔓延していた。当時は国内での〔開発〕、製造能力がまだまだ乏しく、それらの治療薬のほとんどを海外からの〔輸入〕に頼らざるを得なかった。また当時の治療薬は非常に〔高価〕であり、国民が等しく、医療、治療薬に〔アクセス〕できる状況ではなかった。当時国内では、〔ビタミン剤〕、栄養剤などが生産の主流であった。

国民皆保険導入後の医薬品産業

医薬品産業の発展の流れ

 1961(昭和36)年の〔国民皆保険制度〕の導入により、患者は〔医療機関〕へのアクセスが飛躍的によくなった。その結果、医師の〔処方〕を通じて投薬される〔医療用医薬品〕の需要が大きく伸びた。

 国民皆保険制度の導入当時は、国民の健康意識ヘの高まりもあり、〔ビタミン剤〕が医薬品市場の大半を占めたが、その後国内での〔抗生物質〕の開発の進展に伴い、〔感染症治療薬〕が市場を席捲するようになった。

 こうした研究開発力の向上と同時に、医薬品産業はさまざまな〔社会的問題〕を引き起こすことになる。〔薬害問題〕はまさにその代表的なものであり、1957(昭和32)~1962(昭和37)年に発生した〔サリドマイド事件〕は、化合物そのものの〔副作用〕による薬害であった。その後も血液製剤による〔HIV*1感染〕など大きな社会問題となった薬害を起こした(表2-1)。

 

 各社の〔研究開発力〕が向上する中、昭和40~50年代にかけて、各製薬企業が同じような薬剤を開発・販売することから、市場での〔シェア争い〕が激しくなり、〔価格競争〕、サービス合戦が激化した。医療用医薬品は安売りすればするほど、その〔薬価〕が下がる制度設計になっているため、薬価下落防衛の手段として、〔添付販売行為〕は瞬く間に広がった。

 例えば、薬価と同じ値段で1万錠の医療用医薬品を購入した医療機関に対して、1万錠の同医薬品を添付(おまけ)すれば、事実上〔50〕%の値引きと同じになるという仕組みである。

 1970(昭和45)年に〔添付行為〕が禁止されると、〔値引き競争〕が本格化する。〔公定価格〕である薬価が保険者への請求価格であるのに対し、医療機関が購入する価格は〔自由価格〕であるため、この差が〔薬価差〕となり、薬価差が大きければ大きいほど、医療機関の〔利益〕となる。それゆえ、〔適正使用〕を歪めた薬剤の使用につながり、「薬価差」は大きな〔社会問題〕にもなった。値引き合戦が過熱する一方で、医療機関への納入価格(〔市場実勢価格〕)は当然下がることから、結果として大幅な薬価の〔引き下げ〕が行われた(表2-2)。

 

 市場の混乱が続く中、日本製薬工業協会(以下、製薬協)は1974(昭和49)年に「〔医療用医薬品流通要綱〕」の制定に続き、1976(昭和51)年「〔医療用医薬品のプロモーションに関する倫理コード〕」(現 製薬協コード・オブ・プラクティス)を制定した。

 さまざまな取り組みを行っていく中、1981(昭和56)年6月には18.6%という過去に例のない大幅な〔薬価引き下げ〕が実施された。この薬価の大幅な引き下げに対して、各製薬企業は〔企業存続〕の危機意識をもち、さまざまな対策を行った。しかしそれらの対策が結果的には〔公正取引委員会〕より「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(〔独占禁止法〕)」違反事案とされ、公正取引委員会の〔立ち入り調査〕を受けるまでに発展した。いわゆる「〔カルテル疑惑事件〕」である。1984(昭和59)年製薬業界は公正取引委員会、厚生省薬務局(当時)の指導のもと、〔医療用医薬品製造業公正取引協議会〕(現在の医療用医薬品製造販売業公正取引協議会。医薬品公取協)を設立し、〔公正競争規約〕の策定を行い、医薬品の取引に際して不当な〔景品類〕の提供を制限した。

 さらに1992(平成4)年には、それまでの医薬品の個別銘柄を取引値の〔安い〕順に並べ、90%に相当する「量」に対応する価格を新しい薬価と定める「〔90%バルクライン方式〕」から、実際に市場で取引している価格に、当時の〔薬価差〕を勘案して一定価格幅(R幅)を加える「〔加重平均値一定価格幅方式〕」に変更した。同時に医薬品卸への販売も、医療機関に販売する最終価格を製薬企業が補填する「〔値引き補償制〕」から、最終販売価格を医薬品卸が決定する「〔新仕切価制〕」に本格的に移行した。

 背景には、製薬企業が医療機関への〔納入価格〕に深く関与することで価格決定の実権を握っていたことが、医薬品の再販売価格の拘束という〔独占禁止法〕に抵触するおそれがあると、〔公正取引委員会〕より指摘を受けたことによる。

 現在MRは、自社の医薬品の医療機関への納入価格には「〔関与できない〕が関心はもつべき」といわれるゆえんである(表2-3)。

 

知識集約型産業としての現在の取り組み

 本章の冒頭にも述べたように、資源の乏しい日本において、医薬品産業は「日本の成長産業」として「〔健康・医療戦略〕」にも取り上げられているほど期待度の高い産業である。同時に〔アンメットメディカルニーズ〕と呼ばれる、いまだ治療方法や〔治療薬〕のない領域への〔新薬開発〕にも大きな期待が寄せられており、世界中の製薬企業は研究開発に余念がない。

 2009(平成21)年には〔一般社団法人未承認薬等開発支援センター〕が設立され、学会等の要望や公募により〔国内未承認薬〕の解消等に研究開発型の企業が〔資金〕を拠出するなどの取り組みを行っている。

医薬品の社会への貢献

医療への貢献

 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団は、おおむね〔5年〕に一度、医師に60の疾患に関して治療の〔満足度〕と薬剤の〔貢献度〕のアンケートを実施し、公表している。経年的なグラフを比較してみると、治療の満足度に薬剤の貢献度が〔比例〕していることがわかる(図2-2)。

 

 特に従来薬剤の貢献度が低く治療満足度も低い疾患でも、その領域で〔画期的新薬〕が上市されると治療満足度は大幅に改善され、また〔薬剤貢献度〕も大きく寄与する結果となっている。これはグラフの位置が左下から〔右上〕に移動していることからわかる。

 ここ数年は〔生活習慣病〕はもとより、〔各種がん〕やHIV、関節リウマチ、〔骨粗鬆症〕などの領域で大幅に治療の〔満足度〕、薬剤の貢献度が向上している(図2-3)。また、〔C型肝炎〕の治療においてもウイルスを完全に除去し完治する薬剤の登場により、〔治療の満足度〕と薬剤の貢献度はなおいっそう向上している。

 

 一方で、アルツハイマー病や膵がん、糖尿病に伴うさまざまな〔合併症〕の治療に至っては、いまだ治療満足度も薬剤貢献度も〔低い〕結果となっている。〔iPS細胞〕*2などを利用した新たな治療法や治療薬の登場が待たれる。

経済への貢献

 製薬産業は、わが国の経済に対して〔労働力〕の供給という点でも貢献している。それは〔雇用〕の創出と労働者の〔早期社会復帰〕である。具体的には、医薬品産業全体で働く人の数は、約〔167,000〕人(2012年原生労働省「医薬品・医療機器産業実態調査より」)であり、雇用の創出を通してわが国の経済に貢献している。雇用の創出は最大の〔社会保障対策〕である。

 また、残念ながら病気や疾病を患い休職しなければならない場合でも、医療、〔薬剤〕の恩恵によって早期に〔職場復帰〕できるようになった。さらに従来の治療では〔長期間入院治療〕が必要であった疾患でも、現在では経口薬剤による〔通院治療〕が可能になった。これらは、〔公的医療費〕の節約という観点から経済的貢献であるとともに、個人の〔QOL〕の改善にも大きく寄与している。

環境への貢献

 人の命と健康に貢献する製薬産業は、〔環境負荷〕の軽減にも積極的に取り組んでいる。

 具体的には〔地球温暖化対策〕として「2020年度の製薬企業のCO2排出量を、2005年度排出量を基準に〔23〕%削減する」数値目標を掲げるなど、〔低炭素社会実行計画〕の実現に向けた取り組みを行っている。

 また省資源・廃棄物対策として、数値目標を設定するほか、研究所や工場から発生する〔産業廃棄物〕に対してもゴミを出さない(〔reduce〕)、再利用(reuse)、〔再生資源〕(recycle)の「〔3R活動〕」に積極的に取り組んでいる。

社会からの期待

 従来はがんの治療に際し、「病期の〔進展抑制〕」にしか期待できなかった薬剤が、近年は高分子薬などの登場で「〔完治〕」できるようになってきた。当該患者にとっては画期的なことである。患者やその家族のニーズは、効果が優れていて〔副作用〕が少ない、さらには〔経済的負担〕が少ないことである。その上で、その薬剤を発売している企業の〔透明性〕が高い、〔説明責任〕がしっかりなされていることも今の時代に求められている重要な要件である。製薬企業に勤めるすべての役員・従業員は社会からの大きな期待を背負っていることを忘れてはならない。

医薬品産業の現状と課題

世界の医薬品市場から見た日本市場

 世界の医薬品市場は2000(平成12)~2014(平成26)年の14年間でおおよそ〔3〕倍の規模に成長している。日本市場も成長しているものの、かつて米国につぐ世界第〔2〕位から、現在では中国に追い越され世界第〔3〕位の市場である。シェアも2000(平成12)年に比べ2014(平成26)年は〔半減〕している。2年に1回の〔薬価改定〕や後発医薬品の〔使用促進策〕などから、日本の医薬品市場の成長はここにきて急速に〔抑えられている〕状況である。

わが国における医薬品生産と輸出入の現状

 現在わが国における医薬品の生産額は、2014(平成26)年では約〔6兆6,000億〕円で、そのうち医療用医薬品は約〔5兆9,000億〕円を占めている(表2-4)。

 

 わが国の医薬品の輸出入の関係は、2015(平成27)年では、輸入額約2兆9,000億円に対し、輸出額は約5,000億円と大幅な〔輸入超過〕である(表2-5)。輸入超過だからといって、わが国の製薬産業技術力が海外と比べて〔低い〕とはいえない。国内製薬企業が〔海外〕に生産拠点をもっていることや、高額な〔高分子医薬品〕のほとんどが海外からの〔輸入〕に頼っていることなどが大きな要因である(表2-6)。今後、高分子医薬品の〔使用頻度〕が高くなればなるほど、この〔輸入超過状態〕は拡大傾向となる。

 

 

 一方、諸外国との特許・技術競争力を示す〔技術貿易収支〕でみると、2014(平成26)年では輸出額約4,000億円に対し輸入額は約1,000億円であり、約3,000億円の〔輸出超過〕、つまり黒字である(図2-4)。このことからもわかるとおり、1つのデータのみで技術競争力を評価するには〔限界〕がある。

 

疾病構造の変化と少子高齢化に伴う課題

 戦後の〔感染症対策〕の取り組みや公衆衛生の向上、〔乳幼児〕死亡率の大幅な改善などにより日本人の〔平均寿命〕は世界一を成し遂げた(表2-7)。それに伴い〔高齢者〕が増加することで、いわゆる〔生活習慣病〕と呼ばれる高血圧症、糖尿病、脂質異常症の対象者が増加し、これらの治療薬も数多く発売されている。まだ〔アルツハイマー治療薬〕などの開発に課題は残すものの、豊かな社会、成熟社会を迎えた証と言えるだろう。ただ成熟社会の大きな課題の一つに〔少子化問題〕がある。このことは増え続ける高齢者の〔社会保障費〕(年金、医療、福祉その他)全体を、少なくなってきた現役世代(〔15~64〕歳)が支えることを意味する。特に医療技術の進歩によって「完治」する〔高額な薬剤〕の登場は、人々の健康なくらしを実現できる反面、その〔医療費〕の費用負担をどのようにすべきかなど新たな社会全体の問題を起こしている。

 

医療費適正化と薬剤費の適正化

 昭和後期から平成初期にかけてのいわゆる〔バブル景気〕は、すべての産業が右肩上がりで経済成長した。しかしそのバブル景気崩壊以降、厚生省(当時)が掲げていた「〔国民医療費〕の伸びを、〔国民所得〕の伸びの範囲に抑える」という政策目標を達成できなくなった(表2-8)。さらに〔医療保険制度〕の充実や各地方自治体の保健事業の成果も大いに上がり、国民の〔平均寿命〕は伸び続けた。このことはきたるべき「〔高齢者医療費問題〕」に直結していた。医療費の伸びは、〔医療技術〕の進歩(手術、手技、薬剤等)がその要因の一つであることは〔先進国共通〕の認識である。

 

 その中で〔薬剤費〕の適正化(抑制)が進められている。特に諸外国と比べた場合、特許が切れた後に発売される〔後発医薬品〕の使用割合が極端に少なく、それが薬剤費全体を大きく〔押し上げている〕原因と指摘されている。図2-5は後発医薬品の浸透状況を表したグラフである。10年前は後発医薬品の数量シェアが20%に達するまでは、32四半期(1四半期は3カ月)すなわち〔8〕年かかっていたが、2014(平成26)年に特許が切れた製品では、わずか2四半期(6カ月)で〔20〕%にまで達する。言い換えれば、〔特許〕が切れた時点で先発企業としてはその医薬品の〔売上げ〕と利益の大半を諦めざるを得ない状況である。しかしながらその後も、先発企業には安定供給と〔安全性情報収集フィードバック〕の責務がついて回る。当然その責務は果たさなければならないが、それらにかかる費用は膨大である。一方で、厚生労働省は2015(平成27)年に〔後発医薬品〕の数量シェア目標を掲げ、2017(平成29)年度には70%以上、2018~2020年度末までの間のなるべく早い時期に〔80〕%以上とし、〔使用促進〕を強力に進めている。

 

わが国の基幹産業として期待される医薬品産業

 国民・患者の〔健康〕と医療の未来に貢献することを使命としている〔医薬品産業〕は、ほかの産業と同じように技術立国を目指すわが国において、大いに期待されていることは、先ほど述べた「〔健康・医療戦略〕」に記載されているとおりである。この戦略を受けて、2013(平成25)年6月に厚生労働省医政局経済課は「〔医薬品産業ビジョン2013〕」を、2015(平成27)年9月に「〔医薬品産業強化総合戦略〕」を取りまとめ、その中にも医薬品産業に対する〔期待度〕が明記されている。

 新薬開発には、〔産学連携〕や安定した医療保険制度、〔医療提供体制〕の整備が不可欠であり、その意味ではわが国における〔新薬開発〕の環境整備は充実しているといえる。反面、新薬開発の〔臨床試験〕の被験者の確保や年々増え続ける〔開発コスト増〕が製薬企業にとって大きな負担となっている。

 また〔画期的新薬〕を安定的に、継続的に上市し続けるための〔薬価制度〕の見直しも急務である。

 2010(平成22)年に試行的に導入された「〔新薬創出・適応外薬解消等促進加算〕」は、本来なら〔市場実勢価格〕に応じて2年に1回薬価が下がるところを、〔特許期間中〕は一定の条件を満たせば、下がるであろう分を〔上乗せ加算〕して元の薬価を維持することができるルールである。結果的に早期に開発原資の〔回収〕や次の〔新薬開発〕への投資、さらにはわが国で承認されていない医薬品の開発等が促進されてきた。しかし、2018(平成30)年4月の〔薬価改定〕では、前年の薬価制度の抜本改革議論を受けて、新薬創出・適応外薬解消等促進加算は、対象品の〔品目要件〕や企業要件などの大幅な見直しが行われた。

わが国の医薬品産業の将来

 〔画期的新薬〕の創出は、日米欧の3極が世界を牽引していく姿に大きく変わりはない。わが国は、〔アジア太平洋経済協力(APEC*3)〕やアジア製薬団体連携会議(APAC*4)の活動を通じて、アジア地域の薬事制度や〔新薬承認〕のリーダーとして期待されている。

 製薬協では2016(平成28)年1月に「〔製薬協産業ビジョン2025〕-世界に届ける創薬イノベーション」を発表した。その中では〔5〕つのビジョンを掲げ、日本における製薬企業が〔2025年〕にあるべき姿を示し、各製薬企業がその実現に向けた〔戦略〕のためのポイントも明示した。

 多くの製薬企業が〔新薬の創出〕を通じて医療に貢献し、日本経済を牽引し、〔健康先進国〕を実現することによって、志高き信頼される産業となることが期待されている(図2-6)。

 

臨床研究法

 2013(平成25)年に発覚した市販後の医療用医薬品の〔臨床研究〕に不適切に関与した事案や薬事法(当時)66条〔虚偽誇大広告違反〕の事例を受けて、それまで〔市販後〕の医薬品の臨床研究は倫理指針等に則り実施していたが、新たに〔臨床研究法〕を整備し、2018(平成30)年4月より施行した。それにより市販後の臨床研究は、〔特定臨床研究〕として、すべて〔〕に登録をすることになった。

 また、同時に製薬企業が講ずるべき措置としては、特定臨床研究に関わった〔資金提供〕を同法律に基づき〔公表〕するよう義務付けられた。

(田中徳雄)

医薬品の研究開発について

 研究開発型の製薬企業は優れた〔新薬〕を創出するという〔使命〕を担っている。医薬品の研究開発は、薬のもとになる生理活性物質などのシーズ発見という基礎的な〔探索研究〕から、シーズの最適化や〔臨床試験〕を経て、〔製造販売承認〕を取り、医療現場に新薬を届けるまでにおおよそ〔10~20〕年の年数が必要である。

医薬品の研究開発のあゆみ

 創薬技術の歴史を振り返ると、1928(昭和3)年にフレミングによって発見された〔ペニシリン〕のように偶然に見つかったものもあるが、医薬品を創製する取り組みは、〔病態研究〕や医学、薬学などから得られた知見をもとに、疾患の原因となる分子や〔メカニズム〕に作用する化合物を見つけるという地道な努力の連続である。

研究開発技術の進歩

 これまで有機合成技術の進歩を基盤に、多くの〔低分子医薬品〕(分子量が1,000程度以下の化合物)が創製されてきた。例えば、ステロイド骨格の〔化学合成法〕が確立されたことにより、ステロイド骨格をもつ多くの医薬品が治療に用いられるようになった。また〔非ステロイド性消炎鎖痛薬(NSAIDs*5)〕であるインドメタシンやイブプロフェンの場合も技術の進歩の成果である。そして、多くの疾病の〔病態解明〕の研究の進歩と相まって、多くの医薬品が合成されてきた。さらに、1980年代からの〔遺伝子組換え技術〕等の医薬品開発への応用も大きな進歩の一つである。遺伝子組換え技術により、それまで動物の組織から抽出していた〔インスリン〕、成長ホルモンやヒト化抗体などの〔高分子医薬品〕の大量生産が可能になった。

 また、2000年代からはX線・放射光による〔固体構造解析〕あるいは超高磁場NMR*6による〔溶液構造解析〕という先端技術の進歩によって、体内の標的とする〔タンパク質〕の構造が容易かつ精密に決定されるようになった。その〔標的分子〕と結合あるいは相互作用する薬物を実際に調べる実験のほか、計算科学的に当該分子間の相互作用を〔シミュレート〕する技術も大きく進み、創薬に貢献している。

 スクリーニングに関しては、〔ロボット化〕が進み、多数の化合物を高速でスクリーニングする〔ハイスループットスクリーニング(HTS*7)〕により、〔数万~数十万〕化合物のスクリーニングが短期間でできるようになった。このように、1つの〔標的タンパク質〕を発見できれば、その標的に対して作用する〔化合物〕を効率的に迅速に見いだすことができるようになった。

 〔遺伝子増幅技術〕は、着目するタンパク質をコードする〔追伝子断片〕を迅速に得ることを可能にした。また“〔ゲノム編集〕”という画期的な技術が登場し、自由に染色体遺伝子への〔DNA断片〕や変異の導入ができるようになってきた。

 2003(平成15)年に〔ヒト全ゲノム〕の解読が達成されて以降、遺伝子などの〔生命分子〕の研究による創薬が本格化している。ゲノム解析ならびに〔プロテオーム解析〕も可能となり、正常時と病態時の解析データを比較することなどで新たな〔治療標的〕が発見され、〔病態〕の診断や治療効果の評価指標としての〔バイオマーカー〕を見いだすことも可能となった。近年、特に〔次世代シークエンサー(NGS*8)〕が開発されたことにより、〔解析性能〕やコストが著しく改善された。

 生体、組織および細胞内での病気の〔発症メカニズム〕の解明等が進み、上で述べた種々の技術を活用することで、創薬の〔成功確度〕の向上が期待されている。

医薬品の研究開発の現状と課題

 最近、製薬企業の研究開発費は〔増大〕する一方で、世界的に上市される新薬の数が〔減少〕するという〔イノベーションギャップ〕が起きている。これらを解決する手段として国の研究所、〔アカデミア〕、ベンチャー企業などを含めた幅広い創薬活動の〔連携〕を図るためのオープンイノベーションや〔産学官連携プロジェクト〕等の取り組みが進められている。

医薬品の研究開発の現状

 日本発の医薬品が多く存在することは、わが国の〔創薬力〕が高い証拠である。しかし、薬になる可能性のある新規物質の発見と創製(〔2~3〕年)、細胞や動物等を用いた〔非臨床試験〕(3~5年)、ヒトを対象とした〔臨床試験〕(3~7年)、そして〔承認申請〕を経て薬を世に出すまでに長い時間と〔多額の費用〕が必要である。この一連の創薬の各ステップを〔効率化〕することが大きな課題となっている。

 一つは非臨床試験である。2006(平成18)年に誕生したiPS細胞は〔再生医療(細胞移植)〕への応用が大きく期待されているが、〔ヒトiPS細胞由来〕の細胞を用いた生物学的試験系ができると、薬の候補物質のヒトヘの〔有効性・安全性〕の判断を早く行うことが可能となるため、〔iPS細胞〕への期待は大きい。

 また、ヒトを対象とした臨床試験(治験)の規模について、従来の〔ランダム〕に多数の患者を対象とした試験ではなく、〔患者群〕を選択して数を絞った上で有効性と〔安全性〕を調べることが可能となりつつある。頻度の小さい〔副作用〕を見いだすことは難しいという課題もあるが、患者数を絞った治験の実施は時間と〔コスト〕の削減に大きく役立つ。

 わが国における2015(平成27)年度の医療用医薬品の売上高は〔10兆6,295億〕円であり、307社のうち、上位10社の医薬品売上高が〔58.9〕%、上位30社のそれが〔83.1〕%を占める(厚生労働省「医薬品・医療機器産業実態調査」より)。このように〔上位集中度〕が極めて高いものの、日本の各企業の売上高は世界の大手製薬企業と比べると〔低く〕、国内最大手である武田薬品工業株式会社でも売上高で〔16〕位である(2013年データ。DATABOOK2016.B本製薬工業協会)。

 〔研究開発費〕は高騰し、医薬品の種となる化合物が少なくなってきている。したがって、規模の拡大を目指して世界的に〔M&A〕が繰り返されており、わが国の製薬企業においても同様の傾向がみられる。

 製薬企業では、莫大な研究開発の費用をまかなうためにも一定の企業規模が必要であり、今後、企業の〔M&A〕が続くとみられるものの、〔規模〕を大きくするだけでは上手くいかず、創薬の〔〕となるものを見いだすための知恵が望まれている。

 わが国ではさらに〔少子高齢化〕が進みつつある。〔高齢者医療費〕が歯止めを失うほどに増え続ける中で、がん治療の革命ともいわれる〔がん免疫療法〕が現れ、〔超高額薬時代〕を迎えている。米国などとは違って、〔国民皆保険〕という世界に誇れる制度を確立して国民の〔健康〕を守ってきたわが国において、誰がどのような〔負担〕をすべきか国民に課せられた課題となっている。

医薬品の研究開発にかかる法規制

 医薬品の〔安全性〕を担保するため、また研究開発において〔先端技術〕、臨床検体、さらには〔治療データ〕も利用することから、それらの取り扱いに際してさまざまな法令や〔指針〕が定められている。製薬企業が〔医薬品製造・販売〕において遵守しなければならない法規制は、〔医薬品医療機器法〕である。この法律の下で〔治験〕が行われるが、治験のほか、医薬品・医療機器等の〔開発候補物質〕を開発する際の探索的研究手段として、あるいは、〔有効性〕に関する同種の薬との〔比較研究〕や最も効果的な〔医薬品投与時期〕の研究など、様々な診療ガイドラインなどの検討を行うためにも、人に対して医薬品等を投与する〔臨床研究〕が行われている。2017(平成29)年4月に、臨床研究の実施手続きをはじめ、臨床研究に関する〔資金〕などの提供に関する情報の公表の制度等を定めるものとして、「〔臨床研究法〕」が公布された。

医薬品の研究開発における法令遵守の推進体制

 医薬品の研究開発には多くの法規制があり、〔罰則規定〕を伴う。これらの法規制は担当者本人や周囲の人間の安全の確保、〔地域社会〕への実害の懸念も考慮されたものであり、違反した場合は本人のほか、使用者である〔会社〕も責任を問われる。

 〔法令遵守〕と企業倫理(コンプライアンス)の徹底は重要であり、製薬企業に勤める者として、法令が求めるところ以上に〔倫理的な責任〕が各自にある。医薬品の研究開発においては各部署の責任者のもとで〔コンプライアンス徹底〕のための仕組みづくりに加えて、〔啓発〕と教育が行われているが、各自にて主体的に考えることが望まれている。

アンメットメディカルニーズヘの取り組みと課題

 科学技術の進歩と〔製薬技術〕の向上によって、種々の疾病に対して比較的〔満足度〕の高い医薬品が医療に供されるようになった。しかし、疾病によってはいまだ〔治療法〕や十分な医薬品がない領域の疾病もある。

 製薬企業はこのような〔アンメットメデイカルニーズ〕に対する医薬品の創出に努力しているが、発症の〔原因〕が解明されていない場合や、原因分子や〔発症メカニズム〕がわかっていてもそれらを抑える術が見いだされていない場合も多く、そのような領域における医薬品の〔研究開発〕は容易ではない。

 国は2009(平成21)年以降、〔患者団体〕と学会に対して医療上必要と考えられる医薬品を公募し、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」による〔開発必要性〕の評価に基づき、企業に〔開発要請〕を行っている。一方、製薬企業側も2009(平成21)年に〔一般社団法人未承認薬等開発支援センター〕を設立し、毎年〔2.5億円〕を開発資金として援助する事業を行っている。

 また、〔希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)〕の開発を支援するために〔優先審査〕、開発資金の〔助成金〕の交付、税制上の優遇措置、〔再審査期間〕の延長(p.65参照)、および薬価基準上の優遇策が取られている。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の体制と取り組み

 2015(平成27)年4月に、〔AMED〕*9が設立された。文部科学省、厚生労働省、〔経済産業省〕の3省で分担されていた医療分野の〔研究開発業務〕を一元的に担って、「医療分野の研究開発における基礎から臨床、〔実用化〕までの一貫した研究開発や環境の整備、〔助成〕を行う」ものである。米国国立衛生研究所(NIH*1O)とは異なり、〔研究所〕は併設されていない。AMEDは〔アカデミア〕からの成果を創薬につなげる〔司令塔〕としての役割を果たすところである。

 〔産学官連携〕が盛んになってきており、企業とアカデミアなどとの〔1対1〕の連携のほか、複数の企業と複数のアカデミアなどが連携する〔コンソーシアム形式〕による創薬に〔AMED〕が大きな役割を果たすことが期待される。

医薬品開発のグローバル化

医薬品規制調和国際会議(ICH)

 日本・米国・欧州では、医薬品の〔販売開始前〕に政府による評価・承認を行うため、それぞれ独自に法制度を整備してきたが、製薬企業の〔国際化〕に伴い各地域の医薬品承認審査の基準の合理化・〔標準化〕が必要となり、1990(平成2)年4月、日本・米国・欧州〔1993(平成5)年11月lRからEU〕の各医薬品規制当局と〔業界団体〕の6者により〔ICH〕*11が発足した。

 ICH運営委員会は、

・厚生労働省(MHLW*12)/〔医薬品医療機器総合機構(PMDA*13)

・日本製薬工業協会(JPMA*l4)

・米国食品医薬品局(FDA*15)

・米国研究製薬工業協会(PhRMA*16)

・〔欧州委員会・欧州医薬品庁(EC/EMA*16-1)

・欧州製薬団体連合会(EFPIA*16-2)

で構成され、

・〔スイス連邦医薬品庁(Swissmedic)

・カナダ保健省(HealthCanada)

・世界保健機関(WHO*17)

・国際製薬団体連合会(IFPMA*18)

はオブザーバーとして参加していた。

 2015(平成27)年10月23日に〔ICH設立総会〕が開催され、スイス法に基づく非営利法人として〔新ICH〕が誕生した。

 従来、運営委員会が組織運営と最終決定機能を有していたが、新ICHでは最終決定機能を有する〔総会〕を設置し、ICH全メンバーおよび〔オブザーバー〕が参加して議論する場とした。また、〔管理委員会〕を設置して、組織運営や〔予算〕の検討を行って〔総会〕に提案する機能をもたせた。

 ICHは毎年〔2〕回会合を続けており、品質、〔有効性〕、安全性の各分野について専門家で協議し適切と考えられる指針「〔ガイドライン〕」を作成している。各ガイドラインが〔ICH〕で合意に至ると、当該ガイドラインを適用した医薬品開発や〔臨床試験〕、医薬品申請が各地域で可能となるよう、各国が〔法的な整備〕も含めた必要な措置をとる。日本では、ICHで合意されたガイドラインは〔厚生労働省医薬・生活衛生局〕から通知される。

 ICHの進展により、医薬品製造、臨床試験、〔承認審査〕などの基盤整備の促進が図られ、〔グローバル〕によりよい医薬品を患者に届けられると期待される。

 なお、新医薬品の品質、有効性、安全性の評価にかかる〔技術的ガイドライン〕のみでなく、〔承認申請資料〕の形式、製造販売後の〔安全体制〕などにも対象が広がるとともに、ICHに参加していない地域との交流、情報の〔共有化〕も進んでいる。

国内における治験の現状と対策

 治験は製薬企業が医薬品の〔製造販売承認取得〕のために、〔〕を対象とした有効性・安全性に関するデータ収集を〔医療機関〕に依頼し、患者の同意を得た上で〔治験計画書〕に則って行われる。国民皆保険のわが国では治験の〔被験者〕になることについて積極的な〔メリット〕が少なく、加えて医療機関においても治験に取り組む体制が十分でない、〔治験コスト〕が高いなどの理由から、日本では諸外国に比べて治験が円滑に進みにくいという現実があった。これらの問題に対して国は2003(平成15)年以降、〔治験活性化計画〕を発表し、2012(平成24)年には「〔臨床研究・治験活性化5か年計画2012〕」をまとめ対応してきた。また、人に初めて治験薬を投与する臨床研究について、早期・探索的臨床試験拠点〔5〕施設、〔臨床研究中核病院〕12施設、拠点医療機関30施設を指定し、体制整備を行っている。

 AMED臨床研究・治験基盤事業部においては、各拠点の〔連携〕を強化し、わが国で見いだされた革新的な新規シーズが〔PMDA〕との連携による明確な出口戦略をもって、臨床研究中核病院などの〔拠点ネットワーク〕が中心となり、〔画期的な新薬〕が誕生するように、オールジャパン体制で効率的に研究開発が進められる環境づくりを目指している。

新薬創出国として世界に貢献する日本

 科学技術研究や病態解明といった〔基礎研究〕の進歩と成果を生かして、製薬企業においてさまざまな技術を組み合わせて〔新薬〕を創り、人に届けることができるようにするのは容易なことではない。創薬には〔10〕年あるいはそれ以上の時間と研究開発に1品目当たり〔1,000億〕円を超える(500億~3,000億円の試算データがある)高額な費用が必要である。わが国においては欧米の薬を〔輸入販売〕していた時代もあったが自前で製造できる実力をつけ、〔研究部門〕の拡充とともに〔アカデミア〕の成果も取り入れて、新薬を創出することができるようになった。新しい〔標的分子〕を見いだして創薬することの難度は高くなっているが、わが国の新薬創出力は、米国、スイスについで第〔3〕位である。2015(平成27)年に世界売上の上位100品目の医薬品のうち、日本企業が創出した医薬品は〔11〕品目に上っている(表2-9)。

 

 製薬企業においては、〔患者数〕の多い疾病への新薬開発の〔優先度〕が高く、難病用の医薬品(〔オーファンドラッグ〕等)への取り組みが弱くなりがちである。しかし、全地球上で考えると〔一定数の患者数〕が見込まれる場合もあり、〔公的な資金面〕を含めたサポートが必要ではあるものの、患者数が多くない疾患に対しても、〔アンメットメデイカルニーズ〕を満たす新薬を創り出す努力が製薬企業に求められている。

(吉田博明)

医薬品の知的財産権と特許権

知的財産権法

 日本国憲法第29条第1項は〔財産権〕を保証しており、同条第2項は財産権の内容は〔公共の福祉〕に適合するよう法律で定めるとしている。この財産権は、物権、債権のほか〔知的財産権〕も含んでいる。

 知的財産権法は、産業財産権(工業所有権)に関する法律である〔特許法〕、実用新案法、意匠法、商標法等があり、産業財産権以外の知的財産に関する法律として〔知的財産基本法〕、不正競争防止法、著作権法等がある。

 特許権は、発明者が〔知的創造〕した発明を一般に公開する代償として、特許権を付与してその発明の〔独占的使用〕を認めた権利である。特許権者は発明を自ら独占的に使用するほか、特許権を〔第三者〕に許諾実施させて〔実施料〕を得ることもできる。また、第三者が無断で発明を利用した場合、特許権者の独占権を維持するため、無断実施の〔差止請求権〕および損害賠償請求権の行使を認めている。同様な権利として〔実用新案権〕、意匠権、著作権等がある。

産業財産権の種類および内容

主な産業財産権(図2-7)

 

 a)特許権

 〔自然法則〕(物理、化学)を利用した技術的思想の創作のうち〔高度なもの〕をいう。存続期間は出願から〔20〕年である。特許権には〔物質特許〕、製法特許、用途特許、〔製剤特許〕がある。

 b)実用新案権

 物品の形状、〔構造〕または組み合わせに関する自然法則を利用した〔技術的思想〕をいう。特許権より登緑は〔容易〕だが、権利行使する場合には〔技術評価書〕を提示して相手方に〔警告〕する必要がある。存続期間は出願から〔10年〕である。

 c)意匠権

 ワイングラスの形状のように、物品の形状、〔模様〕、色彩またはこれらの結合で、〔視覚〕を通じて美感を起こさせる〔形状〕を保護するものをいう。存続期間は意匠権の設定登録から〔20年〕である。

 d)商標権

 人の〔知覚〕によって認識することができるもののうち、商品およびサービス名のように、文字、図形、記号、〔立体的形状〕もしくは色彩またはこれらを結合したものをいう。存続期間は設定登録の日から〔10〕年だが、〔更新登録〕することができる。

産業財産権以外の知的財産権

 a)不正競争防止法

 不正競争防止法は、事業者間の〔公平な競争〕を確保し、〔不正競争〕の防止を図る法律である。不正競争とは、他人の業務にかかる氏名、〔商号〕、商標、標章、商品の〔容器〕もしくは包装などが、他人の商品または〔サービス〕を表すものとして消費者の間に広く認識されている表示と同一もしくは〔類似〕の表示を模倣することである。他人の商品などの表示を〔模倣〕することにより他人が長年培ってきた表示(信用、品質)にただ乗りするという〔不正競争行為〕を禁止するものである。このほか商品の形態の模倣、業務上の秘密などの〔保護〕を目的としている。例としては、有名デパートの包装紙の模様、製薬企業の〔マーク〕などがある。

 b)著作権

 思想または感情を創作的に表現した〔著作物〕で、〔文芸〕、学術、美術または〔音楽〕の範囲に属するものをいう。例としては小説、〔絵画〕、書などがある。著作権は、〔財産権〕として特許権と同様に保護されなければならない。また著作権は〔人格権〕としても保護されている。したがって、著作権を認めることは他人の〔精神的創作〕を尊重することであり、大変重要なことである。本テキストもその内容は著作権により守られている。

 なお、不正競争防止法上の権利と著作権は、〔事前の手続き〕なしで当然の権利として主張できる。

医薬品の特許権の特徴とその種類

 医薬品は国民の〔生命健康〕に寄与することを目的としているので、単に化学物質に〔新規性〕・進歩性が認められるのみでは医薬品として〔特許権〕を取得することはできない。医薬品の特許権は、病気に対する〔有効性〕および患者に対する〔安全性〕を備えている必要がある。医薬品は販売されるまで〔基礎研究〕から非臨床試験、〔臨床試験〕、承認申請という過程を経るため、莫大な〔費用〕と時間を必要とし〔開発リスク〕も高くなる。医薬品の特許は新しい化学構造を有する〔物質特許〕が基本であり、製法特許、〔用途特許〕および製剤特許は物質特許を〔補完〕する役割を担っている。通常の特許権の存続期間は出願から〔20〕年だが、医薬品の場合、存続期間の延長(最大〔5〕年間)が認められている。

 後発医薬品は、すでに市場に流通している〔先発品〕の物質特許の〔存続期間〕が切れた後、先発品と〔成分〕を同一とする医薬品である。物質特許、用途特許の期間が満了していても先発品に〔製法特許〕、製剤特許が残っている場合は、これらの特許を避けて製造販売する必要がある。

医薬品の製造販売と産業財産権との対応関係

 医薬品が市場に流通する場合、医薬品は〔包装箱〕に納められており、その包装箱には〔他社製品〕と区別する模様とともに、会社名、商品名、〔成分名〕、貯法などの情報が記載され、包装箱の内部には医薬品の〔添付文書〕が入っている。医薬品の製造販売業者の権利がどのように保護されているのか、その対応関係の概略を表2-10で述べる。

 

(小林郁夫)

医薬品の流通

 医療用医薬品の流通とは、製薬企業で生産された医薬品が〔医薬品卸〕を通じて医療機関に届けられ、その後、医師の〔処方箋〕のもと、必要としている〔患者〕に届くまでの流れを指す。さらに広義には、医療機関でのMRによる〔適正使用〕の推進や〔普及啓発活動〕も医薬品の流通といえる。医薬品流通の一番の使命は「〔安定供給〕」であり、日本中、平時でも有事でも必要とされる患者のもとに医薬品は届けられなければならない。

医薬品の流通と医薬品卸の機能と役割

医療用医薬品の流通の特殊性

 医療用医薬品の保険償還価格である薬価は「〔公定価格〕」であり、厚生労働大臣が〔官報告示〕という形で製薬企業に伝えられる(p.130参照)。〔公定価格制度〕を採用している国は、自由主義圏ではわが国とフランスのみであり、他国は基本的には製薬企業が自由に価格を決める「〔自由価格〕」である。

 医薬品の取引にはいくつかの価格が存在する。製薬企業が医薬品卸へ販売する価格を〔仕切価格〕といい、医薬品卸が医療機関等へ販売する価格を〔市場実勢価格〕という。さらには、医療機関が使用した薬剤を保険者に請求する価格が〔薬価基準〕(薬価算定の基準)、もしくは単に「〔薬価〕」である(図2-8)。

 

 製薬企業が〔医薬品卸〕へ販売する仕切価格は、市場競争の中で取り引きされるので〔自由〕に設定してもよいが、最終価格は公定価格として〔薬価〕が決められているので、〔薬価〕以上の価格で取引されることはない。

 医薬品卸は仕切価格に〔利益〕を勘案して医療機関に販売する。ここも〔自由な取引〕であるが、同様に〔薬価〕より高い価格で取引されることはない。

 ここまでは市場競争の原理における自由な取引だが、いったん医療機関が医薬品を購入し、患者に投薬すると、〔公的医療保険〕のもとでの経済活動になる。

 医療機関では、公的医療保険に加入している〔被保険者〕、すなわち患者に医薬品が処方される。医師が行うすべての保険医療行為には公定価格として〔診療報酬〕が決められている。診療報酬は薬価と同様に〔厚生労働大臣〕が決定する。医療機関は患者に行った診療行為に関する医療費のうち〔患者一部負担分〕を差し引いた額を保険者に請求し、〔保険者〕は診療行為の内容を審査した上で、医療機関にかかった〔医療費〕を支払う。

 この一連の流れを考えると、薬価は公的医療保険のもとでは〔診療報酬〕の一部であることがわかる。

医療用医薬品の価格形成の特殊性

 診療報酬は、そのときどきの医療機関等の経営状況を反映して、〔2〕年に1度の割合で改定される(診療報酬改定)。同様に、すでに発売されている医薬品の薬価も医薬品卸が医療機関等へ販売する〔市場実勢価格〕に基づいて改定される。つまり、医療用医薬品を医療機関に安く販売すれば市場実勢価格は〔下がり〕、次の薬価改定の際に薬価が〔下がる〕こととなる。

 かつて〔保険償還価格〕である薬価と実際に取引している〔市場実勢価格〕の間に大きな乖離があった。〔薬価差〕は医療機関の経営の原資となることから、それを目的に医薬品の〔適正使用〕が歪められ、〔公的保険財源〕への圧迫、ひいては国民の〔負担増〕につながるなど、大きな社会問題になった。正しい取引価格、市場実勢価格を薬価に反映する必要性から、〔薬価改定〕が行われるようになった。

医薬品卸の法的位置付け

 医薬品卸は、法律上「卸売販売業」として〔各都道府県の知事〕の許可を受けて、支店、営業所を設け〔管理薬剤師〕のもとで薬局、医薬品販売業者または〔医療機関〕等に対してのみ医薬品を販売する業者のことをいう。

医薬品卸の機能と役割

 製薬企業が全国にある病院、診療所、保険薬局(以下、薬局)と〔直接取引〕に関する業務を行うこと、とりわけ販売代金の〔回収〕等には莫大な人的経費や手間がかかる。同様に、医療機関もすべての製薬企業と1社ずつ取引するには〔莫大な手間〕がかかり非効率である。医薬品卸は〔担当地域〕に密着し、1社で多くの〔製薬企業〕の製品を取り扱うことで、医療機関を通じてその医薬品を必要としている患者へ〔効率的〕に提供することができる。

 さらには、医療機関等との〔価格交渉〕を通じて、医薬品の適正な価格形成にも寄与している。

 また「安定供給」の観点からは、医療機関のニーズに対応できる〔頻回配送〕を実施し、例え離島や僻地であろうと、医薬品が必要な患者がいる限り、〔安定供給〕が途絶えることのない体制を構築している。

 2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災においては、多くの市民と同様に現地の医療機関、医薬品卸も〔甚大な被害〕を被った。このような非常時においても、必要とされる〔医薬品〕を必要とする人々に滞りなく供給し続ける〔医薬品卸〕の姿は、流通業者としての「〔安定供給絶対確保〕」の使命感に基づくものであり、〔社会的貢献度〕は極めて大きかった。

医薬品流通改善の取り組み

 これまで製薬企業と医薬品卸の〔商慣行〕が不透明という理由から、さまざまな改善がなされてきた。

 2015(平成27)年の医療用医薬品の〔流通改善〕に関する懇談会では3つの指摘事項が緊急提言された。

 3つの提言とは、「〔一次売差マイナス〕の解消」、「〔納入価格〕の早期妥結」、「単品単価の推進」である。

 一次売差とは、医薬品卸が製薬企業から購入する〔仕切価格〕と医療機関に販売する〔市場実勢価格〕の差額である。一次売差マイナスとは、「購入価格と〔販売価格〕」の差が「マイナス」になることである。この値がマイナスになると、当然医薬品卸は〔赤字〕となり経営が成り立たない。しかし製薬企業は医薬品卸に対して、おおむね〔全国統一価格〕で仕切価格を提示しているものの、医薬品卸の年間総購入額や製薬企業への〔支払期日〕の長短などによって、〔仕切価格〕の調整を行っている。これを「〔割戻し〕」と呼ぶ。また製薬企業は他社との競争が激しい品目や花粉症のような〔季節性〕の高い品目、〔新発売時〕の取り組みなど営業上の戦略から期間限定で集中して医薬品卸に〔情報活動〕を依頼することがある。その際には、割戻しとは別に「〔アローアンス〕」といわれる期間限定報奨費用を支払うこととなる。

 製薬企業は、医薬品卸と〔年間販売計画〕を交渉する際に、「〔割戻し〕」、「アローアンス」を提示する。これにより、医薬品卸はトータルのマージンが計算できることから、仕切価格だけでなく「割戻し」、「〔アローアンス〕」を勘案して、医療機関と〔価格交渉〕を行っている。

 「一次売差マイナス」は割戻しやアローアンスの〔依存度〕が高いことを意味し、製薬企業の戦略的要素が〔過大〕であるとの指摘から、〔改善〕を求められている。

 2つめの「納入価格の早期妥結」は、「〔未妥結仮納入〕」の解消を図るものである。未妥結仮納入とは、医薬品卸が医療機関と価格交渉する過程で、〔納入価格〕が決まらなくても、医師や患者が困らないようにとりあえず〔医薬品〕を納入することである。〔価格交渉〕は後回しになり、ひどい場合は、納入価格の決定が1年後、もしくはそれ以上になることもある。納入価格が決まらなければ医薬品卸は〔代金回収〕ができなくなることから、医薬品卸は妥結すると思われるおおよその価格を決めて〔医療機関〕に請求し、医療機関から代金を支払ってもらう。これを「〔仮払い〕」と呼び、合わせて「〔仮納入仮払い〕」という。〔最終価格〕が決まった際には、前回の価格決定日まで遡及して〔価格調整〕が行われる。

 納入価格が〔未決定〕の場合、次の薬価改定のための〔薬価調査〕を実施しても、正しい〔市場実勢価格〕を把握することができない。正しい商取引のもと、早期の〔納入価格妥結〕が強く求められている。

 これに対して、2014(平成26)年の診療報酬改定時に、〔納入価格〕を早期に決めない医療機関等に対して〔未妥結減算〕というペナルティを科した。この〔減算ルール〕を導入したことによって、早期に価格は妥結するようになった(図2-9)。

 

 3つめは、「単品単価」の問題である。医薬品は、その薬剤の価値に応じた〔価格〕を形成することが重要であり、その意味から〔品目ごと〕に価格を決定する必要がある。しかしながら医薬品卸と医療機関との交渉においては、月間の〔医薬品総購入額〕に対して、いくら値引きをするかなどの〔価格交渉〕となることが多い。これを「〔総価取引〕」と呼ぶ。これも同様に薬価調査の際に〔品目ごと〕の価格は反映されないため、〔薬価〕を改定する場合に問題となる。これらの問題を早期に解決することが、医薬品の〔価値〕に見合った価格を形成することにつながる。

 製薬企業は、医薬品卸と医療機関の〔自由な取引〕には口出しできない。この3つの理解が進むように、繰り返し医薬品卸、医療機関に〔説明〕を行い、理解を求めているところである。これまでの流通当事者の〔自主的な改善〕に加えて、2018(平成30)年1月にはその改善を加速させるために「医療用医薬品の流通改善に向けて〔流通関係者〕が遵守すべきガイドライン(以下、流通GL)」を策定し(2018年4月から適用)、製薬企業、医薬品卸、医療機関、〔保険薬局〕のすべての〔医療用医薬品〕の流通に関わる当事者が取り組むべき〔方向性〕を示した。これにより、今まで以上に〔安定的〕な医薬品流通が確保され、医薬品の価値に見合った価格が反映されることになるだろう。 

MRとMSの協力関係

 MRの本来業務に〔PMS*19活動〕がある。同様に医薬品卸に所属するMSも、日々医療機関、薬局等を訪問し、医薬品の販売活動とともに製品の〔情報提供活動〕を行っている。特に2005(平成17)年に薬事法(現 〔医薬品医療機器法〕)が改正され、製造販売業者が製造販売後の医薬品等の〔安全管理〕にかかわる情報提供・収集等を〔委託〕できるようになり、MSがその任を担う〔協力体制〕が進んだ。最近では〔MR認定試験〕を受験し、〔MR認定証〕を取得したMSも少なくない。

 MRとMSの〔協力関係〕は、病院と診療所、薬局ではそのあり方が異なる。病院においては、MRは指定された場所で〔医師〕、薬剤師らと面談し、製品情報、〔PMS活動〕を行っている。MSは主に〔薬剤師〕、医薬品購入担当者を訪問し、情報活動、〔販売活動〕を展開している。

 診療所においては、MRもMSも、ときには〔両者一緒〕に医師を訪問し、各々の立場から情報活動を行っている。MRにとって、ほぼ毎日診療所を訪問する〔MS〕の情報は極めて有用で、医師の薬剤に対する〔評価〕、処方動機などの情報を知った上で訪問することが〔適正使用〕、さらには医薬品の〔普及啓発〕には欠かせない。

 薬局では、主に医薬品の納入、〔在庫管理〕を通じて〔情報提供〕の協力体制を行っている。

 MRとMSは互いの活動を補いながら医薬品の情報提供、〔普及啓発〕に努めている。

医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン

 〔厚生労働省〕は、2018(平成30)年1月23日に医療用医薬品の流通に関係するすべての当事者(医薬品メーカー、卸売業、〔医療機関〕、保険薬局)が取り組むべきガイドライン「医療用医薬品の〔流通改善〕に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」を医政局、保険局の両局長名で発出し、「〔一次売差マイナス〕等の改善」「長期にわたる〔未妥結〕・仮納入の改善」「総価契約の改善・〔単品単価契約〕の推奨」を強く遵守するよう求めた。

 また特筆すべきは、流通当事者間で〔交渉〕が行き詰まり、改善の見込みがない場合は、〔厚生労働省医政局経済課〕に設置した窓口に相談することができ、安定的な〔医薬品流通〕に影響を及ぼすような事案については、〔ヒアリング〕や指導等の必要な措置を取ることができるとしたことである。

医療機関における医薬品採用システム

 医療技術の進歩や医薬品の開発は〔日進月歩〕である。医療関係者は常に最新の〔医療技術〕を患者に提供したいと考えている。そのため年〔4〕回薬価収載される新薬に関しても必要に応じて、また医療機関ごとの〔ルール〕に応じて採用が行われている。医療機関が同じ範疇に分類され同様の効果を発揮する薬剤(〔同種同効薬〕)を採用することは、各薬剤の〔在庫管理〕や医療機関の経営上の理由などから困難であり、多くの医療機関は〔医療サービス〕の質を低下させない範囲で〔新薬〕を採用している。また新薬の採用と同時にすでに採用となっている薬剤の〔見直し〕も行われている。

 MRは個々の病医院によって新薬の〔採用ルール〕が異なるため、院内採用ルールを十分に確認しておく必要がある。以下に大まかな流れを記した(図2-10)。

 

 なお、新薬の〔承認前〕に採用依頼をすることなどは、医薬品医療機器法第68条の、承認前の医薬品の〔広告の禁止〕に抵触するので、注意しなければならない。

病院における医薬品採用の流れ

 医師が多数在籍する病院では各病院独自の〔薬事審議委員会(薬審)〕が存在し、新薬を使用したいと願い出た医師の〔提出資料〕をもとにその薬剤の〔採用の可否〕を委員会として諮る。また〔薬審〕で採用が決まった後に、採用医薬品を納入する卸の選定やその卸との〔納入価格交渉〕などさまざまな過程を経てようやく患者への投与が可能となる。

診療所における医薬品採用の流れ

 病院とは異なり、経営者である〔院長〕の意思で新薬の採用が決まることが多い。その際、〔病診連携〕等が進んでいることなどから、エリアの〔基幹病院〕の採用状況やエリアの〔キーオピニオンリーダー(KOL*20)〕の医師の医薬品に対する評価等も重要な〔採用〕の要素と考える医師は多い。

薬局における医薬品採用の流れ

 薬局は、基本的には医師の〔処方箋〕に従って調剤をする。したがって新薬を使用する医師がいて、その医師の〔処方箋〕が届きそうな薬局には、処方箋を持った患者が来ても困らないように、あらかじめその医薬品の〔情報提供〕とともに購入を依頼しておく必要がある。ただし患者が処方箋をどこの薬局に持っていくかわからないので、一般的には卸の〔MS〕に協力依頼することが多い。その場合でも製造販売承認から新発売までの期間に薬局の〔購入責任者〕(薬剤師等)へは、〔市販直後調査〕の協力依頼も含め情報活動をしておく必要がある。

(田中徳雄)