MRの使命

MRの使命と役割

 わが国に医薬品に関する情報を〔医師〕に提供する職業が誕生したのは、1911(明治44)年、スイスの製薬企業が日本に進出するにあたって日本人の〔プロパー〕(Wissenschaftliches Propaganda)を求人したことに始まる。Wissenschaftliches Propagandaはドイツ語で、「〔学術的宣伝〕」を意味する。〔医薬品〕は正確な情報なくして使用することはできないことから、プロパーは医薬品の〔適正な使用〕と普及を目的として活動する職業として誕生した。このとき採用されたのは、〔医学の知識〕があり、ドイツ語がわかる〔薬剤師〕という条件を備えた〔二宮昌平〕である。これをもって二宮昌平をわが国の〔MR〕*1第1号としている。

 なお、プロパーとはプロパガンダ(宣伝、布教)を語源とした〔日本独自〕の呼称であり、1991(平成3)年に〔MR〕に変更されるまで用いられた。

MRの定義と法令

MR教育研修要綱におけるMRの定義

 〔公益財団法人 MR認定センター(MR認定センター)〕は、2021年4月1日よりMR認定制度の抜本改革をおこない、MR認定制度の運用基準として「〔MR認定要綱〕」を定めた。ここでは、MRを次のように定義している。

MRとは、〔企業〕を代表し、医薬品の適正使用並びに〔薬物療法〕の向上に貢献するために、医療関係者と面談又は〔電子ツール〕等を用いた情報交流を通じて、医薬品の〔品質〕・有効性・安全性等の情報を提供、収集、〔伝達〕を主な業務として行う

者をいう。〈MR教育研修要綱 第2条〉

 「企業を代表し」とあるが、representativeは「代表者」を意味する。MRは企業を代表して担当施設を訪問するなどして〔医療関係者〕と接することから、新入社員であっても最低限の知識や〔スキル〕を身につけ、医療の一翼を担う者としてふさわしい行動を実践しなければならない。なお、医薬品業界の営業・マーケティング等に関する業務の受託機関(〔CS0〕*2)に所属するMRは、派遣先の企業の名刺を持って活動することから、〔派遣先企業〕の代表者として行動する。

 この定義における「薬物療法の向上に貢献する」とは、MRの適切な〔情報活動〕により医療関係者が医薬品の適正な使用方法を理解・習熟することで、患者に最適な〔薬物療法〕を行えるようになることを示している。

 「提供」とは、医薬品の適正使用のための〔医薬品情報〕を医師、薬剤師などの〔医療関係者〕に提供することをいう。

 「収集」とは、医療の現場で使用されている医薬品の品質、〔有効性〕および安全性に関する情報を集めることをいう。

 「伝達」とは、収集した医薬品の有効性や〔安全性情報〕について企業が分析・〔評価〕した結果を医療関係者に迅速かつ正確に伝えることをいう。

MRと医薬品医療機器法の関係

「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略称:〔医薬品医療機器法〕*3)」では、製造販売業者等が〔医薬関係者〕に対して医薬品の〔安全性〕および有効性に関する事項、医薬品を適正に使用するために必要な〔情報〕を提供するよう努めなければならないと定めている。また、医薬関係者は製造販売業者等が行う〔情報収集活動〕に協力するよう努めなければならないとしている(医薬品医療機器法第68条の2)。

「医薬関係者」は法令で使われる用語で、医師、歯科医師、〔薬剤師〕、看談師等の医療担当者のほか、〔卸売業者〕、医学部・薬学部学生などを指す。本書では、「医療関係者」を医療に直接従事する「医療従事者」と同義語として扱い、「医薬関係者」と区別している。

GVPにおけるMRの定義

「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令(〔GVP〕省令)」では、医薬情報担当者を次のように定義している。

医薬情報担当者とは、医薬品の〔適正な使用〕に資するために、医療関係者を訪問すること等により〔安全管理情報〕を収集し、提供することを主な業務として行う者をいう。〈GVP省令 第2条の4〉

「医薬情報担当者」はMRとほぽ同義であるが、GVP*4が医薬品の製造販売後の〔安全対策〕を目的としていることから、その役割に焦点を当てた定義となっている。

 ここでいう「安全管理情報」とは、医薬品、〔医薬部外品〕、化粧品、医療機器および再生医療等製品の〔品質〕、有効性および安全性に関する事項、その他医薬品等の適正な使用のために必要な情報をいう。

 なお、GVPのVはvigilanceの略であり、「警戒」、「用心」、「寝ずの番」を意味する。MRは医薬品の〔安全管理〕の上で重要な役割を果たすよう期待されており、それを実現するためには、医療機関を〔定期的〕に訪問するなどして自社医薬品の〔情報収集〕にあたるとともに、安全管理情報を確実に伝達しなければならない。

医薬品の適正使用とMRの役割

MRの社会的使命

 医薬品は人々の健康と生命の維持に大きな役割を果たし、医療全体の〔質的向上〕に貢献してきた。不治の病とされてきた疾病や長期入院が必要とされていた疾病、苦痛を伴う疾病や手術でしか治せなかった疾病などが〔薬物治療〕によって克服されてきたように、医薬品はこれまでの〔治療法〕を大きく変え、医療の〔進歩〕に寄与してきた。

 医薬品は国民から期待され医療に〔多大な貢献〕をしているが、使い方を誤ると患者の〔生命〕を奪ってしまうおそれがある。また、適正に使用していても〔副作用〕を回避できないこともある。医薬品がより有効に、より〔安全〕に使用されるためには、医療関係者に〔医薬品情報〕を正しく、迅速に伝えなければならない。また、医薬品情報を充実させるためには、〔未知〕の副作用や重篤な副作用が発現しなかったかなど、常に〔情報収集〕に努めなければならない。そこに〔MR〕の存在価値がある。

 MRの社会的使命は、医薬品情報の提供・収集・〔伝達〕を通して医薬品の〔適正使用〕を実現し、医療に貢献することである。また、革新的な新薬も、経済性・使用性に優れた〔後発医薬品〕も、使用されなければ患者は恩恵を受けられない。自社で販売する医薬品を、それが最も適する患者に正しく使用されるよう活動することは、MRの重要な〔社会的使命〕である。

医薬品の適正使用の重要性

 医薬品を適正に使用するには〔添付文書〕などの医薬品情報が不可欠である。それらに基づいて医師、薬剤師などの医療関係者が医薬品の有効性や〔安全性〕について正確に把握し、患者自身も〔医薬品〕を正しく理解して使用しなければならない。

 医薬品の適正使用は、「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会〔最終報告 1993(平成5)年5月〕」で、次のように定義付けられた。

 

 医薬品の適正使用とは、まず、〔的確な診断〕に基づき患者の状態にかなった最適の薬剤、剤形と適切な〔用法・用量〕が決定され、これに基づき〔調剤〕されること、次いで患者に薬剤についての〔説明〕が十分理解され、正確に使用された後、その効果や副作用が評価され、処方に〔フィードバック〕されるという 一連のサイクル(図 1-1)。

 

 医薬品の適正使用は、医師、薬剤師などの〔医療関係者〕はもとより、〔製薬企業〕が互いに与えられた責任を果たし、協力することで実現する。医薬品は、医師による診断、医薬品の〔処方決定〕から始まり、薬剤師による調剤、〔服薬指導〕を通じて患者に届けられるが、患者が処方された医薬品を正確に使用しなければ、期待した〔治療効果〕は発揮されない。そして、製薬企業は、患者に使用された医薬品の〔有効性〕や安全性に関する情報を医療関係者から〔収集〕し、それを分析 ・〔評価〕した結果をフィードバックする。これにより、医薬品の〔適正使用〕は実現する。

適正使用のサイクルにおける MRの役割

 医薬品の適正使用のサイクルにおいて、MRはまず「患者の状態にかなった最適の薬剤、剤形と適切な〔用法 ・用量〕が決定されること」に関与する。医師が個々の患者に対して最適な薬剤を処方するには、〔科学的根拠〕に基づいた情報によって判断されなければならない。 MRは科学的で正確な情報を提供することで、医薬品の〔適正使用〕に貢献する。なお、医薬品が適正に使用されるには、〔添付文書〕に記載された内容に則って〔処方される〕ことが基本であり、それを徹底するのがMRの役割である。次に、「その効果や〔副作用〕が評価され、処方に〔フィードバック〕される」という点が製薬企業、MRの役割に当たる。使用された医薬品の〔有効性〕や安全性に関する情報を〔収集〕するのは、MRの役割である。

 MRが収集した情報は、製薬企業に〔蓄積〕され、分析・評価される。その結果、〔使用上の注意〕が追加されるなど添付文書が改訂される。さらにその後、これらの情報を〔医療関係者〕に迅速に伝達するのがMRの役割である。

育薬におけるMRの役割

 医薬品は人体の構造や〔機能〕に影響を与える化合物であり、〔製造販売承認〕を受けて販売される。しかしながら、人体の構造や機能がすべて解明されていないのと同様に、その化合物が〔人体〕にどのような影響を与えるのか全容が解明されていないことが多い。

 医薬品は、開発段階でごく〔限られた患者〕に対して臨床試験を行った結果の情報しかない中で〔承認〕を受けるが、製造販売後は〔合併症〕を有し複数の薬剤を服用している患者などの〔不特定多数〕に使用される。その結果、未知の副作用や〔重篤な副作用〕、あるいはほかの薬剤と併用した際に、一方の作用が増強されて重篤な副作用が発現するような〔相互作用〕が見つかることがある。また、製造販売後の〔臨床試験〕などの結果から、承認された用法 ・用量より有効で安全な用法・用量が見いだされたり、承認された〔適応症以外〕の疾患に有効性が発見されることもある。このように、医薬品は〔製造販売後〕に多くの情報が集積され、それらを〔分析・評価〕した結果、より安全に、より有効に使用するための新たな価値が創出される。これらは医薬品を育てるプロセスであることから、〔育薬〕と呼ばれる。

 MRは〔医療関係者〕と対話をする中で、「錠剤が飲みにくい」、「PTP*5シートからカプセルを取り出しにくい」などの意見を聞くことがある。 これらの情報は、企業にもち帰って報告することで、製剤の〔改良〕に結び付くことがある。また、「この〔薬理作用〕を考慮すれば、現在の注射剤を軟膏剤に転用して皮膚潰瘍治療薬として効果が期待できるのではないか」といった医療関係者の〔アイデア〕を聞くことがあるかもしれない。このような情報を企業にもち帰って報告することで〔開発〕が進められ、新たな〔治療薬〕が誕生する可能性もある。このようにMRは〔育薬〕の重要な担い手といえる。

求められるMR像

 MRは企業を代表して〔医療関係者〕と接し、医薬品の〔適正な使用〕と薬物療法の向上を目的に活動する。その結果として〔自社医薬品〕が処方され、患者は恩恵を受けるとともに企業の売り上げにつながる。企業は適正に利益を上げることにより次の〔開発投資〕を行うことができ、更に優れた製品を世に送ることができる。このようにして、自社医薬品が適正に使用されることは、患者の〔恩恵〕につながる。 

医療関係者から求められるMR像

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) が実施した調査結果

 PMDA*6が2014(平成26)から 2015(平成27)年にかけて医薬品の安全性情報の入手・〔伝達〕・活用状況についての調査*1を、病院診療所、薬局に対して行った結果を紹介する。

①「平成26年度医療機関における医薬品安全性情報の入手・伝達・活用状況等に関する調査」

・医薬品の安全性情報の入手のために活用している情報源

 病院全体:MR 87.2%、〔医薬品 ・医療機器等安全性情報 〕(p.170参照)79.4%、 医薬品安全対策情報 (DSU*7) (p.177参照)73.5%ほか

・安全性情報人手のために活用する情報源として有用なもの (3つまで回答)

 病床数50床以上100床未満の施設:MR 55.6%、〔DSU〕 39.0%、医薬品・医療機器等安全性情報 36.6%など

 病床数500床以上の施設:〔医薬品医療機器情報配信サービス〕*2 (PMDAメディナビ)61.7%、MR 59.1%、PMDAホームペー ジ*3 46.5%ほか(表 1-1)

② 「平成27年度診療所における医薬品安全性情報の入手 ・伝達 ・活用状況等に関する調査」

・診療所において安全性情報の入手のために活用している情報源:〔MR〕 86.3%、医薬品・医療機器等安全性情報 68.0%、製薬企業のダイレクトメール 67.4%、医薬品卸売販売業担当者 (MS*8)66.5%ほか

・有用な情報源に「MR」をあげた診療所での有用と考える理由:「信頼できる」 46.6%、 「〔個別〕の質問・オーダーなどが可能」35.9%、「内容がわかりやすい」34.3%、「必要な情報に絞られている」30.8%ほか(表1-2.3)。

③「平成 27年度薬局における医薬品安全性情報の入手・伝達・活用状況等に関する調査」

・薬局において安全性情報の入手のために活用している情報源:MR 87.9%、〔MS〕 82.1%、製薬企業のダイレクトメール 77.0%、医薬品・医療機器等安全性情報76.0%、DSU 73.5%。

・有用な情報源に「MR」をあげた薬局での理由:「信頼できる」59.8%、「個別の質問・オーダーなどが可能」42.0%、「内容が詳しい」40.6%、「内容がわかりやすい」37.1%、「必要な情報に絞られている」32.8%、「〔迅速〕である」31.6%ほか(表 1-4,5)。

MR認定センターが実施した調査結果

 MR認定センターが2012(平成24)年 8月に公表した『MR誕生100周年記念「〔MR実態調査〕」』によると 、医師に対する「薬剤を新たに処方する際に最も影響を与える情報源は何か」の設問で、第1位は〔MR〕であった。ただし、それは医師全体、開業医の場合で、病院の勤務医は〔医学書・専門書〕が第1位であり、MRは第4位だった(図1-2)。薬剤師に対する「新薬の情報を得る際に最も取得することが多い情報源は何か」の設問で、病院薬剤師は第1位が〔MR〕、第2位がインターネットに対して、薬局薬剤師は第1位が〔インターネット〕、第2位がMRだった(図1-3)。本調査の自由回答欄には、MRの情報提供活動に対して次のような意見が寄せられた。

MRからの情報提供で助かったこと・よかったこと

・MRから最新の〔ガイドライン情報〕を提供され、患者の信用を得た

・〔副作用情報〕の早期連絡、最新文献などの提供を受けて助かった

・ほかの医師や医療機関での情報、自分の〔専門外〕の情報を伝えてくれて助かった

・優秀なMRは、パンフレットの行間にある微妙なニュアンスを伝えてくれる

・ネットと違って〔one way〕でないところが魅力である

MR(製薬会社)へ苦言を呈したいこと

・もっと〔学術的な知識〕や常識を身に付けてほしい

・会社として〔社会人教育〕をしっかりとしてほしい

・ノックせず入室するなど、社会的常識が欠落している

・〔プロ意識〕をもったMRが減ってきているので、もっと真摯に仕事に取り組んでほしい

など

 「MRが医療の一翼を担うために必要と思われる能力は何か」の設問に対しては、医師、薬剤師の回答の上位4つは、「人柄、マナー、人間的な〔信頼性〕」、「〔中立的〕に情報を提供」、「問い合わせなどに〔迅速〕に対応できる」、「自社医薬品の学術的な知識の広さ・深さ 」であった(図 1-4)。

 これらの調査結果から、MRは、医療関係者が〔医薬品情報〕を入手する際の大きな情報源になっていることがわかった。しかしながら、MRの知識面や〔マナー〕など今後の課題も明らかになった。医療関係者は自社医薬品の〔処方促進〕などのMRの依頼に応じるために時間を割くのではなく、MRとの幅広い〔情報交換〕の中から日常の診療に役立つ情報を入手したいと考えている。MRは〔患者志向〕に立ち、豊かな人間性を持ち合わせ、信頼されることが大切である。

製薬企業から求められるMR像

 企業は売り上げや〔利益〕を伸ばし、成長し続けなければならない。営業部門に属しているMRは、医師に自社医薬品を少しでも多く処方してもらいたいと考える。その際、自社の都合のよい情報だけを〔一方的〕に伝える、〔科学的根拠〕のない情報を伝える、他社医薬品の〔誹謗・中傷〕をする、医療機関の〔ルール〕を無視して行動するなど、「患者の恩恵」や「医療関係者への配慮」を無視した〔自己中心的〕な行動は絶対にあってはならない。それらの行為は医療関係者からの〔信頼〕を失い、最終的には企業に損害を与えることになる。

 製薬企業の社会的使命は、革新的な医薬品を、あるいは安価で良質な医薬品を〔安定的〕に供給することにより医療に貢献することである。これは各企業で多少表現は異なるが、〔企業理念〕に明記されている。この使命を果たすことが社会に対する企業の〔責務〕であり、企業の社会的存在意義である。

 「医療に貢献する」というMR像は、医療関係者からも製薬企業からも求められる姿である(図1-5)。製薬企業は「医療に貢献する」という〔社会的使命〕を果たす活動を行った結果として売り上げ 〔利益〕を伸ばし、成長する (p.200参照)。

(近澤洋平)

MRの資質向上

 職業に就いた者は、プロフェッショナルになるために〔専門性〕を磨き資質を向上し続けなければならない。MRに求められる資質は、「〔倫理観〕」、「知識」、「技能」の 3つに分けられる(図1-6)。いくら〔知識〕をもっていても、それを適切に相手に伝えたり、相手の〔ニーズ〕を汲み取り、適切な対応ができなければ職務は全うできない。また、医療の一翼を担う者としてふさわしい〔態度〕・行動を実践していなければ、〔医療関係者〕から信頼されない。これら3つの〔資質〕を向上させることを目指して〔MR認定制度〕が誕生した。

信頼されるMRに求められる資質

MRに求められる倫理観

 〔MR認定要綱〕では、倫理観を次のように定義している。「倫理観とは、MRが〔患者志向〕に基づいた誠実な態度と、法令、規範及び各種ルールを遵守した行動を自覚し〔実践〕していることをいう」。好ましい態度 ・行動を習慣化すると、やがて「あの人は誠実な人だ」、「あの人は消潔感にあふれた人だ」というように周囲から認識され評価される。 MRは患者から不審、不快に思われない態度で〔病院内〕で活動し、医療関係者から信頼されるよう〔行動〕で示す必要がある。自分の態度や行動は自分では気づかないことが多い。また、倫理観はペーパーテストで評価できないことから、上司や先輩、トレーナーと〔同行〕した際に評価・〔指導〕を受けることで身につける必要がある。

MRに求められる知識

 MRは医学・薬学、〔医療制度〕や関連法規などの幅広い知識をはじめ、 〔自社医薬品〕に関連する専門知識を身につけなければならない。

 医師は大学6年間で医学に関する高度な知識を修得し、卒業して〔国家試験〕に合格した後も〔臨床研修医〕を経て独り立ちしていく。 さらに、学会や研修会に参加するなどして〔最新の医学知識〕を修得する。薬剤師も大学6年間で薬学に関する知識を修得するとともに、〔臨床実習〕を通してスキルを学び、〔国家資格〕を取得した後も医師と同様に研鑚を積んでいる。このように、医療に携わる者は患者の命を預かる自覚と〔責任〕をもち、常に最新の知識を修得し、〔生涯学習〕を続けている。

 MRはたとえ新入社員であっても、企業を代表して医薬品に関する〔情報活動〕を行うことから、MRとしての〔最低限の知識〕を身につけて医療機関を訪問しなければならない。そのため、〔MR認定要綱〕では「MRとして活動する予定の者は、〔導入教育〕を受講しなければならない」と定めている。

 また、医学・薬学の進歩は日進月歩であり、MRは〔生涯〕にわたって学び続けなければならないことから、同様に「MRとして活動する者は、〔継続教育〕を受講しなければならない」と定めている。

 なお、医学、薬学は〔科学〕に立脚した学問であり、医師、薬剤師は〔医薬品〕を科学者の視点で判断する。つまり、MRは〔科学的根拠〕に基づいた〔医薬品情報〕を提供するべきで、イメージや感覚で説明してはならない。MRは、〔科学的〕なものの見方、考え方を身につけた上で行わなければならない。

MRに求められる技能

 MRが身につけた知識は、それを活用できる〔スキル〕がなければ医療関係者との〔面会〕に活かされない。MRに求められる技能を以下に例示する。

コミュニケーションスキル

 〔TPO〕に合わせた 言動や挨拶、相手の話を聴く姿勢など、〔人間関係〕を円滑に進めるための基本スキルである。特に、〔挨拶〕は人間関係構築の基本であるため、日頃から実践して〔習慣化〕する必要がある。

プレゼンテーションスキル

 医局や薬局などで行う説明会などの〔プレゼンテーション〕では、自社医薬品の特長や〔使用上の注意〕などを正確にわかりやすく説明しなければならない。プレゼンテーションの目的は、相手に〔行動〕を促すことである。例えば、〔併用禁忌〕の薬剤がある場合は、絶対に一緒に使わないように求めることであり、最も効果が期待される患者には具体的な使い方を説明するとともに〔使用上の注意〕を伝えた上で処方を求めることである。

 プレゼンテーションを成功させるポイントを以下に紹介する。

事前準備

・〔テーマ〕を選定する

・聴衆の〔ニーズ〕を想定する

・資材を準備し、時間内に終了できるように練習を繰り返す

・想定される質問に対する〔回答〕を準備する

プレゼンテーション

・時間をとって集まっていただいたこと、日頃お世話になっていることに感謝する

・正確でわかりやすいメッセージを伝える

・リスクと〔ベネフィット〕を提示する

・具体的な使い方と注意事項を説明する

・〔クロージング

面談スキル

 プレゼンテーションは決められた時間で〔一方的〕に説明する場であるが、面談は医療関係者とMRの双方向の〔コミュニケーション〕である。今や、医薬品情報は〔インターネット〕を介して簡単に入手することが可能だが、医療関係者がMRに面会するのは、対話を通じて自身の抱える〔問題の解決〕を期待しているからである。MRは医療関係者が抱えている問題を引き出すための〔傾聴力〕や質問力、解決方法を提案するための〔説明力〕など、対話に必要な〔スキル〕を修得しなければならない。

 面談を成功させるポイントを以下に紹介する。

 事前準備

・〔面会目的〕を明確にする

・前回面会時の内容を確認する

・〔説明資料〕や文献を準備する

・想定される質問に対する回答を準備する

 面談

・日頃の感謝をする

・対話を通じて〔ニーズ〕の顕在化、問題を共有する

・〔問題解決〕に向けた提案をする

・〔リスク〕とベネフィットを提示する

・具体的な使い方、注意事項を説明する

・〔クロージング

ITスキル

 MRの仕事は内勤業務、情報検索、〔プレゼンテーション〕などパソコンやタブレットを使用する頻度が高い。昨今では直接の面会に替えて〔電子ツール〕等を用いた情報交流も一般化していることから,これらの活用はMRとして〔必須のスキル〕である.

 なお、〔医療機関内〕でのパソコンやタブレット、スマートフォン操作は、制限されていることがあるので、操作する場所には留意する必要がある。

MR認定制度の創設

MR認定制度が創設された背景

プロパーによる不適正な販売と業界自主規制

 1961(昭和 36) 年4月に〔国民皆保険制度〕が施行されたことで、医療用医薬品市場は著しく増大した。製薬企業は〔医療用医薬品〕を供給することで社会に寄与したが、企業間の医薬品の〔販売競争〕が激化し、プロパーによる不適正な〔販売行為〕が横行した。厚生省(当時)は、添付、景品、海外旅行招待などの行為が〔医薬品〕の歪んだ使用を助長するとして、 自粛の要請と通知などによる〔行政指導〕を行った。製薬業界では、これを受けて1974(昭和49) 年に「〔医療用医薬品流通要綱〕」、1976(昭和 51)年には「〔医療用医薬品のプロモーションに関する倫理コード〕」を策定し、自主規制を実施した。

日本医師会によるプロパー教育に関する提言

 日本医師会は、1973(昭和 48) 年に医薬品開発や流通について全般的に検討するために「〔医薬品長期総合対策委員会〕」を設置し、8年余りにわたり研究を行い「医療における医薬品の諸問題と将来の課題」と題する〔答申書〕を提出した。「医薬品関係者の育成」の項では、プロパー教育について次のような提言がなされた。

・医薬品の安全性確保は、医薬品の〔正しい情報〕を正確に伝達することから始まる。この場合、情報の提供者は製薬企業(刊行物、〔プロパー活動〕)、薬剤師であり、提供を受けるのは〔医師〕をはじめとする医療従事者であり、ひいては、投薬、与薬をされる〔患者〕である。

・現在のプロパー情報についての問題点は、〔情報の提供〕のみを仕事とする〔一方通行的〕な現象である。情報提供したら必ず〔フィードバック〕があり、それをさらに調査研究して新しい情報として提供するという〔サイクル〕が必要である。鉄砲玉のようなプロパーの情報活動は、カセットテープがとって代わるべきである。〔質疑〕に対して正しい情報の提供ができるプロパーでなければならない。

・現在、各メーカーのプロパーには、単なるセールスマンから〔ディテールマン〕、リプレゼンタティプに至るまで各種各様の人がいて、その〔レベル〕に大きな差が認められる。医師に対するプロパー活動をする人たちは、適当な機関が認める一定の〔資格〕を有することを条件とする必要がある。すなわち、〔教育研修〕や登録制によってその質を高める必要がある。

製薬業界における教育研修制度の創設

 1978(昭和 53) 年7月に〔薬事法改正案〕の骨子が発表された。この改正は、主として従来行政指導によって行われてきた副作用報告制度や〔再評価制度〕などの法制化、再審査制度や承認の取り消しという〔承認審査〕の厳格化など、医薬品の〔安全確保対策〕を強化するものであった(法規については第3章参照、PMSについては第5章参照)。その中にプロパーの資格制度について盛り込まれていたため、行政当局は、〔日本製薬工業協会(製薬協)〕に対して、資格制度を含めてプロパーの資質向上策の〔業界自主規範〕を具体的に、かつ、世論の批判に耐え得る形のものとして作成するよう要請した。その背景には「プロパーは医薬品の適正な使用とその〔普及促進活動〕をすべきところ、 〔ノルマ達成〕のための販売活動に行き過ぎがみられ、本来の医療用医薬品の学術情報の伝達・収集・〔フィードバック〕が十分に果たされていない」との指摘が国会にあった。

 製薬協はこの要請に応えるために〔プロジェクト〕を設置して検討を重ね、資格制度ではなく業界の自主的な〔企業内生涯教育制度〕として「〔医薬情報担当者教育研修要綱〕」を策定し、厚生省、 〔日本医師会〕、 日本薬剤師会および日本病院薬剤師会の了解を得た上で総会において承認した。

 製薬協で策定された〔企業内生涯教育研修制度〕を業界全体のものとするため、1980(昭和 55)年に日本製薬団体連合会(日薬連)に製薬協、東京医薬品工業協会(東薬工)、大阪医薬品協会〔現:関西医薬品協会(関薬協)〕、医薬工業協議会〔医薬協(現・日本ジェネリック製薬協会)〕および日本医薬品直販メーカー協議会(直販協)からなる「〔教育研修関係団体連絡協議会〕」が設けられ、これにより、業界全体として(医薬情報担当者(MR)の〔教育研修制度〕が始まった。ただし、この教育研修制度は、「〔医薬情報担当者教育研修要綱〕」に定められた科目や履修時間に従って各企業が〔自主的〕に取り組むもので、実際に使用する教材などは各製薬企業に委ねられた。

厚生省「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」報告

 1992(平成4)年、厚生省は人口の〔高齢化〕、国民意識の変化とこれに伴う〔医療ニーズ〕の変化を踏まえた21世紀の医薬品のあり方などを検討するため、薬務局長の私的懇談会として「〔21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会〕」を設置した。ここで、先に述べた「医薬品の〔適正使用〕」について定義するとともに、以下のようにMRの〔教育研修体制〕の充実および資質の向上策としてMRの〔資格化〕を早急に検討するよう提言された。

 MRは医師に対する医薬品情報の〔提供源〕として重要な位置を占めている。また、平成4年4月から始まった流通改善によりMRは〔価格交渉〕には関与してはならないこととされた。これにより、MRは医薬品・医療情報の〔提供〕、市販後の情報の〔収集〕などもっばら医薬品情報の専門家としての役割が明確にされ、その役割は従前にも増して重要となっている。

 このような専門家としてMRの〔資質〕の向上を図るためには、MRの教育・研修とともに、MRが誇りと〔生きがい〕を持って業務に専念できるよう、諸外国の例も参考にしつつ、行政や関係者間でMRの〔資格化〕について早急に検討する必要がある。

厚生省「医療におけるMRのあり方に関する検討会」報告

 「〔21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会〕」の報告に基づき、医療を担う一員としてふさわしいMRのあり方や教育のあり方、特に〔資格化〕の必要性を早急に検討するため、1993(平成5)年に「〔医療におけるMRのあり方に関する検討会〕」が薬務局長の私的懇談会として設置された。報告書では、資格制度について以下のように提言された。

資格制度の必要性

 MRの資質向上と〔MR活動〕の改善を図るとともに〔医薬品情報〕の専門家としてのMRの地位の確立を図るためには、社内の〔教育研修〕の一層の充実に加えて、個々の企業ではなく、公正な民間機関による客観的な資質の評価に基づく〔資格制度〕が必要である。

資格制度の条件

・MRの資格制度は国家資格ではなく、公正な〔民間機関〕による資格制度とすべきである。

・資格認定は、〔医薬品情報〕の専門家としてMRに共通して求められる医療や医薬品等に関する知識、〔倫理〕等について、上記機関が試験を実施して行うこととする。

・MR資格認定の水準は、医薬品情報の専門家として〔医療関係者〕等から評価と信頼を受けることができるような水準とすべきである。

・MR活動は、資格取得者に限定されるものではないが、 MR業務の内容からみて将来的には〔資格取得者〕によりMR活動が行われることが望ましい。

・資格取得後の〔継続教育〕や資格認定の〔更新制〕についても検討する必要がある。

「MR資格制度検討会」報告

 厚生省の「医療におけるMRのあり方に関する検討会」報告書による提言を受けて、1994(平成6)年、製薬企業関連6団体(〔日薬連〕、製薬協、東薬工、大薬協、医薬協、直販協)により「〔MR資格制度検討会〕」が設置され、具体的内容を検討した。

 これにより、本制度はMRとしてもつべき共通の知識について、客観的な評価に基づいて確認を行うものとした。なお、この制度は、MR全体の〔資質向上〕を目指すものであり、〔民間機関〕によって行われるものであって〔法律〕に基づくものではないことから、資格がなければMR業務に就けないという〔業務独占〕、資格がなければMRと名乗れないという〔名称独占〕にはしないとされ、それまで検討してきた「資格制度」から「〔認定制度〕」に改めた。また、本試験は、MRが共通して身につけるべき知識の確認にとどまることから、MR活動をする上で重要な〔倫理観〕、マナーは企業において確認すべきものと考え、本試験の受験対象者は「〔企業の推薦〕」を必要とすることとした。

MR認定センターの創立

 わが国におけるMRに対する教育研修制度は、1980年から業界団体の〔自主的ガイドライン〕に基づいて推進されてきたが、「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」の提言以降、MRとして身につけるべき共通の知識については、民間機関による〔客観的評価〕に基づく確認が必要とされ、MR認定試験(認定試験)の実施および〔MR認定証(認定証)〕の交付を目的として、1997年12月に〔財団法人医薬情報担当者教育センター(医薬情報担当者教育センター)〕が創立した。

 医薬情報担当者教育センターは、それまで製薬協が策定・運用してきた「〔医薬情報担当者教育研修要綱(教育研修要綱)〕」を継承し、その定めに従って企業が実施した教育研修の修了認定をおこない、認定試験の〔受験資格〕を有する者に対して試験の実施、認定試験の合格者への認定証の〔交付〕、所定の教育研修を修了した者に対する認定証の〔更新〕をおこなってきた。これらの事業は、MRの資質が向上し医薬品の〔適正使用〕が図られて、もって国民の〔保健衛生〕の向上に寄与するものとして、〔内閣総理大臣〕より公益財団法人への移行認定を受け、2011年4月に〔公益財団法人MR認定センター(センター)〕に改称された。

MR認定制度の抜本改革

 MR認定制度(認定制度)は、MRの資質向上と〔MR活動〕の改善を図るとともに、〔医薬品情報〕に関する専門家としてのMRの地位の確立を目的として運用されてきたが、近年、医療機関の〔訪問規制 〕の強化、〔ICT〕の発展などにより、MRによる〔医薬品情報活動〕のあり方が劇的に変化してきた。また、一部のMRではあるが、〔自社製品〕の特長を一方的に伝えて売り込みをする、〔科学的根拠〕に基づかない情報を提供するなどの言動が医療関係者から批判を浴び、メディアを通じて「〔MR不要論〕」と喧伝されるようになった。

 このような背景から、センターは、MRが本来の役割、使命を果たし自信と誇り、〔使命感〕を持って働けるよう、〔認定制度〕の抜本改革に着手した。

「継続教育検討委員会」報告

 センターは、MRが〔医療関係者〕からの期待に応えられるよう資質を向上するには、〔継続教育〕を充実強化する必要があるとして、2017年に「〔継続教育検討委員会〕」を設置した。本委員会では、MRの〔将来ビジョン〕を次のように設定した。

【MRの将来ビジョン】

患者志向〕に立った医薬情報の提供・収集・〔伝達活動〕を通じて、医療関係者から信頼される〔パートナー〕を目指す。

 本委員会は〔継続教育〕の充実強化策を検討し、2018年2月に検討結果を取りまとめ、報告書「MRの〔資質向上〕を目指した継続教育の充実について」を公表した。MRの役割・使命は医薬品の〔適正使用〕を推進することであり、MRは患者に思いを巡らせ、〔医療関係者〕の立場を理解した医薬品の〔情報活動〕が重要であるとされた。

「事業構造改革検討会議」報告

 継続教育検討委員会の提言は、制度として組み込まれなければ〔実効性〕が伴わないことから、2019年1月に「〔事業構造改革検討会議〕」が設置された。センターの〔事業構造改革〕と、それに伴う認定制度の抜本改革について検討がなされ、2019年4月に〔検討結果報告書〕を公表した。認定制度の抜本改革の方向性として、次の8項目が示された。

①継続教育で定めている基礎教育は〔個人学習〕で対応し、〔必須時間〕を撤廃する。

②履修主義から〔習得主義〕に転換し、成果の確認をもって教育研修の〔修了認定〕とする。

③継続教育における基礎教育の学習に〔MRテキスト〕を活用する。

④本提案によって〔集合教育〕の更なる充実を図る。

⑤基礎教育の必須時間撤廃を、〔導入教育〕においても適用する。

⑥導入教育における基礎教育の必須時間撤廃により、〔受験資格〕が拡大する。

⑦MR認定試験の受験資格を〔薬学部学生〕等へ門戸を広げる。

⑧〔一般受験〕の受験資格を検討する。

 この方針に基づいて、教育研修委員会において〔MR認定制度〕の抜本改革の具体案を検討し、企業との〔意見交換〕を経て、〔理事会〕で承認された。その後、「〔MR認定要綱策定委員会〕」を設置し検討を重ねた結果、これまで運用してきた教育研修要綱に代えて、「〔MR認定要綱(認定要綱)〕」が策定された。認定制度の改定は、2020年10月23日公布、〔2021年4月1日〕施行となった。

MR認定制度

 2020年度までの認定制度では、企業が実施する教育研修は、教育研修要綱で定められた〔時間数〕を満たすことを〔修了認定〕の要件としてきた。これは、〔教育研修制度〕が創設された1980年から約40年間にわたって踏襲されてきた考え方である。1980年当時は、企業内に〔教育研修〕の体制が十分整備されておらず、当時のプロパーは学習する習慣がなかった。業界団体は、プロパーの〔資質向上〕に向けて社会からの要請に応えるためには、〔履修時間〕を設定し教育研修を義務付ける必要があった。

 このように、履修時間を定めた教育研修制度は〔認定制度〕へ継承されたが、本来教育研修は、あるべき姿と現状の〔ギャップ〕を埋めるためにおこなわれるもので、習得すべき目標を定め、達成に向けたプログラムを計画・実施し、〔成果〕の確認をもって修了する。認定制度の抜本改革においては、MRに対する〔教育研修の質〕を充実強化する必要があることから、これまでの履修時間を満たすことで教育研修を修了とする「〔履修主義〕」から、成果の確認をもって修了とする「〔習得主義〕」へと転換する。

 認定制度の目的は、MRが医薬品の適正使用に必要な〔情報活動〕を行う専門家として、生涯にわたり資質の向上が図られ、もって国民の〔保健衛生〕の向上に貢献することである。

MR認定制度の全体像

 認定制度は、企業において行われた〔教育研修〕の成果を確認し評価することで〔MRの資質〕を認定し、〔認定証〕を交付するものである。制度の基準として〔認定要綱〕を定め、企業、MR、〔センター〕が遵守すべき事項を明確にしている。認定制度は資格制度とは異なり、認定証を取得できなくても〔MR活動〕を妨げないが、認定要綱で定めた所定の〔教育研修〕を受講しなければ〔MR活動〕ができない仕組みになっている。

教育研修

 MRの資質向上の第一義的責任は〔企業〕が担うことから、MRおよびMRを目指す者は、〔センター〕が認定した「製薬企業およびCSO(企業)」において実施される教育研修を受講し、〔修了認定〕を受ける必要がある。

 教育研修は、MRとして活動予定の者が受講する〔導入教育〕と、MRとして活動する者が生涯教育として受講する〔継続教育〕がある。認定試験の受験資格は、導入教育の〔基礎教育〕を修了認定されることである。企業に所属しない者が認定試験の受験を希望する場合は、センターが認定した〔MR導入教育実施機関(実施機関)〕において、導入教育の基礎教育を受講し〔修了認定〕を受ける必要がある。

MR認定証の交付

 認定証は、〔認定試験〕の合格、導入教育の〔実務教育〕の修了認定ならびに6カ月の〔MR経験〕を修了することにより交付される。なお、企業に所属しない者で認定試験に合格した者は、企業に入社して実務教育の〔修了認定〕とMR経験を修了しなければ認定証は取得できない。

MR認定証の更新

 認定証の有効期限は〔5年間〕である。毎年度継続教育の修了認定を受けている者は認定証が〔更新〕される。継続教育は基礎教育と〔実務教育〕があり、両方の教育研修を修了することが認定証の〔更新要件〕となる。他部署への〔配置転換〕、休職、退職などMR職から離れ、継続教育の〔実務教育〕を受講できない者は、個人学習により〔5年分〕の基礎教育を修了認定されていれば「〔MR基礎教育限定認定証(限定認定証)〕」にて更新される。限定認定証を保有している者がMRに復帰する際は、企業が実施する〔復帰プログラム〕を受講し修了認定されれば、限定認定証から〔認定証〕に切り替えることができる。

 これらの基準は認定要綱および〔認定要綱細則〕に記載されていることから、MRは〔認定要綱〕と認定要綱細則を熟読し、内容を理解しMRとしての〔責務〕を果たさなければならない。これらは、〔センター〕のホームページに掲載されている。MR認定制度の全体像を図1-7に示す。

MRの資質

 MRの資質は、〔認定要綱〕で次のように定義されている。

MRの資質とは、医薬品の適正使用並びに〔薬物療法〕の向上に貢献する専門家として必要とされる知識、〔科学的根拠〕に基づき医薬品の品質・有効性・〔安全性〕等の情報を提供、〔収集〕、伝達する技能並びに医療関係者はもとより患者・国民からの信頼に応え得る〔倫理観〕の3つをいう。〈認定要綱第2条の2〉

 MRの資質は、知識、〔技能〕、倫理観の3つから構成されている。知識は、「知っている」ことであり、〔ペーパーテスト〕で成果を確認する。技能は、「できる」ことであり、実際に〔ロールプレイング〕などで成果を確認する。一方、倫理観は、「MRが〔患者志向〕に基づいた誠実な態度と、法令、〔規範〕及び各種ルールを遵守した行動を自覚し実践していることをいう。」と、〔認定要綱〕で定義づけられている。倫理観は、知識、技能に裏打ちされた言動を、日常の〔MR活動〕の中で実践できているかどうかであり、上司やトレーナーなどの〔同行訪問〕によって成果確認をおこなう。

導入教育と継続教育

 導入教育は、MRとして必要な〔資質〕を養成・習得することを目的に、MRとして活動する予定の者が必ず受講しなければならない〔教育研修〕である。一方、継続教育は、〔導入教育〕修了後のMRに対して、生涯にわたり必要な資質を〔維持・向上〕することを目的に、MRとして活動する者が必ず受講しなければならない教育研修である。

 導入教育、継続教育ともに「〔基礎教育〕」と「実務教育」から構成されており、教育研修の〔成果〕を確認することにより、〔修了認定〕される。

基礎教育と実務教育

基礎教育

 基礎教育は、MRが医薬品の〔適正使用情報〕の提供・収集・〔伝達〕を行うために必要な基礎的知識を習得・維持する教育研修と定義されており、〔知識〕に限定している。基礎教育は、導入教育も継続教育も〔同一科目〕で、学習到達目標は導入教育「基礎教育」〔コアカリキュラム〕で定めている。学習教材は〔MRテキスト〕である。〔導入教育〕における基礎教育は、対象者が〔初学者〕であり、初歩的なことから理解する必要があることから、センターが認定した〔企業〕または実施機関で受講する必要がある。なお、医師、歯科医師および〔薬剤師〕の有資格者は、既に基礎的知識を有していることから、〔医薬品情報〕と疾病と治療の2科目については受講を免除することができる。

 継続教育における基礎教育は、一度習得した内容であることから原則〔個人学習〕とし、〔MR学習ポータル〕に搭載されたMRテキストを活用して〔基礎教育年次ドリル〕に取り組み、修了する必要がある。なお、継続教育は有資格者であっても科目の〔受講免除〕はない。基礎教育の科目は、表1-6に示す。

実務教育

 実務教育とは、MRが〔患者志向〕に立ち医療関係者から信頼されるパートナーとして必要な〔実践的資質〕を習得するために、〔企業〕が実施する教育研修と定義されており、知識、技能、〔倫理観〕の3つの資質を包含した教育研修である。それゆえ、実務教育は〔企業〕が責任をもって実施する必要がある。実務教育の科目は、表1-7に示す。

MR認定試験

 認定試験は、〔導入教育〕のうち基礎教育で習得した知識を〔客観的〕に評価するものである。実施概要は次のとおりである。

受験資格:導入教育の基礎教育を〔修了認定〕された者

試験科目:医薬品情報、疾病と治療、〔MR総論〕の3科目 ただし、医師、〔歯科医師〕および薬剤師は、医薬品情報と〔疾病と治療〕の2科目を免除

試験時期:毎年〔12月〕第2日曜日

合格発表:毎年〔1月〕末

試験会場:東京、大阪

すべて〕の科目に合格した者を合格者とする。合格科目の有効期限は、初回受験年月から〔5年間〕とする。

MR学習ポータル

 MR学習ポータルは、MRが〔継続教育〕の基礎教育を個人で学習し、自ら〔認定証〕の更新を行うためのツールである。MR学習ポータルには、〔MRテキスト電子版〕、基礎教育年次ドリル、更新時確認ドリルを搭載するとともに、個人の〔教育研修履歴〕を確認し、自ら認定証の〔更新手続き〕ができる機能を有している。MRテキストの内容がアップデートされる8月から翌年3月末日までに〔基礎教育年次ドリル〕を修了することで、当該年度の〔継続教育〕の基礎教育が修了となる。

 認定証の更新の際は、〔更新時確認ドリル〕を修了し、認定証に使用される〔写真〕を自らアップロードして認定証の〔更新手続き〕をおこなう必要がある。

(近澤洋平)

MRが医療の一翼を担うために

 MRが医療の一翼を担うためには、〔医薬品情報〕の専門家として資質を向上しなければならない。MRは〔患者〕と接することはなく、医療機関の〔訪問規制〕により、病棟や外来など実際の医療が行われている現場に立ち入ることができない。〔医療現場〕を実感できないMRは医療関係者のよきパートナーを目指すために、〔患者〕に思いを巡らせ、〔医療関係者〕の仕事を理解する必要がある。

MRが訪問する医療現場

 医療法において、医療とは次のように定められている。

医療は、生命の尊重と個人の〔尊厳〕の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との〔信頼関係〕に基づき、及び医療を受ける者の〔心身〕の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の〔予防〕のための措置及び〔リハビリテーション〕を含む良質かつ適切なものでなければならない。〈医療法第1条の2〉

医療は、国民自らの〔健康の保持増進〕のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分に尊重し、病院、〔診療所〕、介護老人保健施設、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設、医療を受ける者の居宅等において、〔医療提供施設〕の機能に応じ効率的に、かつ、〔福祉サービス〕その他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。〈医療法第1条の 2の2〉

 また、日本国憲法第25条では、〔健康権〕の保障、社会福祉・〔社会保障〕 ・公衆衛生の保障を規定しているように、国民が安心して医療を受けられるよう、社会の〔インフラ〕として整備される必要がある。それゆえ、わが国の医療は、〔国民皆保険制度〕 (p.109参照)によって運営されるとともに、種々の〔法的規制〕がなされている (p.60参照)。

医療におけるMRの位置付け

 治療はもとより予防・診断に欠かせない医薬品は、〔平均寿命〕の伸長や患者の〔クオリティ・オブ ・ライフ(QOL*11) 〕向上に貢献してきた。しかしながら、〔治療満足度〕の低い疾患やいまだに治療方法のない疾患が数多くある。患者や家族は、より有効で安全に服用できる〔新薬〕を待ち望んでいる。また、安価で安心して服用できる〔後発医薬品〕に期待を寄せている。これらの期待に応えるべく、製薬企業は〔研究開発〕に励み、安価で品質の高い医薬品を〔製造・販売〕する使命がある。

 図1-11は、医療におけるMRの位置付けを表したものである。

 製薬企業は、研究、開発、〔生産〕、営業などの事業活動を行い、医薬品を世の中に供給している。〔生命関連物質〕である医薬品は、適正に使用されなければ安全に〔効果〕を発揮できない。また、〔外観〕からその価値を判断することはできないため、〔情報〕が付加されて初めて医薬品として機能する。企業を代表して、医療関係者に医薬品の〔適正使用情報〕を提供、収集、伝達し、〔普及活動〕を行うのがMRである。

 製薬企業から出荷された医薬品は、〔医薬品卸〕を通じて医療機関に届けられる。医薬品卸の〔MS〕は、医療機関に対して〔価格交渉〕や受注、代金請求などの販売機能に加えて、〔医薬品情報〕の提供や収集活動も担っている。MRはMSと連携して医薬品の〔情報活動〕を行うことも必要である (p.55参照)。

患者中心の医療

 かつて患者は、病気に対する不安と苦悩を抱えながらもなす術がなく、〔医師〕に生命を預け〔治療〕のすべてを任せていた。この時代はまさに「〔医師〕中心の医療」であった。しかし、これまで「医師の善意に基づく慈善の行為」として長年にわたり信奉されてきた〔医の倫理観〕は、〔パターナリズム〕として批判されるようになり、患者の人権を守り、医療についての患者の〔自己決定権〕を尊重すべきとされるようになった(p.197参照)。

 今日では、医学薬学の進歩により画期的な〔治療法〕や医薬品が開発されるとともに、医療の技術が向上したことで、わが国は世界有数の〔長寿国〕になった。しかし、耐えがたい〔苦痛〕を伴う治療によって単にいのちを長らえるより、 自身が理想とする生き方や、〔尊厳〕を保持できる生活を実現したいと願う患者は少なくない。〔患者の権利〕が尊重される時代においては、医学的見地から見た医師の治療方針と患者の〔価値観〕が必ずしも一致しないことがある。

 患者が〔十分な情報〕を得て、最善と思われる治療方法や〔医療機関〕を選択し、主体的に医療にかかわれるよう、患者の視点に立って行う医療を「〔患者中心〕の医療」という。患者中心の医療を理解するためのキーワードであるかかりつけ医、QOL、インフォームド・コンセント、コンプライアンス、アドヒアランス、セカンド ・オピニオンの6つについて解説する。

かかりつけ医

 日本医師会では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の〔医療情報〕を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる〔地域医療〕、保健、福祉を担う〔総合的な能力〕を有する医師」と定義している。

 かかりつけ医は、患者が何らかの〔健康問題〕を抱えたときにまず最初に援助を求める医師である。

クオリティ・オブ・ライフ (QOL)

 クオリティ ・オブ・ライフは、QOLと略され、日本語では「〔生活の質〕」と訳される。人は豊かな生活を送りたいと願っているが、病気やその治療によって〔日常生活〕に支障をきたすと、生活の質は〔低下〕する。まずは、食事や着替え、〔排泄〕や入浴など日常生活を自力でできることが重要である。これらの日常生活動作を〔ADL〕*12といい、介護や〔リハビリテーション〕などにおいて重視されている。

 QOLは人生を寿命という「〔〕」の視点だけではなく、「〔〕」も重視しようとする考え方で、「〔患者中心の医療〕」の目的や方向性を考える上で重要な概念になっている。

インフォームド・コンセント

 インフォームド・コンセントとは、「患者が医療関係者から〔十分な説明〕を受け、患者が理解し納得した上で、患者の自由な意思に基づいて〔同意〕する」という意味で、あくまでも主語は〔患者〕である。患者が主体的に治療を受けるには、自身の病気に対する〔理解〕を深め、本人が納得する形で〔治療〕を選択する必要がある。

 〔インフォームド・コンセント〕は、「患者中心の医療」を実現するための、医師と患者との〔信頼関係〕により成り立っている (p.196参照)。

コンプライアンス

 コンプライアンスは、医療の分野においては「患者が、医療者の〔指示どおり〕に処方された医薬品を服用すること」で〔服薬遵守〕の意味で用いられる。なお、企業活動においては「〔法令遵守〕」という意味で用いられる (p.200参照)。

 患者が頻繁に〔服薬〕を忘れたり、自己判断で服薬を中断するなどの行為(〔ノンコンプライアンス〕)は、病気の〔再発〕を引き起こすことなどの原因となるため、患者は処方された医薬品を正しく服用する必要がある。 コンプライアンスは、医療者が患者に服薬を遵守させるという〔医療者〕が主体となった服薬管理であり、〔患者〕は命令に従っているという受動的な立場をとっている。

アドヒアランス

 患者が服薬を中断するのは、薬剤の服用の不快感、〔副作用〕への懸念、治療に対する〔意欲低下〕などが原因とされ、いずれも患者が〔服薬〕の意義や内容を理解しないままに治療を受けていることに起因している。 

 「患者中心の医療」においては、患者自身の治療への〔積極的な参加〕(執着心:adherence) が治療成功の鍵であるとの考えから、〔アドヒアランス〕という概念が広がった。アドヒアランスとは、患者が積極的に〔治療方針〕の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味する。

セカンド・オピニオン

 セカンド ・オピニオンとは、診断や治療方針について〔主治医〕以外の医師に意見を訊くことをいう。患者は〔インフォームド・コンセント〕によって病気を受け入れ、〔治療方針〕を選択するという重大な決断をしなければならないが、情報量や〔知識量〕において不足しているため、ほかの〔専門医〕の意見も参考にしたいと考える。

 セカンド ・オピニオンは、患者の〔理解・納得〕を高め、主体的に治療を受けるために与えられた選択肢である

チーム医療

 チーム医療とは、「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の〔高い専門性〕を前提に、目的と〔情報〕を共有し、業務を分担しつつも互いに〔連携〕・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」である。質が高く、安心・安全な医療を求める患者 ・家族の声が高まる一方で、医療の〔高度化〕・複雑化に伴う業務の増大により医療現場の〔疲弊〕が指摘されている。このような背景から、「〔チーム医療〕」は今後のわが国の医療のあり方として重要な考え方となっている。

 〔質の高い医療〕を実現するには、一人ひとりの医療スタッフの〔専門性〕を高め、その専門性に委ねつつも、〔チーム医療〕を通して再統合していく必要がある。チーム医療がもたらす具体的な効果を次に例示する。

 ①疾病の〔早期発見〕・回復促進・重症化予防など医療・生活の質が向上する。

 ②医療の効率性の向上により〔医療従事者〕の負担が軽減する。

 ③医療の〔標準化〕・組織化を通じて〔医療安全〕が向上する。

 なお、わが国の医療のあり方を変えていくには、医療現場における〔チーム医療〕の推進のほか、医療機関ごとの役割分担・〔連携〕の推進、必要な医療スタッフの確保と教育、総合診療医を含む〔専門医制度〕の確立、さらには医療と〔介護〕の連携といった方向での努力を重ねていくことが不可欠である。

 チーム医療を支える医療スタッフを表1-8に示す

地域における医療連携

 患者に最善の医療を提供するには、〔患者の意思〕を尊重した上で、〔かかりつけ医〕と他の医療機関が専門性や機能に応じて役割分担をし、患者をスムーズに紹介できる仕組みが必要である。これを〔地域医療連携〕という。チーム医療の概念を〔地域〕に拡大し、医療機関の垣根を超えて連携することである。

 なお、チーム医療や地域医療連携は複数の医療関係者がかかわるため、治療を〔標準化〕する必要性から〔クリニカルパス〕が作成され共有されている。クリニカルパスとは、〔良質な医療〕を効率的、かつ安全、適正に提供するための手段として開発された〔診療計画表〕であり、これにより診療の〔標準化〕、根拠に基づく医療 (EBM*13) の実施、〔インフォームド・コンセント〕の充実、業務の改善、チーム医療の向上などの効果が期待されている。

 地域医療支援病院などには「〔医療連携室〕」「地域医療連携室」などの名称で他の医療機関との連携の窓口を設置し、他の医療機関からの〔紹介患者〕の受け入れや、他の医療機関へ紹介する患者の〔情報提供〕など、医療機関の連携がスムーズに行えるよう体制を整えている。

地域医療連携推進法人制度

 地域医療連携推進法人制度は、各都道府県において策定されている〔地域医療構想〕の達成のための一つの選択肢として、地域の医療機関の機能の分担 ・連携を推進し、〔質の高い医療〕を効率的に提供するための制度として 2017(平成29)年4月に施行された。

 本制度は、医療機関の〔機能分担〕と業務の連携を推進するための方針を定め、当該方針に沿って、参加する法人の医療機関の機能分担と業務の連携を推進することを目的とする一般社団法人を、〔都道府県知事〕が地域医療連携推進法人として認定する仕組みである。地域医療連携推進法人には介設事業等を実施する〔非営利法人〕も参加でき、〔介護〕との連携を図りながら、地域医療構想の達成と〔地域包括ケアシステム〕の構築に資する役割を果たすものと期待されている。

地域包括ケアシステム

 わが国は諸外国に例をみないスピードで〔高齢化〕が進行している。団塊の世代が75歳以上となる〔2025年〕以降は、国民の医療や〔介護〕の需要がさらに増加することが見込まれている。

 このため、厚生労働省においては、2025年を目途に高齢者の尊厳の保持と〔自立生活〕の支援を目的とし、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、住まい・〔医療〕 ・介護 介護予防・〔生活支援〕が一体的に提供される〔地域包括ケアシステム〕の構築を推進している。

 人口が横ばいで75歳以上人口が急増する〔大都市部〕、75歳以上人口の増加は穏やかだが人口は減少する〔町村部〕など、高齢化の進展状況は〔地域差〕が大きい。地域包括ケアシステムは、〔保険者〕である市町村や都道府県が地域の〔自主性〕や主体性に基づき、地域の〔特性〕に応じて作り上げることが必要とされている。

 地域医療連携について先に述べたが、医療だけにとどまらず、〔介護〕や生活支援、介護予防など住民の生活に視点をおいた〔多職種連携〕が必要とされる時代を迎える。図1-12は地域包括ケアシステムの姿を描いたものである。

MRがチーム医療を支えるために持つべき自覚

 医療現場は病に苦しむ患者が治療を求めて来院する場所であり、医療関係者による献身的な〔医療行為〕が提供される場所である。MRは以下に示すように、〔チーム医療〕を支える医薬品情報の専門職としての自覚と、それにふさわしい態度・行動を示さなければならない。以下に具体例を示す。

①生涯学び続けることで専門性を向上させ、〔医薬品情報〕の専門家として活動する。

②患者の苦しみや病気と向き合う気持ちに思いを巡らせ、「患者の〔QOL〕を高める」、「患者を治す」というチームの目的に照準を合わせて活動する。

③チームのメンバーである医療関係者の仕事を理解し、薬物治療に関する適切な助言や提案を〔適切なタイミング〕で行う。

④担当する医療機関の〔基本理念〕を理解し、〔院内ルール〕を厳守することによって、医療機関内ではふさわしい行動をする。

⑤助言や提案をした結果、患者がどのような状態を迎えたのか〔フィードバック〕を受け、助言や提案が適切であったか検証する。

(近澤洋平)

医師が行う診療行為

地域医療における医師を考える

 MRは〔地域医療〕において、医師がどのように考え、どのように行動しているかを知らなければならない。最適な医療を選択するためには、その人にとって〔最適な治療法〕を検討する必要があり、薬剤の〔適正使用〕を視野に入れた〔医薬品情報〕は重要な因子となる。MRが医療関係者へ正しい情報を提供することはもちろん、医療現場でのさまざまな情報を〔収集・集積〕した上で医療関係者に伝達することも重要な責務である。〔副作用〕に関する情報は、医療を行うために重要な情報であることを認識しなければならない。

 医療現場においては、〔多疾患内在〕の患者ではそれほど単純ではなく、答えがないことのほうが圧倒的に多い。いってみれば「答えは常に一つ文化」から脱却しなければならない。〔経済的〕な問題でも、第二・第三の選択肢を選ばざるを得ないときがある。そのいく通りもの組み合わせの中で〔実地診療〕は進行する。〔エビデンス〕だけでは円滑な診療は困難となり、〔患者個人〕への十分な配慮が必要となる。〔多様性〕を認識し理解した上での患者個人に配慮した医療が重要である。

 次に、医療を受ける際の形態を大別する。能動-受動型として昏睡状態や〔救命〕などの場合、家族の了承の上ではあるが、医師が〔一方的〕に医療行為を行う。さらに〔指導-協力型〕として、心筋梗塞、狭心症、急性肺炎、尿管結石、疝痛発作などの場合は、医師は患者に説明し〔同意〕を得た上で〔医療行為〕を行うが、主導権はどちらかといえば〔医師側〕にある。そして、〔共同作業型〕として、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの〔生活習慣病〕に加え、呼吸器疾患、整形外科疾患、脳神経疾患認知症などは、医師と患者が互いの情報を共有した上で協議し、方針について〔合意〕した上で医療を行う必要がある。

地域医療におけるMRを考える

 MRが訪問する医療機関を考える上で重要なことは、MRが医療という言葉の定義をしっかり理解することから始まる。「〔医学〕」は科学的な根拠に基づいた体系的な学問であるが「〔医療〕」は病を治すためのあらゆる分野における知識や経験を集大成した叡智である。

 患者中心の医療は、〔地域包括ケアシステム〕の中で繰り広げられる。〔地域医療〕の観点から医療人に該当するのは、医師、薬剤師、看護師のほか、ケアマネジャーやヘルパーなどの〔介護職〕まで包括しており、これを念頭に入れ〔MR活動〕をする必要がある。 MRも医療人として、その活動の中に〔存在意義〕を求めていかなければならない。MRはさまざまな職種の〔架け橋〕となり、〔社会貢献〕を模索していくことが重要である。

 現代は高齢社会から〔超高齢社会〕となり、「〔少産多死〕」の時代である。さらに現時点の医療環境において〔地域包括ケアシステム〕を十分に理解しなければならない。これは〔高齢者〕の増加が見込まれる日本において、地域に生活する高齢者の住まい、医療、〔介護〕、介護予防、〔生活支援〕を一体的に提供するためのケアシステムである。厚生労働省は、団塊の世代が〔75〕歳以上となる2025年を目途に、〔地域包括ケアシステム〕の実現を目指している。〔重度の要介護状態〕となっても、住み慣れた地域で自分らしい生活を人生の最期まで継続できるように、各市町村の〔地方行政単位〕で地域別に異なる高齢者の〔ニーズ〕と医療・介護の実情を正確に把握し、豊かな老後生活に向けて、住民や医療・〔介護施設〕などと連携・協議し、地域の多様な主体性を活用して高齢者を支援することを目的に、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(〔医療介護総合確保推進法〕)」が定められた。

 患者が〔十分な情報〕を得て、最善と思われる〔治療方法〕や医療機関を選択し、主体的に医療にかかわれるよう、〔患者〕の視点に立って行う医療を組み立てていくことが肝要である。

医師の診療行為のフロー

 医師の任務は、次のように規定されている。

医師は、医療及び〔保健指導〕を掌ることによって〔公衆衛生〕の向上及び増進に寄与し、もって国民の〔健康な生活〕を確保するものとする。〈医師法第1条〉

POCAサイクルによる診療行為のフロー

 医師の診療行為は、患者の健康状態を把握して病気の種類や病状を判断する「〔診断〕」と、病気を治癒あるいは軽快させる「〔治療〕」から構成されている。医師の仕事は、患者の抱えている〔心身の問題〕を発見し、解決することである。〔問題解決型〕の仕事の特徴は、マネジメントサイクル〔P-D-C-A:plan(計画)、do(実行) 、〔check(確認)〕、action(処置)〕に類似している。なお、MRの仕事も担当地区の理想の状態と現状のギャップを問題としてとらえ、その解決を図る仕事であることから、〔マネジメントサイクル〕に従って仕事を進めることが重要である。

 実際に医療行為も、

① 問診:〔ヒアリング〕・情報収集・現状把握

② 診察:課題発見・〔仮説構築

③ 検査:掘り下げ・〔調査分析

④ 診断:順位付け・テーマ設定

⑤ 治療:〔戦略

などのように解決している側面もある。

SOAP形式

 現在の医療現場では基本的に POS*14という〔問題指向型システム〕の考えが用いられており、そのシステムに則ったカルテの書き方が〔SOAP形式〕である。〔POS〕とは患者が抱える問題を中心(患者中心の〔診療記録〕である)としてシステムを構築することであり、患者の抱える問題に目を向け、それを中心として医療を行う。これは、〔身体所見〕や血液検査、画像所見など膨大な〔患者情報〕からリストを作成して問題ごとにそれぞれ解決していこうという考え方である。

 SOAP形式では、 〔POS〕によって得られた情報を以下の4つの項目に分けてカルテに記載していく。

 S (subjective date:〔主観的所見〕)は、患者の〔主訴〕としての「頭が痛い」、「足がしびれる」などの主観的な情報を記入する。前医からの情報や〔家族〕の言葉もSに記入する。主語を患者として〔時系列〕に記載する。その他、以前の機能レベル、〔病歴〕、生活様式、家庭環境、感情や態度、患者が思う〔ゴール〕、愁訴、痛みが減ったなどの〔治療〕に対する反応も記載する。

 0 (objective date:〔客観的所見〕)は、全身状態や〔意識レベル〕のほか〔血圧〕、呼吸数、体温などのバイタルサイン、尿検査や〔血液検査〕の所見、超音波検査の所見やCT所見など客観的情報を記入する。また〔頭頚部〕、胸腹部を図式し、脳神経系、四肢など必要に応じて図の上に記入する。

 A (assessment:〔評価〕)は現時点で〔介入するべき問題〕を評価として重要度順に列挙する。〔問題点〕、長期ゴール、 〔短期ゴール〕、要約などを記入する項目である。患者の抱える問題は現時点で対応が必要なことのみを書き、診断されていても介入する必要のないものについては〔既往歴〕や依存症として記載する。

 P (plan:計画)は、〔具体的な計画〕として表現する。患者同意を得ての〔治療計画〕(根治療法、対症療法)は手術や〔薬物治療〕に加えてリハビリテーションや〔精神療法〕について記入する。診断や〔経過観察〕に関する計画としては、〔検査〕の予定などを具体的に書く。さらに今後何に注目していくかだけでなく〔メデイカルスタッフ〕が実施する事項も記載する。〔患者教育〕や家族説明に関する計画としては、病態や治療方針などの〔インフォームド・コンセント〕の内容を書く。

 医師による診療行為のフローを 図1-13に示す

 a)視診 (check)

 〔診察〕は、患者が診察室に入室したところから始まる。患者の〔歩行〕の状態から始まり、 全身の様子や〔顔色〕を観察することで、身体的・精神的状態の概略を把握する。

 b)問診 (check)

 患者と向き合って、主たる〔訴え〕を聞き、過去の〔病歴〕や現在の病状、経過などを質問することで現状を把握する。場合によっては〔予診票〕として、〔主訴〕、簡単な起始経過、病歴、妊娠の有無や〔アレルギー〕などをあらかじめ記入してもらう場合もある。そして、その過程で考えられる疾病を一つに限定することなく、さらなる可能性を考え、〔複数想定〕する。さらに、患者の受け答えの中から、認知症をはじめとする〔周辺疾患〕をも把握する。

 C) 検査 (check)

 触診、聴診など〔身体的所見〕を追加することで疾病を絞り込み、さらに〔尿検査〕、血液検査、超音波検査、〔X線撮影〕など、状況に応じたさまざまな検査によって所見を得る。収集した情報を統合して他疾患と見分ける〔鑑別診断〕を行い、確定診断へと導く。なお、〔確定診断〕のためにより高度な検査が必要な場合は、院内であれば他の〔専門医〕、地域であれば他の医療機関を紹介し、〔連携〕の中で検査を遂行する場合がある。

 d)処置 (action)

 強い痛みや〔発熱〕、悪心などがある場合は、〔対症療法〕として鎮痛薬や解熱薬、制吐薬などを投与する。これらの処置は、〔確定診断〕がつかなくとも、患者の苦痛や不快な症状を〔緩和する〕目的で行われる。さらに表面上の苦痛が除去されたことで、本来の〔病態〕が顕在化して、その後の診断に役立つことがある。

 e)治療計画 (plan)

 確定診断がつくと、自らの医療機関で治療するかほかの〔連携する専門医〕に紹介するか、入院か外来か、〔外科的治療〕か内科的治療かなど、患者の状態に適した〔治療計画〕を立案する。なお、科学的根拠に基づいた医療 (EBM)を実践するとともに〔インフォームド・コンセント〕を行う。

 f) 治療 (do)

 計画したとおり〔治療〕を行う。なお、医師が〔生活指導〕や医薬品の処方をしても、患者がそのとおり実践しなければ〔治療効果〕があがらないばかりか〔確定診断〕を見誤る可能性があるので、注意が必要である。

 g) 経過観察 (check)

 治療経過を観察し〔予後〕を確認する。経過が良好であれば治療を計画どおり継続するが、予後不良の場合は再度〔原因究明〕と基礎疾患の確認を行い、〔診断〕の見直し、投与量の変更、〔薬剤〕の変更など治療計画を再考する。ただし、ここにおいて重要なことは、残薬管理も含めた患者の確実な〔治療実行性〕の把握である。これを見誤ると薬の〔増量〕や行わなくてもよい検査を施行することにつながる。

日常診療における治療方針決定のプロセス

 医師は、食事や運動などの〔生活指導〕、薬物療法、〔手術療法〕、理学療法など、患者に最適な治療方法を選択し決定する。

 現在では多くの疾患において、〔エビデンス〕に基づいた治療ガイドラインがつくられ、治療の〔標準化〕が進んでいる 。医師は自身の経験のみではなく、医療の進歩とともに、数多くの信頼性のある〔臨床試験〕によって有用性が統計的に評価された新たな術式や医薬品の〔科学的根拠〕を駆使して医療を進める。

 MRは、医師が〔治療ガイドライン〕で推奨される医薬品を基本とし、有効性、〔安全性〕、経済性、信頼性などを考慮の上、患者個々の状態に配慮し、医師の〔経験〕を加味して医薬品を処方する姿を理解することが必要である。

 医師がMRと〔面談する〕メリットは、膨大な〔医薬品情報〕から効率よく自分の欲しい情報を入手できることや、信頼できるMRと対話をすることによって自ら抱えている〔問題〕に気づき、解決のための〔ヒント〕を得られることである。MRは〔多疾患〕を内在する現代の患者像に配慮し、目の前の医薬品のみでなく、患者の〔周辺事情〕をも考慮した勉強を行い、医療関係者と向きあわなければならない。

処方箋の発行

 医師が、患者に〔医薬品〕を処方する場合、薬剤師に指示する文書として〔処方箋〕を交付する。なお、医師が交付した処方箋の使用期間は、交付日を含めて〔4日〕以内となっている。

内服薬処方箋の記載について

 「処方」欄における〔記載方法〕が統一されていないことに起因した記載ミス、〔情報伝達エラー〕を防止する観点から、患者、医療従事者を含め、誰が見ても記載内容を理解できる処方箋の記載方法に〔標準化〕されることが望ましい 図1-14)。

 最も望ましいのは、処方箋に医薬品名、1回量、〔1日量〕、1日の服用回数、服用の〔タイミング〕および服用日数などの事項をすべて記載することであるが、現状では限られた時間ですべて記載することは困難であるとの指摘もある(図1-15)。

 このため、「内服薬処方せん記載の在るべき姿」として以下のように基準が示された。

①「薬名」については、〔薬価基準〕に記載されている製剤名を記載することを基本とする。

②「分量」については最小基本単位である〔1回量〕を記載することを基本とする。

③散剤および液剤の「〔分量〕」については、製剤量(原薬量ではなく、〔製剤〕としての重量)を記載することを基本とする。

④ 「用法・用量」における〔服用回数〕・服用のタイミングについては、〔標準化〕を行い、情報伝達工ラーを引き起こす可能性のある表現方法を排除し、〔日本語〕で明確に記載することを基本とする。

⑤「用法 ・用量」における服用日数については、実際の〔投与日数〕を記載することを基本とする。

(宮川政昭)

薬剤師が行う業務

 薬剤師の任務は、次のように規定されている。

薬剤師は、〔調剤〕、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、〔公衆衛生〕の向上及び増進に寄与し、もって国民の〔健康な生活〕を確保するものとする。〈薬剤師法第 1条〉

 また、「薬剤師でない者は、販売又は〔授与〕の目的で調剤してはならない(薬剤師法第 19条抜粋)」と規定されている。このように調剤は、薬剤師の行う業務の中で中心的な〔専権的業務〕である。

 薬物治療において薬剤師が行う業務は、医薬品の〔適正使用〕を目的としている。医薬品の適正使用を推進するには、最新の正確な〔医薬品情報〕が不可欠である。MRは、医師、薬剤師、医療関係者への〔情報提供〕を正確かつ〔迅速〕に行わなければならない。

薬剤師の業務全般

 薬剤師の主な業務には〔調剤〕、医薬品の供給管理、〔医薬品情報管理 (DI*15)〕、薬剤管理指導、院内または薬局製剤の調製などがある。今日では、〔チーム医療〕の一員として医療スタッフと協働・連携して行う入院患者や在宅患者への〔薬学管理指導〕が重要な業務となっている(表1-9)。病院薬剤師は〔病棟業務〕が中心となり、薬局薬剤師ではかかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師として〔保険調剤業務〕、〔在宅医療〕の支援などが中心となる。

 かかりつけ薬剤師とは、「患者が使用する医薬品について、一元的かつ継続的な〔薬学管理指導〕を担い、医薬品、〔薬物治療〕、健康等に関する多様な〔相談〕に対応できる資質を有するとともに、〔地域〕に密着し、地域の住民から信頼される薬剤師を指す。(日薬業発第194号)」。またかかりつけ薬局とは、「地域に必要な医薬品等の〔供給体制〕を確保し、その施設に従事する「〔かかりつけ薬剤師〕」が患者の使用する医薬品の一元的かつ継続的な〔薬学管理指導〕を行っている薬局を指す。(日薬業発第194号)」

調剤業務の流れ

 薬局での〔処方箋〕に基づく調剤業務の基本的な流れを図1-16に示す。病院や診療所内の薬局(調剤所)においても、基本的に同様な流れで調剤が行われる。

処方箋応需

 初回来局時には〔問診票〕などを用いて、調剤に必要な〔患者の情報〕を収集する。

調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあった場合には、〔正当な理由〕がなければ、これを拒んではならない。〈薬剤師法第21条〉

処方鑑査・薬歴確認

 処方箋の〔記載事項〕に不備がないか確認する。医薬品名(剤形、規格、含量)、〔用法・用量〕、投薬期間、重複投与、投与禁忌、相互作用、〔副作用〕などについて患者の〔年齢〕、性別、体重、〔薬剤服用歴(薬歴)〕(患者のアレルギーや副作用歴を含む)などから処方内容を検討し、疑義がある場合には処方医に〔疑義照会〕する。

薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その〔処方せん〕を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって〔調剤〕してはならない。〈薬剤師法第24条〉

薬剤調製(調剤)

 処方箋の記載事項に従い、錠剤、散剤、外用剤、水剤などを調製する。患者の状態を考慮して処方医の了解のもと、医薬品の混合、〔粉砕〕、一包化 (1回量包装)などを行う場合もある。その際は、〔配合変化〕や薬剤の安定性などを確認して行う。また、〔長期投与〕により、一度に調剤すると〔変質〕のおそれがある場合などは、分割して調剤することができる。

薬剤鑑査

 処方箋の記載と調製した薬剤を〔照合〕し、正確であることを確認する。鑑査を担当する薬剤師は、原則として〔調製者〕以外の薬剤師が担当する。

薬剤交付、服薬指導

 調剤した薬剤と〔情報提供文書〕を患者に示し、薬効および〔副作用〕、相互作用、〔服用上の注意〕、患者の状況に応じた必要な情報について説明する。提供文書には医薬品名、〔薬効〕、用法 ・用量およびその他、服用にあたっての留意点(注意すべきほかの医薬品や〔食物〕との相互作用、〔保管方法〕など)を明記する。また、飲み忘れた場合の対処方法、処方の〔変更点〕、副作用発現時の〔対処法〕、生活上の注意などについても指導する。医療機器、医療材料等の使用方法などについては必要に応じて〔パンフレット〕や使用説明書などを活用する。

薬剤師は、調剤した薬剤の〔適正な使用〕のため、〔販売〕又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な〔薬学的知見〕に基づく指導を行わなければならない。〈薬剤師法第25条の2〉

薬歴作成

 薬歴には、患者の〔病状〕や、薬の飲み方などを説明した内容を記録する。

 「〔お薬手帳〕」には、調剤日、投薬にかかる薬剤の名称、〔用法 ・用量〕、その他服用に際して注意すべき事項を記載する、

薬剤師の病棟業務

 薬剤師の病棟業務は、表1-10に示すアウトカムを得ることを目的とする。

 〔チーム医療〕を推進するためには、薬剤師を病棟に〔専任配置〕することが重要であることから、2012(平成24) 年度診療報酬改定において「〔病棟薬剤業務実施加算〕」が新設された。この算定要件は原則として、全病棟において、従来の「薬剤管理指導業務」以外に各病棟で1週間に20時間相当以上の〔病棟薬剤業務〕を行う必要がある。つまり、病棟専任薬剤師が、病棟における〔薬物療法全般〕に責任をもつことになった。

医薬分業と薬局業務

 医薬分業は医師が患者に〔処方箋〕を交付し、薬局薬剤師がその処方箋に基づき〔調剤〕を行い、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し、国民医療の〔質的向上〕を図ることを目的としている。医薬分業の利点については表1-11のとおりである。また、かかりつけ薬局による〔薬学的管理〕の内容については表1-12に示す。

 近年、〔医薬分業〕の進展などにより、薬剤師および薬局を取り巻く環境は大きく変化している。このような中、厚生労働省から現在の薬局を〔患者本位〕のかかりつけ薬局に再編するため、「患者のための〔薬局ビジョン〕」が示されたこのビジョンでは、患者本位の医薬分業の実現に向けて、〔服薬情報〕の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学管理指導、〔24時間〕対応・在宅対応、医療機関などとの連携など、〔かかりつけ薬剤師〕・薬局の今後の姿を明らかにしている(図1-17)。

かかりつけ薬剤師・薬局

 医薬分業の本旨を踏まえると、かかりつけ薬剤師・薬局は、地域における必要な医薬品(要指導医薬品等を含む)の〔供給拠点〕であると同時に、医薬品、薬物治療などに関して、安心して相談できる〔身近な存在〕であることが求められる。また、患者からの選択に応えられるよう、〔かかりつけ医〕との連携の上で、〔在宅医療〕も含め、患者に安全で安心な〔薬物療法〕を提供する必要がある。さらに、地域における総合的な医療 ・介護サービス (〔地域包括ケア〕)を提供する 一員として、患者ごとに最適な〔薬学的管理〕 ・指導を行わなければならない。

 薬剤師が、「〔かかりつけ〕」としての役割・機能を発揮するためには、在宅医療や〔アウトリーチ型健康サポート〕など薬局以外の場所での業務を行う必要がある。こうした業務を成功させる基盤として、かかりつけ医を始めとした〔多職種〕・他機関と連携することはもとより、積極的に〔地域活動〕に関わり、地域に溶け込み、信頼を得る責務がある。

 なお、アウトリーチ型健康サポート推進事業は、薬剤師が薬局以外のさまざまな場で〔医薬品・健康関連の相談〕などを実施する内容を想定している。薬局の中で患者を待つのではなく、積極的に地域に出て行くことで、薬剤師・薬局の〔機能強化〕を図ることが目的である。

(畝崎 榮)