医薬品情報概論

医薬品とは

 医薬品はさまざまな疾病の〔治療〕だけでなく、ワクチンのように感染症の〔予防〕、造影剤や放射性医薬品のように〔診断〕のためにも使用される物質であり、医療において重要な位置付けにある。

医薬品の定義、特性、分類

医薬品の定義

 医薬品は、「医薬品、医療機器等の〔品質〕、有効性及び〔安全性〕の確保等に関する法律」(以下、医薬品医療機器法)第2条第1項で定義されている(表1-1)。すなわち、「〔日本薬局方〕に収められている物」、「人又は動物の疾病の〔診断〕、治療又は〔予防〕に使用されることが目的とされている物」や「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」であり「〔機械器具〕等でないもの」とされている。なお、日本薬局方(以下、局方)とは、「医薬品の性状及び品質の適正を図るため、〔厚生労働大臣〕が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の〔規格基準書〕」である。現在は、2016(平成28)年3月に告示された第十七改正日本薬局方および2017(平成29)年12月に告示された第十七改正日本薬局方第一追補、2019(令和元)年6月に告示された第十七改正日本薬局方第二追補が用いられている。

 

 医薬品は「もの」、すなわち物質として、有効成分の〔一般名〕や構造式、分子量などの情報、製剤の組成や〔剤形〕などの情報、物理化学的性質に関する情報をもっている。しかし、これらの情報だけでは、「疾病の診断、治療又は予防に使用される」といった〔医薬品〕の目的は達成できない。医薬品がその役割を果たすためには、どのように使うのか(〔用法・用量〕)、何に効くのか(〔効能・効果〕)、どのような患者が使用すると危険なのか(〔禁忌〕、慎重投与)、どのような〔副作用〕、相互作用が起こり得るのかなど多くの情報が必要になる。これらの情報は〔創薬〕の各段階で生み出され、医薬品として〔製造販売〕されてからも追加されていく。医薬品はその時点までに蓄積された〔医薬品情報〕を活かして使用されてこそ、その〔機能〕が発揮され、〔医療〕に貢献することができると考えられる。

医薬品の特性

 医薬品は幅広い〔科学技術〕を基盤として創出される工業製品である。ほかの製品分野と比較した特性について以下に示す。

 ①生命関運性 医薬品は疾病の診断、〔治療〕または予防に使用されるものであり、人の生命や〔健康〕に密接に関連する。

 ②リスクを伴うものである 医薬品は生体にとっては異物であるため、〔有効性〕のみならず、〔副作用〕などのリスクを生じる場合がある。

 ③発売時点での情報が十分でない 製造販売前の〔臨床試験(治験)〕は限定された条件下で実施されており、〔製造販売後〕に多くの患者に使用されて〔新しい情報〕が見いだされる。

 これらの〔特性〕を踏まえて、医薬品には以下のことが求められる。

高い品質、安定的な供給体制

 医薬品は人の〔生命〕や健康に密接に関連するものであるため、高い〔水準〕で均ーな〔品質〕が保証されていなければならない。そのため、医薬品の承認時には〔品質規格〕が審査され、また、製造時には「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(〔GMP〕*1)」に基づく〔品質確保〕が求められている。安定的な〔供給体制〕の整備も重要である。

公共性

 医薬品は医療に〔不可欠〕なものであり、〔公共性〕が求められる。わが国では〔国民皆保険制度〕のもと、原則として承認された医薬品は〔保険診療〕で使用することができ、アクセスのよさと〔公平性〕が確保されている。

リスクとベネフィットのバランス

 医薬品の承認に当たっては、〔有効性〕が担保されていることに加えて、ベネフィットと比較して許容できない〔リスク〕が認められていないことが審査される。さらに、医薬品を使用する際には、目の前の患者に対するリスクとベネフィットの〔バランス〕を考慮し、リスクは〔最小〕、ベネフィットは〔最大〕に得られるよう注意して使用することになる。

医師、薬剤師などを通した供給と情報提供

 医薬品が〔適正〕に使用されるためには、最終的に医薬品を使用する〔患者〕または消費者に〔情報〕が提供されることが必須となる。〔医薬品〕は医師や薬剤師といった専門家を通して、〔情報〕とともに患者などに提供される。医療用医薬品の場合は、医師によって〔処方〕または施用され、医師が〔処方箋〕を交付した場合はこれに基づいて薬剤師が〔調剤〕を行う。〔一般用医薬品〕の場合は、薬局などにおいて薬剤師または〔登録販売者〕が対応して販売される。

製造販売後の情報収集、評価

 医薬品は、研究開発段階で得られた非臨床試験、〔臨床試験(治験)〕のデータに基づき、品質、〔有効性〕および安全性に関して厳格な審査を受けて承認され〔製造販売〕される。しかし、治験のみでは、〔製造販売後〕の副作用を完全に〔予見〕することはできない。また、治験は〔限定された条件下〕で実施されているため、製造販売後の〔使用実態下〕における情報を収集、〔評価〕し、有効性および〔安全性〕に関する情報の充実を図る必要がある。

医薬品の分類

医薬品の有効成分、製剤の特徴に基づく分類

 医薬品の有効成分、製剤の特徴に基づく主な分類を表1-2に示す。医薬品の〔薬効分類法〕はさまざまなものが考案されており、表1-2に示す薬効分類は〔日本標準商品分類番号〕において利用されている(p.175参照)。

 

医薬品の法令などに基づく分類

 a)医薬品の供給方法による分類

 医薬品の法令などに基づく分類を表1-3に示す。医薬品の人体に対する作用の〔強さ〕やリスク、医薬品の〔供給方法〕(医師や薬剤師といった専門家のかかわり方)などに基づき区分されている。

 

 ①薬局医薬品

薬局医薬品は、医薬品医療機器法第4条第5項第2号において、「〔要指導医薬品〕及び一般用医薬品以外の医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)」と定義されており、医療用医薬品と〔薬局製造販売医薬品〕とに分けられる。

 (1)医療用医薬品:「医薬品の承認申請について」〔薬食発1121第2号、2014(平成26)年11月21日〕において、「〔医療用医薬品〕とは、医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の〔処方せん〕若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品」と定義されている。

 医療用医薬品には、〔処方箋医薬品〕とそれ以外の医薬品がある。処方箋医薬品は、医師などから〔処方箋〕の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、〔販売〕または授与してはならない医薬品である(医薬品医療機器法第49条)。

 (2)薬局製造販売医薬品:薬局製造販売医薬品は、医薬品医療機器法施行令第3条において、「〔薬局開設者〕が当該薬局における設備及び器具をもって製造し、当該薬局において直接消費者に販売し、又は授与する医薬品(〔体外診断用医薬品〕を除く)であって、〔厚生労働大臣〕の指定する有効成分以外の有効成分を含有しないもの」とされている。一般には、〔薬局製剤〕といわれる。

 ②要指導医薬品

要指導医薬品とは、a 再審査を終えていない〔ダイレクトOTC〕*2(医療用医薬品としての〔使用経験〕がない医薬品)、b 〔スイッチ直後品目〕(医療用医薬品から〔一般用医薬品〕に移行して間もなく、一般用医薬品としての〔リスク〕が確定していない医薬品)、c 〔毒薬〕(医療用医薬品以外)、d 〔劇薬〕(医療用医薬品以外)に掲げる医薬品のうち、その効能・効果において〔人体〕に対する作用が著しくないものであって、〔薬剤師〕、その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の〔選択〕により使用されることが目的とされているものであり、かつ、その〔適切な使用〕のために薬剤師の〔対面〕による情報の提供および〔薬学的知見〕に基づく指導が行われることが必要なものをいう(医薬品医療機器法第4条第5項第3号)。スイッチ直後品目は原則〔3年〕後に一般用医薬品へ移行される。2014年6月12日施行の医薬品医療機器法改正により〔新設〕された。

 ③一般用医薬品

医薬品医療機器法第4条第5項第4号において、一般用医薬品とは、「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が〔著しくないもの〕であって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の〔選択〕により使用されることが目的とされているもの(〔要指導医薬品〕を除く。)をいう。」と定義されている。

 一般用医薬品は医師の〔処方〕がなくても購入できるため、有効性とともに〔安全性〕を重視して成分や分量が決められている。そのリスクの程度に応じて、〔第ー類医薬品〕、第二類医薬品、第三類医薬品に区分され、第二類医薬品のうち、〔特別の注意〕を要するものとして厚生労働大臣が指定するものを〔指定第二類医薬品〕という(「MR総論」p.74参照)。2014年6月12日施行の〔薬事法改正〕により、一般用医薬品は適切なルールのもと、すべて〔インターネット販売〕が可能となった(「MR総論」p.75参照)。

 b)安全性面などからの取り扱い規制による分類

 医薬品の中には〔毒性〕や劇性の強いもの、習慣性や〔依存性〕を生じやすいものなどがあり、〔法令〕などで規制されている(表1-4)。

 

 c)医薬品の承認審査での取り扱いによる分類

 ①新医薬品

 新医薬品とは、医薬品医療機器法第14条の4第1項において、「承認を与えられている医薬品と〔有効成分〕、分量、用法、用量、効能、効果等が明らかに異なる医薬品として〔厚生労働大臣〕がその承認の際指示したもの」と定義されている。後述する後発医薬品との比較で〔先発医薬品〕とも呼ばれる。新医薬品はさらに、〔新有効成分含有医薬品〕、新投与経路医薬品、〔新効能医薬品〕、新用量医薬品、新剤形医薬品、新医療用配合剤に分類される。

 ②後発医薬品

後発医薬品とは既承認医薬品と同一の〔有効成分〕であり、〔治療学的〕に同等な医薬品を指す(p.148参照)。

 

③希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)

オーファンドラッグは、わが国における対象患者数が〔5万〕人未満(ただし、〔指定難病〕に使用する場合は人口のおおむね1/1,000程度)の疾患に用いる医薬品を指す。医療上、特に優れた〔使用価値〕を有することになるもので、その開発が必要であるとして、〔薬事・食品衛生審議会〕の意見を聴いて、〔厚生労働大臣〕が指定するものである(医薬品医療機器法第2条第16項、同第77条の2)。開発に必要な資金の助成、優先資産の実施、〔薬価上〕の優遇、〔再審査期間〕の延長、税制上の優遇措置により、開発の促進が図られている。

(堀里子)

医薬品の適正使用と医薬品情報

 医薬品は〔適正〕に使用されて初めてその〔機能〕が発揮され、国民の〔医療〕に貢献することができる。医薬品の適正使用が確保されるためには、〔医薬品に関する情報〕が医療関係者や患者に適切に提供され、〔十分理解される〕ことが不可欠である。ここでは、医薬品の適正使用に必要な情報の種類や、それらの情報がどのような媒体を通じて医療関係者や患者に提供されているのかについて解説する。

医薬品の適正使用

医薬品の適正使用の重要性

 医薬品は医療に〔不可欠〕であるが、適正に使用されて初めてその機能が発揮され、国民の医療に貢献することができる。医薬品の取り扱いは〔患者の生命〕に直結する。医薬品によって疾患が治癒・改善したり、〔クオリティ・オブ・ライフ(QOL*3:生活の質)〕が向上したりするケースもあれば、医薬品によって疾患が〔悪化〕したり、命を落としたりするケースもある。

 医薬品による重大な〔健康被害〕が社会問題になるほど拡大する現象を〔薬害〕という。わが国ではこれまでにサリドマイドによる〔催奇形性〕、キノホルムによる〔SMON〕*4、ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん薬との併用による〔血液障害〕、製品のウイルス汚染による〔後天性免疫不全症候群(AIDS*5)〕や肝炎、製品のプリオン汚染による〔クロイッフェルト・ヤコブ病(CJD*6)〕など多くの悲惨な薬害が繰り返されてきた。

 〔ソリプジン〕とフルオロウラシル系抗がん薬との併用による血液障害では、〔帯状疱疹〕を効能とした新薬であるソリブジンとフルオロウラシル系抗がん薬との〔相互作用〕による死亡例が、ソリブジンの発売後間もなく多発した。この経過を追うと、製薬企業、医療従事者、行政それぞれの〔重大な責任〕がみえてくる。ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん薬との併用による副作用の情報は〔創薬段階〕で予見されていたにもかかわらず、適切な〔安全対策〕がとられていなかった。さらに、〔死亡例〕が報告された後の〔情報伝達〕も遅滞し、その間に被害が拡大した。われわれは不適正な医薬品の使用により多くの患者が命を落としたことを深く心に刻み、〔再発防止〕に徹する必要がある。同時に、多額の〔研究開発費〕と膨大な基礎研究や非臨床試験、〔臨床試験〕を経て承認された有望な〔新薬〕が治療に役立てられることなく〔市場〕から撤退してしまったことを重く受け止めなければならない。

 承認前の臨床試験は〔限られた被験者〕を対象としているにすぎず、製造販売後に多くの患者に使用される中で医薬品の〔適正使用〕についての情報を継続して収集し、〔安全対策〕を講じることが重要である。製造販売後の安全対策を適切に立案し、実行するための指針として、2012年に「〔医薬品リスク管理計画指針〕」が発出されている。これは2005年に出された「〔医薬品安全性監視計画〕」と医薬品のリスク低減のための「〔リスク最小化計画〕」を合わせた指針である(「MR総論」p.153参照)。医薬品安全性監視は〔ファーマコビジランス〕とも呼ばれ、ファーマコビジランスは世界保健機関(WH0*7)によって「医薬品の〔有害〕な作用または医薬品に関連するその他の問題の〔検出〕・評価・理解・〔予防〕に関する科学と活動」と定義されている。

医薬品の適正使用のサイクル

 旧厚生省薬務局長の私的懇談会の「21世紀の〔医薬品〕のあり方に関する懇談会」の最終報告(1993年5月)では、「医薬品の適正使用とは、まず、〔的確な診断〕に基づき患者の状態にかなった最適の薬剤、〔剤形〕と適切な〔用法・用量〕が決定され、これに基づき〔調剤〕されること、ついで、患者に薬剤についての説明が十分理解され、正確に使用された後、その効果や副作用が〔評価〕され、処方に〔フィードバック〕されるという一連のサイクル」と定義された。これにより、医薬品の適正使用とは個々の患者にとっての〔リスク〕を最小にして、〔ベネフィット〕を最大にするような医薬品の使用法をいうことが明確にされている(「MR総論」p.3参照)。医薬品の適正使用のサイクルを図1-1に示す。

 

医薬品情報の重要性

 「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」の最終報告では、医薬品と情報との関係について「〔適正使用〕が確保されるためには、医薬品に関する情報が医療関係者や患者に適切に〔提供〕され、〔十分理解〕されることが必須の条件である。医薬品は〔情報〕と一体となってはじめてその目的が達成できるからである」と述べられており、医薬品の適正使用推進のための前提として、〔医薬品情報〕の重要性が指摘されている。図1-1からも〔適正使用〕の各段階において医薬品情報が密接にかかわっていることがわかる。

医薬品情報の主な種類

 医薬品情報は、医薬品の開発段階から〔製造販売後〕のあらゆる過程で生み出される。医薬品は以下のような情報をもつ。

品質に関する情報

 品質を担保する情報としては〔規格試験〕のデータがある。また、品質を保証する情報としては製剤の〔安定性試験〕のデータがあり、安定性試験には〔長期保存試験〕、加速試験、〔苛酷試験〕の3種類がある(p.145参照)。これらのデータに基づいて〔貯法〕や保存条件などが設定される。

安全性に関する情報

 安全性に関する情報は、動物を用いた各種の毒性試験や〔安全性薬理試験〕、臨床試験の試験成績などを通して得られる。これらの試験結果に基づいて、〔禁忌〕の疾患や症状、相互作用、〔副作用〕といった安全性に関する情報が創出される。

 安全性に関する情報は〔創薬段階〕では十分でなく、製造販売後に実施される調査などを通じて増加する〔高齢者〕、妊婦・産婦・授乳婦、〔小児〕など特定の集団に対する〔安全性〕に関する情報も承認時には不足していることが多い。

有効性に関する情報

 有効性に関する情報は、薬効薬理試験などの〔非臨床試験〕や臨床試験の試験成績などを通して得られる。これらの試験結果に基づいて、〔薬効薬理〕や効能・効果といった〔有効性〕に関する情報が創出される。

使用方法に関する情報

 使用方法に関する情報は、〔薬物動態試験〕や臨床試験の試験成績などを通して得られる。臨床試験において用法・用量と〔有効性〕、安全性との関係や薬物動態が検討されて〔使用方法〕に関する情報が創出される。

物質に関する情報

 〔構造式〕や分子式および分子量などは物質の〔名称〕に関する情報である。その他、物質に関する情報は〔有効成分〕に関する情報として色、味、におい、〔溶解性〕、pHなどの物理化学的性質や有効成分の〔安定性〕などの情報、製剤に関する情報として〔剤形〕や製剤の組成、製剤の安定性、他剤との〔配合変化〕、溶出性に関する情報などがある。

 医薬品によっては、製剤を用いた〔錠剤粉砕時〕の安定性試験や簡易懸濁時の安定性試験、〔通過性試験〕の結果が得られており、〔粉砕可否〕や簡易懸濁法の可否の情報をもつ。

 

その他の情報

 名称に関する情報としては〔一般名〕と販売名がある。一般名は〔成分〕の名称であり国内では〔医薬品一般的名称(JAN*8)〕として定められている。先発医薬品は商標に剤形や〔規格〕の情報を組み合わせた〔販売名〕を使用することを原則とする。後発医薬品の販売名については、名称類似による〔取り違え〕を回避するため、一般名に剤形、含量、〔会社名〕を組み合わせた名称を使用するよう〔厚生労働省〕から通知が出されている(p.176参照)。その他、医薬品の〔包装〕に関する情報、規制区分、〔薬価〕などの情報がある。

主な医薬品情報媒体

 医薬品医療機器法第68条の2,3では、医薬品の安全対策として、製薬企業は医薬品の〔適正な使用〕に必要な情報を提供するよう努めること、行政は関係機関および関係団体の協力のもとに、医薬品の適切な使用に関する〔啓発〕および知識の〔普及〕に努めるものとされている。一方、医療関係者は製薬企業などが行う医薬品の適正な使用のための〔情報収集活動〕に協力するよう努めなければならない。

 以下に製薬企業および行政や団体が提供する主な医薬品情報媒体を示す(表1-5)。

 

製薬企業が提供する医薬品情報媒体

医療用医薬品添付文書

 医療用医薬品添付文書(以下、添付文書)は、医薬品の適正使用に必要な〔品質〕、有効性、〔安全性〕に関する基本情報が集約されている、〔医療関係者〕向けの文書である。添付文書の記載事項は〔医薬品医療機器法第52条〕で規定されており、〔最新の論文〕、その他により得られた知見に基づいて記載される。〔製薬企業〕が作成し、医薬品の〔包装〕ごとに添付される。

 添付文書は製造販売後も必要に応じて〔改訂〕される。そのため、〔最新の添付文書〕を確認することが重要である。添付文書は情報の量に〔限度〕があることから、これを〔補完〕するため、さらに詳細な情報を提供するための各種の情報媒体が作成されている。

医療用医薬品製品情報概要

 医療用医薬品製品情報概要(以下、製品情報概要)は、医薬品に関する正確かつ〔総合的な情報〕を医療関係者に伝達し、医薬品の〔適正使用〕を図ることを目的として作成される。製品情報概要には、記載項目を網羅した製品の〔全体像〕を示した〔総合製品情報概要〕と、臨床試験や薬効薬理などの特定の項目について記載した〔特定項目製品情報概要〕がある。その内容は添付文書との〔整合性〕を図り、かつ〔医療用医薬品プロモーションコード〕を逸脱しないものとされている。日本製薬工業協会(以下、製薬協)が〔作成要領〕を策定しており、製薬協では各社の作成した製品情報概要が〔医薬品医療機器法〕や作成要領に逸脱していないかを確認する〔製品情報概要審査会〕を設けている。

新医薬品の使用上の注意の解説

 新医薬品の使用上の注意の解説は、新医薬品の〔安全確保〕に万全を期すことを目的として発売時に作成される〔医療関係者〕向けの解説書である。「〔使用上の注意〕」の設定理由や副作用の経過・〔措置〕などがわかりやすく解説されている。

医薬品インタビューフォーム

 医薬品インタビューフォームは、添付文書の情報を〔補完〕する総合的な文書である。〔日本病院薬剤師会〕が策定した記載要領に準じて〔製薬企業〕によって作成される。〔有効成分〕や製剤に関する情報、〔臨床試験〕や非臨床試験の情報、薬効薬理・〔薬物動態〕に関する情報、使用上の注意など〔安全性〕に関する情報といった薬剤師などの医療関係者にとって必要な情報が集約されている。〔開発〕の経緯や製品の治療学的・〔製剤学的特性〕、海外における〔臨床支援情報〕も収載されている。

医薬品リスク管理計画(RMP*9)

 医薬品の〔開発段階〕から製造販売後まで一貰した〔リスク管理〕を目指して、2013年4月より、医薬品のリスク管理のための計画を〔医薬品〕ごとに1つの文書にわかりやすくまとめた〔RMP〕の作成が開始された。RMPでは個々の医薬品における懸念されるリスクとして「〔安全性検討事項〕」を特定し、それぞれのリスクに対して、「〔医薬品安全性監視計画〕」と「リスク最小化計画」が策定される。RMPに目を通すことでその時点で重要な特定されたリスクのみならず、添付文書や〔医薬品インタビューフォーム〕などから読み取ることが難しかった〔潜在的なリスク〕や不足情報についても把握できる。

 RMPは一度作成された後も、〔製造販売後〕に得られた新たな有効性、安全性の情報に基づき常に〔見直し〕が行われる。医薬品の安全対策に対する基本的な考え方はこれまでと同様であるが、RMPの登場によりこれまでより明確な見通しをもった〔安全対策〕が実施可能となった(「MR総論」p.153参照)。

緊急安全性情報

 緊急安全性情報は〔医療関係者〕に対して緊急かつ重大な〔注意喚起〕や使用制限といった対策を講じる必要があると判断された場合、〔厚生労働省〕からの命令または指示、製薬企業の〔自主的な決定〕などにより〔製薬企業〕が作成する。〔一般国民(患者)〕向けの文書も併せて作成されている。緊急安全性情報は〔イエローレター〕とも呼ばれ、〔赤枠〕を付した黄色用紙に記された文書として作成される。

 緊急安全性情報は原則として製薬企業の〔MR〕が医療関係者に〔直接配布〕するが、〔迅速性〕および網羅性を考慮して、直接配布、ダイレクトメール、ファックス、〔電子メール〕などを活用して、効果的に組み合わせて伝達される。医療機関への配布は通知日から〔1か月〕以内に完了させる。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA*10)からは、〔医薬品医療機器情報配信サービス(PMDAメデイナビ)〕にて電子メールアドレスを登録した医療関係者にも配信される(「MR総論」p.175参照)。

安全性速報

 安全性速報は保健衛生上の〔危害発生〕・拡大の防止のため、一般的な使用上の注意の改訂情報よりも〔迅速な注意喚起〕や適正使用のための対応が必要な際の注意喚起として、緊急安全性情報と同様の対策を講じる場合、〔緊急安全性情報〕と同様の手順で作成し、伝達される。安全性速報は〔ブルーレター〕とも呼ばれ、〔青色用紙〕に記された文書として作成される(「MR総論」p.176参照)。

各種のお知らせ

 「使用上の注意の改訂」のお知らせは、〔厚生労働省〕からの「使用上の注意」など改訂の指示または〔指導〕があった場合、製薬企業が〔自主的〕に改訂する場合に作成される。厚生労働省から改訂の指示または指導があった場合は、製薬企業の〔MR〕が医療関係者に速やかに〔情報伝達〕する。製薬企業が〔自主的〕に改訂する場合も、必要に応じて厚生労働省から改訂の指示または指導があった場合に〔準じた対応〕がとられる。その他、医薬品の包装変更や〔不良品回収〕などの各種のお知らせ情報が〔文書〕として医療機関に提供されている。これらのお知らせは製薬企業の〔ホームページ〕で提供されている場合も多い。

 製薬企業のホームページには一般向け情報と医療関係者向け情報が掲載されており、利用者は多い。MRは自社のホームページにどのような情報が掲載されているか把握しておく必要がある。

 製薬企業が作成する患者向けの医薬品情報媒体としては、「〔患者向医薬品ガイド〕」や「くすりのしおり」がある。「患者向医薬品ガイド」は、〔重篤な副作用〕の早期発見などを促すため、特に患者へ注意喚起すべき〔適正使用情報〕をもつ医療用医薬品について作成されている。「くすりのしおり」は患者への〔服薬説明指導書〕であり、一般社団法人〔くすりの適正使用協議会〕が定めた基本フォーマットに従って〔製薬企業〕が作成する。

行政や団体が提供する医薬品情報媒体

医薬品安全対策情報(DSU*11)

 DSUは添付文書の「〔使用上の注意〕」の改訂についての情報を網羅して、〔日本製薬団体連合会〕が厚生労働省の監修のもと、通常、年間〔10〕回発行している文書である。「使用上の注意」の改訂内容とその理由が〔成分〕ごとにまとめられており、情報の〔重要度別〕に掲載されている。ほぼ全国すべての医療施設に送付されるほか、〔PMDA〕のホームページでも入手できる(「MR総論」p.177参照)。

医薬品・医療機器等安全性情報

 医薬品・医療機器等安全性情報は、厚生労働省において収集された製薬企業からの〔副作用症例報告〕および研究報告、医療関係者により収集・提出された〔副作用報告〕など副作用情報のうち、注目すべき副作用について、その〔解説〕および対策がまとめられた情報冊子である。医療関係者に対して〔厚生労働省〕からほぼ毎月(近年は年〔10〕回)発行されている。〔PMDA〕のホームページでの掲載のほか、マスコミなどへの公表、医学・薬学専門雑誌への掲載を通じて多くの〔医療関係者〕への周知が図られている。また、〔WHO〕など海外へも〔英文〕にて提供されている(「MR総論」p.178参照)。

医薬品情報媒体の提供

PMDAのホームページ

 PMDAのホームページでは医薬品などの〔品質〕、有効性、〔安全性〕などに関する幅広い情報が提供されている(図1-2,図1-3)。〔医療用医薬品情報検索〕のページから、製品ごとに添付文書や〔インタビューフォーム〕、RMPをはじめとする関連文書が入手できる。製薬企業または医療関係者から報告された〔すべての副作用報告〕(副作用が疑われる症例報告に関する情報)についても順次公開されており、〔データベース化〕されている。医薬品名や〔副作用名〕で症例を検索可能である。副作用関連の〔情報媒体〕として、副作用の初期症状、〔治療法〕、判別法などが包括的にまとめられた〔重篤副作用疾患別対応マニュアル〕(医療関係者向け、一般向け)も〔PMDA〕のホームページから入手できる。

 

 

 PMDAのホームページでは〔一般向け〕の医薬品情報も提供されている。一般用医薬品・要指導医薬品添付文書をはじめとして、「〔患者向医薬品ガイド〕」、「ワクチン接種を受ける人へのガイド」のほか、患者向けに作成された「〔緊急安全性情報〕」、「安全性速報」、「PMDAからの〔医薬品適正使用〕のお願い」、「重篤副作用疾患別対応マニュアル」なども掲載されている。

PMDAメディナビ

 PMDAメデイナビは、事前に登録された〔メールアドレス〕に医薬品・医療機器などの品質、〔有効性〕、安全性などに関する特に重要な情報が発出された際に、その情報を〔タイムリー〕に配信するサービスである。「緊急安全性情報」、「〔安全性速報〕」、「使用上の注意の改訂指示通知」などのほか、「回収情報」や「〔承認情報〕」なども配信されている。

後発医薬品に対する情報提供システムの取り組み

 後発医薬品の品質に対する〔信頼性〕の確保や〔情報提供システム〕の拡充は、厚生労働省が進める後発医薬品の〔使用促進策〕の柱となっている。〔厚生労働省〕はジェネリック医薬品品質情報検討会で検討された品質検査結果などを掲載した「〔後発医薬品品質情報〕」を年に〔2~3〕回発行している。

 さらに現在、〔ジェネリック医薬品品質情報検討会〕が中心となり、後発医薬品の品質に関する〔監視指導〕と学術的評価・試験が〔一元的〕に実施されている。今後これらの結果などのほか、〔オレンジブック〕(医療用医薬品品質情報集;品質再評価結果がまとめられている)の中の後発医薬品の情報も踏まえて、後発医薬品の〔品質〕に関する情報を体系的に取りまとめたデータシート(〔ブルーブック〕)が順次作成・公開されている(2020年度までに集中的に実施予定)。

(堀里子)